コミュニケーションの基本2『風説の流布』(金融商品取引法第158条)
ヒソヒソ。
ニート、ネコ、セイ、トモ。
密談中。ネコはウトウトしている。
「話だけだよ、な?」
ニートが口元で指を立てた。
トモが串焼きを頬張る。
セイがニートを睨む。
(こっそり仕込んだんじゃねーか?)
魔法とかポーションとか。ネコがハッとしてスライムミルクをコクコク。
(何を話した時でした?)
ニートが質問。
は?っと戸惑うセイ。聴いてないトモ。答えるネコ。
「な」
フミノの意識が切れた時に話されたこと?
「わ!」かんねーよそれじゃ!、という所を飲み込んだセイ。
(どんな、な、です?)
「こなごな、な、な」
思い起こした。
『魔法とアイテムとスキルで粉々』
闘いの描写。
(どつきあい、じゃれ合い、闘いってより喧嘩だな)
ひそひそ話はジェスチャー混じり。パントマイム状態。
(街中の闘いですよね?闘いじゃなくて争い?こなごなからまとまってキモい?)
HPが減らないからLOSTしない。再生シーンは確かにSFホラーだ。
「街中の闘い、粉々、気絶」
トモ、セイ、ニートが顔を寄せる。
(ホラー嫌いなんですね)
(・・・なあ、コイツ、フミノ、はじまり街『の方から』来た、じゃなくて、はじまり街『から』来たんじゃね?)
ニートは頷いた。
(あたしら、はじまり街を見に行くんだったよな)
何か起きた。
行け。
帰れ。
ネコカフェへの命令。従う義務はない。
しかしまあ。
一方的に騙した相手。
圧倒的に強力な相手。
逃げにくいシュチュエーション。
しぶしぶ、いやいや、やむを得ず出発したのだか。
ニート、セイ、トモの視線がフミノに集まった。他愛のない雑談の一節で失神した少女。
何を見て、何をして、何をされたのか。
「フミノさんは、起きてからご飯、ですね」
ひとりはまったく別の考えのよーだ。
・幕間1
《Phone》
『おう』
「いつもお世話になっております。わたくしニートと申します。銀星会さまでしょうか」
『はい。こちら銀星会です』
「吟子さんいらっしゃいますか」
『あたし以外、誰が出るって』
笑い声。
『どうしたい?副大統領』
「その呼び方は・・・まあ、さて置き、今、如何です」
『暇だな』
「良かった」
『門番って柄じゃねーや。見よう見まねだけどよ。いちお、ささやかながらご近所でまとまったからよ、暴れるバカは見なくなった』
「幸甚幸甚」
『あたし等が行進するだけで』
「不愉快?」
『・・・・・・・・・・・・怖い』
沈黙。
『痛くも痒くもない。飢えも渇きもない』
「それなのに」
『狂った』
「暴れて争って壊そうとした。怯えて泣いて喚いた」
『あたし等が、百に届かない人数が、ギルドハウスで寝てたのが、街中で行進しただけで』
「落ち着いた」
『・・・・・・・・・・・・・・・わりぃ』
「怖いでしょうね」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「つっかえ棒が外れた人間が」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「つっかえ棒にした私が」
『・・・・・・・・・いや、あのままじゃ、ギルドハウスから出られなくなってた』
「八つ当たりは歓迎します。私限定ですが」
『ありがと・・・で、なんだ、優しく愚痴を聞くために連絡したんじゃあるめぇ』
「ついでに依頼です」
『おう!え?あ?そりゃ』
「日が暮れたら、街に入りたいんです。こっそり」
『それより!いや・・・追われてんのか?』
「まきましたが、先回りされてるでしょう」
『・・・うちらに紛れて入るのは簡単だが、中でどうする?来るか』
「装備を替えます。フルフェイス、フード付きで見繕って」
『街中で片っ端から人相改めでもしなきゃ見つかんねーな』
「10枚で」
『って、まえ、いらねーよ』
「吟子さんの魂が買えるなら格安ですよ」
『けっ!バーカ、クックックックックッ』
「奢りは基本ですよ?第一、私の手口はご存知でしょう」
『相手に儲け。自分は上前。薄利多売の大勝利』
「パチパチ」
『わーた。のった』
「ではでは」
『着いたらのもーぜ』
《Out》
五分、様子見。
《Phone》
「こんばんは。わたくしニー」
『しょきちょやなーすっか!どしたん?』
「その呼び方は・・・まあ、さて置き、今、如何です」
『忙しいでーす!』
「それは残念。儲け話でしたが」
『暇になりました~~~~!!!』
「そっちは収まりましたか」
『まあ、ぼちぼち』
「そちらの情報は、こちらの儲け話のオプションです」
『え~~~~~~~~~~』
《Out》
《Call》
『切んないでよ~ひど~』
「で」
『ハイ!クーロンは平和です!銀星会中心にヤクザもんが仕切ってます!PKKギルドは引き払ってまいました!』
「大変ですね」
『ホント、お吟の顔がデカいデカい!ムカついてる奴らも多いです!ヤッ君ギルドやパーティーは!いきなり頭抑えたから!』
「おやおや」
『しかたない、ですけど、ね。前よかマシマシ』
「ほう?」
『いやいやいや!ケツふってませんよ?キライだし!デカいし!ケンカはともかくアゲたいし!』
「銀星会の話、買います?」
『はーい!ってマジ?すご!』
「今夜、動きますよ」
『・・・』
「門外から何かを運び込みます」
『・・・なん?』
「わかったら教えてください」
『狙いそれっ?!』
「アナタを使い走りにすると思いますか」
『・・・だから、困るんで。ツゴウ良すぎっと』
「自分の値札は見えないものですよ」
『うわ・・・』
「アナタが乗らないならこの作戦は無しです」
『ジラし!イジワル!!あーウソウソ切らんで!』
「・・・」
『何でもするから~』
「何でもですか」
『あ、え、あ、ヤブサカでは』
「また、コーヒーをいれてもらいます。アナタに」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハイ』
「さて儲け話です」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「門から入るモノに興味がある連中が居ます」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「コネが無い、か少ない新参者。小金持ち。力押し」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なる。新参相手ならボッて安心。銀星会にバレにく、バレても何とか』
「事が起きた、と皆にいち早く知らせるだけ」
『怒れない~お吟が悔しがる!うひひ!』
「儲けは山分け」
『良いんで?ざっと20ギルド、パーティー、ソロで』
「ひとつあたま1~5枚、まあ、軽めにして貸しを作るのをお薦めします」
『ガッテン承知!コーヒーも引き受けますよ?リアルでもね』
《Out》
同じ手順を三セット。
アラームを設定して就寝。
一時間ほど。
アラームが鳴る前に目を覚ます。
メッセージを作成、送信しながらアタリを待つ。
《call》
『こっちくんな』
《out》
同じ主旨の連絡が程なく、二回。
ニートは寝直した。
・幕間2。
皆が寝付いて半時間程。
宵闇に寝息が聴こえる。夜鳥の声が止まった。
皆が目覚める。
身を起こさず気配を探る2人。
嗚咽が、押し殺される。涙目で口元を抑え、荒い呼吸。周りを見回す。
『大丈夫』
ゆっくり、オーバーアクションで身を起こしたニートが近づいた。
目の前でかがみ手をとる。
『抱っこますか?』
ニートはネコを差し出した。130cmの抱き枕サイズ。熟睡中。
『ご、ごめ』
シッ。フミノはニートの糸目に射すくめられる。
『謝罪は嫌いです』
フミノの手を握った。
『泣いても喚いても暴れてもお好きなように』
ネコが目を開く。
『どうとでもします』
――――――――――。
声を上げられず。
吐き出せず。
泣き続ける。
フミノは泣き疲れてるまでニートにすがっていた。
ニートは抱きしめながらフミノに見えないようにしていた。
敵意に満ちた眼を。
数時間後。
静かに身を起こしたニートはアラームを解除。
もちろん、鳴る前。
Veiiii!Veiiii!Veiiii!Veiiii!Veiiii!
「うっせーーーーーーーーー!!!」
セイ。寝起き不機嫌。
Veiiii!Veiiii!Veiiii!Veiiii!Veiiii!
「トモ!おい!」
胸ぐらを掴んで引き起こしシェイク。
「っとめろ!うっせーー!」
Veiiii!Veiiii!Veiiii!Veiiii!Veiiii!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・せ~ちゃん?」
「おぅ!おはよ!とめろ!」
「やすみぃ」
「ちげーよ!朝だ!いや夜だ!」
互いに顔を見合わせた。
「「あれ?」」
真夜中。夕方からたっぷり寝て、出発予定時刻。
ニートはメッセージを確認中。
「56、62、47、39」
セイ、トモはキョロキョロ。
フミノはオロオロ。
「朝食お願いします」
「ハイ!夜食ですね!」
トモがフライパンを掲げた。
「コーヒーをどうぞ」
セイとフミノに渡すニート。
「ネコ」
弾いた飴が消えた。
「30分後に出発します。目的地は教都」
見回した。
「なんで?」
っとセイ。慌てて言い直した。
「なんで教都?クーロンが近いよな」
「追っ手がまわってます」
フミノが震えた。セイが慌ててニートを見た。
「教都は大丈夫なんだろ!な!な!」
ニートに視線で合図。
「だーいじょうぶです!!!!」
トモ、断言。
「何処だって大丈夫です!」
そして更に断言するトモ。
なぜ。
おまえが、とか。
前提無条件って、とか。
フミノが深呼吸。
「わ、わた、しはだいじょう・・・」
「ぶじゃないようですが、私は大丈夫です」
ニートはメッセージを確認しながら続けた。
「どうにでもなります。いただきます」
トモから受け取った丼をかき込む。
「テキトー」
セイ、ジト目。
「通常営業ですね」
トモ、味噌汁を渡す。
「フミノ」
メッセージを閉じたニート。
「世界は易しいのです」
見上げるフミノ。縋るような眼。
ニートは屈み込み目線を合わせた。
「・・・優しい・・・世界・・・」
丼を・・・見まわして、ネコの頭に置くニート。味噌汁のお椀をすする。
「チョロイってコトですね!」
ドヤ顔、トモ。
「騙されるな~」
ヤジ顔、セイ。
「引き返せなくとも行き止まりはない。手札の中に役はある。ない札は必ず誰かが持っている」
フミノ、セイ、トモ、ネコを見た。
「めんどくさい事は誰かに投げなさい」
唖然×2。
首肯×2。
「あのなー」
「あ、あの・・・」
「ハイ、フミノくん」
セイをトモがなだめた。
「だ、誰かに、なげ、押し付けちゃ、その、迷惑じゃないかと、その、相手に」
「そうですね」
それで?視線で先を促す。
「あ、えっと」
「ダメだろそれ!!!」
セイがツッコミ。
「嫌われて相手にされなくなるぞ」
ニートは頷いた。
「で?」
「「で?」」
ニートは不思議そうに二人を見た。
「何か問題でも?」
フミノは悩み始めた。自分が間違えた?
「しっかりしろ!」
フミノの背を叩いたセイ。
「仮に相手にされなくなったとしましょう」
仮?
「次回からは押し付けられない、とします」
する、んだ?
「人類の総人口は何人ですか?」
はぁ?×2。
無言。
挙手。
「推定72億前後です!」
ニート、拍手。トモ、ガッツ!
「私たちが今居るゲームの参加者は?」
挙手。
「公称10万人」
「実数一割としましょうか」
ニート、見回した。
「解りましたね」
「わかりません!!!」
今度は×3。
あくびはネコ。
「一人に嫌われました」
カミングアウト?ひそひそ三人娘。
「フミノ、あなたのフレンドリスト、ショートカットは何人登録されていますか?」
「5人で、すけど」
ニートは頷いた。
「友達の友達は知り合いに過ぎず、友達の友達の敵は他人です」
パー。
「一人に嫌われると6人を敵に回します。1万人から引くと?」
挙手、トモ。
「たくさんです!」
拍手、ニート。
「一人、十人、百人、千人がフレンドから消える」
指折り。
「億の人類、万のPL」
パー。
「新しい友人は幾らでもいるじゃないですか」
経験と理性に保証された自信。
「外道」
セイ。
「幾らでもは、いらないですよー」
笑うトモ。
「えーと、えーと。ふぁぐあゃゃゃや」
考え込むフミノ。の口にシチューを流し込むネコ。
「ごちそうさまでした」
ニートはゆっくり頭を下げた。