とれじゃーはんと
はじまりの街、円形劇場。
ここはもともと人目が多い場所ではない。
一通りの舞台装置が揃った大劇場。
ヴァーチャル・ゲーム『スフィア』の十万エントリーイベント。
その後の十万人突破イベント。
プロのアイドルやミュージシャンがコンサートを開いた。
劇場が満席になったのは、そうしたオフィシャルイベントだけだ。
申請をすれば誰でも使えるが、プレイヤーレベルで劇場をフル稼働させられる訳がない。
使用申請が無ければ解放施設。
出入りするのは音楽やダンス、演劇趣味のプレイヤー。各々練習したり、一部を使ってライブや劇、パフォーマンスをしたり。
プレイヤー内でも趣味人の区間だった。
「だからやな」
まるまっこいヨイツのドヤ顔。
「まとまった人数の、ほぼ固定メンバーが集まり出入りして、しかも一角を占有しても怪しまれんやん」
さしずめ、アマチュア劇団が練習しているように見える。
他のプレイヤーを締め出しても、演目を隠してるように見える。
「しかも、オフィシャルイベント中も追い出されんから、同じ場所をいつまでも確保でける」
解放スペースの利用は早い者勝ち。
オフィシャルイベント中はプレイヤーが追い出される。だが、彼らはずっと居るのだから常に拠点を確保できる。
「ええとこみつくろったな、シバタはん」
ヨイツは宿屋の窓を開いた。
フミノを、アルバイトの少女を守るために体を張った大人の女性。フミノを逃がして暴徒に殺された運営責任者。
ちょっと涙ぐんでしまうヨイツである。
運営の管理者達は対応を誤った。それはニートが言うとおり。
ヨイツはニートのように即興で対処法を考えだせない。
運営の名前を生かして大手ギルドを取り込んで、デス・ゲームが終わるまでゲーム世界に秩序を維持する。
それは可能なのだろうが、望みすぎだろう。
だが、こんな最期を遂げるべきじゃなかった。
それは避けられたはずだ。
責任を負おうとして、守ろうとしたプレイヤーたちに殺されてしまった運営関係者。
ヨイツでももう少し上手く立ち回っただろう。
運営プレイヤーがゲームシステムから切り離された時。
抱えきれない責任を捨てるべきだったのだ。
「運営に関わってるやて、運営そのものやなし」
フミノたちを率いたシバタさんとやらは、運営母体の社員だろう。
フミノたちバイオセンサー、まあ、テストプレイヤーのシフトを組んだり、報告書作成提出のスケジュール管理をしていたらしい。
「単なる事務屋やん」
とヨイツは見ていた。
技術部署の要求に従い、フミノたちの経験/スキルをもとに、テストスケジュールを組む。
テンプレート化された報告書を取りまとめて、技術部署に送る。
リテイクが出たら、再提出させるか、別なテストプレイヤーに再調査させるか勘案し・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フミノたちアルバイトの方が、ゲームを理解していただろう。
もしかしなくても、派遣社員か。
運営という組織がもつユーザーへの責任なぞ、負える訳がない。
一部署の責任者として、アルバイトを含む従業員を守るだけでよかった。
ヨイツならそれで当たり前だと思う。
まあ、批判するヤツはどこにでも居るだろうが、船や飛行機じゃないのだ。
誰がヴァーチャル・ゲームで生死がかかる事態が起きると思うか?
理屈を知っているヨイツだって、想像もしなかったくらいだ。
「真面目な人やったんやな」
無力化したのに責任だけを抱え続けて、責任に押しつぶされた。
自分たちも、彼らを殺したプレイヤーたちも、他の大勢の、デス・ゲームに巻き込まれた全ユーザーを巻き込んで自滅。
byニート。
ヨイツはニート程に冷めた見方はしない。
『はじまりの暴動』、その時に居合わせる事が出来ていたら。
そう思う。
ヨイツは後衛の魔法使い。
それでも攻略組だ。
初心者など何人いても恐くない。
中堅の群れに襲われても逃げ切る自信がある。
ヨイツは日常的に、攻略組トッププレイヤーに全力で追い回されているのだ。
しかも大半は逃げきっている・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・最期には捕まるが、制限時間がないから仕方がない。
(最期は誤字ではない)
ヨイツの戦歴を語る相手はまじりっけなしの一流。
主に北方最精鋭攻略ギルド『ノルデン』のハイプレイヤー達に。
更には北方最凶ギルド『蝦夷共和国』見廻組の頭脳プレイヤー達に。
ほぼ全てゲーム/リアルとも女性ばかり、しかも見目麗しい方々。
みんながみんな、本気で、全力で――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――殺しにかかってくる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・セクハラ(控えめな表現)の報復に。
「ちゃうちゃうちゃうんちゃう!!性犯罪者みたいにいわんといて!!!事故や!!!!!偶然や!!!!!巡り合わせや!!!!!運命や!!!!!!!!!!」
なるほどなるほど。
イベントクリアに喜びあう女性プレイヤーに抱きつく、事故。
記録結晶の画像動画データが戦闘中に防具が破損した女性プレイヤーの肌色でいっぱいな、偶然。
戦闘中に女性プレイヤーに向かって弾き飛ばされる、巡り合わせ。
女性プレイヤーが回復ポイントの露天温泉入浴中に壁を破って全力ダイビングする、運命。
「な?」
――――――――――――――――――――――――――――――何に同意を求めているのか。
まあ、原因はともかく、ヨイツの闘争―――――――――――――――――――――――――逃走、撤退スキルはゲーム内でも有数のもの。
確かにヨイツ一人で暴動からフミノたち運営を助け出すことはできただろう。
何人かは。
「ガタならもっと確実やがな」
とも、ヨイツは思う。
ガタ、つまりギルド『蝦夷共和国』の土方なら?
門からフィールドに出た暴徒、っぽく見える全てを瞬間的に斬り捨てる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っぽく?見える?
すぐに長物に装備を替えて街に入り、目につく暴徒らしきプレイヤーをまとめて串刺し。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・らしき、って言ったよね?
街中の安全圏では殺せないから、フィールドの門外に、空中に放り出す。
もちろん、落下地点に自分の剣を突き立てておく。
剣先を上にして、何本も何本も。
モンスターを集めておく殺り方では逃げられる危険性があるからだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・殺す?殺り方?
とりあえず、目に付くすべてを片付けたら後始末。
後腐れ無く、ギルド全員を動員。
『はじまりの街』で掃討戦。
味方以外全員斬る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・デス・ゲームとわかっていて、やる?
土方は、殺る。
土方の部下も、迷いもしない。
やったね!フミノちゃんもシバタさんも運営さんたちみんな助かるよ!
――――――――――――――――『はじまりの暴動』じゃなくて『はじまりの虐殺』じゃねーか!
ヨイツは思った。
フミノちゃんが助かるなら、アリだな。
――――――――――――――――オマエもか。
「ほな、いこか」
※運営の拠点選定はシバタさんの仕事ではない。




