貴女は既に死んでいる
人を殺すというのは大変な事です。
「お、おぅ」
「たから拾いぐいはダメっていったじゃないですか!」
セイ&トモ。
だから準備が大切です。
「まてや!」
「殺さない方向にしないんですか?」
しません。
「即答!」
「死体処理の段取りをしてから殺せ、ってはなしですね?」
殺意を持つ前に殺せるようにしておけ、です。
「は?」
「はーい!」
まて。中学生に何を教えているか!!
さて、ユエを利用した結果フミノを拾ったニートである。
そして元、ってか、今も運営プレイヤーなフミノがいるから
『攻略組合同、運営拠点調査』
に駆り出されたネコカフェであり、『はじまりの街』を再訪、ってか、悪目立ちまくりながら潜入、する事になったニートである。
街中で捜索され、必死に探しているプレイヤーだけで三桁は固い。
潜入ってなんだっけ?
そもそも調査計画そのものが、ユエとギルド『GG』発案なのだ。
そして、彼らを表舞台に引きずり出してデス・ゲーム対策から逃げられないようにしたのも、ニート。
「どうしてこうなったんでしょうねぇ」
おまいう。
俯瞰してみれば、自爆とか自滅とか自業自得。
溺死から始まる陰謀家ニート。実はこいつはバカなんじゃないかという議論もある。
そんなニートも成功する事がある。
例えばシスター暗殺準備とか。
え゛
今、ニートはシスターと2人っきり、ではない。
シスターが一人っきり。
ニート、フミノ、ネコが包囲。
ネコはもちろん、ニートだってシスターを殺せる。
安全圏なのに??
円で囲む包囲ではなく、退路を塞いだ形。
NPC運営の酒場。
その人目がつかない奥の部屋。
密談向きで、泣こうが喚こうが、表には聴こえない。
ニートはテストした事があるから、間違いない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――何をした?
シスターの護衛、中堅でも上の実力を持つマルコ達は、追い出されたまま。
酒場からも出され、仮に緊急コールを受けても対処不可能。
泣こうが喚こうがどうにもならないのに、シスターは笑っていた。
おかしくなってはいない。
ニートは影でほくそ笑む。
ニートがおかしくないか、証明は困難である。
「フミノさん」
慈愛に満ちたシスターの笑顔。
やましいことが在れば切腹不可避。
サイコボム?
フミノはニートの影に隠れているが、決して後ろぐらいからではない。
ネコカフェ、ってか、ニートから一定時間離れると震えがくるのだ。
PTSDであり、ニートがここ数日、耐久試験を繰り返して限界時間を測定した。
鬼か。
要はニートから離してみる。
不安感、動悸、息切れ、めまい、発汗、失神などを時間換算/症状軽重で測定する。
側にいるのがセイでは?トモでは?ネコでは??
測定を繰り返して繰り返して、まあ数日だからそうたいした量ではないが。
そして記録する。
だいたいのパターンは判ったという。
タイミングを計って人前で発作を起こさせるくらいには。
今後も耐久実験を続けるらしい。
悪魔か。
もちろん、最終的には症状の概要をつかみ改善策を講じる予定。
でもニートは無駄が嫌いなので、それまでは利用する事にした。
シスターの孤立化である。
シスターの病人を棄てられない優しさにつけ込んだ。
ってか、普通、棄てられないよね?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ですね」
おぃ。
更にシスターが抱く言われない罪悪感を、今後への布石も兼ねて、つついた。
シスターが、縁もゆかりもない野良パーティー(フミノを襲ったマルコたち)を保護し、彼らの分までフミノへ贖罪の意識を感じている・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ニートはシスターの将来が心配であった。
自分が使いきる前に消耗しないかと。
ともあれ、ニートの手口は簡単。
フミノのPTSDについてシスターに相談しただけ。
専門家でもないからと断ろうとするシスターに、させないニート。
「同性にしかわからないことがあるとおもうんです」
いや、さっきまでギルド『蝦夷共和国』の女性プレイヤーが側で護衛してたよね?
「シスターは既に何人か、ショックで口もきけない子供を保護された、とか」
なんでシスターの昨日の出来事を遥か攻略圏を飛び回ってたニートが把握してるのか?
「どうか、その経験を貸してください」
どの経験なのかどの?
とまあ、護衛連中がシスター以上にフミノに遠慮しているのを生かし、シスターにフミノと2人っきりになる事を承知させた。
で、程よくPTSDの発作を起こし始めたフミノを召還。
フミノが怖がるからと、シスターの護衛を追い出す。
ニートも続く。
「やあしまった!怯えたフミノが服をはなしてくれないぞ」
発動!
ニートはやむなく部屋に残る事にする。
「やあこまった!ネコが頭から降りないぞ」
発動!!
ネコはニートの話を一応は聴いてるが、必ず従うわけではない。
それはシスターも知っている。
まったく仕方なくネコも部屋から動かない。
これで、シスターの包囲完成。
「怪しいヤツらがフミノを追っているからそとの様子が気になるな」
を発動!!!
シスターの護衛を街に追い出した。
かくしてニート達はシスターの生殺与奪権を手に入れた。
誰も気がつかないウチに。
特に、シスター本人が気が付いていない。
「シスター」
ニートの真剣な眼差し。
「立場をお考えください。護衛も無しに一人歩きは絶対にしないでくださいね」
どの口がどの口がどの口が。
とはいえ、シスターも先ほどまで一緒だったマルコ達を『護衛』とは思っていなかった。
「ありがとうございます」
と素直なシスター。
「安全圏でもPKする方法はあるんですよ」
驚くシスター。驚きすぎ。
要は安全圏から無理やり放り出せばいいだけで。ネコみたいな、あるいは攻略組トップなら、軽々とプレイヤーアバターをフィールドに投げ出せる。
他にも安全圏でさえ、HPが減らないだけで、攻撃の衝撃はそれなりにある。
それを使った安全圏用戦闘術があるのだから、手順をととのえれば、気絶させてフィールド送りも可能。
デス・ゲームの恐ろしさを利用する方法が次々次々。
ニートの方が怖いわ!!!
と思わないシスター。
「本当にご心配かけました。これからは気をつけますわ」
いまいま!今、気を付けて!!!
誰かに助けてあげてほしくなるほどに善人。
かくしてニートによるシスター暗殺仕込みは終わった。
今後は多少の仕掛けでシスターを死地におびき出せるだろう。
え?今後?
もちろん、ニートはシスターに殺意を抱いていなかった。
殺す準備は、可能だったからやっておいただけ。
本題はこれからだ。




