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ラスト・オブ・モヒカン


粗い映像。

奇妙に歪んだ視界。


自撮り?


『視聴者のみな()()()!』

噛んだ。


小声で異常に高いテンションを実現した女性。

いや、見た目十代、なら少女か。


『ついに捉えました!』


低視認迷彩(森林ver)のポンチョ。

そこからのぞく銀色の鎧と白い上着。

赤いスカートはミニだが、膝上まで覆う白いブーツ。


『三日前から謎の大移動を開始したモヒカン!公式掲示板の進路情報が確認出来なくなって以後、我が球ス…スフィア・タイムズの暫定予報を嘲ってきた(ピー)ども!!ザマア!!!!!!!!!!』


異音。

即座に視界が地面に下がる。


『ごめんなさいゴメンナサイごめんなさいゴメンナサイごめんなさいゴメンナサイごめんなさいアイテム破壊は止めてアンダーだけでもラインが出ちゃう八つ裂きはイヤいやプレーヤー・キャラクターハントもアフガンサッカーもだめダメ駄目記録結晶は高いノ……………………あら?』


視界が上がる。

左右上下にパン。


『こほん』


一段と声がひそめられた。

カメラが前方に向いた。


『ご覧ください。全プレーヤー・キャラクターの怨敵!人倫の破壊者!!最悪の愉快犯!!!public enemy!!!!けほっっ』


咳き込む。

無駄に細かいクオリティ。


『ひっ失礼しました。あれがスフィア最大のPKギルド』

映像アップ。

『モヒカン!』


黒革のブーツにズボン。

上半身をはだけて黒いジャケットかサスペンダー。

黒い肩当てや胸当てをつけた者も多く、黒い棍棒か黒い槍を下げていた。


『イベント無視!!コミュニケーションって美味しいの?取り敢えず水責め!などなどなどなど!殺戮、破壊、略奪を繰り返すレッド(PK)プレイヤー!の群れ!』


モヒカン達には共通点がある。


『ゲーム開始当初から集団エントリーしやがって迷惑と言う言葉も甘いデタラメギルドでしたが!いまや!!PKギルドから殺人ギルド!!!!』



黒い装束?

いや、まばらに茶色や赤もあり統一感はない。

上背?

まあ180cm以上が多いが背が低い、むしろ平均身長の女性プレーヤー・キャラクターもいくらかいる。

髪型?

いやいや。

モヒカンは多いがスキンヘッドと半々だ。



『アバターロスト=プレーヤー死亡のデス・ゲームという仮説が正しいなら(プレーヤー)(キル)=殺人となります』


奴らの奴らたる由縁。


『ログアウト不可以前に十万エントリー突破イベントに合わせてなにをしでかすか警戒されていましたが、我ら球スポ取材班()()が奴らを捉えました!』


棘。

トゲトゲ。

汝は何ぞや?

それは()()


肩当て、胸当て、ブーツにズボン、ヘルメットにアクセサリー。


金属地剥き出しの棘だらけ。

動くと自分に刺さるのではと心配になる。


『球す……スフィア・タイムズ購読者はリアルタイム通知を必ず確認してください!周りの方々にも呼びかけを!』


とにかく棘。

槍はスパイク、棍棒は釘バットと言った方が早い。

棘トゲとげ。


『私も3日間不眠不休で追跡していますが 、今度は何を企んでいるのか?リセットアイテム(ドーピング)がそろそろさびしい!いったいや……あ、はい……』


中世っぽいファンタジー世界にはみ出した世紀末救世主伝説のダメな方。

七つの傷がある男はよ。


『予想進路出ました!!あら?これ』


200を超えるPKの集団移動。

最初は「はじまりの街」郊外に陣取っていたのだが。


『なんと!!モヒカンはカマルを目指しています!最西端攻略都市カマル!』


西の涯にいる魔王を倒す。

グランド・クエストの最前線。

半月前にプレーヤー・キャラクターが到達した。


周辺探索と更に先の都市を確認するために最精鋭攻略プレーヤー・キャラクターが集まっている。



『いったいどういうつもりでしょうか!』


一般にPKプレーヤーキラーギルドはゲーム攻略に感心がない。

彼らは悪役をロールプレイしているのだから、世界を救うなどもっての他だ。

そして活動領域は殺し易い中堅以下のプレーヤーキャラクターが集う育成圏。

手強いハイ(廃)プレーヤーが集う攻略圏、しかも最前線に近づくこと自体が初めてだ。


『はじまりの街近郊から迷宮もイベントエリアも無視してフィールドを昼夜兼行で進んだと思ったら!』


カマルまでプレーヤー・キャラクターなら誰でもゲートで転移出来る。

有名PKギルドでも例外ではない。


もちろん、善良な一般プレーヤーから通報されるが。


『まさか!プレーヤーイベント?!ここで!!』


悲鳴に近い声。


意味はそのまま。

プレーヤーイベントは単純に運営ではなくプレーヤーが始めるイベント。

職人ギルド合同の見本市、魔法博覧会、攻略ギルドと商業ギルドによるドロップアイテムオークションなどなどなど。


だが、明るく健全なものばかりではない。


『まさかまさかの村落防衛の拡大版?え?しゃちょ?』


PKギルド主催。

村落防衛イベント。

構図は簡単。


フィールド上には村がある。

迷宮入り口やイベントエリア近く、あるいは都市や市、街の間。


なにが起きてもHPが減らない安全圏ではない。


だがセーブポイントなのでモンスターは近づかない。

Nプレーヤー・キャラクターからアイテムを補充したり、農家に泊まりステータスを回復できる。

規模によっては鍛冶場や商店もあり、装備品の手入れやアイテム売却も可能。


村にはプレーヤーが逗留する事が多い。


ログインは前回のログアウト地点になるために長期イベント/プレイ中はここがプレーヤー・キャラクターの出発点になる。


他にも長距離探索中の再編成。

イベント参加や迷宮攻略前後中の準備。

などなど。


様々な理由でフィールド上の村にプレーヤーが逗留中。


そんなところであるからには、世紀末で覇王や聖帝やなんかに従っていそうなトゲトゲ集団が襲ってくることも、あってしまうのである。


だってプレーヤー・キラー、PKギルドだもん♪


しかも、オフィシャルイベントと違い予兆もなく。

十指に余る村落がトゲトゲに蹂躙された。

プレーヤー・キャラクターごと。


『都市攻略イベント?』


可能性だけは論じられていた。

フィールド村落と違い安全圏の都市内では戦えないが、近郊セーブポイントを襲ったり門前PKで包囲戦は可能だ。


実行すれば成否はどうあれ、全プレーヤーの記憶に残り語り継がれる。


だが、だからこそ難しい。


『はじまりの街』ではゲーム自体に支障が出過ぎる。

運営が許す訳がない。


平均的プレーヤー・キャラクターが集う育成圏では多かれ少なかれ同じだ。


下手をすれば『運営によるPK介入』という(彼等から見て)悪しき前例を生んでしまう。

今後の活動(PK)に支障がでるのは(彼等から見て)致命的。


仮に黙認される(可能性がある)ならコアなユーザーが多い最前線都市。

しかし攻略組は連携に慣れ横の繋がりが強い。


ゲート転移のコマンドは音声入力。

集団転移は一カ所30名まで。


だが200人以上のPKギルドが都市攻略を目指して転移順番待ちを始めたら攻略組の廃人が見逃すわけがない。


転移先と転移元で戦力を整え各個撃破に出るだろう。



だがゲートを避ければ?


既存の都市間の移動にゲート以外を選ぶプレーヤー・キャラクターは稀だ。

整備されているわりに街道上にいるのはNプレーヤー・キャラクターが大半。

Nプレーヤー・キャラクターは基本、能動的にプレーヤー・キャラクターに情報を伝えない。



『だから徒歩?奇襲の為にドーピングまでして』



時速30km見当で3日間。

休息なしで72時間、2160km。


西方換算で十都市分。


疲労の概念があるスフィアだが、回復アイテムはある。

現実の肉体に負担をかけないように警告は鳴るが、強制措置をとるGMは音信不通。



『到着まで3時間!今頃、警報が飛んでいるでしょう!!奇襲が無ければ被害は…!』


画面上下に《不偏不党》テロップ。


『ちょ!!!!しゃしゃちょ!』


画面上下に《不偏不党》テロップ。

ジャーナリストは局外中立。


《どちらにも組しない》為に進路予想の配信を停止。


ユーザーにも地域単位の警戒情報のみと告知。



『どういう事ですか!奇襲されたらいくら攻略組でも!』


攻略プレーヤー・キャラクターはいわゆる廃人揃い。

個々のプレーヤー・キャラクターは中堅中心のPKギルドでは勝負にならないほど圧倒的に強い。


正面から戦えば、だ。


『デュエルじゃないんですよ!!!』


通常攻略プレーヤーは寸暇を惜しんで前進する。


精鋭は都市を離れた最前線の更に先を探索して、拠点都市にはほとんど不在。

つまり西側に向かっているハズ。


東から迫るモヒカン。

進路上に居るのは、おそらく攻略組の予備戦力。


無駄を嫌う彼らは前線都市郊外に散開、最大でもパーティー単位、あるいはソロで取りこぼし探索を兼ねたレベリング中だろう。



『虐殺じゃない!』


犠牲を厭わない、むしろ誇るPKプレーヤー・キャラクターの人海戦術に返し技はない。


しかもイベントボスを最終目標にモンスターハントを繰り返す攻略パーティー、の精鋭ではない方。

対するのは対人戦闘に特化して「ためらい」を捨てきったPKギルド。



『中立?それどころじゃ!しゃちょ!』


圧倒的にレベル差があれば数をしのぎ単独で対抗出来るかもしれない。

だがそれは例外。


『だーかーらー!死?え?いえ、確かに…でも…!…それじゃ虐殺…はい、はい…………………わかりました………………今は』



カメラが下に向いた。








timecount








『カマル正門前です』


クローズアップ。

15m相当の市壁と分厚い城門。


半月前の《魔族迎撃イベント》では100を超える魔物の群れに襲われ、いくつもの攻略パーティーが壊滅敗走した。



『やりました♪』


ニコニコ顔の少女。


『遭遇ゼロ!』



プレーヤー・キャラクターと。

モヒカン達はひとまとまりで進軍し、モンスターを数とアイテム連投で倒しつづけた。

だが一人のプレーヤー・キャラクターとも接触しなかった。



『ですよねーー!デス・ゲームかって時に街から出るもんですか!』


手間とアイテム(回復系、攻撃系)を山ほど費やしたモヒカン。

おそらく今までの備蓄を全て失ったのではないか。

二回目は、ない。



『モヒカン達は武装と陣形を整えております。村と違って街には攻め込めません!なんのアピールでしょう?』


ルート開拓済み都市近郊にはモンスターが近づかない。

モヒカン達はNプレーヤー・キャラクターにも目をくれなかった。


普段はプレーヤー・キャラクターが見つからなければ、見つけるまでの暇つぶしに狩りたてるのだが。



『これなら空振り!ネズミ一匹も出ないで終わりですね~』


閉ざされた門。

カマル側が籠城を決め込めばとうにもならない。


『まあ一応、見届けますが~』


いかに対人戦闘が不慣れでも、全プレーヤー・キャラクターの一割が集う西方最前線、しかももっとも攻略が進んでいるカマルに居るプレーヤー・キャラクターは攻略組の中でも上位陣ばかり。



『あ!動きがありました!あの小柄な影はモヒカンのギルマス!ヒデブです!まだ諦めない!しつこい!!』



ヒデブ(ひどい名前だ)はモヒカン最強プレーヤー・キャラクターだ。

モヒカン内ギルド幹部は戦闘力重視でリアルにアバターを合わせている。


髪型も?



『なんか叫んでます』


マイクを操作。


『はぁ?』


ズーム。


『ユエ殿に、御目通りを嘆願す!』


録音再生。


『ゆえさまにおめどおりをたんがんする?間違いない…えー何を考えているんでしょう!ギルドGGマスター、カマル領主の称号持ち、最強プレーヤー・キャラクターと畏怖されるユエさんにまさかの面会要請!ギルド・ウォーでも挑むつもり?』


ギルド・ウォーはギルド単位のデュエルであり、宣戦と受諾で成立する。


『門にも壁上にもまっっったく人気がありませんが!カマルが無人な訳がない!カマルの反応は!』


し――――――――――ん。


『…………………………』


し――――――――――ん。


『…………………………』


し――――――――――ん。


『…………………………』


し――――――――――ん。


『…………………………』


し――――――――――ん。





『…………………………ぷっ』


し――――――――――ん。






『……無視です!完全に無視!!そりゃそうか!今!イベントだのギルドウォーだのやってる場合か!!でも、説得も説明もなし!ざまぁ!!!!笑いがとまりません!』



雄叫び。即座に視界が地面に下がる。


『ごめんなさいゴメンナサイごめんなさい(省略)しゃちょー……………………あら?』



視界が上がる。


『こほん』


仕切り直し。


『無視されたモヒカンですが、なにやら叫び…ん?ひゃっはー?』


「「「「「「「「「「「「ヒャッハー!」」」」」」」」」」」」」」」」


はモヒカンの愛言葉(ギルド用語)であり基本。

他に魔法使い用の

「汚物は消毒だー!」

や略奪時の

「ケツふく紙にもなりゃしねぇ」

もある。



『カマルの反応は…?うん、無視、ですね。っていうか、ユエさんはいるんでしょうか?いるならいるで…モヒカンに相対するのは嫌でしょうね。モヒカンは』


全員直立。有り得ないほど起立中。

略奪時はもちろん戦闘中にもダラダラして悪態と下卑た笑いが基本の連中が。



『まだ諦めない!』


モヒカンのカマル到着から30分。


『以後は無駄かもしれませんが、取材班も最後まで見届けます』


取材班(独)持久模様眺めに入った。



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