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助けてくれた鶴が恩着せがましい

作者: リソタソ

僕、タカナシは今苛められている。

「おい、頭じゃなくてちゃんと腹蹴れよー」

「痛い、痛い」

 四対一のリンチだ。僕は浦島太郎の亀のごとく多勢に無勢のリンチを受けていた。けりの応酬が僕の体を容赦なく襲う。

「キョー! キョー!」

 突然、奇妙な動物の鳴き声が聞こえてきた。一斉に蹴りが止む。僕は目を開けて、立ち尽くしているいじめっ子たちを見た。彼らは一様に空を見上げている。その方を僕も覗いていると、空から何かが近づいてきているのだった。

「あれはなんだ!」

「鳥だ!」

「飛行機だ!」

「いや、あれは……」

 間を置いて、最後の一人が言う。

「鶴だ!!」

「鳥じゃねーかよ!! 最初に俺が言ったので合ってんじゃんか!」

 最初に叫んだ子がわめいている間に、その影は僕達に肉薄していた。そしてそれは姿を明瞭させる。白と赤の目立つ頭、黒くて長い首、体を覆う白い羽毛、長い脚。間違いなくテレビで見たことのある姿、鶴だった。

 鶴はいじめっ子達に向かって全速力で突進するように突っ込んできた。

「う、うわああああああああ!!」

「キョー!!!」

 いじめっ子達とすれ違いざまに鶴はその長くて黒い、固いくちばしを彼らにひと突きずつ食らわせた。鶴が通り過ぎた後に、いじめっ子達はばたばたと倒れた。

「ぐ、つ、鶴なんかに……やれる……なんて……がくっ」

 リーダー格が小物じみたことを漏らして気を失った。僕は、鶴に助けられたのだった。

 着地していた鶴は、後ろの間接のある足をえっちらおっちら動かして、僕の傍に佇んでいた。鳴くこともせずに僕を見守っているかの如くその場に立っていた。

「まさか、鶴に助けられるなんて……リンチされている俺に見かねて助けてくれたんだね」

 僕は体を起こしながら、鶴に言った。

「そうじゃ。ぼこぼこになっているお主を大層憐れんで助けてやったのじゃ」

 ………………………………………………鶴のくちばしがぱくぱくと動いて、そう聞こえた。

「鶴がシャベッターーーーーーーーーー!!!!」

「そりゃしゃべるじゃろう。鶴じゃし」

「いや、普通しゃべんねーよ、鶴!!」

「まぁ、驚くのもその辺にしておいて……」

「まだ驚いて絶叫一回しかしてないんですけど、全然驚き足りないし、ご説明願いたいことが山ほどあるんですけど……」

 そんな僕の言い分は無視して鶴は話を続けた。

「お主は、この寛大な私に助けてもらったのじゃ。これは大いに、大いに感謝すべきことではないか?」

「言われてみればそうだけど……」

 そうだな、いくら鶴とは言えど、感謝の一言でも言ってあげないと納得しきれないだろうな。

「ありがとう、通りすがりの鶴さん」

 僕は素直にお礼を言った。

「その先は言わんでも分かっておる。言葉だけじゃ感謝しきれないほどに感謝感激雨あられというわけじゃな?」

「そうでもないんだけど……」

「まぁ、そういうでない。ここは折角じゃ、お主が心行くまで感謝をしたそうにしておるのも忍びないでな、ここは素直に従おうではないか」

 会話がなりたっていない! なんだか、すごくめんどくさそうな匂いがする……。

「じゃあ、帰ってくだ……」

「分かった! それでは、明日にでもお主の家に訪れて、お主の恩返しを受けてやろうではないか!!!」

 鶴はちっとも聞く耳持たずに勝手に話を進め、尊大に自分勝手に話に結論を付けてしまったようだった。

「はぁ!? 何かってなこと言って……」

「では、また明日会おうではないか! キョキョキョキョキョー」

 鶴は奇妙な泣き声を上げながら飛び去って行った。

「……嘘だろ?」

 僕は地べたに座って、呆然とその尾羽を見送っていた。



 ここはポジティブに考えてみよう。翌日、僕は部屋の掃除を済ませて待機していた。高校生の一人暮らしのワンルーム、ユニットバス付の安くて狭い部屋。ここにこれから鶴が来る。そう、鶴が来るのだ。鶴がやってくると言えば「鶴の恩返し」だ。助けた鶴が女の子に化けて助けてくれたお爺さんおばあさんのために身を犠牲にしてはた織りをしていたあれだ。そうだ、きっと僕の元にも女の子の姿になった鶴が現れるに違いない。僕の場合は助けてくれた鶴が訪問してくるのだけれど、まぁ、細かい違いはどうでもいい。間違いなく美少女擬人化鶴がやって来てくれるはずなんだ。

 ピンポーン、とインターホンがなる。

「来たっ!!!」

 僕は胸を躍らせつつ、急いで玄関の扉を開ける。この先に、きっと美少女になった鶴が……。

「キョキョキョ! 待たせたのう!!」

 ドアの前に、鶴がいた。鳥の姿のそのまんまの鶴が。

「まんま鶴だあああああああああああ!!!!」

「鶴で悪いかこの野郎!!!!」

 鶴は怒ったのかくちばしで僕の眉間のあたりを付いた。

「いてっ」

 僕は後ろに転がるように倒れてしまう。その隙に、鶴は我が物顔でのっしのっしと部屋の中に入ってきた。

「なんじゃ、狭い部屋じゃのう。まぁ、多少綺麗だから乙女を迎えるには及第点としよう」

「乙女!?」

 僕はその言葉に食いつくように起き上る。振り返って、ベッドの上に足を器用に折りたたんで座る鶴に詰め寄った。

「お前! 牝なの!?」

「おうとも」

 鶴は自信たっぷりに長い首の下の方をのけぞらせながら言った。きっと、胸を張っているつもりなのだろう。

「なって! 人間の姿に! ほら、鶴の恩返しみたいに!」

 これだけが僕の楽しみなのだ。野生動物の独特の臭いを部屋の中に上げる以上、僕だってなにかしらの楽しみが欲しい。僕は鶴の肩? いいや、羽の付け根のあたりを持って言った。

「できんことはないが、やらん!」

「なんで! なってよ、擬人化してよ! それにいろいろなものがかかってるんだよ、僕とかが喜ぶんだよ!」

 ぐらぐらと揺すぶると、鶴は怒ったようで、再度僕の眉間にくちばしアタックを繰り出した。

「そうやすやすと擬人化してたまるものか! たわけ! なんでもかんでも擬人化すればいいという風潮を押し付ける出ない!」

「いてて……」

 僕は手を離してまたも仰向けに倒されていたのだった。

「くそう、これじゃあ君を待っていた僕の期待は、楽しみは、無念……」

 体を起こして、がっくりと僕は頭を垂れた。

「お主、私がここ来た理由をよもや忘れたわけではあるまいな。私は、お主に恩返ししてもらいに来たのだぞ?」

「なんで、鶴なんかに……そもそも、僕はお前に恩返しをしてやろうだなんて思ってない……」

「お主。いじめられていたお主を助けてやったのだぞ? 足蹴にされてぼろ雑巾のようになってるのを笑われている所に私が救世主として現れてやったのだぞ? それは感謝に値すべきだろう」

「やだよ。そんな恩着せがましい……」

 僕がぶつぶつと文句を言っていると、鶴が重々しく口を開いた。

「お主、鶴の恩返しは良く知っておるようだな?」

「もちろんだ、日本人なら常識さ」

「では、その中で鶴はどんな働きをしてやった?」

「そりゃあ、夜中にはたを織って……」

「そうじゃ! 鶴が身を粉にしてはたを織ってやっていたのじゃ。命を救ってくれた礼と言って自分の羽を使ってのう……。で、私はお主を助けた。いや、まさに命を助けてやったと言ってもいい」

「それはおおげさじゃ……」

「大げさなことがあるものか! 同種にいじめられてしまえば生きる気力をどんどん失って行ってしまう。まさに貴様は将来の自殺の危機にあったかもしれんのじゃ。それをこの私が救ってやったとは考えられるか? いじめられるのは辛かったであろう?」

「まぁ、前者は突飛すぎるけど、後者はまぁ、そうだね。辛かったのを助けてくれて嬉しかったよ」

「そう! ならばお主にはそれをきちんと私に返す義務があろう!」

「は!?」

「じゃあ、きちんと恩返しをしてくれ!」

 鶴はどん、とベッドの上に居座って待ち望んでいる。これは、梃子でも動かないつもりだ。適当に恩返しをしてやってかえってもらうか。でも……。

「やっぱ、恩返ししてあげるから、せめて女の子の姿になってください」

 僕はふかぶかと礼をしてお願いした。

「えー、やじゃー。それだったらお主が鶴になれよー」

「なれるか!!」

「なれるなれる。人間その気になればなんだってなれるしのう」

「無理に決まってんだろ!」

「仕方ないのう、では、今から竜宮城に行って乙姫から玉手箱をせしめて参れ。そうすれば爺になった後に鶴になれるぞ」

「なれるかあああああっ! つーか、竜宮城なんか行けるか!」

「いけるいける。私、竜宮城の亀とマブダチじゃし」

「知らねーよ。つーか、玉手箱って爺になるだけじゃねーの?」

「なんじゃ、お主はそんなことも知らんのか。浦島太郎は爺になった後に鶴になって、亀と結婚して残りの七百年を平穏に過ごしたのだぞ?」

「そうですかい」

 正直、どうでもよかった。僕は無関心に聞き流そうとしていたが、目の前の鶴がぷるぷると震えはじめていた。

「お、おい、どうしたんだよ、お前」

「思い出しただけでもむかついてきた……。あれほどのいい雄鶴じゃったのに、なぜ亀を選んだのじゃ……くそう、私は絶対にあの亀公を許さんぞ……あと七千年も生きさせる前に何とか私がこのくちばしでぶっ殺してやる」

「全然亀と仲良くなさそうじゃないんだけど!!!!? むしろ好きな人取られた仇敵みたいに思ってるんですけど!!!?」

「むぅ、そんな悪くは思ってはおらん。ただ、ちょっと殺したいだけじゃ」

「十分に恨んでるからそれ! ってかよ、お前いくつなんだよ。浦島太郎を間近でみた見たいな風に言ってたけど、やっぱり長生きなのか?」

「ん? そうだ、お主より年上じゃぞ! いくつに見える?」

 鶴は嬉しそうに頭を揺らしながら問いかけた。

「いや、鳥の見た目なんて専門家じゃないと年齢判別できねーから、僕にはさっぱり見当つかねーよ」

「では、適当に言ってみるがよい」

「三百歳?」

「生き物がそんなに長く生きられるものかたわけえええええええええ!!!!!!!!!」

 鶴はまたくちばしアタックを僕の眉間に打ち出した。

「いたあああっ!」

「正解は十七歳じゃ」

「一個上かよ!」

「そうじゃ。例え鶴は千年亀は万年と言ったところで、実際に生物学上生きられるのは人間と同じ位の八十歳くらいが最高じゃ。もっとも、私らは自然に過ごす故、三十年くらいが関の山かもしれんがな……それよりも、なんで亀の方が長生きなんじゃ。どう考えてもアイツらのあのみにくいごつごつとした姿なんぞが万年生きたとて、ちっとも実用性も美しさもないではないか……それだったら、私ら鶴が長生きしたほうが絶対に人間達も喜ぶであろうし……」

 鶴はまた体をぷるぷると震わせながらぶつぶつと言い始めた。これは長くなりそうだ。さっさと何すればいいか聞いて帰ってもらおう。

「ところで、俺は恩返しに何をすれないいんだ?」

 鶴は我に返ったように、呟くのを止めた。

「そうじゃったそうじゃった。ううむ、何をしてもらおうかのう……」

 そう言っていると、ぐぅ、とお腹の音が鳴った。鶴からだ。

「ははは、そうじゃ、では、まずはお主にご飯をちそうになろう!」

 まずは……か。これはこの後もいろんなことされるかもな……。

「で、何が食べたい?」

「ケンタッキーフライドチキン」

「共食いじゃねーか!!!!」

「共食いなものか。魚類だってサメは他の小さな魚を食うぞ? 共食いというものは、他の同類、同種族の者を食うことを言うのだろう?」

「あああ、もうその辺の説明はいいから。ケンタッキーは買いに行く金を持ってないから却下」

「ええええーーー」

 落ち込むな、鳥の前でチキンを食べるのなんて嫌だ。人の前で猿人食ってるみたいな思いはしたくない。

「じゃあ、家にあるもんで適当につくるからな」

「おう! 待っておるぞ!」

 嬉しそうな声を発して、キョキョキョと笑いながら俺の料理を待っている鶴。ペットに飯を作る気持ちってこんな気持ちなのかな……。ところで、鶴って何を食うんだろう?

 五分後。

「はい、出来上がり」

 目の前にあるのは、とりあえず三角コーナーに入ってた残飯を紙皿に盛ったものだった。

「これなら、カラスだって喜んで食べる……」

 僕は自信満々にメニューの説明をしようとする。

「こんなもん食えるかああああああああああ!!!!」

 鶴はくちばを器用に使って、テーブルの上に置かれた皿を僕の顔面にヒットさせた。顔中に、残飯、もとい生ごみが付着する。

「くさああああああああああああっ!!!! 何すんだテメェ!!!!」

「それはこっちのセリフじゃ!!! あんなものはカラスの食い物じゃ! 図太く生きる汚いカラスの食いもんじゃ! 私は鶴だぞ! 気高い鶴だぞ!」

「く、くぅ。つっても内にもう食べものは殆どないんだよ。米とか野菜とかないし……調味料も……。あるのは、卵が一個と……」

 僕はキッチンの方を見た。冷蔵庫の上に、ぽつんとビニールに包装されたインスタントラーメンがある。

「チキンラーメンだけだ」

「それが食べたい! あるなら早く作るのだ!!!」

「おもてなしにインスタントラーメンだなんて」

「かまわんかまわん、むしろチキンラーメンは好物じゃ!」

 随分と庶民派な気高さだこと。僕はしぶしぶ鍋に水を入れて温めはじめた。

「もちろん、卵も忘れてはらなんぞーーーーー!」

 鳥類の骨の髄までアイツは貪って食べそうだ。鶴の癖に。

 

「ほら、出来上がり」

「うむ、ご苦労であった」

 テーブルの上に椀を置いて、割りばしも置いた。そこで、ふと疑問に思った。

「ところで、どうやって食べるんだ? 箸、使えないし。くちばしで食うには熱いぞ」

 鶴はぎょっとした。

「しまった! 計算外だった! うむむ、チキンラーメンは擬人化せねば食うことができぬではないか!」

「擬人化!?? するの? してくれんの? やった!!!」

「ううう、こやつを喜ばせるようなことはしたくなかったのだが、止むを得ん。腹が減ってはなんとやらだ。てやああああああああああ!」

 鶴は不思議な光に包まれた。思わず目を閉じて、光が弱くなったころに目を開けた。するとそこには、一人の女の子が立っていた。

「どうだ。美少女であろう?」

 目の前の少女は、背が……

「美少女だ!!」

 目がくり……

「美少女だ!!!」

 胸が……

「たぐいまれなる美少女じゃ!!!!!!」

「お前、ちゃんと僕に描写させてくれよ!!! 美少女だけじゃ君がどんな姿か伝わらないだろう?」

「いいのじゃ、美少女は美少女なのじゃ。挿絵も付かんのだから、全ての姿を描写しても意味はあるまい。美少女であることが大事なのじゃ。美少女という言葉だけにすべての必要な要素が詰まっておるのじゃ。それ以上を描写するのは許さん! 断じて許さん! 特に胸の話はなしじゃ!!」

「はいはい」

 どうやら、この子は人になったときの胸にコンプレックスを抱いているらしい。それだけにしておこう。


「おいしかった。大満足じゃ!」

 お腹をぽんぽんと叩く美少女鶴は、大変満足そうだ。このまま眠ってくれるか帰ってくれるかしてくれるとありがたいんだが……。

「では、次の恩返しじゃ!」

「やっぱり、まだあるのね……」

 つい、嘆息してしまう。

「はた織れ、はた」

「織れるかあああああああっ!」

「だから竜宮城に行って鶴になってくれば……」

「それも無理だっつの!!」

「良い展開ではないか。最初の方から浦島太郎の亀みたいにいじめられていたとか申しておったろう。伏線みたいでいいではないか」

「良くないわ! つーか、メタ臭い発言は止めてくれ!」

「そうか、では仕方がないのう……ちょっと電話を借りるぞ、カタナシ」

「タカナシだっ!!」

 あれ? 僕自己紹介したっけな……。まぁ、説明もしないで家に来てるんだから、それ相応の情報を持っているのかもしれないな……。そう思っている間に、鶴は僕のスマホを使って、電話を始めた。

「もしもし、鶴鶴、鶴じゃけど……」

「何それ、新手の詐欺!?」

「なんじゃ、うるさい。新しい鳥の名前を出すでない!」

「いや、違うし! そんな親父ギャグみたいなことを言っては無いし!」

 鶴は僕の言葉を無視して話を続ける。

「そうそう。うん、一人分に仕事を渡してやってくれ……なんでもいいぞ……わかった。いつもいつもすまんのう……では、切るぞ」

 鶴がスマホを切ると僕の方を見て

「では、さっそくじゃが仕事に行ってもらおう」

「仕事?」

「そうじゃ、今からここに迎えがくるはずじゃ。その人の指示に従って仕事をすれば日当八万円もらえるはずじゃ」

「結構割の良すぎる仕事じゃないか……」

「まぁ、いいところの仕事じゃからのう……お、来たみたいだぞ」

 またインターホンが鳴った。早すぎねぇか? 

「はーい」

 ドアを開けると、そこには、こわもてのサングラスの黒服を着たおじさんたちがいた。

「こわああああああああああっ!」

 おじさんたちは僕の肩を掴んだ。力強くて、骨が握りつぶされそうだった。

「では、彼を連れて行きます」

「うむ、頼んだぞ!」

「うそ? これがお仕事の人達? やだ! 絶対なんか危ない匂いする! やだーーーーーーーーーー!!」

 僕の絶叫は空しく、安アパートに響いた。



 すっかり夕方になってから、僕は部屋に帰ってきた。

「ただいまぁ。もう、全身くたくただよ。あんな土木工事とか、コンクリート詰めのドラム缶を海に沈める仕事なんてもうこりごりだよ」

 ぼやきながら部屋に上がると、テレビに噛り付くように画面の前に座っている鶴がいた。

「おおおお、おおおおおお!」

 鶴は感嘆の声を漏らしていた。その画面に映っていたものは……。

「な! 何を見てるんだお前ええええ!!!」

 良く見れば床に散乱しているDVDケースは、僕がもしも親がふらっとここに来たときにもばれないようにと隠しておいた、秘蔵のDVDのケースじゃないか!!!

「こ、こら!! 見るのを止めろ!!!」

「ほほぉ、カタナシはこういうのが好きじゃったのか……お主もエロよのぅ」

「たかが鶴に何が分かるんだ! もう!」

 僕はやけくそになって、鶴の傍らの床に落ちているリモコンを拾ってチャンネルを変えた。

「あああ! これからがロリコン教師の腕の見せ所だったのにぃ……」

「お前はなにアニメを途中で違うチャンネルに変えられた子供みたいな反応してんだこら……」

「まぁ、いいではないか。男の家にあがることもそうそうないのでな。楽しいイベントを一つ済ませておきたかったの……」

 テレビから俺の方に顔を向けている鶴。そんな彼女の耳に、テレビの音声が聞こえてきた。

「ちゅん、ちゅん、ちゅん、ちゅん」

 チャンネルはN○Kの教育番組だ。二匹の小鳥が枝の上でちゅんちゅんと何かを言い合っているように鳴いている。そして、二匹は急接近していく。

「ああ、鳥の求愛行動か。こういう番組、僕も昔から好きだったなぁ」

 テレビの画面を見ている鶴。その鶴の耳がどんどん赤くなっていく。

「どうした?」

 振り向いた鶴の顔も真っ赤だった。

「け、ケダモノおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

「う、うわっ」

 鶴が甲高い声で叫んだ。

「なんと、なんと破廉恥な! 小鳥たちの愛の楽園を、神聖なる愛の儀式の姿を悟られぬようにカメラで撮って、しかも子供向けとして流すとは……盗撮だ! 鳥のプライバシーの侵害だ! ああ、こうやって小鳥たちを慰み者にしているのだな、お前たち人間は!!」

「い、いや、それは絶対にちが……」

「ええい! コーフンする!」

「興奮するんかい!!!」

「こっちを見るでないぞ! 私はこの番組を集中して見ねばならぬのだ!」

 そう言って、鶴はまるで人間達がいかがわしい映像に食い入るかの如く、汗をだらだらと流しながら、鳥たちの映像に見入っていた。


「ふー、汗を随分かいてしまった」

「そうだね、随分といやらしい汗だけどね」

「よし、ちょっとシャワーを借りるぞ」

 どきっと胸が跳ねるように高鳴った。

「言っておくが、必ず、絶対に覗くことが無いようにな。人間は昔から覗くのが大好きだからのう。十分にくぎを刺しておくぞ」

 鶴がユニットバスの中に入って行った。

 そうだ、鶴とはいえ、今はアイツは女の子の姿をしているんだ。しかも美少女。さっき秘蔵DVDを流されたことの仕返しもある。まさに一石二鳥。一覗き二鳥だ。僕は高鳴る鼓動を抑えて息をひそめた。

「ふんふんふーん、きょっきょきょ~」

 シャワーの音と変なハミングが聞こえてくる。これはチャンス。思い切って覗くことにした。

「ふっふっふ、こういう状態で覗かない男がいるものか。それに覗くなと言われれば言われるほど覗きたくなるもの……ノックはせずに、もしもーし……」

 僕はほんの少しドアを開けて中を見た。シャワーカーテンは広げられておらず、シャワーのしぶきがトイレの方にがんがんとんできている。それを見るだけでも業腹ものだが、今は別の目的がある。これでちゃらにしてやる……。

 目に飛び込んできたのは、白く、美しい体。あるのかないのか分からない胸に、しなやかに伸びてくびれた………………黒い首。

「まんま鶴じゃねーーーーーかあああああああああああああっ!!!!」

 鶴は擬人化を解いて鳥の鶴の状態でシャワーを浴びていた。

「きゃああああああああああっ!」

 気付いた鶴と目があって、鶴は羽で体のおそらく胸っぽいところとか股っぽいところを隠した。隠して意味があるのかは分からないけれど……。

 シャワーから出てきた鶴は、また人間の姿に戻っていた。

「まったく、あれだけ覗くなと言っておいて……本当に人間は覗くのが好きじゃな」

「……申し訳ありません。どうかこれをお納めしてご機嫌を直してください」

 僕はそう言って、今日のバイト代、封筒でもらった八万円を彼女に渡した。

「当たり前じゃ! これはお主が私に恩を返すために働いて生じた金じゃならな」

「ごめんなさい。もうこりました。鶴の裸なんか見たくも何ともありません」

「それはそれで随分と引っかかる言いようじゃが……。まぁ、反省しておるようだしいいかのう」

 僕はほっと胸をなでおろした。

「じゃが、私のせくしーなしゃわーしーんを見られてしまったおかげで、私が鶴であることがお前にばれてしまった」

「バレたっつーか、お前最初っから隠す気なかったろ」

「これでは仕方がない。覗くなという約束も守ってもらえなかったしのう……こうするのも止むを得まい」

 脳裏に、鶴の恩返しのラストシーンが浮かぶ。これはまさか、鶴の正体がばれて帰って行くシーン! つまり、鶴が帰って行く! やった! やった! やった!

「それは、残念です」

 表情の上では残念がってみたが、胸の内では小躍りしたい気持ちだった。むしろ僕の心の中では阿波踊りの真っ最中だ。

「……そんな残念がるでない……。私は……私は……」

 体をぷるぷると震わせて、うつむいている鶴。そして、バッと顔を上げた。

 その顔は、この上ないほど楽しそうに愉快そうに笑っていた。

「終生この家に居ついて、恥をかかせてもらったわびとして、貴様の財産を貪りつくしてくれるわ!!!!!」

「ええええええええええええええええっ!!!!!」

「きょーっきょっきょ! そうじゃ、せっかく臨時収入があったのじゃ。飯を食いに行こう。ケンタッキーフライドチキン!」

「結局チキン食うのかよ!」

「ああ、チキンが大好物なのじゃ! なんならコンビニのFFのチキン商品を全て食べ尽くしに行くでもよいぞ! きょっきょっきょっきょっきょ!」

 僕はうんざりと肩を落とした。どうやら、まだまだ僕の受難は続くらしい。



どうも、作者です。今回久しぶり、というかこの小説家になろうに初めて投稿していらいの、短編コメディを書きました。ラブコメにしたかったけど、そうはならなかった。まぁ、ゆるゆるとやれる短編ものを久々に書いて、ちょっぴり満足な作者でした。では、ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございました。こんなドタバタ作品をまた、今度は長編で書いてみたいなと思っているので、もしもまた見かけましたら見ていただけると光栄です。再度、読んでいただきありがとうございました。では、また、どこかで。

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