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37話 訓練と依頼 廃れた町の亡霊

久しぶりです。よろしければどうぞ。

 奏たちは街の近くの森を歩いていた。森は鬱蒼と生い茂り、ここの気候と相まって蒸し暑かった。そして多くの虫が周囲では確認できた。森の中には冒険者や時折利用する街の住人たちのために道が整備されており、その道を辿っている。冒険者はよく採取や討伐で森に入るが基本的に人工的な道を使ってから、それぞれ道をそれて移動する。でないと迷う可能性が多いからだ。とはいえ、戦闘になってしまったりすれば、方向なんて覚えていなかったりもするので、あくまでそうしたほうがいいというだけだ。

 奏たちも例に漏れず街道付近にいた。


 奏は以前盗賊から助けた冒険者と臨時でパーティを組んでいた。奏自身レベル差や経験、職業によるスキルで強いとは言え、冒険者としては経験は浅い。罠を作ったり、仕掛けたり、痕跡を辿ったりはミユにもできるが、彼女もあまりやったことはなかったためにほかの人から教えてもらおうということで、知り合い、なおかつ奏に対して悪印象を持っていない、奏がいてもパーティを組んでくれるといった条件から彼女たちに白羽の矢が刺さった。

 彼女たちは事件からそう時間は経っておらず、所属していたクランから離脱、瓦解などしていたが、既に新たに立ち上げ、メンバーたちのこともあってそこそこ有名なクランにまでになっていた。


「獣や魔物によっては知能が高く、罠に気づく、更には罠を仕掛けるのもいるから気をつけなきゃいけない。特に罠を仕掛けるときには臭いに気をつけなきゃいけない。色はもちろんだけどそれはまだ何とかなる。だけど臭いに関しては人間のほうが劣っているから、細心の注意を払わなきゃ意味がなくなる」


 奏たちに罠に関して語っているのは斥候のルーティア。以前助けたメンバーではないが、ずっと仲間のことを心配しており、救出された時に奏たちに感謝しており、時折組むパーティの一員になっていた。


「相当臭いが強いものはどうしようもないけど少しの臭いくらいなら、わざと付近に血をばら撒くなどの手も有効。だけど血をばら撒いたら止血・治療をしなければ罠に向き合わず直接くるかもしれないからできるだけ迅速に確実に」


 奏も話を聞いているが基本的にミユとアリアが罠の設置を担当している。ミユは森には強く、アリアは蜘蛛という罠を仕掛けるのが得意な種であるからである。奏は単純にセンスがなかった。手先が器用ではないため大まかに設置はできてもどこかツメが甘かったり、すぐに覚えることができなかったり。奏もずっと手元を見ているが、途中で混乱してしまう。

 ミユは奏にもできないことがあることに安心し、アリアは慰めていた。むしろアリアは得意げであった。


 奏は途中で諦め近くで薬草採取や、討伐をすることにして、何人か誘ってミユたちの元を離れた。

 奏と共に採取や討伐についてきたのは三人。前衛のルミニとシーラ、後衛のキーラでありルミニは短槍を2本、シーラは片手剣と盾、キーラは鈍器を手に持っている。ちなみにシーラとキーラは姉妹である。三人は奏についてきたが三人は教えるというより、奏の戦い方を参考にしに来た形である。特にルミニは魔法も使える前衛であるため奏の戦い方を一番参考に見ている。奏自身、魔法に関して知らない使い方もあったりするために意見交換は欠かさない。この三人も例に漏れず盗賊たちに囚われていたが、キーラだけはシーラが庇っていたおかげで処女のままである。しかし、姉の陵辱されるところを目の前で見せられトラウマでもあったし、助けが来なければいずれキーラも姉と同じ運命を辿っていたことだろう。


 目の前に現れたゴブリンのうち5体をすぐに屠る手際の良さに感心しつつルキニたちは連携で4体を討伐する。


「カナデは魔法で武器を作るのに何でナイフを買ったりするの? カナデ程の魔法の使い手なら魔法での武器でも十分じゃない?」


 戦闘が一段落して剥ぎ取り、死体や血などの後処理が終わった後にシーラがカナデの腰に掛かっているナイフを見て尋ねる。


「そんなの、魔法が封じられて、手元の武器が無い時とか、遠くに攻撃するためだよ、お姉ちゃん」

「でもそんなに持ってたらさすがに動きにくかったりするでしょ?」

「そんなことないよ。私だって念のためにナイフくらい持ってる……あ、……何でも無い」

「え? もしかしてキーラもナイフ持ってるの? キーラには危ないから刃物だめって言ったよね? お姉ちゃん許さないからね!没収します!!」

「もう、やめてよー」


 妹大好きのシーラがシスコンを発揮してキーラに問い詰める。キーラはそんなシーラから逃げるように奏の背中に隠れる。


「まあ、キーラの言うとおり魔法が使えない時用に持っているのと、魔力に敏感な魔法使い対策、あとは単純に相手の油断を誘ったりするためかな」

「ほら、これくらい普通なんだから、お姉ちゃんもいい加減しつこい!!」

「それとこれとは別問題です。お姉ちゃんはキーラちゃんに嫌われても心を鬼にしなければいけません」


 シーラが涙目でキーラに訴えるがキーラはひたすら逃げ惑う。二人のその姿を見てルミニは呆れていた。そして過保護すぎるシーラを宥めて移動を開始した。



 しばらく歩くと、一行は立ち止まる。


「ここら辺でよろしいでしょうか」

「うん、構わないよ」


 奏たちはそれぞれ武器を構える。奏は薄く笑って『鬼啜り』を手にする。対して三人は奏に向き合い先ほどまでの周囲を警戒しながらも和気藹々とした雰囲気は霧散し、空気が張り詰めていた。

 奏たちがこれから行うのは模擬戦であり、かつて盗賊に捕まり煮え湯を飲まされた経験から、奏やミユに頼み込んでいた。ミユは自分はそこまでのレベルにはないと辞退し、奏を推薦、奏自身やることもないために了承した。了承したはいいが、ここで問題が発生した。いざ訓練場で始めようとしたところ他の冒険者が茶々を入れてきたのだ。寄って集って弱いものいじめをするなよ、と。笑いながら奏たちにちょっかいをかけようとしたためにその場は中断、以降は森などのあまり人がいない場所で、ということになり、パーティを組んだときなどよく模擬戦が行われるようになった。


 最初にシーラが先攻して盾で突撃、その後も盾と剣を巧みに使って攻撃を止めない。ルミニはキーラが詠唱するための護衛兼シーラの援護を担っていた。奏は鞘にしまったままの『鬼啜り』を振るってシーラの攻撃をかわす。ルミニからくる小規模の魔法はシーラの盾にぶつけて防いでいる。


「お姉ちゃん!」


 シーラの後ろから声がかかる。と、同時にシーラが下がり、追撃できないようにルミニが魔法による援護、そして、キーラの目の前にできた魔法陣から魔法が発動する。魔法は威力少し抑えているがその分逃げられないよう範囲に重点を押さえたものであったが、もちろん当たればただではすまない規模であった。キーラの最も得意とする風属性の魔法、それは姉が犯されているのを見ているとき、何度切り刻もうか、その気持ちを持ち続けたキーラらしく荒々しいものであった。

 奏としてはここで取れる選択は幾つもあるが、その中で試してみたいものがあるためにそのまま魔法の中に突っ込む。その際に魔法を剣で斬るといったモーションは見られず相対していた三人は怪訝な顔を浮かべる。しかし、奏が傷一つなく魔法を突き進んでくることに驚き、すぐさま気持ちを切り替える。奏は魔法を切り抜けると先ほどとは打って変わって攻勢的になる。シーラは盾で身を守っているが自分が動けるように盾は大きいものではないために顔や心臓などは守っているが足元はどうしても空いてしまう。その足元を狙わないのは奏からの情けなのか。ともあれ、だんだんスピードの追いつけなくなっているシーラにルミニが助け舟を出す。

 ルミニがシーラに当たらないように短槍で奏を突くが、そのうちの一本をあっさりと捕まれルミニが手を離そうとする前に奏が振り回してシーラとぶつかる。二人は転倒し、その間に奏は狙いをキーラに変更し、接近する。キーラはすぐさま詠唱し、魔法を地面に当てることで土煙を張る。そして、そのままバックステップで土煙から離れ詠唱、魔法を待機させて様子を見る。視界には土煙とようやく立ち上がろうとしているシーラとルミニの二人。土煙が薄くなってきたところにようやく人影が見えてきたが、動く様子はない。警戒していたキーラだがシーラたちが自分のほうを見て声を上げていることに気づき、そちらに注意を向けるがその声が聞こえない。終には指を指してきたが肝心の伝えたいことが伝わらない。


「はい、お終い」


 とん、背中を棒のようなもので押され、軽くだったが思わぬ衝撃によろける。キーラが後ろを振り向くとそこには『鬼啜り』を突き出した姿の奏が。キーラは驚いて先ほど奏が居たはずの場所に目を向ける。しかし、そこには奏が相も変わらず微笑を浮かべて佇んでいた。

 理解ができずに固まっていると、佇んでいた奏が揺らめき霧散していった。


「えっ?」


 霧散するとともに周囲が一気に騒がしくなる。そのときになってようやくキーラは先ほど姉たちの声が聞こえなかっただけでなく周囲の音すらも耳に入ってなかったことに気づいた。


「どういうこと……? え? だって、カナさんはあそこに居て、でも気づいたら後ろに居て、前のほうは急に消えるし……」


 理解が及ばないが、状況は頭に入っているらしく瞬きを繰り返す。


「じゃあ、とりあえずここから離れようか。説明とかは跡でするよ。さっきの音で魔獣とかが近づいてくるかもしれないし」


 奏に背中を叩かれて疑問を頭に浮かべながらもついていく。シーラは全然歯が立たなかったことに不満げで文句を言い、ルミニもあっさりとやられたことに言葉にこそしないもののやはり顔をしかめていた。




 奏たち一行はミユたちと合流し、昼食をしていた。奏は膝の上にアリアを乗せて魔物の肉を食べさせながら自分も食事をする。その横ではキーラが先ほどの事を聞きたそうにうずうずしながらも食事をしていた。


「ねえ、さっきのは何? 教えて! 教えて! っ!!」


 我慢できなかった様で奏のローブの袖を掴んで奏に説明を求めるが、その際に手についた汚れも袖に付く。それに奏は苦笑していたが、製作者のアリアが怒り、キーラの手をつついた。


「ちょっと何よ! あっ! ごめんなさい」


 最初はアリアの行動の意図が掴めなかったが、すぐにそれを理解し、奏に謝る。奏は気にしなくていいと制し、アリアにも謝罪をさせる。アリアもキーラが謝罪したことから自分も傷つけたと感じ、キチキチ音を鳴らして、キーラの赤くなった手に、傷薬を塗り、自分の糸で作った包帯を巻いた。


「わあ! すごい! アリアちゃんはこんなこともできるんだね」


 キーラはアリアを撫でながら感激し、シーラたちに見せびらかす。


「もしかしたらおねえちゃんよりも上手かもね」

「んなっ! た、確かに上手だけど私だって頑張ればそれくらいはできるよ!!」

「ほんとにー? いつも怪我して自分に巻くときはグチャグチャじゃん」

「そ、それは自分に巻くから適当でいいやって」

「はいはい、お行儀が悪いですよ。もっと落ち着いてください。キーラさんもカナデさんに話が合ったのでは?」

「あっ! そうだった。カナさん、さっきの続きだけど模擬戦で何したのか教えてよ」


 ルミニに止められて二人は居住まいをただし、キーラはずっと持っていた疑問を奏にぶつける。先ほどからの様子を横で見ていた奏も口に含んでいたものを飲み物で胃に流し込み、一息つく。


「どのあたりを聞きたいの?」

「全部」

「…………わかった。順番に説明するから。まずキーちゃんが最初に魔法を発動したときに使ったのはスキルの『風纏』を全身に覆ってみただけだよ。魔法にもどのくらい有効か気になってね。まあ、結果はあの通りだよ。最後の僕が二人になったやつ、あれは単純に熱とか水で僕の幻覚を見せただけだよ。だからよく見たら揺らいでいたりしてたと思うよ。」


 奏の話にへーと相槌を打っていたが、自分にはできそうもないいかにも難しそうなことでキーラはうああと唸っていた。

 キーラたちの話が終わったのだろうと当たりをつけてルミニが奏たちの話に混じる。


「……私もどこが悪かったとか教えてくれませんか?」

「ええっと、僕も実際に戦うとかならともかく、分析が得意なほうでもないんでそれでよければ」

「それで構いません。正直あそこまであっさり負けてしまうとは思わなくて」


 落ち込むルミニの横でしばらく考える奏。その表情は本当に悩んでいるのが分かり、奏がルミニのことを真剣に考えているのが伝わる。


「…………僕が思うに、もうちょっと魔法を使って戦うでもいいんじゃないでしょうか? ……今の戦い方だと結構魔法で戦うときと近接で戦うときとで区別がついているから、対処がしやすかったりとかするかも。あとはせっかく魔法も使えるのにもったいない、ですし」


 言っていることが正しいのか自信が持てない奏は、ゆっくりとルミニを伺うようにアドバイスをする。ルミニはそれを真面目に聞いており、最後には納得していた。


「確かに、魔法の発動が早いわけでもないから組み立てにはあまり積極的に入れてきませんでしたね。なるほど。カナデさんの戦い方を見ても多彩ですし……もう少し魔法に力を入れてみようと思います」

「ねーねー、奏、私は? 私にも何かないの?」


 ルミニにもアドバイスしたところで、シーラが尋ねる。それは他二人が聞いたのに自分だけ仲間はずれにされたように感じたからであったが奏はそこに躊躇いもなく返事をする。


「シーラさんはもうちょっと考えて行動したほうがいいかと。ちょっと直線的だったりするので」

「あははははは!! お姉ちゃん感覚で動くもんね。本能? だからいつも後先考えてって言ってるのに」

「う、うるさい! そんなに生意気なこという子にはお仕置きだよ」


 キーラに笑われて顔を赤くしたシーラはキーラを捕まえて体をくすぐる。キーラはそれに抵抗できないようでずっと笑いながら謝っていた。


「そろそろ今日の以来のほうを進めに行きますか。今から移動したら到着して休憩したら時間としては良いくらいだと思いますが。体力は大丈夫ですよね」


 ルーティアが一段落して落ち着いた雰囲気から提案をする。現在奏達は夜に受けるクエストの移動中であった。奏たちが今回受けたクエストはダンジョンの調査と可能であれば討伐であった。人があまり来ないダンジョンは定期的に依頼を出してダンジョン内の整理をすることが必要だった。

 しかし、奏たちが受けたダンジョンは亡霊、一般にレイスなどと呼ばれるものであり、光属性魔法またはそれに近い系統の魔法やスキル、道具による討伐、もしくは未練の解消などによる成仏でしか討伐できないため、誰もが受けれるものというわけではなかった。また、多くの霊は彷徨う魂などであるため集まらないように散らしたり成仏・討伐などするが、時折、悪霊であったり、半ば実体を持つ霊に昇華する場合もあり、放置しておくわけにはいかなかった。

 受ける人がいなかったこととシーラの興味本位で誘われ今回の以来の運びとなった。

 霊の寄り付く場所は昼でも雰囲気が悪いことが多く、昼でもうろついていることがあるが、やはり夜のほうが数は多くなる。また、亡霊の種類によっては宙に浮かんだり、壁をする抜けてくることもあり厄介である。そして霊に対しては最も有効だといわれているものは他のアンデット系と同じ光属性である。


 奏たちは喋りながら、道すがら討伐や採取を行ったりして目的の場所に到着した。そこはあまり多くないが、地上にできたダンジョンの特殊なものの1つである。

 そこはかつては小さな町であったがあるとき盗賊に占拠され、必死の抵抗も空しく虐殺、強姦などが行われ、駐在していた兵士も拷問を受けて命を落としたといわれている。その後盗賊は頭領が毒を盛られて死に、内部分裂、決着がついたが、残ったものは例外なく精神が壊れ、狂い、全員で殺しあって最後の一人は飢えのあまり自身の肉を喰らい、出血多量で死んだという。


 なぜここまで詳しい話があるのかといえば、奏たちの目の前で亡霊が実際その様子を繰り返しているからである。ある兵士は「盗賊だ! 急げ!」などといってある地点に着くと消えてまた、最初に現れた地点から現れる。ある盗賊は町娘に覆いかぶさり強姦し、それを縄につながれて必死に叫ぶ若い男性の姿。盗賊の集団が二つに分かれて戦い最後の一人が倒れると消えて最初から始まる。狂ったように自身の肉や髪を食べるやせ細った男。酒をあおってしばらくしてもがき苦しことを繰り返す大柄の男。盗賊が襲う前の家族だんらんを繰り返す人やかつていたであろう動物の世話をする人たち。しかし、動物は骨となり虫が湧き衛生面で完全に悪い環境であった。

 予想以上の光景に奏たちは引いていた。


「……ね、ねえ、亡霊って彷徨うだけじゃなくてこんなのもあるんだね」


 震えた声でシーラは呟く。

 亡霊の発生する場所は亡霊が集まる墓場のように彷徨う場所と、今回のように事象を繰り返す場所とがある。前者は祓っても散らしてもまた集まるが、後者は祓ってしまえば新たに集まることはめったにないが、散らすことはできない上に怨念であったり、縁が深いために容易に祓うことはできず今までは一時的に鎮めていたにすぎなかった。また、後者はその、性質からよくないものが集まりやすかった。今回光属性魔法が使えるのはキーラのみであり、また、奏とミユの火、水属性の浄化魔法が残る手札であったが、奏が先に試したいことがあるからと少しの時間をもらった。一応ミユとキーラに魔法の準備を、ほかの面々には聖水などの道具の用意をしてもらい、奏が町の門をくぐった瞬間。

 時間が止まったように亡霊のだれもが止まり、喧噪も静かになった。そして、皆が奏のほうを見ると、「盗賊だ」「裏切者め」「食料だ」「犯罪者」などと口々に言い奏に襲い掛かってきた。奏が驚いて後退して町から出ると何事もなかったように元の行動に戻った。後ろでその様子を見ていた面々も亡霊が別の行動をすると思っていなかったようでシーラに至っては聖水を落として無駄にしていた。


 奏も一度深呼吸して気持ちを落ち着けると同時に作戦を練る。そしてもう一度町に足を踏み入れる。先ほどと同じように亡霊が奏を認識して襲い掛かる。奏はすぐに糸と氷属性魔法による階段で高いところに避難する。町の亡霊たちは空を飛べる類のものではないらしく階段を昇ってくるが氷で滑る様子はない。すぐに階段を壊すと昇っている途中の亡霊は地面に落とされるが怪我の様子も戸惑いもなくすぐに起き上がり、別のルートから奏に近づこうとする。他にも壁を昇ろうとしたり、物や魔法で奏を落とそうと考えており、建物自体ボロボロで脆いため、奏も移動を続ける。建物はある程度時間がたつと元の状態、この町の最後の状態にまで修復されいく。これもこのような場所の性質の1つであり、その土地にも何らかの影響を与えていくことになる。

 ある程度距離を取ってから、奏は周囲をよく確認して安全を確保すると歌を歌う。今回奏が試そうとしていたものである。奏が地球にいた時に耳にしたことがある鎮魂歌(レクイエム)。葬式のお経などのように葬送曲であり、実際に聞いたことはないが音属性であるのであれば、使えるかもと考えて実行した。魔法自身が魔力という不思議な物質から変換させた不思議なものであり、能力があれば後は才能と意思で扱えるものであるため、聞いたことなくてもどのようなものか想像すれば使えるだろうと。

 最初は何の異変も無かった次第に亡霊が近いものから順に呻き声を上げる。そして悶え始めてただでさえ透けていた亡霊がどんどん薄くなり始める。そして、笑い始めるとともに体が光の粒となって消える亡霊などが出始める。鎮まるときは霧散であるが、光の粒となって消える場合は浄化することができた証である。しかし中には抵抗を続ける亡霊もいたが聖水をかけるととどめとなったようで消えていった。

 最後に奏たちは町に火をかけて虫たちを燃やして依頼は終了した。

 シーラはあれから腰が抜けてメンバーが代わる代わるおんぶして連れ帰ったが帰りはキーラがずっとからかっていた。

 奏も話を聞いたりしていたがその間ずっと考えていることがあった。



 奏たちがここに来てしばらく経つが、未だにその後のことは考えていない。復讐も頭の片隅にあるが、人数も多いし、一箇所に固まっている保証はない。何より、奏は今、ミユに従属しており、ミユ自身が今後どうしたいか、特に展望もなく過ごしているからである。奏自身アリアの存在もあり無理にすることはないと考えている。

 しかし奏たちがゆっくりしている時間もすぐに多忙なものへと変わっていく。



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