32話 商人と護衛と盗賊と
勢いでやったので色々と酷いと思います
少し変更しました
村にはモンスターがあふれ、村人は蹂躙されていた。子供を傷つけられ、殺され、復讐に燃えるモンスターたちに為すすべも無く、湧き起こるは悲鳴ばかり。モンスターに慈悲はなく、女子供例外なく命を刈り取られる。
それをつまらなさそうに家の屋根から腰を落ち着けて見ている奏。腕の中にはアリアが、傍らにはミユがいて、村の様子を見ている。アリアは腕の中で眠り、たまにモソリと動くだけだ。ミユは少し悲しそうな表情をしているが、村人が奏にしてきたこともあり、どうすることもできないと思ったのか、目を背ける。
そして、モンスターによる蹂躙劇を引き起こした当の本人である奏はというと、その眼に見えているのは達成感か、はたまた後悔や罪悪感か、何を思っているのか知ることはできない。
すると奏は立ち上がり軽く背筋を伸ばしたり、首を回す。骨がポキッ、ポキッと小気味よい音を立てる。
「ふぅ、そろそろ別の場所に移動しようか。はぁー、最初からこんな感じか。次はどこ行こうか?」
まるで目の前で起こっていることを気にしていないという風に軽く笑いながらミユに問いかける。ミユもさすがにこの場景を見て笑うなどとは思ってもいなかったようで、一瞬認識が遅れる。
「……ど、どこと言いましても、私もあまり人間の国に詳しいというほどでもないので何とも言えませんが。ここは国の端っこで閉鎖的でしたからここよりはマシなところもあると思いますよ。冒険者に非民で活躍している人もいないとは限りませんし」
「うーん、別に変なことされなければ構わないんだよね。静かに穏やかに暮らしたいだけだし。自給自足ができたらいいんだろうけど、さすがに限界があるし。……とりあえず少し大きめの街でも行って地図でも買おうか。じゃ、ちょっと臭ってきたし早いとこ移動しよ」
そう言って屋根の上を軽やかに移動していく。ミユもそれに続くが未だに表情が暗い。
(どうしてここまで自分に関係ないように振る舞えるんでしょうか? カナデさんは私と会う前はどんな生活をしていたんでしょうか?)
奏があまりにもこの惨状を自分が招いたとは思えない態度であるため、奏の過去に何かあったのだろうと思うが聞けずにいた。そもそもの話だ、『始まりの終わり』にいる時点で過去に何かしらあったという考えまではたどり着ける。しかし、奏が自分から話そうとしないため、ミユも話題にしてこなかった。
奏たちが村を出てしばらく歩を進めていると、後ろからモンスターが追いかけてきたが、奏がこともなげに屠っていった。そろそろモンスターたちが追ってこなくなったというところで少しペースを落とし始めた。現在奏たちが進んでいるのは整備のされた道だ。整備された道であるなら街につながっているのではないかという考えだ。国の端だから整備といっても最低限であり、村に定期的に来るであろう商人たちの馬車が通れるようにといった程度だ。しかし辺境ゆえに商人もあまり来ないからか道の状態もあまり良いほうではない。
奏たちが当てもなく道に沿って進み、野宿して夜を明かす日々がしばらく続いた。この世界を生きてきたミユはまだしも、現代の交通手段が発達し遠距離移動が短時間で済む地球で生きてきた奏はここまで未だに街にたどり着けないものかと感じていた。今までにだいたい3日から8日かかる距離に村が3つあった。しかし村に寄ることもなくひたすら進んでいた。
「ここまで時間がかかるとは思っていなかった。あとどれくらいで着くんだろう」
「合っているかはわかりませんがたぶんあと10日ほどだと思いますよ。街だといっても大きいかはわかりませんけど」
「10日か……」
奏の独り言に尋ねられたものだと思いミユが答える。奏も段々周囲の風景が変わらないことに退屈に感じていた。かといって元の世界のように娯楽があるかと言われれば難しい。最近の気晴らしには歌を歌って動物やアリアと遊ぶことぐらいだが、それも何時間ももつはずもない。
今日も歌で時間を潰すかと諦めていると奏の耳に音が聞こえてきた。奏が音のしたほうへ振り向くと、ミユもそれに気づいたように同じ方向を向く。二人の視界には3つの馬車があった。そしてそれを囲むように馬に乗り鎧で身を固めたものが数人程。その内の二人が奏たちに近づいてきた。
「突然ですまないが、君たちはこんなところで何をしているんだい?」
近づいてきた二人はどちらも中年でそのうちの一人が奏たちに話しかけてきた。その眼には警戒がありありと浮かべられている。少し後ろに控えているもう一人も念のためなのか腰に掛けた剣の柄に手をかけている。
「私たちは旅人でして、ここら辺で一番近い街に向かっている最中です」
ミユが二人に事情を説明する。二人はしばし奏たちの様子を見たあと納得したようで、警戒を解いた。
「疑ってすまなかった。俺たちは冒険者で今護衛依頼の最中でな。こんなところを歩く人はあまりいないから万が一に備えて警戒していてな。しかしここから一番近い街なんて歩いて12日かかるぞ?もし良かったら依頼主に交渉して馬車に乗せてくれるように頼むが?馬車だと5日だしな。俺たちもちょうど街に戻る最中だったんだ。上手くいくかはわからんが、どうする?」
願ってもない提案に奏とミユは顔を合わせ、冒険者にお願いすることにした。
「おう、もう一度言っとくが上手くいくかはわからねえからあんまり期待すんなよ。俺はグラットだ。こっちはハバルト」
「私はミユです。こちらはカナデさんです。聞いてくれるだけでもありがたいですよ」
お互いに自己紹介をしてグラットたちは馬車のほうへと戻っていった。奏たちはその様子を離れて見ていた。しばらくグラットたちが馬車から出てきた人と話しているのを眺めていたが再び奏たちのほうへと戻ってきた。
「おう、一緒に行くのは構わないってよ。ただ雑用や夜の寝ずの番を手伝ってもらうこともあるが、それでいいならとのことだ」
「それくらいなら構いませんよ。何か仕事がないとこちらも心苦しくて居心地が悪かったでしょうし」
「ならついてきてくれ」
こうして奏たちは運よく馬車に乗り込み街へ向かうこととなった。
「ねえ、貴方たちは今までどこを旅してたの? 見た感じ若いけれどいつから旅しているの?」
馬車に乗せてくれた商人の奥さん、ルディアは退屈していたようで奏たちが旅人ということもあり、旅での面白い話が聞けるかもと興味津々だ。
「申し訳ありません。私たちは最近旅を始めたものですから、話せるようなことはありません」
「そう? なら仕方ないわね。何か面白い話が聞ければと思ったけれど。はぁ、旦那の仕事についてきたのはいいけれど正直、移動中は退屈なのよね。ここまで我慢してきたけれどさすがに限界なのよね」
「そうですか。なら歌を聴くというのはどうでしょうか? 奏さんはとても歌が上手なんですよ」
「はっ? え、何? 急に」
「そうなの? それならぜひ聴いてみたいわ」
それまで外の風景を眺めていた奏は突然話を振られて戸惑う。しかし、ルディアはもう歌を聴くつもりなのか奏が歌う流れとなっていた。奏は最近歌を歌いすぎて退屈がまぎれるような感じはあまりしない。また、この世界の歌なんて知らないからお気に召すかどうかも分からない。だからあまり乗り気ではない。表情はしかめ再び外をむくことで歌わないという意思を表示する。
しかしミユもルディアも諦めた様子はなく奏に頼み込む。。ミユに至っては肩をつかみ体を揺さぶってくる。段々イラついてきた奏はミユのおでこに裏拳をお見舞いして振りほどく。しかし、すぐに復活して奏を揺する。そんなやり取りが数回、奏もミユの相手をするのがめんどくさくなり、ようやく歌うことを承諾した。
「悪いけど、僕はこの辺の歌には詳しくないから、自分の故郷のを歌うよ。……すぅ、~~~♪」
奏が歌い始めるとそれまで騒がしかった空気が変化し、馬車の中は沈黙に包まれた。聞こえてくるのは奏が紡ぐ歌と馬車の動く音。沈黙に包まれたのは馬車の中だけではなかった。馬車の周辺で警護していた冒険者たちも馬車から漏れ聞こえる歌声に耳を傾ける。正直ルディアや冒険者たちにとっては奏の歌う歌の曲調などは全くと言ってもいいほど新しいように感じた。
なにせこの世界では戦争、魔物、盗賊、飢餓と命の危険が常に付きまとい、心休まることがなかなか無いため音楽に気をかける余裕はあまりない。そしてこの世界の楽器は口笛か吟遊詩人が使う琵琶のような弦楽器か宮廷音楽などのジャンルでいえばクラシックのようなどちらかといえば落ち着いた音を出すものが多い。庶民では大抵口笛のみというのもたびたびだ。歌も吟遊詩人が吟う英雄譚などの物語以外には精々が鼻歌程度だ。現代の地球のようになんてことはないありふれた自分の気持ちや状況、想像などで考える歌詞や、ロックやジャズの楽器・曲調なんて存在しない。それ故新鮮に感じる。しかし慣れないことに対する不快感があまり無いのは奏の声が綺麗であるからだろう。
奏が歌っている曲は地球にいたとき一時的に人気のあった曲で恋愛をテーマにしていた。始まりはゆっくりだが、最初の間奏が終わるとテンポが速くなり、サビになるとさらに激しくなるものだった。間奏などはないと味気ないものになるため、奏が『偽音』で楽器の音を紡いだ。
それは5分にも満たない時間であったが一時的に場の空気を支配した。聞き終えた聴衆は名残惜しいそうにしつつも、自分たちの仕事を思い出してすぐに気持ちを切り替える。しかし人間というのは集中するには人によって異なるが、条件がある。そうすぐに切り替えられない者も複数見受けられた。
「すごいじゃない!! 『うた』って聞いたからどんな物語かと思ったけど初めて聞くものだったけれど感動したわ! もうきっとお金をもらえるレベルよ!少なくとも私なら払ってもいいくらい。ねえ、楽器を使っていないのにどうして楽器を使ったような音が聞こえたの?」
ルディアは興奮した様子で顔を赤くしてまくしたてる。興奮が抑えられないようで、奏の手を掴み、前かがみになって距離が近い。揺れる馬車でこのような大きく、激しい動きをすれば危険だが、彼女はそんなことも忘れるほどの様子で目を見開いて顔をこれでもかというくらい近づけている。奏はそれを引き気味に顔を後ろに引き落ち着かせる。
「えっと、お、落ち着いて。楽器を使わなくても音を出せるスキルを使っただけで。……僕の歌ってそこまでのものかな? 別に普通だと思うけど」
奏としては褒められれば嬉しいがそこまですごいとも思えなかった。だから、ここまでの反応をするのがむず痒かった。
「やっぱり、カナデさんの歌う歌は上手ですよ。それに何ていうか……こう……うまく言えませんが雰囲気が変わるんですよね。ついつい手を止めて聞き入ってしまいますし。不思議な魅力がありますよね」
ルディアに引き続きミユまでもが奏を褒めはじめる。いくら奏の倫理観や常識がバグってきても普段はまともであり、奏も褒められると照れる。照れ隠しのため外へと視線を移した。
その後もルディアとミユの強い要望もあり何曲か歌わせられることとなった。
夜になり、街道から馬車を少し離して野営の準備をする一行。それには奏たちも漏れることなく協力する。
「いやー、さっきは外で聞いていたけどいいもんだったぜ」
「そうだね。初めて聞いたけどつい聞き入ってしまったしね」
奏が手伝っているとそのような称賛が先ほどから続いていた。中にはもう一度歌ってくれと頼まれたりしたが、疲れたからと断っていた。野営の準備はルディアの家が連れてきた使用人とミユ、女性冒険者が料理を担当、他の男性冒険者や奏は簡易テントの設置と周辺の探索を行っている。
奏も探索に加わっていたが、『音響定位』で調べることもなかった。それよりも冒険者たちの注意の仕方などを観察していた。彼らは時折、木と木に紐を括り付け、それに木の板を幾つかつけた道具を準備していた。これにより、紐に足を引っ掛けたりすれば板同士がぶつかる仕組みだ。他にも探索の間に色々と仕掛けを設置しており、奏としても参考になった。
その後はご飯を食べて、ほとんどが眠りについた。奏は最初に寝ずの番をするため起きていた。他にも4人ほど起きていたが、特に会話が起こることもない。
理由としては夜は基本的に静かであり、小さな音でさえも響く。そんな中で会話に没頭して異変に気付けなければ全滅の可能性もある。現に過去にも全滅またはそれに近いことが度々起こっている。それ故今聞こえる音は時折遠くから聞こえる獣の吠える声、木々の揺れる音、焚き火の音くらいだ。
その日は何事もなく交代して奏も眠りに落ちた。
そのまま無事に進むこと4日経った。その間に起こったことは数回ほど森からはぐれて出てきたモンスターとの戦闘ぐらいで危険なことは起こらなかった。
この日もいつもの通り、奏たちは馬車の中、馬車周りを冒険者が囲んでいる。決して気を抜いていたわけでわない。しかし、もう少しで依頼が終わる、その考えが冒険者全員の中にあった。
「雨っていうのはこうジメッとしていて気分が下がるな。早く街に帰ってパーっと酒でも飲んで気分を盛り上げたいな」
「はー、早くお風呂に入りたいわ。さすがに臭いなんかも気になってきたし」
皆思い思いのことを口にだし合っていたとき、矢が飛んできた。そしてそれを合図にするかのように森からたくさんの薄汚れたぼろぼろの衣服に身を包んだものが出てきた。ほとんどが男だったが、中には女もいた。その数50人ほど。
「んなっ! と、盗賊だと!? こんな街の近くにいるなんて聞いたことねえぞ!!」
「早く構えろ! 数が多いぞ!!」
街まであと1時間ほどで着く距離に盗賊がいると思っていなかったようで、突然の遭遇に少し準備が遅れてしまった。
それに対して、
「ふふん。女と金めのモン、酒なんかを置いていけば男は許してやるぞ。言うこと聞かねえならどうなるかは後のお楽しみだ」
「いよっし、あの巨乳の冒険者、俺が最初だ」
「ああっ!! ふざけんな! 俺が先だ! てめぇはこの前最初だっただろーが!」
「僕はあの若い子にしようかな。きっと泣いた顔が可愛いと思うね」
「お前が先だと後が使えねーだろうが。お前は後だ、後」
「あそこの細めの男は逃がさないでね。なかなか好みだし」
などと盗賊は余裕そうである。冒険者は数が15人ほどしかいないためその余裕も当然かもしれない。
「ふざけるな!! 盗賊なんかに屈したところで何もいいことないだろうが。皆、グランドールさんたちを何としても守るぞ!
その言葉を聞き、盗賊の頭目と思しき巨体の持ち主が合図を出す。盗賊たちは余裕を持ちながらも魔法と矢を放ち、確実に冒険者を消耗させていた。魔法を使えるものは僅かだが、その分矢で戦闘不能に追い込まれていく。中には石を投げる者までいる。冒険者たちは全く動くことができない。手や足に魔法や矢、石が当たり、一人また一人と数が減っていく。幸か不幸か冒険者たちの中には死者は出ていない。そして、立っているのが4人となったところで頭目が再び合図をだし、攻撃をやめさせ、馬車に歩み寄ってきた。
馬車の周囲では呻き声ばかりが聞こえ、立っている冒険者も戦意を喪失し、武器を落とし、膝をつく。
「フフン、せっかく忠告してやったのに馬鹿なやつらだ。よしっ、お前ら金目のモンは持って好みの男と女は全員縄で括り付けろ。他は奴隷にするか拷問するかは後で決めるが鎖をつけろ」
その声に待ってましたとばかりに周囲の盗賊が馬車に寄ってきた。馬車に乗り込み金目の物や食糧を見て喜んでいる。そして盗賊たちは今回の依頼主である商人、グランドールやその妻ルディア、奏たちがいる馬車にまで入ってくる。
そこでさらに上玉だなどと歓声が上がる。
グランドールやルディアはもう駄目だと青ざめ、諦めが顔に浮かんでいた。
盗賊たちがニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながらルディアたちに触れようとしたとき、彼らの腕が止まった。盗賊たちが疑問に思って見てみると彼らの腕には植物の蔓が巻き付いていた。むしり取ろうとするが、何重にも巻きつき、絡み付きむしり取ることができない。
「全く、カナデさんの言うことを聞いていたら。何が『彼らにもプライドはあるし死ぬ覚悟もできてる。そんな戦士がたったこれだけの盗賊に負けるはずがない』ですか。これ以上は見ていられません。加勢します」
そういって馬車から出てきたのはミユ。奏の言うことを信じていたら助けに入る機会を失っていた。
盗賊たちはもう抵抗するものがいないと思い、虚を突かれた。その間にミユは魔法でどんどん制圧する。盗賊たちもすぐに我を思い出して応戦しようとするが魔法でなかなか近づけない。矢や魔法で反撃しようにも全て魔法で相殺される。奇しくも先ほどと逆転したような状態になった。
互いに拮抗し、盗賊たちはミユの魔力切れを狙うことにする。その間にもどんどん倒れていくがそれに構っていられない。そして一瞬攻撃が鈍くなり途切れた瞬間、魔力切れが近いと思い、即座に突撃をさせる。その切り替えは見事だった。めったにできることではない。彼らもそれが偶々だと思っただろう。ただそれが今回功を奏した。残り30も満たない数であったがこれだけ残ったのは彼らからすれば上々といえるだろう。突撃に8人向かう。これだけいればエルフであろうと魔力切れの近いものが放つ魔法ならば威力を考えても倒れはするが死ぬこともないだろうし、最低一人は手に持つ武器が届く。
…………はずだった。
盗賊たちの覚悟の突撃に向かってまるで引き寄せられるように細い物体が当たった。と、同時に力を失ったように盗賊は前のめりに倒れ、手に持つ武器も地面に着くと同時に放り出された。彼らの体には氷のナイフが刺さっていた。ご丁寧に胸と頭に一本ずつ。
「遅いですよ!! カナデさん! カナデさんのせいなんですから早くしてください。冒険者さんたちの治療もあるんですよ!!」
ミユは怒鳴っているが、奏は微妙な顔だ。
「いや、確かにグランドールさんとルディアさんには馬車に乗っけてもらった恩があるから見捨てるなんてことはしないけど冒険者のほうは、ねぇ? 自分たちの仕事だし」
「何言っているんですか!? 助け合うときは助け合わないとダメでしょう!!」
「……助け合い、ね。ハハハ、面白いこと言うねミユ」
「な、何も面白いことなんて言ってません! それより早く手伝ってください!!」
体がわずかに締め付けられる感じがし、わずかに熱を持つ。ハァと一つため息をついて仕方ないかというように腰を上げる。そして、動こうとしたとき、
「お、おい! 動くなよ!! こ、こっちには人質がいるんだ!!余計なことしたらこ、殺すぞ!!」
盗賊たちも流石にまずいかもという雰囲気を察したのか冒険者を人質にとった。
「殺したければ殺せばいいのに。別に僕は止めたりしないよ」
その言葉とともに奏は人質として冒険者に武器を突き付けている盗賊に歩み寄っていく。まさかためらいもなく近づくとは思っておらず動揺する。
「く、来るな! こいつらが死んでもいいのか?」
奏はその問いに対して欠伸をする。わずかに涙目になった眼をこすりながら
「ミユがうるさいし、動くとするか」
ボソッと呟いて腕を上げて上下左右に動かす。その際指も同時に動かしている。そして腕を下した。周囲で見ているものは最初構えていたがしばらく様子を見ても変化が起こらないため、安心する。
「や、やっぱりハッタリだったか。あのエルフが魔力切れで時間稼ぎのために用意しただけのようだな」
「ふん、ビビらせやがって。可愛い顔してるからてめえはたっぷり可愛がってやるぜ」
「たっぷり後悔させてやる」
「よし、さっきのナイフはそこの女がしたかもしれないからまずは矢と魔法で身動きとれなくしてから捕えろ」
頭目の掛け声に再び矢を構える。そして矢・魔法が放たれる。それは奏とミユに向かい、避けるにも早く構えられ、放たれたため避けるのも難しい。
しかし奏はそれを見て再び腕を上げ、腕を自分のほうへ引く。その際指もギュッと握った。
「俺あの子と最初に遊ぶことに決めたわ」
「あら、私も遊びたいわ。絶望を刻みたいの」
「ハハ、今さら何をしようってんぎゃあああぁぁぁぁぁ!!」
「今さら無駄なあがあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
奏の不可解な動きに何をしようしているのかわからないが無駄なことだと思っていた盗賊が馬鹿にしようとして叫びだす。見れば人質として捕えられていた冒険者たちの近くにいた盗賊の体がどこかしら途中で途切れ、そこから血が飛び出す。そして、奏とミユに向けられた矢と魔法はというと――
――矢は宙で吊り下げられてそれが奏やミユに向かう様子は見受けられず、魔法は空中にあった物体に当たり、消えていった。盗賊たちはぎょっとした。魔法があたった物体は腕や足、頭だったから。頭を見たときに見覚えがあると思い、盗賊はすぐに仲間の体の一部だと気付いた。だが矢を含めて何故宙に浮いているのかがわからなかった。そこに思考を傾け、一瞬固まってしまった隙に奏は頭目のほうへと駆けて行く。それに反応し近くにいた盗賊が構えようとするが、いつの間にか体に蔓が巻きつき、動かせない。そのまま頭目に接近するが頭目は肩に担いだ槍で横薙ぎにした。スピードから考えて避けられないと考え、勝ったと思い、思わず笑みがこぼれたがすぐに消える。頭目の槍は空を切っていた。頭目にも原因は分かっていた。槍がギリギリ届かない距離に奏が足を置いたとき突然下から枝の塊が出てきて奏はそれに乗って当たらなかった。そのまま上から奏が飛び込んで拳を振りかざす。ボキッという音がして頭目は吹っ飛ぶ。その姿は首があらぬ方向へ曲がり骨が突き出ていた。奏が殴ったであろう箇所は皮膚が飛び中心は骨が剝き出し、その周りは骨まではいかなくとも皮膚がぐちゃぐちゃになっていた。
周囲ではそれを見て誰も動けなくなっていた。奏はそれを笑顔で見るとすぐに行動に移した。残りの盗賊たちは動けないまま殺されていく。3人殺したところで我に戻ったようで逃げようとするが森に入る直前まで走ったところで体がバラバラになっていた。異変に気付いた盗賊は止まる。目を凝らすと血が付着し、糸があることに気付いたが後ろからは奏が歩いてくる。その間にも奏は殺しをやめない。
突然奏は一人の男盗賊の前に立つと動きを止めた。
「そういえばあんたは僕と遊ぶとか言ってたね。それって何するつもりだったの? 拷問? セックス? セックスだとしたらごめんだけど僕男だよ? そういう趣味だったら別だけど。ま、いいや。これから死ぬ人間にそんなこと聞いてもね。じゃあね」
そして腕を横に振るうと首がゆっくりと胴から離れ首に続くように倒れて行った。その様子を見ていた盗賊たちが慌てる。話をしだしたときは助かるかもという希望が湧いたがそんなことはないと知り何とか助からないか模索する。中には跪いて懇願する者もいる。
その時盗賊の中から一人奏のほうへ歩み寄って行くものがいた。それは薄汚れた服に身を包んでいるが、顔もスタイルもいい女だった。
「お、お願いします! あ、あなた様の性奴隷にでも何でもなりますからい、命だけは助けてください!!」
そこで奏がピクッと反応し、動くのをやめた。それを見て奏のほうへ更にもう一人駆けてきた。こちらも貧乳を除けば一人目に負けず劣らずの美しさを備えていた。奏が反応しもしかしたら助かるかもという希望が湧いたのだろう。
「わ、わたしも、あなたの性奴隷になるので助けてください!! わたしはあ、あいつらに無理やりだったんです!! お願いします!!!」
そして奏の手をつかんだ。奏が黙っているのを是と受け取ったのか安心した表情になる。それを見て奏は笑った。それは残虐な笑みなどではなく、優しい笑み。それを見た一人目の女盗賊は「忠誠の証です。好きにしてください」と言いつつ奏の手を取り、それを自分の胸へと持ってくる。隣に負けないよう貧乳の女盗賊も自分の下腹部、女性器へと奏の手を誘導する。
彼女たちはこれで命は助かったと思い残りの盗賊たちは他に手はないか模索する。
そして彼女たちの体に奏の手が触れようとしたとき――左手はタイミングが早かった女盗賊の胸に触れていたが――、彼女たちの笑顔が引きつった。彼女たちは奏の笑みを見た後は奏の手に視線を向けていた。故に何が起こったのかすぐに理解できた。
自分の胸へと奏の手を押し付けた女盗賊の胸は奏によって抉られ、貧乳の女盗賊は性器に奏の右手から造られた氷の剣で貫かれていた。
すぐに悲鳴が上がる。二人は奏の手をすぐに離し、痛みに悶えていた。
「な、何で? 何で痛いの!?」
「嘘嘘嘘嘘嘘! どうしてどうしてどうして……」
奏はそれを冷めた目で見ていた。
「嘘つき。無理やりとか嘘だってバレバレだよ。くだらない」
そして横薙ぎに蹴る。二人まとめて吹き飛んでしばらく騒いでいたがやがて動かなくなった。
その後は容赦なく盗賊全員が奏の手によって命を散らした。




