29話 周囲からの扱い
少し遅れました。また、だいぶ長くなりました。
頑張って読んでください。
次はテストがあるので8月なってからの投稿の予定です。
「んぁ、久しぶりによく寝た」
カーテンの隙間から入り込んでくる日差しで目が覚め、ベッドから起き上がり伸びをする。ベッドからはギシッという音がする。やはり固い床で寝るよりもベッドで寝ることのほうが快適なようだった。そして危険を考えずに熟睡できたというのも大きな要因であろう。隣のベッドではミユが寝息を立てて眠っている。アリアは奏の布団で一緒に寝ており、こちらも寝ていた。
奏は目が完全に覚めると立ち上がり、外に出て備え付けの井戸で顔を洗う。
その後すぐに部屋に戻るとミユとアリアは起きていた。
「おはようございます、カナデさん」
「おはよう、アリア、ミユ」
ミユは眠そうに目をこすりつつ、アリアは奏を見つけるとすぐに飛び込み肩まで上ると、頬ずりしてきた。キチキチと嬉しそうに音を鳴らす。
「じゃあ朝ご飯を食べて……少し依頼を受けに行こうか」
「あ、あの、無理しなくていいですからね」
「いや、少しでもランクを上げて、収入を増やさないと。あまりあのダンジョンで得た素材は売らずに自分たちで消費したいし」
昨日の対応を思い出してげんなりする奏。それに対し慰めるミユ。
奏たちはそのまま準備をして食事をとりに食堂へ降りる。
ちなみにここは部屋代と食事代は別だ。というかほとんどの宿はそうなっている。その理由として利用者は冒険者か旅人が主で、大抵はたくさん酒を飲む。その量が尋常でなかったりするため分けられている。が、もちろん中には食事代込みで部屋を借りれる宿もある。
食堂に降りて昨日と同じ席に座ると女将がやってきた。奏はてっきり注文だと思い
「またオススメをお願いします」
と言うとそれを聞いた女将は苦い顔をしていた。
「? 違いましたか? 朝も営業してますよね?」
「いや、あんた非民なんだろ? 部屋代はもう払っているし今回はまあいいが、次からは食事は自分でどうにかしてくれ。それと部屋も終わったらすぐに出て行ってくれ」
今度は奏が苦い顔をする番だった。大方昨晩来た冒険者から聞いた情報だろうとは推測できる。
「ちょ、そんな言い方って」
「……わかりました。次からは自分で何とかします」
ミユが批判しようとするが、奏は諦めた目でミユを止めて女将の言うことを聞く。
女将が去ってからすぐに料理が運ばれるが、料理を持ってきたジェシカは奏の時だけドンと荒く置き、奏を見向きもしないまま戻っていった。そのことに対してミユがまた不満を言いたそうにしていたが、奏はため息をつくだけだった。
「カナデさんはもっと何か言うべきだと思います」
「確かにイラッとするけどこんなところでそんなことしても、ね。それに料理なら食材はあるわけだからまだいいよ」
「……どうしてそういう風に流せるのかがわかりません」
怒ったようにかすかに頬を膨らませるミユ。それに対し奏はどう返そうかしばし沈黙する。
「……んー、何というか、もう他人に期待したりするのは諦めたんだ。だからこの程度のことはもうどうでもいいよ。まあ、さすがに限度っていうのはあるつもりだよ? 何も全て許すってわけじゃない」
奏のその言葉と表情、そして目を見てミユは何も言えなくなってしまう。
「じゃ、ごちそうさま。そろそろギルドで依頼でも受けに行くよ」
「あ、ま、待ってください」
奏たちがギルドに着くと空気が変わり、皆一様に奏へ視線を向ける。これは来る途中も同じで歩いているだけで嫌な視線を受け奏の3m以内に入ってこなかった。ギルドで依頼を受けるのはミユに前もって頼んでいたため、入り口横に立ち、周囲を観察して終わるのを待つことにした。中には十数人の男の冒険者がおり、妙に装備が綺麗な者がミユに視線を向けて周囲の冒険者と話をしていた。
待っているとミユも受け付けが終わったようで奏に駆け寄ってくる。その時装備が綺麗な冒険者とその仲間と思われる男の四人が行く手を阻む。
「すみません、綺麗なエルフのお嬢さん。俺はDランクのオスカー・ロッタといい、ここで一番高ランクの冒険者で、ここの村長の息子です。貴女は昨日冒険者になったばかりと聞いたので、よろしければ俺が色々と冒険者について教えましょう」
「あ、あのすみません。でも私すでにパーティ組んでいるので大丈夫です」
「パーティってあそこにいる非民のことですか? あんなのよりも俺と組んだほうがいいですよ。それにあれは奴隷らしいですね。エルフが奴隷とは珍しいですが、あれはやめておいたほうがいい。非民の奴隷なんて持っていていいことなんてないですから」
「いえ、ですから……」
急に出てきて勧誘したオスカーだがミユが断っても諦めることなく誘い続ける。すると、オスカーの取り巻きのうち二人の筋骨隆々の男と身長の高い男が奏のほうへ向きなおり、近寄ってきた。
「おいっ! どうせお前が無理やり脅すか騙すかしてパーティ組んでるんだろ? 非民ごときが高貴なエルフと一緒にいられるはずが無え!!」
「そうだ! 今すぐ解散しろ。今なら迷惑かけた分の金を払えば許してやるぞ? もし断ったら痛い目見るぞ! どうせここにはお前みたいな卑しい奴の味方をする奴なんていないんだからな」
――近づくなり妙な因縁をつけられた。
「はー、やっぱりこんなことになったか。というか金取ろうとするってそっちのが卑しいじゃん」
奏は小声で呟きチラリと受付のほうを見る。受付の一つは仕事をしてこちらに関与していないが、もう一つの受付のエルカはこちらを見ているが特に何か言うような様子はない。
「ギルド内での乱闘は禁止されているはずだけど?」
「はっ! お前が言うこと聞けばいいだけだろう? ……ん? お前が持っている剣なかなか良さそうだな。おい、それも置いていけ!」
「……」
奏が正論で答えると鼻で笑われ、さらに理不尽なことを言われた。奏としては二の句が継げず、どうしようか困っていた。
「これを盗られるのは困るからあげないよ」
そう言って『鬼啜り』をアイテムボックスに入れる。
奏が闘う手段としては他にもあり、例え『鬼啜り』が無くなっても戦闘力が大幅に下がるわけではないからいいが、性能や手に入れた場所、相手からしてあげる気はさらさら無かった。
『鬼啜り』が突然目の前から消えたことで相手はきょとんとするが、すぐに激昂する。
「おい、てめえ、さっきの剣何処やりやがった?!」
「……いや、おかしいでしょ。あれ僕のなのになんでこんなキレられなきゃいけないの?」
「……お前『アイテムボックス』持ちか? 分かったぞ! お前あのエルフ少女の荷物持ちだな?」
「ああそうか! ふん、さすがだな。そうやって人の荷物もアイテムボックスに入れて盗んだりする気だろう。非民はどこまでも卑しいやつしかいないな。先輩から後輩に教育してやろうか?」
「……」
長身の男が『アイテムボックス』に気付くと勝手に推測を立て、筋肉達磨は逆切れから一転、変な疑いをかけてくる。奏は特に何も言わない。相手をするのがめんどくさくなったためだ。よく見れば眼が色を失ったように感じる。
「ふん、怖気づいたか? まあ荷物持ちだからびびりなんだろ。それにしても顔だけはかわいいじゃねえか。こんなんだったら冒険者なんてやめて男娼してたほうがいいんじゃないか?」
「……」
「おい、何とか言えよ!」
「……」
「くそが!!」
筋肉達磨の言葉にみんな笑い声をあげるが、筋肉達磨が話しかけてもことごとく見視する奏。その態度に段々顔を真っ赤にさせていく。そしてギルド内にも関わらず奏を殴りつけた。それは幸いにも正面から斜めに奏がドアと重なる軌道で殴られることとなったため、壁にぶつかることなく奏は外に吹き飛んだ。そして予想以上に飛ばされたことで、筋肉達磨はスカッとしたように鼻を鳴らした。
と、その時筋肉達磨の腕に鋭い痛みが走った。目を向けると殴った右腕に多くの亀裂が走り、血が滲んでいた。
「いい加減にしてください。私はカナデさん以外の仲間は今のところいりません。それにさっきから聞いていたら何ですか? 適当なことばかり吹聴して! 邪魔です! どいてください!!」
ミユは怒鳴ると同時に筋肉達磨たちを無視して奏へ駆け寄る。
「カナデさん、大丈夫ですか?」
奏が話しかけると奏の眼に色が戻ってくる。
「あ、ああ、うん大丈夫だよ。心配かけたね」
「もう! 何で何も言い返さないんですか? それにあれも避けることもしないなんて」
「それは……僕が何言っても周りの反応から無駄に感じたんだ。…………あと、試したかったのがあったし」
ミユの心配に一瞬遅れたように返し質問に対しては最後に行くにつれ声が小さくなっていった。
「……ほんとは後半が本音ですか?」
「アハハ……それよりどんな依頼にしたの?」
ミユは奏を呆れた顔で見つつ睨むと乾いた声しか出てこず、無理やり話題を変える。
「はぁ、無理やりな感じしかしませんが、まぁいいでしょう。依頼は森に出没するリトルボアとフォレストキャットの討伐です。リトルボアの牙とフォレストキャットの牙が討伐部位で他も売れるそうです。聞いた話だとこれ基本的に常設依頼ですよ」
「ホッ、何とか話逸らせた」
ボソッと呟き安心した奏。
「心配したんですから後で詳しい話は聞かせてもらいますからね。納得いく理由をよろしくお願いしますね」
どうやら呟きはミユに届いていたようで笑顔なのに目が笑っていないという怖い表情で見つめられた。
「ま、どちらにせよ後で話すつもりではあったよ。門を出てからね。」
奏たちは村の門を出て森の前までやってきた。
「じゃ、とりあえずそろそろいいかな」
言葉と同時に奏はミユのほうへと姿を向ける。
「納得いく理由をお願いしますよ!!」
「はいはい、努力はするけど難しいよ。とりあえず今回相手が鬱陶しかったのとこの村人たちの感じからこれからのことを考えてスキル『無感情』がどんなものなのかっていう確認がしたかったんだ。これを使って何も感じなくなればだいぶ気持ちが楽になるし。これからはギルドとかでは基本これを使っておこうかと考えている。『無感情』は感情が無くなるだけで思考とかが無くなるわけじゃないのが分かったし。かと言って命が危険になった時とかの危機感や仲間意識が無くなる感じはなかったね。それと筋肉達磨の拳をよけなかったのは」
「……筋肉達磨?」
理由説明の途中で怪訝な顔をしてミユが質問する。
「ああ、あの僕を殴った奴。……それでDランクがどんなものだったのか知りたかったのと武器を持っての攻撃じゃなかったから受け流しの練習にしようと思ってね。モンスター相手にはなかなか練習できないし」
「受け流し?」
「殴られる瞬間にその方向に飛んでダメージを軽減させることだよ。タイミングさえ合えば相手の体が触れてはいるから相手に気付かれずに済むよ。他にも軌道を逸らさせたりとかもあるけど。武器を持っての場合は『始まりの終わり』で練習できたけど殴られるのを実践するほど余裕は無かったからね」
「へー、そんなこともできるんですね」
「ん、まあね。それじゃ依頼をこなそうか」
奏たちが森の中へ入ってしばらく、ようやく奏はくだらない、しかし大切なことに気づいた。
「……ねぇ、リトルボアとフォレストキャットってどんな姿なの?」
「…………えっ?今まで知らずに探していたんですか?リトルボアは茶色のちっちゃな猪で可愛いですよ。フォレストキャットは緑色の猫です。こちらは擬態していることが多いので気づかなかったりします」
「今さらだけどGランクで討伐依頼とか大丈夫なのかな?普通危険だからもう少しランク上げてからとか薬草採取とかだと思うけど」
「今回討伐する2種は戦闘力はほぼ無いので大丈夫だと判断されているようですよ。とは言え油断していると怪我するらしいですけど。採取系は無かったですよ。この辺のモンスターがあまり強く無いからかもしれませんが」
先ほどから少しずつモンスターが出てきて狩ったり薬草採取などしているがなかなかお目当てのものは出てこない。
「そろそろ狩らないと遅くなるな。すぅー……、あっ!!」
時間が遅くなりリトルボアもフォレストキャットも全然討伐できていないため、『音響定位』で探すことにする。
「……見つけた。どちらも結構近いところにいるのか」
目を閉じて場所を感知する。
「ミユ、見つけたよ。こっち」
「ホントですか? 時間も遅いですし急ぎましょうか」
奏たちは急いで移動する。ミユはやや遅れ気味なため、奏もそれに合わせる。しばらく真っ直ぐ進むと途中二手に分かれる。奏はリトルボアを、ミユはフォレストキャットを担当することとする。ミユは途中で曲がり、奏はそのまままっすぐ進む。近くにモンスターはいないため何も気にせず進める。
やがて開けた場所にたどり着いた。そこではリトルボアが鼻をスンスン言いながら穴を掘っていたり、草を食べていたりする。その数11。目標は10だったので少し報酬が加算される計算になる。
しかし追加報酬は時に気を付けなければならない。ギルドや領主などからの依頼ならいいが、一般の依頼の場合、数が多くても頼んでないからと追加報酬が発生しない場合がある。それはまだギルドで売ればいいほうだが、中には追加報酬なしで過剰分も持っていくという酷い依頼主がいたりする。
今回は依頼主はギルドのためその辺の問題は心配しなくてもよい。
しかし、ミユがリトルボアはかわいいと言っていたが本当にかわいい。子犬くらいの大きさで茶色の体毛、そして穴掘りや食事に夢中で必死にお尻をフリフリ振ってしっぽが揺れている。とても和む。
「うわ、かわいいな。すごい和む。痛、痛い痛い。ごめん、アリアもかわいいし近くにいるだけで安心するよ。……分かったから。早く終わらせるから」
奏が和んでいるとアリアが不機嫌そうに奏の頬を何度もつつく。どうやらヤキモチを焼いたようだ。かわいい娘だ。かわいいといった時には一瞬止まったが、今度は照れでつつき始めた。でもそれなりに力がこもっており、地味に痛い。
「じゃあ、まぁうちの娘がヤキモチ焼いちゃうから早く終わらせるか。“氷棺”」
奏がヤキモチ焼きと言うとミユがまたつつきだし、しかもそれが脇腹だったため笑いそうになるが堪えて魔法を使う。
奏が今回使った『氷棺』は相手を凍らせて閉じ込める捕縛用の魔法だ。これは土属性のない奏にとって代わりとするものだった。
土属性と氷属性、水属性は基本属性の中でしっかりと重さ、すなわち質量がある。そしてその中でも固体である土属性と氷属性は捕縛が可能だ。何より氷属性は冷凍し保存することができる。
だがこの世界ではあまり氷属性でこのようなことはしない。たいていは土属性でやるものが多い。その理由として土属性は地面にある土や砂をそのまま使うことができ、使う魔力量も魔力から土を精製するより減って楽だからだ。
そのため氷属性で捕縛・保存するという発想がなく、もともとこの魔法は存在しなかったが、イメージすると頭の中で詠唱が思い浮かんできた。これが称号『魔導士』の効果だとまだ奏は気づいていない。
称号『魔導士』。そもそもその系統の称号にはいくつかある。『魔法士』、『魔法師』、『魔道士』、『魔道師』、『魔導士』、『魔導師』の6つ。
まず『士』と『師』の違いだが、『士』は基本的に戦闘の多い冒険者たちが多く、『師』は教師や宮廷魔法師などの研究者に多い。とはいっても戦闘においてそこまで差はない。
問題はその前に何とつくかである。『魔法』は普通に魔法が使えるものならやがて手に入れられる称号。『魔道』は魔法において稀な才能を見せるもの。そして『魔導』は魔法の極致に足を踏み入れたもの。やがては必ず無詠唱で発動することが可能となる。奏は『始まりの終わり』において『狂喜乱舞』の状態であるが本能的に『複合魔法』、『詠唱破棄』を取得し、その後イメージしたものを魔法・スキルとすることができると発見することができた。そしてさらに半年も籠っているときに、地球の化学や地学などの理科の現象をイメージして魔法の使用も研究したために手に入れることができた称号だ。
しかしこの世界の人間は基本的に新たな魔法を作ることは相当に難しく、ほぼ不可能に近いと思い込んでおり、また、召喚者もここに召喚されてそう説明され、先入観でそう考えているため『魔道士』を得るのがやっとである。そのため『魔導士』の称号はいまだ誰も知らない。実際ミユも知らない称号であった。
ちなみに『魔術師(士)』の称号はない。その理由は簡単で、魔法とは魔力で世界の法則に則って干渉する力であり、魔術は人の意志を宇宙の事象に適用することによって何らかの変化を生じさせることを意図して行われる行為、その手段、そのための技術と知識の体系、およびそれをめぐる文化であるためだ。そもそも本来『術』とは忍術や妖術などのように人智を超えた力を指す。あくまでも魔法はこの世界において誰もが使えるため人智を超えたものではないということだ。
リトルボアをアイテムボックスに入れると奏はミユと合流する。その後は音響定位で周囲を確認しつつロッタ村まで戻った。
「ふう、何とか完全に暗くなる前に帰ってこれましたね」
奏たちが村までついた頃には夕方も終わりかけという時間帯だった。日帰りの依頼をこなす冒険者には少し遅い時間だ。
ギルドに入ると備え付けの酒場で酒を飲んでいるものがほとんどで席が埋まっている。奏たちが戻ってきた時の受付にはエルカではない女性がいた。
「こんばんわ。ミユさんですよね。エルカからいろいろと話は聞いてます。初めまして、私はカーヤと言います。今後もよろしくお願いしますね。それで依頼達成の報告ですか?」
噂を聞いているのか例のごとく奏は無視されていた。
「あ、えぇ、はい」
そう言ってミユが奏のほうへ視線を向けると奏は前に出てアイテムボックスからリトルボアとフォレストキャットの素材を出す。フォレストキャットもミユが毒物生成で殺したため綺麗だ。
リトルボアもフォレストキャットもどちらも綺麗な状態だったため、カーヤは驚いて目を見開いていた。
「へー、綺麗なものですね。ここまで良い状態でなんて滅多にないですよ。相当魔法の優れた方なんですね。これはこれからにも期待できますね。それではギルドカードを更新するので貸していただけますか?」
カーヤが賞賛を送りつつギルドカードの掲示を求めたため、ミユとともに奏もギルドカードを取り出す。カーヤはミユのギルドカードを受け取るが奏のギルドカードは一瞥するだけで受け取ろうともしない。奏がそれに少し苛立ちつつも尋ねると理不尽な答えが返ってきた。
「あの、ギルドカードの更新ですよね?自分のもお願いしたいんですけど」
「……エルカや他の冒険者さんから聞きましたがあなた荷物持ちなんですよね?他人が倒したモンスターをただ持って帰るなんて、誰でも出来ます。そんな卑怯者がランクを上げられると思わないでください‼︎」
「……は?いや、リトルボアの方は自分が倒したんだけど……。それに仮に荷物持ちでも適材適所っていうものがあるからそれでいいと思うけど」
「適材適所?ああリエラ王国で召喚された勇者が使う四字熟語というものですか。非民のあなたでも知っているんですね。……と、荷物持ちなんかでランクを上げられてもギルドにとって期待できないものは迷惑ですし、ガルドさんの度胸試しを一歩も動けず受けたそうじゃないですか。いくら相手がDランクだったとは言え、そんな人がモンスターを倒せるはずありませんよ。そもそもあなたの魔法属性に氷はありませんでしたよね?違うじゃないですか。嘘も大概にしてください‼︎全く、報酬をあげるだけでも感謝してほしいくらいなのに」
奏が言い返すも全く信じてもらえず、挙げ句の果てに周囲の酔っ払いが野次を飛ばしてくる。中に物まで飛ばす物もいる。それもミユやカーヤには絶対に当たらない角度で。
奏としてはリトルボアの倒し方から氷属性が使われ、どちらも適正属性に書いてないから奏が使える可能性もあると言おうとしたが止めた。
この世界では適正属性は大体1つか2つがほとんどだ。それを奏は3つも書いている。まさか4つ以上あるなんて思いもしないだろうから言っても無駄だろうと判断した。
「はぁ、わかったよ別にいいや。もう何も期待しないよ」
「ふん、身の程を弁えたようですね。全く、手を煩わせないでください」
そしてウンザリした奏はミユに声をかけて外に出た。
「まさかここまでだとは。予想外にもほどがある」
一言ボヤいて星を眺めながら宿屋へ向かう。
宿屋に着くと庭でギルドで汚された服を洗い、1日動き回った汗を落とす。アイテムボックスから着替えを取り出して着替え終えると中へ入り部屋へ入る。途中女将さんとジェンとすれ違うが二人とも無視していた。
奏は部屋に着くと夜ご飯として聖竜の肉を用意する。幸い調味料はロッタ村に着いた時に一通り揃えたため、味のバリエーションが増え、飽きることもなくなった。後は奏の腕次第である。
奏も家庭科の授業の調理実習の時に料理するか、親がいない時の夕食を簡単に作るくらいの腕しかないが食べられないこともないので、面倒ということ以外は特に何とも思わず調理する。
肉を焼く前に森でミユから教えてもらった料理に使える薬草や生姜・胡椒などの香辛料を擦りこませる。普通は例え料理に使えたとしても傷ついていないのに薬草を使うなんていう使い方はしない。奏は普段は傷つきにくく、また、森でたくさん見つけたからできる。また聖竜の肉は回復を早める効果があるが、いつまでも残すと腐らすので食べれる時に食べている。そのため聖竜の肉はもうだいぶ減っている。
そして肉を魔法を使って焼いたり炙ったりする。
しかし、調味料が揃ったと言ってもそれほど良くなったとは言えない。この世界は地球と違って肉の油以外の油やパン粉などの料理で使う材料は普及していないため、バリエーションは格段に減り、米も人間国では今の所見つかっていないことから物足りなさを感じてしまう。
「とりあえずこんな物かな」
まあ、何とか料理はできた。ミユは帰ってきた時こっちで一緒に食べようとしていたが女将が準備できていると言って少し悩んでいたので奏が無駄にするのももったいないからとあちらに行かせた。
奏が食事中は、アリアも一緒のご飯を食べているが、時折奏に付けた魔吸糸で魔力をチューチュー吸い取っている。どうやら奏の魔力はアリアの好物になったらしい。
食事の後はすることもなくなり、ベッドに寝転がる。はぁ何をしようか?そう考えを巡らせるも差別を受けている身の上では行動が限られてくる。アリアと遊ぼうにも何をすればいいか思い浮かばないし、アリアは基本奏と一緒にいれば満足というかわいい娘だ。
森で暇だった時は歌を歌って鳥などの動物と戯れることができたのだが。
「とりあえずステータスを見てこれからすべきことを考えるか」
そしてアイテムボックスからステータスカードを取り出す。ステータスカードを眺めていると以前と若干違っていた。まずレベルが1上がっていたが、これはあまり気にならない。新しいスキルに『リズム支配』と『超再生』というスキルがあった。『超再生』は名前の通りの便利なスキルかと思っていたが思っていたものと少し違った。
【リズム支配】場のあらゆるリズムを支配できる。
【超再生】身体が欠損しても再生させる。再生時には膨大な魔力が必要であり、激痛を伴う。スキル獲得前の欠損の再生はできない。
『超再生』は聖竜の肉を食べたことで手に入れられたスキルだと思うが、使い勝手が悪そうなスキルだ。『リズム支配』の獲得条件がイマイチわからないが、音魔法系のスキルということがわかる。音属性はあとどのくらいで底が見えるのかが少し気になる。とは言ってもどの属性も未だに極められていないから何とも言えないが。しかしこれも効果がいまいち分からないから調べないといけない。
奏は明日の予定を少し整理してミユガが戻ってきてちょうどいい時間になったためベッドに入った。ベッドに入るとすかさずアリアがもぐりこんだため抱き寄せる。精神的に疲れたために割と早く眠ることができた。




