23話 質疑応答
だいぶご無沙汰してました。
すみません。
奏がエルフを隊長と呼ばれた金髪以外殺し、話を聞こうと視線を向ける。視線を向けられた金髪エルフは腰を抜かしている。
「お、お願いだ。いい、い、命だけは助けてくれ。そうすれば他に何でもするから」
結局腕は治らず変な方向を向いたままだったが、痛みよりも仲間のあっけない死と自分が死ぬ恐怖が勝ったらしく、必死に命乞いをしてくる。奏たちのいる場所はエルフの血だまりができ、時折吹く風が鼻孔に血なまぐささを運び込んでくる。
「ねぇ、ここの詳しい説明と彼女について知っていることを全部話してよ。そしたら解放してあげる」
命乞いをする金髪エルフを見て奏はニッコリと笑顔を浮かべる。そしてミユの方を指さし、詳しいことを聞く。ミユは未だに地面に座り込んで、俯いたままである。
奏の笑顔と言葉に金髪エルフは安心したようにホッと息を吐いた。そしてゆっくりと口を開く。声は震えていた。
「わ、わかった。俺が知っていることはぜ、全部話すから。こ、ここはエルフの里の1つでハイエルフが治めている里の一部だ」
「エルフとハイエルフってどう違うの?」
「エ、エルフにはただのエルフとハイエルフ、ダークエルフがいる。ハイエルフはエルフよりも魔力量が高い。ダークエルフは肌が黒く、皆闇属性魔法が使える」
「なるほど。それで周りにはどんな国があるの?」
エルフについての新たな情報を頭にいれながら質問を続ける奏。
「ここは、大陸の南西にあるランドーラ山脈とディストリア鉱山の間にある。たぶん東には人間国のランデル国、北には魔国のディストリア国がある」
ランドーラ山脈はその西側は海となっている。ディストリア鉱山は名前からしたら魔国のディストリア国が保有していそうだが、何故か人間国のランデル国が保有している。ディストリア国はそれに対して特に何も言ってこないらしい。
ランデル国はリエラ王国の南西に位置し、自然に囲まれた農業の盛んな国である。たしか貧乏であり、小さな国だったはず。
ちなみにリエラ王国は人間国のだいたい中央に位置し、少なくとも人間国の中で3位の国力を持つ。
ディストリア国はあまり分かっていることは少ないが、奇妙なことで知られている。本来魔国は、もっと北の方にあるがこの国は飛び地のようなもので周囲に魔国はなく、人間国に囲まれている。そのため何度も攻めようとしたらしいが、境界を霧に覆われ、どれだけ進んでも霧から抜けることができない。かといって出ようとすれば普通に出られるとか。上空も魔獣に乗っても地上と同じようになっているらしい。
金髪エルフがたぶんと言ったのは恐らく国名が変わり、かつエルフが長命なためそれをあまり気にしていないためだろう。
それにしても本当に金髪エルフの言う通りならここには普通誰も通らないはずだ。人間でも鉱山までしか行かないはずだ。なのに最初旅人と言ったのを信じるなんて……。だいぶ馬鹿なのか、もしくは人に対する危機感とかが薄れているんじゃないかな。
まぁ、本当に旅人でここを通る人がいるのかもしれないけど。
「それじゃあ、次は彼女について知っていることを教えてね」
場所については分かったので不安要素の残っているミユについての話を聞くことにする。しかし当のミユは先ほどからあまり変わらず動いていない。肩を震わせ、呼吸が荒いがほかは特に変化は無いようだ。
「あ、あの女は、ば、化け物だ! 今すぐ封印したほうがいい!!」
「……ねえ、僕は彼女のことについて一から聞かせてって言っているんだけど。死にたいの?」
金髪エルフは一人突っ走って話が飛んだため、鬼圧を使いつつもう一度尋ねる。
「ひ、ひぃ! ごめんなさい。あ、あの女はだいたい800年前に俺たちの里に生まれた。……あの女は魔法属性に木属性というユニーク属性を持って生まれた。そして、巫女として育てられていたけど、突然里長に襲い掛かったんだよ‼」
拳を強く握り急に叫びだした金髪エルフだが奏には一つ疑問に思うことがあった。
「里長? 彼女は里長の息子って言ってたよ?それとまるで君も見てきたような言い方だね?」
「あ、ああ。今そいつが里長を引き継いで先代は隠居している。お、俺もその時一緒に居たからな」
「ふーん、続けて」
どうやらこの金髪エルフは里長とかいうやつの取り巻きのようだ。ミユは襲われて抵抗した結果怪我を負わせたといっていたが、とりあえずはそのことには触れないことにした。
「それで……危険だからってしばらく地下牢に閉じ込めていたけど暴れられたら手におえないからと封印することにしたんだ」
「あ、ねえ。その封印について詳しく聞かせてよ」
「あ、ああ。その封印はるか昔に神々や厄介なものを封印するためのものだ。今となってはほとんどの場所では失伝しているのだろうが俺たちの里にはずっと伝えられてきた。……まあ、長命のエルフは余程のことでなければそうそう失伝などしないだろうが。封印されているものは一定の距離に誰かが来るまでずっと意識を閉ざしたままになり、解かれるまで体の時間は止まったままとなっている。そ、それでそれは封印を解くには主従契約をしなければならない。しかも封印されている側が主となる」
「……ずっと思っていたんだけど、何で封印されている側が主となるの? 普通は逆だったりしないの?」
ずっと気になっていた疑問をここにきてやっとぶつける。
「そ、そんなの神と契約するんだ。神が主となるのは当たり前だろう。神と契約できるのは稀だ。むしろ神と契約できるのを感謝するのが普通だ」
「……でもそれだと彼女は何なんだい? 明らかに神やそれに類するものじゃあないよね?」
金髪エルフの言い方にイラッとするがまずはミユが明らかに神ではなく、むしろ厄介者であるように感じた奏は新たな疑問を解消すべく質問をする。
「く、国を亡ぼすような者も封印されたりする。そ、そうすればそんな危険なものと契約を交わすようなものもいないからな」
「じゃあ、解除の方法は?」
「そ、そんなものはない。神が自らの手駒をただで捨てるなんてそんなにあることではない。神か契約者のどちらかが死ぬまで続く」
……封印については分かった。封印した側とされた側で言っていることが同じなのだから、封印についてはもはやどうしようもないだろう。
「それじゃあ、聖竜について聞こうかな」
「……せい、りゅう?」
聖竜が番をしていたためその繋がりを聞くが相手はどうやら覚えていないようだった。
「ほら、彼女の番をしていた竜だよ」
そこまで言うと思い出したようで、
「はっ、そうだ。あそこは聖竜が守護していたはず……。ま、まさか‼」
と、奏へ驚愕の表情を向ける。奏はそれに対し、何でもないような顔をしつつ、再び鬼圧を使う。
「早く聖竜について話しなよ」
「ひぃぃ、わ、分かったから。話す、話します! ……あ、あいつは万が一のためにって先代の里長が聖竜の巣から卵を盗んで魔獣契約させたものだ」
「魔獣契約? エルフは基本的に他種族と関わらないから奴隷契約とか必要ないし魔獣となればなおさら必要ないから分からないんじゃないの?」
「さ、里の中には過去に人間や獣人たちと冒険者なんかをしていた者もいる。それで知っているものもいる」
なるほど、聖竜は魔獣契約されていたからあそこから離れることなく、守護していたのか。まぁ普通竜には勝てないから守護獣に最適ではあるのか。
「どうしてあのダンジョンに封印しようと思ったの?」
これはある意味では一番重要な質問かもしれない。もしほかの国にあったのであれば少なくともここに奏はいなかったかもしれないからだ。
「そ、そんなの我々から遠くさらにダンジョンは生きているから封印が解かれることもないだろうと先代が考えてのことだ」
『ダンジョンは生きている』、これには様々な考えがあるとされる。なぜならダンジョンで手に入る魔道具やモンスターはどこから出現するのかが解明されていないからだ。普通に彷徨っていたり、気配を急に感じたと思ったらいつの間にかそこにいたといった具合だ。研究者の中にはダンジョンの濃厚な魔力がモンスターを形成しているといったり、ダンジョンの壁から出てくると言ったりしている。
ここのエルフたちはその考えをもっているらしい。ならばダンジョンを利用するのもうなずける。しかし、どうやってあの空間を作ったのだろうか?『始まりの終わり』はだいぶ広かったことから普通あれ程を作るのは不可能だ。そのことを尋ねると、
「さ、里の中に空間属性が使えるものが居たんだ。そいつは病弱であれを作ってダンジョンとくっ付けた時に死んだ。だから聖竜とあの女は転移魔方陣で送ったんだ」
……それであそこに魔法陣がありここに繋がっていたってわけか。モンスターがあそこから出てこなかったのはほかのダンジョンと同じ法則なんだろうね。下層に行けばいくほど強くなるけど基本的にそこから上にも下にも行くことはない。たまに例外はあるけど。その法則からならあの強さがあそこから出られなかったってことかな。あくまで予想だけど。
だけど結界が張ってあって出られないって話だし、そもそもあそこの異常な強さが謎になるけど……、考えてもわからないし、いいか。
「ありがとう。おかげで色々と知りたいことが知れたよ。約束は守るよ。解放してあげよう」
そういって微笑む奏に顔をあげて安どの表情を浮かべてホッと息を吐こうとした金髪エルフだったが胸に激しい痛みを感じ咳き込む。口を手で覆うと手には血がついていた。そして痛みを感じる胸へ視線を向けるとそこには綺麗な真っ白の氷剣が自分に刺さっていた。
「な、な、んで……?」
「僕は命を助けるとは言っていないよ。話してくれたら解放するって言ったでしょ。何からとは聞いてないし、勝手に解釈させてもらったよ。それに君途中で嘘ついていたでしょう? そんな君を生かしておくほど信用できないしね。……それにそろそろ君のお仲間が到着するからその相手もしなきゃいけない」
そこで奏は氷剣に魔力を通す。すると氷剣の刺さっている部分から棘ができ金髪エルフの体を満遍なく貫く。
そして金髪エルフの意識は途絶えた。
 




