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21話 地上へ

 だんだんと光が弱まっていき、目を開けると森が広がっていた。見た所普通の森だ。ずっとダンジョンの入り口に出るとばかり思っていた奏はここはどこだろうと疑問に思いはしたものの、今まで王都から出てこなかったため、分かるはずもないかと考えるのをやめた。周囲を確認するとすぐ隣にアリアとついでにミユが倒れていたので取り敢えず安心した。


 そして周りを把握しようと音響定位を使いつつ見ていく。周りは当然ながら木しかない。時折風が吹き、奏の長い髪をなでる。奏は約半年もの長い間ダンジョンという精神衛生上あまりよろしくない場所に居たため、深呼吸を数回する。ダンションと違い、草木の爽やかな匂いが鼻をつき肺に新鮮な空気が入るのを感じる。


 そしてダンジョンで過ごした日々を思い返した。

 最初切り捨てられ、何も考えられなかったが、そんなこともお構いなしにモンスターがきた。正直生き残るつもりでいたが、速攻で死にかけた。死ぬのは怖かった。眼を抉られて痛かった。どうしてこんな目に遭わなくてはならないのかと呪った。相手が何かと戦闘後だったこともあり何とか勝つことができた。もし傷ついてなければあそこで普通に嬲られて死んだだろう。


 その後はただ生き残るために殺すしかなかった。自分が殺さなきゃ殺される。油断した瞬間命が散る。あそこではそれを学んだ、というより嫌でも学ばざるを得なかった。

 途中アリアと出会っていなければ精神が参って崩壊していたかもしれない。


 聖竜と出会った時は自分が捨てられたのが全くの無意味であると知り、何も考えたくなかった。

 自分は何の為だったのか、自分を支えていた最後の柱が崩れたような気がした。


 そして今隣で眠っている少女。彼女は力を恐れられて封印されたと言っていた。しかしステータスを見ることはできなかったし、ダンションから出るために、封印を解く方法として、彼女を主として契約しなければならないなんて。もし聖竜が前もって封印を解かなければ出られないと言っていなければ、契約しなかっただろう。

 今考えれば彼女の言った方法以外に方法があるのではと思えてくる。あの時は脱出を考えすぎて深く考えていなかった。そもそも彼女は信用できない。本当のことをどのくらい言っているかわからない。だけど彼女が主であるなら僕は恐らく逆らえないだろう。もし彼女が妙な真似をしたらアリアに彼女の始末を頼もう。


 しばらくして考えが落ち着いてきた頃にアリアの目が覚めたようだ。最初キョロキョロしていたようだが奏を見つけるとすぐに近づいてきた。そして物珍しそうに周囲を観察している。彼女は今までダンジョンしか知らないから外の世界が珍しいのかもしれない。空に向けて何やら糸をはいている。

 しかし空に糸がつくはずもなく落下する。アリアは何故か分からないようで首を傾げる様な仕草をしている。


 そんなアリアに和みつつも奏はこれからどうするかを考える。周りは見渡せば木しかない。方角なんかも全く分からず手掛かりになりそうなものも見当たらない。つまりどう進めばいいかが分からない。

 まぁいざとなったら適当に進むだろうが。

 ……よく考えれば他人を信じて街なんかで生きていけるだろうか?ふとそんな疑問が浮かんだ。しかしいずれは街なんかに行かないと生活が厳しい可能性もある。

 どうしても答えは出そうになかった。


 取り敢えずリエラ王国の王都に行くというのは無いだろう。どのくらいかはわからないがこの年月でどうでもよくなってきたとまではいかないが忘れようと努め、関心が薄れた気がするけどもし会ったらつい抑えきれずに殺してしまうかもしれない。衝動に駆られて。


 そして季節が分かったことも僥倖だ。この世界は大陸全てに四季が存在する。夏と冬が3ヶ月で他2ヶ月。森の木や気温の感じからして今が秋の様子だから呼び出されたのは春というのを考えると少なくとも半年はあそこにいたことになる。

まぁ、木には詳しくないから春かもしれないけれど。気温や天気から夏と冬はないと思う


 奏がそんなことを悶々と考えているとようやくミユが起き出した。

彼女が着ているのは奏がアリアに作ってもらったコートのようなものだ。アリアの糸は白色しかないのだが白はあんまり好きじゃないし汚れが目立つのでダンジョンの壁の石や石人形ゴーレムの素材を水に溶かして何とか染料として使うことができた。とは言え土色なためあまり良いとは言えない。いつかちゃんとした染料を手に入れたいと思う。


 ミユは封印されていたから身体機能とかはどうなのだろう?筋肉とか落ちて歩けないとかあるのかな。


 そんなどうでもいいことを考えながらミユを観察する。

動きに妙な感じはしない。特に動けないとかもない様だ。先程アリアには妙な動きをしたらすぐに殺すように言っておいたから余程のことがない限り大丈夫だろう。

あまり汚い仕事を(アリア)に任せたくはないがこればっかりは仕方ない。


「ん、みゅ、んぅ」


 と眠たそうな声を上げながらミユは目を開く。何だかボーとしているようだ。髪はボサボサになりずっと地面で寝ていたから草や土が付いている。


 そんな感じでしばらく時間を費やし、目を大きく開いた。


「ああ!ここは……。や、やっと出られた」


 そう叫び涙を流していた。どうやら現状把握をしていたようだ。ようやく泣き止むとやっと奏の視線に気づいた。


「貴方は……本当にありがとうございます。貴方のおかげで、本当に助かりました。」


 奏を最初誰?という感じで見ていたが色々と思い出したらしく、お礼を言ってきた。


「そんなことはどうでもいいよ。僕もあそこから出たかったし。……それよりも契約だっけ……、それを解くことはできないの?」


 奏としてはお礼なんかよりもそちらの方が重要であった。これから何かをするのに縛られて生きることは奴隷に等しいからだ。やっとの思いで外に出れたのだ。そんなもの堪ったものじゃない。そう聞くとミユは


「……申し訳ありません。前にも言いましたがこの契約は奴隷契約と違い、古代に神と人との主従契約であり、どちらかが死ぬまで契約は破棄されることはありません。ですが貴方にとって何か不利益になるようなことは絶対にしません。……そんなこと言っても説得力はないかもしれませんが」


 と申し訳なさそうに言い、土下座までした。奏としてはそうは言ってもあまり信じれる気にはなれない。だから


「そう。じゃあ僕達と君はこれからは別行動だね。これでお別れだ。もう会うこともないだろうし」


 そう言って無理矢理別れようとするが、


「あ、あの待ってください! あの、1人では寂しいので私もご一緒してもよろしいでしょうか?」


 などと言ってきた。その目は真面目であったし、座っているからどうしても上目使いの様になり普通ならそこで許してしまいそうになるが奏としては当然却下だ。親しい人には裏切られたのだ。それなのに全く知らない人と行動することなど不可能だ。まして自分の手綱を握るものなど障害でしかない。その気持ちを伝えるため、


「駄目。全く知らない人を信用なんかできないし、言ってることが嘘かもしれない。僕は誰かのお人形にはなりたくないからもし無理矢理ついてこようとするなら君には死んでもらうよ。僕は別に殺すことに特に思うことはないし僕が殺せなくても僕以外なら君を殺せるだろうし」


 言い終わるとミユは悲しそうに顔を伏せた。しかしまだ諦めていないような何か言いたそうな表情もしていた。


「う、どうしても、駄目ですか? あの一緒に居るだけでいいんです。……もし貴方が聞き入れないなら命令します。これだけは譲れません。それに私を殺すことは誰にもできません。……もう1度聞きます。どうしても駄目ですか?」


 口を開いたかと思えば滅茶苦茶なことを言い出した。奏はそれに少しイラっとするがそれよりも誰も殺すことができないという言葉が気になった。


 よく考えればミユが本当はどんなことをしたかにも関わらず、封印するくらいなら殺してしまった方がいいだろう。そうすれば100%気がかりは消えるからだ。  じゃあ何故封印という手段に出たのか?彼女がそれ程強いのか?だとすれば封印することも不可能に近いはずだ。

 結局奏がその答えを出すことはできなかった。


 しかし打開策がないこともない。敏捷においては奏は相当なものになった。つまり命令の聞こえない距離にまで逃げれば大丈夫かもしれない。……聞こえなければ 命令の効果はないという前提ならばだが。


 状況回避の案を考えていると声をかけられた。


「お前たちは何者だ?」

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