18話 聖竜
扉はギギギイィィィと重い音がして開くと思っいたが思いの外アッサリと開いた。奥は今までと違い明るく思わず目を細めた。
「多分入ったら戻ってこれないよね」
そう呟いてアリアに手を伸ばす。アリアは嬉しそうにキチキチと音を立てて手に乗り、肩までのぼってきた。そして肩を通り過ぎて胸に張り付く。最近はここがお気に入りの場所らしい。
扉の奥には竜が眠っていた。龍種は他のモンスターよりも強いが竜種はそれよりも強い。飛翼竜だけは竜種であるが実際は龍種よりも弱いが。
ステータスを見ると
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聖竜
性別 雄
レベル 109
体力 11020
魔力 9890
筋力 12400
物耐 9420
敏捷 6300
魔攻 7660
魔耐 7450
魔法属性
聖
スキル
爪術 竜圧 牙術 皮膚硬化 状態異常無効 咆哮 息吹
称号
隷属竜 守護竜
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こんなのと戦いたくはない。
気づくと扉が壁に埋まっていった。すると眠っていた聖竜が目を開いた。その瞳は鋭くしかし綺麗な金色であった。
聖竜は一瞥すると眼を閉じた。そしてゆっくりと口を開いた。
「汝は何故ここへ参った? あれから長い時が経ったのだ。……まあ封印を解きに来たという答えしかないか」
「……封印? 解く? 何を、言っているの?」
聖竜の言葉に奏は訝しげに尋ねる。
「……まさか何も知らずにここへ来たというのか? ここには封印されている者がいて我はその守護を任されて……」
「そんなことはわかってる! 封印を解く!? 違うよ! ここには100年ごとに『災禍の供物』って生け贄が必要なんだろう? 僕はそれでここにいるんだよ‼︎」
奏が叫ぶと聖竜は何を言っているのかわからないという顔をしていた。
「『災禍の供物』? それは何なのだ? 我は聞いたことがないぞ? そもそもここに生け贄などは必要ない」
その言葉に奏は驚きの表情を浮かべる。
「う、嘘だ! だってそうしないと災いが起きるって、現に600年前にここができて何もしなかったら災いが起きたって! 封印されている者の呪いだって……」
「確かにここは600年前からできているが生け贄など必要でない。それに……災いだと? そんなことは起こるはずない。『アレ』にそんなものはないのだからな」
「じゃあ、僕がここに捨てられたのって……」
「全くの無駄であろうな。そして汝は生きて帰ることはできぬだろう」
聖竜のその言葉に表情を無くして疑問を持つ。
「どう、して?」
「汝はこの後如何するのだ?」
聖竜の問いかけに答える奏。
「……もちろん、ここから、出るよ。だから貴方と別に戦うつもりはない」
それを聞き聖竜はやはりと言った。
「ここから出るには封印を解かねばならん。『アレ』の封印がこの部屋を一方通行の閉じた空間としているからな。しかし我はここで封印を解こうとするものを排除せねばならん。とは言ってもここまで来れたものはいないがな。まあ汝はここで我が殺すということだな」
「なっ⁈」
聖竜のその言葉に奏は固まってしまった。
「我など竜の中では下のものであり、聖属性ではあるがそれでも人間程度に負けはせん。せめてもの情けだ。楽に殺してやる」
そう言って聖竜は尻尾を振るった。
ドオォォォォンという盛大な音と共に砂煙が舞う。
「しかし、なんと憐れな者か。あの言い方では100年ごとにここに生け贄として入れられていたということかの。そしてこれからも続くのであろうな。我もいつまでこのようなことをすればいいのか」
そうボヤく聖竜は何処か悲しそうだった。
「“氷柱”、“水刃”」
その瞬間聖竜の右翼と右足に氷柱ができ、氷漬けになり、さらに幾つもの水の刃が聖竜を襲った。
「うぐっ⁉︎ ま、まさか!」
そこで奏ごぶつかったであろう壁を見ると砂煙の中に立っているものがいた。
そこには血に塗れながらも笑顔の奏がいた。
「あはははは、ねぇ酷いじゃあないか。急に攻撃するなんてさぁ〜。お仕置きが必要かな♪」
そう言って奏は鬼啜りを抜き接近する。雰囲気の急激な変化に呆気に取られた聖竜もすぐに持ち直し迎え撃つ準備をする。
一角鬼程の硬さを誇る鬼啜りも竜の鱗しかも皮膚硬化までは斬ることはできず、徐々に刃こぼれしていく。そこに聖竜が爪で切り裂く。奏は避けるが奏が元いた場所は抉れていた。
奏は避けつつも聖竜に魔法で攻める。最初は油断しておりダメージがあったが今は尻尾に当てられあまり効いた様子がしない。
聖竜は眼を細めて奏を見ると奏は萎縮し動けなくなった。
「⁇」
「流石に竜圧には勝てぬな。これ以上は汝に攻めさせん。これで終わりじゃ」
そう言って尻尾を上から下に振り下ろし、奏を潰した。
「ふぅ、これで完全に終わったな。しかし驚いたな。人間であれ程の者がいるとは。次からは最初から本気でいかねばダメだな」
そう言って氷漬けになった体を砕き回復魔法を掛ける。その時体が回復せずむしろ怠い感覚に囚われた。
「な、何なのだ、これは?」
「やっとチャンスが回ってきた〜。あはは、どう殺そうかな♪」
聖竜が疑問を持った瞬間、聞こえるはずのない声が聞こえた。先程自分の尻尾で叩きつけた場所を見るが何もなかった。いや、鬼啜りは落ちていたが求めているものがなかった。
「そっちじゃないよ〜、こっちだよ〜」
声ががした方を向くとアリアに糸で巻きつかれた奏がいた。
「な、何故⁈」
「あはは、答えは簡単。最初に隠れていたアリアに叩き潰される時引っ張ってもらっただけだよ。それとね、君には呪いを掛けてあげたんだ〜。僕は聖殺与堕って言う聖属性のためのスキルがあってね〜。呪いは状態異常には入らないからね♪」
そう言って微笑む奏に初めて聖竜は恐怖した。マズイ、こいつは危険だ、と自分の中で警鐘が鳴り止まない。
幸いスキルは使え、身体能力もある程度は大丈夫だが果たして勝てるかどうか?
竜圧も使うが一瞬硬直させるのが限度となっている。
「“火柱”、“風柱”」
火と風の柱が聖竜を包み込み、燃やし切り裂く。ステータスが下がっている聖竜にとって耐え難いものであった。
「ねぇ、まだ生きてるよね? ちょっと試したいことがあるから練習させてね〜?」
そう言って奏は火槍と氷剣を作り手にした。
「おっ、やっぱりこれを武器に手に持つのは可能か〜。後は氷はともかく火とかも継続して使えるかだね〜」
何の躊躇いもなく奏は聖竜を斬り刻む。聖竜も反撃しようとするが初めての呪いで体が思うように動かない。
「グルアァァァァァ!」
スキル「咆哮」を使い相手の恐怖を煽らせようとした。だが声が出なかった。いや、声だけでなく音までも消えている。そんな不思議そうな顔をする聖竜に奏は答える。
「あぁ、音がしないのは僕のスキル『無音』の効果だよ。自分から一定の距離の音を好きなように消せる優れもの〜」
「なっ⁉︎ 無音、は聞いたことあるが、確か移動の音がし、ないようにする隠密系スキルだった、はずだが」
「ん〜、知らな〜いよ? 進化でもしたんじゃぁないの?」
ダメージを蓄積し、知識と違うことに困惑する聖竜にそっけなく答える奏。しかし奏の手が止まることはない。
「あはっ、そろそろ楽にしてあげる♪ ”共鳴”」
そう言って指を鳴らす。パチンと軽い音がした時聖竜の頭部が弾けた。
音属性魔法 共鳴は振動により対象物を破裂させる。今回奏は共鳴により、聖竜の頭部を破裂させた。
見れば先程まで聖竜であったものは首からドクドクと血を流し続けていた。
なんか、展開がはやいなぁ




