13話 狂喜乱舞
少し変更しました
スキルに詠唱破棄を獲得させました
称号に災禍の供物を追加しました
「うぅ、くっそ。本当の絶望って涙なんか出ないのかな。もうなんだろ、笑いしかでてこないよ」
奏の口からハハッと乾いた笑いが漏れた。『始まりの迷宮』、そう呼ばれる場所の入り口で奏は1時間以上座り込んでいた。
奏は自分が物語の『災禍の供物』としてクラスメイトから、とくに幼馴染み達から裏切られたショックでしばらく一歩も動けなかった。
やがて考えられるようになると頭に浮かぶのは先ほどの光景。忘れようとしてもベッタリと張り付いたように目に浮かんでくる。
「はぁ、どうしてこうなっちゃったんだろう? どこで間違えたんだろう? 何も悪いことはしてないのに虐められて、来たくもない異世界に召喚されてこんなことになるなんて。もし地球に居たらこんなことにならなかったのかな……?」
理解したくないのに理解してしまう今の状況。先ほどから広間の奥にある通路から何かが動いている音がする。音が乱れあっていることから戦っているのだろう。ここには奏以外にはモンスターしかいない、故にモンスターが争っているのだろう。
奏は如何しようかと悩んでいたがステータスプレートでいくつか増えたのを思い出し、とりあえず確認することにした。
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カナデ=コトブキ
種族 人間
性別 男
年齢 15
レベル 16
職業 歌姫
体力 310
魔力 3400
筋力 180
物耐 160
敏捷 710
魔攻 ?
魔耐 120
魔法属性
火 水 風 氷
ユニーク属性
音
スキル
言語理解 隠蔽 解析 アイテムボックス 聴覚強化 二刀流 投擲術 脚術 音響定位 音解析 聖殺与堕 狂喜乱舞
称号
異世界人 被虐者 歌姫 動物と戯れるもの リエラ王国第2王女の友人 裏切られた者 絶望する者 災禍の供物
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【裏切られた者】信じていたものから裏切られた者が得る称号。
【絶望する者】わずかな希望を持ち、耐えていた者が希望を砕かれ絶望し得る称号。
【聖殺与堕】被虐者・裏切られた者・聖人殺しなど特定の称号獲得による複数の解放条件の1つの解放による隠しスキル。聖属性魔法の破壊、聖属性魔法の付与魔法・回復魔法が掛けられた者にその分のステータス呪い付与。
【音属性魔法】音に関するユニーク魔法属性。
【狂喜乱舞】条件解放スキル。生きる喜びを実感し、一部の理性を残して狂気の赴くままに破壊する。体力切れ・魔力切れ・気絶によりスキル発動終了。熟練度上昇により発動終了の操作可能。
「…………」
たくさん称号やスキルを得たはいいがいまいち使えない。称号は補正が掛かるものはないし、モンスターに聖属性が使えるのは存在しない。『狂喜乱舞』はこんなところで使って体力切れ起こしても死ぬだけだし、何より精神系のスキルでも危険視される類のものだ。少し期待した分がっかりだった。
使えそうなのはユニーク属性の音魔法くらいだろう。なんとなく解放されたからか少し使い方が分かる気がする。ただユニーク属性は強力な分魔力消費が激しい。
しばらく試行錯誤していた奏だが音響定位で調べると通路のから2つの物体が近づいてくるのが分かった。一応剣と短剣を構えて準備をする。
奥から来たのはオークとゴブリンであった。普通群れで行動し数で戦うはずのモンスターであるから珍しい。だが様子がおかしい。どちらも傷ついており、ゴブリンは片腕がなく、オークは腹に穴が開いていたがそれより奇妙なのが頭の上に獣耳がついているのである。普通オークやゴブリンは頭の横に長い耳がついているものである。図書館でも見たから間違いない。ステータスを見ると
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オークラビット
レベル 48
体力 110/2600
魔力 0
筋力 2230
物耐 1800
敏捷 520
魔攻 0
魔耐 130
魔法属性
なし
スキル
棍術 脚術 跳躍 聴覚強化
称号
変異種
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ゴブリンキャットメイジ
レベル 41
体力 60/1020
魔力 130/2530
筋力 540
物耐 490
敏捷 540
魔攻 1820
魔耐 1220
魔法属性
火
スキル
杖術 爪術
称号
変異種
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初めて見るが恐らくこれが変異種なのか。変異種は通常モンスターとは姿や色が異なりしかも強いという厄介なものだ。しかもこの2体は動物の特徴もあるらしい。オークやゴブリンにケモミミとかシュールだ。
たぶん奥で何かと争っていたが負けたのだろう。ボロボロだからもしかしたら勝てるかもしれない。だけど1発でも食らえば死ぬだろう。奇跡なのがステータスのばらつきが激しいことだろう。
するとオークラビットが突進してきた。急なことで一瞬ひるんだが、すぐ横へ跳び回避した。そこを見ると岩は砕け土煙が激しく舞っていた。そこに居たらと思うとぞっとする。
「ハッ!」
大声で叫び音響定位を最大限まで使用する。オークラビットがまたこちらへ突進してきた。避けると今度は止まり、棍棒を振り回してきた。何とか数回避けるが風圧でバランスが取れない。怪我を覚悟で受け流すことにした。当たる瞬間少しでも楽になれるよう跳びつつ流したが、筋力が違いすぎて腕が痛い。折れたかもしれない。いや、砕けたかも。でも『歌姫』という音に関する職だからか相手のリズムが分かってきた。
今は使えるようになった水属性の回復魔法ですぐ回復する。でもほんの少し痛みが和らぐぐらいで腕が熱い。
距離を取っているとオークラビットが跳んできた。何が起こったのかわからず、オークラビットが棍棒を振るのに反応できなかった。だけどオークラビットは重く着地の振動で転んでギリギリ頭の上を通過した。
恐怖で足が震えた。腰が抜け動けなくなった。オークラビットはニヤニヤしていた。オークラビットの手が伸びるが何もできない。オークの手が奏の顔を握ってもう片方の手は目の前に来た。震えることしかできずただ見ていると急に左側が暗くなった。それとともに左眼に激痛が走る。オークラビットが手を離し奏は地面を転がりのた打ち回る。
何が起こった?
分からずオークラビットを見ると手には小さな球状のものがあった。それは白く赤い線が走っているが一部分は黒い。それが眼球で抉り出されたのだと理解し痛みは増した。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
そう思うと体が勝手に動いた。体を横に転がしオークラビットが再び手を伸ばし掴もうとするのを避け後ろにすぐ下がり距離を取った。片眼がなくなったのに視界が広くなった気がする。体も軽いし何より恐怖がなくなった。
何だろう?あれほど怖かったのに笑いが込み上げてくる。
「アハッ、アハハ。アハハハハハハ!」
眼と腕の痛みが生きている実感を与え、嬉しくなってくる。あぁ、これが『狂喜乱舞』なのか、すんなり理解できた。
音響定位で横から魔法が飛んでくるのを感じる。1歩後ろへずれると目の前を通過して壁へぶつかり消えた。
「あぁ、君もいたんだったね」
ゴブリンキャットメイジを笑顔で見るとゴブリンキャットがビクッとして後ずさる。オークラビットも警戒しているようで襲いかかってくる気配がない。眼に回復魔法をかけて血を止める。頬を伝う血を指ですくい取り、舐めると自然と言葉が出た。
「……あぁ、美味しい」
そう言うとゴブリンキャットメイジが魔法を放ってきた。それを難なく避けて距離を詰めようとするが横からオークラビットが棍棒で押し潰しに来た。敏捷では上なので焦ることなく横に跳ぶ。
「君にはお礼をしなくちゃね♪」
そう言って短剣を傷口のある腹に向かって投げる。オークラビットは腕でガードするが奏はすぐに懐からナイフを3本取り顔に向けて投げた。投擲術スキルもありナイフは両目と頬にあたった。頬にあたったものは弾かれたが眼にあたったものはそのまま刺さる。
「グオォォォォ!」
「キャハハ。いったそー」
痛みにオークラビットは絶叫する。その隙にゴブリンキャットメイジへ迫るがあちらも迫ってきた。そして杖と爪で攻撃してくる。
「音属性魔法〝忌避音”」
キイィィィィィィィという音が鳴りゴブリンキャットメイジの攻撃がやむ。これは生物にとって不快な音を出し相手を怯ませる魔法でありしばらく平衡感覚を失わせる。奏は本能的にこの魔法を獲得、使用した。ゴブリンキャットメイジは近すぎたため、ふらついていた。そのまま首を斬り落とす。皮膚が固く、半分ほどで止まってしまったが既に死んだようで動かなかった。
「さぁて、次は君だね~」
もともと聴覚強化で聴力が高かったため忌避音によりオークラビットはふらついていた。
「君は魔法に弱いから魔法の練習させてね!」
そう言って魔法を発動する。火・水・風・氷それぞれを四肢に当てて徐々に削っていく。
「ククク、アハハハハ! 楽しいなー」
奏が狂喜の目でオークラビットを虐めているとオークラビットは最初こそ絶叫していたがだんだん声が弱弱しくなってきた。
「そろそろ魔力も切れそうだし、バイバイだね!ありがとう、楽しかったよ♪」
そう微笑むと詠唱と共に火・風の魔法を混ぜてオークラビットに放った。
そして奏はパタリと倒れて眠った。
【スキル 複合魔法 を獲得しました】
【スキル 詠唱破棄 を獲得しました】
なんだか奏君の性格が崩壊しちゃった
一応このスキルの時だけだけど・・・大丈夫かな?
いつの間にかブクマ、PVが急上昇していました。
ありがとうございます!
 




