≪第二四話≫ No.26-Ⅱ
≪第二四話≫ No.26-Ⅱ
高喜ら3人が歓喜の声を上げたのは、この2年程、弥彦の香山様は分殿に籠り、余程の事が無いと人には会われないという事が世間でも伝わっていたので、今宵、俊高に会って下さると聞いて、3人は仰天し、また歓喜の声を出したのであった。
社務所を出て、夜道を少し岩室方向に進んだ杜の中に、一際目立つ巨木が立っていた。『婆々(ばば)杉』と云われた樹齢数百年の大杉であった。この大杉と稲島の大杉は、一部の人々からは夫婦杉と呼ばれ、稲島が男杉で弥彦が女杉とされ、天香山の命を慕って大和からやって来た妻の熟穂屋姫の化身とも云われていた。紗枝の分殿はその大杉の隣に置かれていた。朱染めの神殿造りで京の御所を思い出させる程、立派な建物であった。
一行は篝火で照らされた門を潜り、2人の巫女の案内で奥の聖殿の間に通された。そこは、半透明の薄い絹の垂れ幕で覆われ、所々に天女等の金模様が刺繍がされており、柱毎にあこや貝を台座にした灯蝋が部屋全体を淡く照らしていた。
中央の三段になっている祭壇には、拝殿の中に安置されていた物とは趣が違い、どこか異国の雰囲気さえあった。そこには、一層目立つ金箔の大鏡が最上段に置かれ、左右に高麗型の白亜の石壺が並べられ、其々に龍と鳳凰が刻まれている。2段目には銀製の燭台に3本の太く長い蝋燭が焚かれ、その左右に白磁の花瓶に榊の若葉が飾れていて、最下段には40本もの蝋燭が4列になって揺れていた。更に部屋全体には芳しい白檀の香りが漂っていて、俊高達は別世界の空間に足を入れた思いであった。
4人は、祭壇の前に用意された布張りの椅子に座って、暫く瞑想する様にと云われ、その人を待った。小さな鈴の音と、さらさらと裾の磨れる音がして、聖殿の間の奥から紗枝が6人の神女を伴って、静かに歩んで来た。4人の若者達は緊張して直立した。
紗枝こと香山と共に来た神殿に仕える神女たちは、香山を中央に左右3人づつ扇を広げる様に並んだ。
香山の装いは真白な絹の羽織りに白い衣袴を着て、頭に白銀の髪飾りを付け、首からは象牙の数珠と翡翠で出来たまが玉が付いた首飾りを掛けて、腰には金字の刺繍がされた鮮やかな紅帯が巻かれていた。
神女たちは、常の白の胴衣と朱の袴ではなく、肩から長い藤色の羽織を着て、中は白い絹の衣袴で、皆、長い髪を後ろで束ねていた。
俊高達に一番近い神女が、「皆さま、静かに御座り下さい。」と小声で伝えたので、一同再び椅子に腰掛けた。
祭壇の中央に立った紗枝こと香山は、初め静かに呟くように祝詞を上げていたが、次第に詞に力が込められ、やがて手に持っていた榊の枝が大きく揺れて左右に振られると、祭壇の大小の蝋燭の灯が同じ方向に揺れ出した。
更に祈祷が進むと、大小の蝋燭は常の3倍以上の火の勢いと成って香山の祝詞に合わせる様に、炎が踊った。香山の身体は、左右から上下に成り、更に上半身がぐるぐると円を描いていった。やがて・・・・
「我、天の香山の命なり、我が主、大和の国 太初の天皇 神武大御神 ご降臨下されませ!神武大御神 ご降臨下されませ!神武大御神 ご降臨下されませ!」と唱え始めた。俊高たちは、初めてみる交霊の式場に居合わせた驚きと好奇心に目を見張って見詰めていた。




