表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/111

≪第十四話≫       No.16-Ⅱ

≪第十四話≫               No.16-Ⅱ

 斎藤の黒い騎馬隊を核にした別動隊が去った事を確認したが、暫くは防衛の為の陣形を解かずにいた。俊高は、負傷兵などの生き残りの友軍を岩室の高野館を開放し、手厚く女達に世話をさせた。その中には、妹の三和を始め、高喜の妻となった芳葉や稲島・笹川・柿島の家々から40人が集められて、介護をさせた。凡そ200人もの死者が出て、300人に及ぶ重傷者が出た。味方にとり、大打撃であった。

 3日後、俊高は長者原城に帰った。留守をしていた筆頭家老の佐野高兼や情愛(あやめ)に一通りの経緯を伝えた後、3日間、祈念(きねん)の間に籠り、ひたすら読経と座禅をして食を摂らなかった。情愛が心配して何度か、食膳を運んだが一切、手を付けないでいた。

その3日目の夜、西の丸・当主館に笹川常満と柿島信政がやって来た。二人とも何時になく真剣な顔付であった。

 祈念の間に通された二人は、(だん)に6代・稲島家の位牌が並べてある祭壇に座禅したままの俊高の背に、黙って深く礼をした。そして、暫くの間、二人とも瞑想(めいそう)した。どの位時間が経ったのか、静かに俊高が振り向いた。(ほお)が少しやつれて目が(くう)を視ている様な俊高を見て、二人とも少し、驚いたが部屋に入る前に、情愛から事情を聞いていたので、慌てず先ず常満が語り出した。

 「俊高殿、本日我ら二人、貴殿に伝えたき事あって、参った。わしらの思いを受け止めてくれ。わしは、話が上手(うも)うない。信政が話すので聞いてくれ。・・・・」豪胆な性格の常満だが、彼もあの戦で頭を金槌(かなづち)で叩かれた様なショックを受けていた。

「俊高殿、吉田ヶ原の戦、常満より詳しく聞き申した。更に朱鷺の権坐の報せでは、あの黒江勝重という男、生れは信州・伊那(いな)の小豪族の次男であったが、人質として他家に預けられ、その後、甲斐の武田家に仕えたそうだ。

武田は騎馬隊で有名だがその武田の中で、山県政景(やまがたまさかげ)率いる(あか)(ぞな)えの騎馬軍団は、天下無敵と評判である。黒江はその騎馬団に10年居て山県10騎と云われるまでになった。

 しかし、武功を上げ過ぎ、嫉妬(しっと)をかって武田を出た後、関東の北条氏に仕え、そこでも独自の工夫で騎馬100騎にて、1000余の敵を殲滅(せんめつ)して、一時は小さいながら、城持ちとなったそうだ。

しかし、武田方の諜略により、武田と内通しているという噂が出て、やはり、出奔(しゅっぽん)せざるを得なかったようだ。その後、妻の実家のある越後・田上(たがみ)に引きこんだ後、斎藤家の筆頭家老・石田七衛門芳時が噂を聞いて、召し抱えたのだ。そして、駒込(こまごめ)の戦と良い、この度の戦と良い、見事な采配であった。」ここで、信政は一呼吸置いた。

 「今、勝重は1軍を任され、斎藤の侍大将となっている。権坐の話では、騎馬300・弓隊200・長槍隊200の計700の黒染(くろぞ)め組を動かしている様だ。100騎で、1000を倒せる男だ。我らが立ちゆか何だのは、至極当然の事。しかし、世には凄い奴が居るものよ。」

「わしも、あの戦いで(きも)(つぶ)した。今でも手が震える思いよ。」と常満が上目使いで俊高の顔を覗き込んだ。

 俊高は終始無言で、二人の言葉を聞いていたが、まだ目は定まって居ない様だった。少しの沈黙後、また信政が静かに話し出した。「本日、我ら(そろ)って参ったのは、俊高殿との義兄弟の絆を切りたいと願った故である。」信政の冷静で低い声に、表情を変えないで聞いていた俊高も、さすがに眉を寄せた。

 「信政、その様に申せば、我らが縁を切ると云わんばかりぞ。」と常満が、割って出た。「うぬ、そうじゃな。誤解があっては、申し訳ない。

我ら二人、義兄弟ではなく、臣下の誓いを立ててやって参った。」「おゝ、そうとも、俊高殿、いや御屋形様、我ら両名今日より領土一切を俊高殿に献上致す。・・・・斎藤氏の力を見れば、我ら一つになって、強国を築き、対抗せねばならぬと決断して参った。」

信政も更に続けた。「5家の結束で長者衆とまで云われた我らであったが、三条・斎藤家が白根を取組み、全盛期の勢力に成りつつある今、我らも力を一つにして備えなけらばならぬ時であろう。

 岩室も、反乱制圧により稲島領となった。これを機に西蒲原の覇者として、俊高殿に立って貰いたいのだ。

   


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ