表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/111

≪第十二話≫     No.14-Ⅱ

≪第十二話≫               No.14-Ⅱ

俊高は権坐と別れ、直ぐに出陣の用意をした。今、この岩室で(いくさ)は出来ぬ。戦が終ったばかりで防備が弱いからである。暫く野戦で様子を見て、時を稼ぎ、体制を整えてから、斎藤勢の動きを見極めるしかないと、昨日の戦で高野館で休んでいた諸候を呼び寄せた。

荒田照美の乱を掌握して、味方に付いた高野兵300人を合せて1,700人の兵がいたが、先ずは1,200人を以って出陣した。

現在の国道116号線と国道289号線の交差周辺が吉田郷であった。国道289号線をそのまま、弥彦山に向かうと越後・一宮弥彦神社がある。当時はまだ原野が多く、所々に沼地が点在していた。その後の権坐の知らせで、斎藤氏の別働隊は近くの吉田ヶ原(現・()納津(のづ)辺り)に留まっているとの事。稲島軍は、刺激しない距離を保って、暫く様子を見た。

俊高にとり、双方千を越える兵力で、平地にて野戦をするのは初めてであった。軍を三つに分け、右翼の350を騎馬隊100と共に、笹川常満・(つね)(とよ)兄弟に任せた。左翼の350は、亀城決戦や天神山城の落城に功績を立てた(くさ)日部(かべ)軍を柱に、高野軍100を添えて、(たか)(ひで)(きみ)(ひで)の二人に任せた。本隊としての500は自らが少し後方で対峙し、陣形は所謂(いわゆる)(かく)(よく)の陣』と呼ばれたものであった。

西の原野から、ドドド―と地鳴りがしだし、土煙が1里(4Km)先で起り始めた。左翼の貴英から報せが来た。

(とら)の刻(西南方向)より、騎馬300程がこちらに向かっておりまする。」「うぬ、判った。貴英殿に、敵の進軍を前方3町(300m)出て、食い留めよとお伝え致せ!」「はっ、判り申した。」

伝令の騎馬兵は、取って返した。「高喜(たかよし)、わしは常満に会って来る。ここを頼む。」「おゝ~」と高喜が返答を背にして、俊高は真島良高を連れて、馬を飛ばした。

右翼の常満の陣に着いた時、既に左翼の貴英軍は、前方に3町程、進んで陣形を整えようとしていた。それを、横目で確認しながら、俊高は常満と駒を並べた。

「常満、斎藤の黒江勝(かつ)(しげ)唯者(ただもの)でない様だ。草日部軍が応戦したら、お主、騎馬隊を引連れ、敵の横合いから攻めて崩してくれ。その後、わしがここの兵を連れて、敵を包囲致す。」

「おゝ~。相判った。」常満は、言葉と同時に、騎馬隊100に鞭当てを上げて、準備させた。

次第に敵の騎馬隊が近づいて来ていた。彼らは殆んど真直ぐに、何の躊躇(ちゅうちょ)もなく、着き進んでいる様であった。遠目で見ていた俊高は、最初の突撃を食い止めれば、こちらの騎馬隊と歩兵で囲み、初戦をものにすれば、何とかなると見ていた。

平野での、正面衝突は初めてであったが、戦の定法(じょうほう)は同じである。敵の機先を打つ事であり、また、勝負が見えるまで、全軍を動かす事は迂闊(うかつ)に出きぬ事である。

しかし、この後、起る事が俊高の(いくさ)(かん)を根本的に変えた。丸で黒い(かたまり)が大地を滑る様に付き進んでいた。(よろい)(かぶと)も武具も馬の装備も総て黒尽くめで黒い騎馬集団が、一丸となってやって来る。

待機していた左翼・貴英軍は、150人の弓隊が3列になって、構えていた。標的が射程距離に入った時、貴英が「射よ!!~」と号令すると、50人づつ少し時間をずらしながら間断なく射続けた。

前方の黒い集団の先頭を走る騎馬武者が、広げた黒い鉄扇(てっせん)を左右に振ると、瞬時に6本の細長い槍の様に縦に戦列が組まれ、敵が放った矢群を綺麗(きれい)に避けながら、進んで来る。更に各々背中に背負った厚い黒革の大きな扇を羽の様に広げて、矢を防ぐ。それが遠う目で黒い揚羽(あげは)(ちょう)の様に見えて、更に不気味であった。

黒い騎馬軍は殆んど無傷で、350の貴英軍に襲い掛かった。6本の槍が突き刺さる様に、躊躇なく稲島軍の左翼を八つ裂きにして行った。先頭の6人の騎馬武者が通過した跡に、死人の列が出来ていた。黒い甲冑(かっちゅう)に、黒い面を付け、鉄張りの長い槍の先に、鎌の様な横刃が出ていて、丁度、稲穂を刈取る様に、味方の兵たちの足を切り、腕を切り、首を切った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ