≪第十話≫ その1 No.10-Ⅱ
≪第十話≫ その1 No.10-Ⅱ
その夜、俊高・情愛は西の丸の当主館に高喜・芳葉夫婦と情愛の弟・貴英を招いて夕食を共にした。義兄弟で共に食するのは初めてであった。芳葉と貴英は初対面であったので、其々が挨拶した。
情愛も久しぶりに会う弟に終始笑顔が絶えなかったが、情愛のその振舞いを見ながら、俊高は母のイソルデを始め、数奇な運命に遭遇した家族の絆が如何に強いかを感じていた。その意味で己は家族の縁が薄いと以前から感じていたが、自らの背後に強い縁が流れている事も今では誇りを持っていた。
父・俊秋の文の中に、『最後に頼れるのは、血を分けた兄弟と命を惜しまぬ家臣だけである、』とあったが、その絆を更に強めて行かなければならないと感じていた。
「御父上・母上や弟・妹は息災ですか?」と貴英に情愛が訊ねた。「はい、皆元気にしています、姉上。皆、早く倖希王丸に会いたがっていますよ。」「そう、この戦が終れば、行けますよね。御屋形様。」と俊高の顔を無邪気に覗き込んだ。「うぬ。わしも早く奥の家族にお会いしたいものだ。」俊高や高喜にとっても、久しぶりの家族同士の団欒であった。
翌朝早く、俊高達は軍勢を率いて出立した。稲島から400、笹川から300、柿島から150、草日部から250、そして岩室・高野から300人が合流し、計1400の兵で天神山城を囲んだ。俊高は、高野夫婦の亡きがらを丁重に弔い、当主館を仮本陣として戦評定を再び開いた。
「天神山城は囮である。我らをここに引きつけている間に、斎藤勢は白根を落とすはず。白根が落ちれば、直ぐにでもこちらに兵を向けてこよう。荒田照美も義政らと策を練って粘るだけ粘るであろう。この城、長引けば我らが不利である。」俊高は全員に納得いく敵の筋書きを話した。
「御屋形様、あの城は築城以来、400年、未だ誰も落とした事がございません。山頂まで、幾重にも土豪や郭(城兵が守る土塁)が有り、また空堀が深く容易には本丸に近付けませんが・・・」と戦奉行の佐野高兼が案じた。
「人は堅城であればあるほど、城に頼るものだ。そこを利用致す。明日、1日1時で勝敗を着ける!!」「面白い。で、我らは如何が致すか。」と常満が半ばおどけて云った。信政が少し慎重に話した。
「俊高殿の天賦な戦仕様は心得ているが、我らにももう少し判る様に御話し下されい。」と皆を代表した顔彫りで俊高を覗いた。
「わしは、子供の頃、母の実家であるここ岩室に何度か来た事がある。その折、わしと高喜はよう山を巡ったものだ。・・・ある日、たまたま、多宝山に登った時、天神山城の裏側に出た。
本丸のある絶壁が聳え立つ様に見えたが、その断崖を登り詰めれば直ぐに本丸に出れると判った。あの城の唯一の弱点でもある。」一同、暫し声が出ないでいた。
「笹川勢は正門から、柿島・高野勢は西側の腰郭から、高兼の稲島勢は袖郭のある南側から、そして、貴英殿と公英殿の赤塚勢は松岳山方面から、遮二無二攻めて貰いたい。」
「わしは、何を致すのだ。」と舎弟の高喜が焦る様に割って出た。「お前は、わしと共に本丸を狙う。三和を救い出すのだ。行充殿も同行されよ。」とほぼ全容を皆に告げた。「宜しいか、明日、1日、1時で勝敗を付け申す。」「おお~」と一同が声を揃えた。




