≪第二話≫ No.2-Ⅱ
≪第二話≫ No.2-Ⅱ
「お屋形様を護れ!!」と清水良高が叫びながら、俊高を囲む5人の刺客に割って出た。高喜と2人の近従も刀を振りながら俊高を囲んだ。敵も同時に20人程が周りを囲んで来たが、頭らしき男が、5人を睨み付けながら、「御覚悟、めされい!」と手で合図すると、後方にいた6人の弓隊が前に出て一斉に弓を構えた。
その時、何本かの手裏剣が後方から飛来し、弓隊の三人の首筋に刺さった。「う~・・・」と唸りながら倒れたので、さっと刺客達は一斉に振り向いて身構えた。そこに左右の木陰から「オゥー」と修験棒を振りながら2人の荒法師が、雪を蹴って飛び込んで来た。隙を突かれた刺客らは、飛んで来る修験棒を除け切れず、腹に、首に、足に一撃を喰らい、3,4人がもんどり打って倒れた。更に3人の法師達が加わり、凄い勢いで敵を倒して行った。
それは、ほんの数分であったろう。刺客の侍たちも鍛錬を受けていたでろうが、5人の修験者にとっては、者の数では無かった。あっという間に20人が倒されていた。残った数人は、この攻撃に対処出来ず、頭目らしき男が、「ちっ、ひ、引上げい!!~」と無念な目付きを残しながら、残雪の長者原に散っていった。
襲った刺客たちも驚いたが、それを見ていた俊高達も唖然と何が起こったのかと口を開けて見詰めていた程である。敵の退散を確認して、俊高は5人の山法師たちに近寄った。「危ない処をお助け頂き、真に有難く存ずる。」と一同、頭を下げた。「私はここ稲島の当主・稲島俊高と申しまする。寸是の処、助かり申した。どうぞ、皆さまのお名前をお聞かせ下され。」5人の修験者は半円を描いて俊高を囲んだが、中央の頭らしき法師が、前に出た。「身共は、紀州・清水谷の源芯と申す者。この者たちは共に修験道を志す仲間でござる。」挨拶と同時に一同頭を下げた。
「下越後に新たな動きあり、若き当主が長者原山一辺を統べらせたと、西国にも噂が流れ申した。」「源芯殿、お礼の印に我が館にて御持て成ししたが、・・・・」「有難い仰せだが我らは修行中の身、お志だけ頂いて行き申す。ところでこの者達に何か心当たりがござるか?」源芯が周りで倒れている刺客を指して云った。「敵も多くいる身の上故、この様な事は常にござるが、この日の動向を睨んでの奇襲でござろう。良高、生き残った刺客を城に連れて行き、素状を調べさせよ!」と俊高が命じた。良高たちは、3人の息のある刺客を近くの木の蔦で縛り上げた。
「源芯殿、それにしても皆さま方の武術は見上げたものです。如何なる業でしょうか?」
「我ら、諸国を巡りながら身に付けた武術故、特段命名する業ではござらんが、剣術・棒術・柔術・拳法など総合した云わば、山賀流総武術とでも呼びましょうか・・・」「ヤマガ・・・ソウブジュツ・・・・?」「いや、いや、自然の中にて、生きる術を心身に身に付けたまでの事でござる。はっはっは・・・・!!」と源芯たちは、声を揃えて豪快に笑った。
「皆さま方は、何時までこちらに留まれまするか?」と俊高が尋ねると「当地にて暫く滞在致しまするが、・・・・」と源芯が答えたので「もし、御心が向けば、わが城を訪ねて下され。」と更に願った。
「相判り申した。それでは先を急ぎますので・・・・」と源芯が左右の修験者に頷いた。5人は別れを告げて、御堂の前に並び、熱心に経を唱え出した。
俊高たちは、捕えた3人の刺客を連れて、麓に降りて行った。道を歩きながら、俊高は何故かあの源芯坊の眼差しが心に残り言葉では云えぬ何か懐かしい潤いを感じていた。誠に不思議な思いであった。




