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(十) 光の戦士 ≪第八十二話≫  その1.No.135 ≪第八十二話≫  その2.No.136

(十) 光の戦士


≪第八十二話≫  その1.  No.135

 強い風に守られた。待ち伏せの数百の敵兵から、一斉に弓矢の猛攻を受けていたら、味方の半分近くはやられていたであろう。しかし、この風では、半町(約50m)圏内でもまともに弓が届かない。何とか、味方を神社に引き戻す事が出来たが、すさまじい敵の攻撃が始まった。

 稲島郷の仮本陣にいた児玉監物は、俊高らの敵本隊が、味方の猛攻を受けていると、報が届いたのを確認して、軍拝(ぐんばい)を高く振った。それと同時に20日程で完成した自称『山崩(やまくず)し』の攻撃が開始された。

ダムの様な太い木柱組のスロープから、2尺(60cm程)の大きさが有る(むしろ)で覆われた丸い俵がゴロン ゴロンと転がりながら、滑り台の様に、緩やかなカーブを落ちていく。その中には、頭大の岩と其れを覆う砂利が入っていて最後に、丁度アルペンスキーヤーが飛び上がる様にバウンドして空中に飛び出した。

 高さ10間(約18m)の上から、次から次へと丸く重い俵が亀城の右隅の大屋根に向かって落ちて行った。ドスン、ドスン と地震の様な地響(じひび)きとなって亀城全体が揺れた。

 そして、今度は3台の大型投石機『城崩し』が稼働し出した。前回の物と破壊力が違った。

ブーと飛んで来る大岩と(かめ)に入った大型土蜘蛛が、火を付けられて容赦無く亀城を破壊し出した。

 丸い(むしろ)(だわら)は、一所にどんどん落ちて行ったので、やがて屋根に(ひび)が入り、そして穴を開けた。その頃、亀城の裏山でジッと潜んでいた吉田嘉助豊則率いる150人の別働隊が動き出した。夜中に俊高達が抜け出した裏門を見定め、また、(かつ)て高喜達5人が必死で城に帰って来た第2の出入口も、伊賀者によって、見つかっていたので、最後の総攻撃の時に、一挙に城内に潜入する手筈(てはず)となっていた。

 彼らは、その入口に向かい、潜入を図ったが、さすがに、俊高の命で一度使った出口は必ず中から閉鎖する様にされていたので手間取った。しかし、突入するのは時間の問題である。 

 (たつ)の刻(午前8時)には、雨は完全に止み、分厚い雲に薄日が差し掛けていた頃、八幡神社では、稲島方と白根・秋葉軍の激しい攻防戦が繰り広げられていた。

 俊高は、100日の攻防戦の疲れと昨夜からの緊迫した心身に増して、この()し風呂の様な異常な暑さの中で、さすがにどっと疲れが出て来た。。もし父の(とし)(あき)の様に(おのれ)が病弱であれば、とっくに戦に負けていようと思いながら、それでも必死で踏ん張っていた。

≪第八十二話≫  その2. No.136

 そんな時、俊高は、突然ガクッと全身から力が抜けてその場で(ひざまず)いてしまった。傍で闘っていた柿島信(のぶ)(まさ)(あわ)てて俊高を神社の本殿に連れて行った。「俊高殿、大丈夫か?しっかりなされよ!!」と耳元で叫んだので、ふと、我に返り、「大事ない!少し疲れただけじゃ。信政殿、お(ぬし)は早く味方を守ってくれ!!」と云い放った。

信政は、(うなず)いて再び境内の激戦場に飛んで行った。俊高は座禅を組み、手を合わせて心を静めた。そして、神社の本殿に祭っている御神体(ごしんたい)に一礼して、向き直り、剣を(かざ)して灰色の空に向かって叫んだ。

「我ら、この戦、私情に非ず、天命なり!

天よ!!我に味方せよ!!」

 すると不思議な事が起こった。風が止み、灰色の雲の隙間から、一筋の(まばゆ)い光がスーと()して、正に稲島小太郎俊高の全身を包んだ。

敵も味方も、一瞬戦いを止めてその光の中の戦士を見詰めたほどであった。それは、時間にすればほんの数秒で有ったかも知れない。

 俊高は、その最中、16歳の誕生の朝、長者原山頂にて体験した、あの不思議な霊動を全身に感じていた。その時、彼は東の空から、神々(こうごう)しい光の(たば)が静かに近づいてくる幻を観た。光の束の中に真白な(いにしえ)衣袴(はかま)を着て、頭を()(ずら)(古代の男子が左右に結んだ髪型)に結った大きな男が立っていた。

 《我が子孫よ、我はジンムなり。天の命を享けて、汝に力を託せん。》

  ジンムと云ったその男は、右手に金色に輝く(かんむり)を持ち、左手に白銀の剣を(かざ)していた。

俊高は驚くより、一体何が起こったのかと(むし)ろ不思議であった。(貴方様は、どなたですか?)と想いが出ると

《我、(なんじ)の始祖であり、大倭(おおやまと)(たい)(しょ)のすめら(みこと)なり。2000年余綴(つづ)りしこの国民(くにたみ)を、汝、この乱世より、救い出さん。》

 『私の如き小さき者に、何が出来ましょうや!?この戦もままに出来ぬのに・・・・』

《汝のみで行う事に非ず。我が国造りの(いにしえ)に学ぶべし! また我が血筋を正せよ!!》

 『血筋を正す?・・・先ずは、今この試練を越えさせて下さい!神武天皇(すめらみこと)

《汝にこの天の秘宝を授けん!!

冠は天の(ほまれ)と知恵、剣は悪を滅ぼす、正義の(さば)きじゃ!!我ら、行く末までも汝らを守る。迷わず、行け!!》

 瞬間、光の束が八方に広がり、俊高を包んだ。同時に、彼の頭に黄金の冠が置かれ、右手に白銀の剣が握られていた。本当にそれは、一瞬の出来事であったが、俊高の様子を見ていた何人かの者達は、最後に俊高の眉間(みけん)から、細く鋭い光線がサッと貫いたのを見た。それと同時に、ピカッと天地が光り、ドドーンと稲妻が近くの杉林に落ちた。


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