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≪第八十話≫  その7.No.120 ≪第八十話≫  その8.No.121

≪第八十話≫  その7.    No.120

 その日・2日、夏の夜の雨は更に激しく降り注いでいく。5人は背中の荷の重さに耐えながら、風と雨、更に足元の泥濘(ぬかるみ)にふらつきながら進んでいた。

 鷹の目の闇夜でも見通せる視力に頼り、敵の見張り番の目を搔い潜りらがら、後僅かで亀城の秘密の出入り口まで迫っていた。

シュッ、シュッと雨風を切って、手裏剣(しゅりけん)が先頭の鷹の目の肩にズボッと当った。鷹の目は、

「うぅ~」と声を押さえたが、直ぐに後ろの味方に伏せる様に手招いた。シュッ、シュッと闇の中を何本かの十字手裏剣が飛び交った。

 「忍びでござる!」と小さく(つぶや)くと、肩に刺さった手裏剣を抜いて見定め、「伊賀者!!」と後ろの透太に告げて身構えた。敵の数は分らないが雨風の中に囲まれている気配は皆感じていた。

 こちらは重い荷を背負っている。闇と嵐が守っていてはくれるが、このままではここで全滅すると透太は思案し、前で身構えている鷹の目に合図すると、荷を解いて闇に跳躍した。敵をこちらに()きつける手である。

 雨風と闇の中に、刃の閃光(せんこう)が何度か光った。それを確認して、鷹の目が後ろの三人に合図すると、再び小走りに動き出していた。高喜は横っ腹に違和感を感じた。いつの間にか腹に傷を負っていたのだ。闇に潜む忍びの小槍が高喜の腹を刺していたのである。「うう~」と口から血を吐きながら前に倒れた。

 透太達の乱闘を聞き、周りにいた敵方の兵士達も松明を掲げながら、近づいて来ていた。4人は、此処までかと腹を決めた時、山の上手より清水良高率いる錬成予備隊の味方が攻撃を開始した。

激しい風雨の中を白刃(しらは)の交わる閃光(せんこう)と怒号が飛び交い、敵味方数十人が戦った。

 いつの間にか戻っていた透太が、傷ついた高喜の荷を背負い、支えながら亀城の真裏に来ていた。そこに5間(約9m)は掘られている空堀があったが、堀の上手(かみて)の一角に隠された溝があり、5人は滑り台を滑る様に降りて行った。空堀の底は、大雨で腰の辺りまで水が()まっていた。

 5人は水の溜まった堀の中を警戒しながら進んで行き、北側の隅に着くと、木島勘平が堀壁にある小穴に手を入れて、中の綱を引いた。それを合図に場内の番兵が小窓を開けてそこから登り綱を垂らして来る。怪我を負った高喜は先に登った透太と勘平に綱を腰に巻き、引揚げられた。そして朱音は高喜の体を支えながら共に登って行った。

 ≪第八十話≫  その8.   No.121

 届けられた薬草と霊水のお蔭で血くそ(赤痢)に苦しんでいた70人余りの者達は見る見る内に回復して行ったが、傷を負った高喜はその後、生死の境をさ迷い続けていた。高熱と出血により、何度も意識を失った。

 その時、(よし)()朱音(あかね)が交互で看病したが二人の献身振りはすさまじいものであった。殆んど寝ずに看病し続けた。兄の透太や、周囲の者も(あき)れるほどであった。

 この二人、性格は真反対ではあったが、一途な思いを貫く処は、甲乙(こうおつ)付け難く、(しと)やかな芳葉の甲斐甲斐しい尽くし振りと、情を隠さぬ野生の母性的感性を持った朱音とで、高喜の看病を巡って内面でのすさまじい女の闘いをした。

 生死を装う戦場の中で、明日をも知れぬ人間の本性であろう女の愛情が、一人の若者に注がれていた。

 高喜は傷口に(うみ)が溜まって腫れあがり、益々熱を出した。俊高と情愛も心配して看病したが、医術の技を持つ疾風の透太に外科の手術をさせた。内臓に溜まった血と膿を採る為であった。数多い戦を通して、当時の忍び衆は実践的に外科の技も心得ていたのである。

腹を切ると、槍先は胃臓に届いていたが刃先が細いのが幸いして、大きな損傷は無かったが、雨と泥で傷口が腐敗していた。それでも透太の手際の良い治療により、腹に溜まった血と膿は取り除けられ、外科の手術は無事に終了出来た。

しかし、高喜はその後も意識を回復せず、昏睡(こんすい)状態が続いたので、5人が持ち帰った薬の中に【五黄(ごおう)】という秘薬があったが、黒い丸薬で大きな飴玉(あめだま)ほどもあり、それを削って水に解き、朱音や芳葉が口移しで与え続けて看病した。

 二人の様子を見ていた情愛も、少し案じて俊高に相談した程であったが「心配無用じゃ。男もおなごも命を懸ける時は、我を忘れるものだ!」と笑いながら俊高は答えた。

芳葉と朱音のすさまじい献身振りの巧も有って、高喜は(ようや)く一命を取り止めた。亀城内の病との闘いが続いている時、城外では、児玉監物の秘策である<山崩し>が、城を囲む兵士500と白根・味方・中の口の領民数百が集まって、亀城の西側の尾根に(やぐら)を組んで今で云うダムの(つつみ)を造り始めていた。

高さは、一番高い山沿いの部分は凡そ15間(27m)で、そこからスロープして丁度、スキーのジャンプ台のような形に組立てていったのだ。


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