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(八)亀城 籠城戦 Ⅲ≪第八十話≫  その1. No.114 ≪第八十話≫  その2. No.115

(八)亀城 籠城戦 Ⅲ

≪第八十話≫  その1.  No.114

 5月10,11日の戦以来、新津・白根勢は又暫らく動かなかった。しかし、児玉監物が案じた様に4回目の戦が終ると,今まで高見で見物を決めていた様な新津・白根の重臣達がさすがに監物を呼び出して、(いくさ)仕様(しよう)を追求し始めた。

 本陣のある長者原山の2合目辺りの稲島家・守護神社である八幡神社に、副大将・佐藤政時と軍師・児玉監物が呼び出されていた。そこには、総大将の秋葉時盛・秋葉家筆頭家老の大場実(さね)(はる)、白根佐藤家の筆頭家老・坂下主(しゅ)(ぜん)、笹川家先代当主・笹川常(つね)(ゆき)などが、(けい)(だい)に陣幕を張り、待機していた。

皆、其れなりに厳しい表情であった。二人が座ると先ず大場実春が口火を開いた。

「児玉殿、城攻めに何をもたついておられる。お主は攻城戦の達人であろう。既に400を越す味方の犠牲がでておるぞ。」 坂下主膳も続いた。「あの城を甘く見てはならぬと申したでは無かったか!忠勝殿や貴重な面々を失ってしもうた。・・・」

 高見をしていたお偉方の叱責(しっせき)に、以外にも副大将の佐藤政時が答えた。「皆々方、戦の遅れ、申し訳ござらぬ。されど皆、懸命に戦っておりまする。監物の下知(げち)により、あの手、この手を賭けて精一杯でござる。わしも今までにない思いをした。監物の策が無ければ、更に多くの犠牲を出していたはずじゃ。・・・・あの稲島俊高という男、並みの者ではないわ!!・・・・」

 この佐藤政時という先代・政綱の四男は、長男・(まさ)(おき)と違い、武術には其れなりに(ひい)でていたが、父・政綱の如く狡猾(こうかつ)で抜け目ない所はなく、寧ろ何処となく間の抜けた精彩の上らぬ所が有って、周りの者達も政綱が亡くなれば、佐藤家も終りだなと感じていたほどであった。しかし、その彼が実質的に稲島俊高という希代(きだい)の若武者と戦う内に、見る見る筋の有る戦国武者に成長して来ていた。

 又、児玉監物の傍で、様々な戦術や策を見聞きしている内に、稲島俊高と云う敵将が桁外れの相手で有る事が判って来たのだ。もし、己だけで戦っていたら、遠の昔,やられていたであろう。監物であるから、ここまで(しの)いで来た事が良く判っていたのだ。

 政時の意外な言葉に、重臣達一同嘆息(たんそく)していると、その時、静かに児玉監物が話し出した。「殿(政時)の御言葉,傷み(いた)入りまする。ここまでの戦、戦況から申せば、ほぼ互角。なれど我らの勢力から見れば、敵方は五分の一。4回の攻防で決着を付けねばなりませなんだ。誠に吾が身の不徳でござる。」と初めて、皆の前で児玉監物が頭を下げた。

≪第八十話≫  その2.  No.115

 この戦の必死さが集まっている者達に浸透していた最中、笹川常行が言葉を入れた。「我らも、稲島方も勝敗の(きわ)みと相成ったようでござるな。どうであろう。正面からのみの戦も良いが、陽動策も取ってみては如何か?」

 一同が常行の方に向けられた。「いや何、此の度の夜襲に抜け道が有ったという事であろうに、また、城外からの助立ちも有った様であるから、海沿いの敵の避難所に援護の兵がいる様だ。されば、ここを奇襲いたせば、俊高らもじっとしては、おられんと思うが如何か!?・・・・」とニンマリ笑って話した。

 「うむ、それは良い考えかも知れぬ!。」と大場実春が監物を見据()えて渋い声で云った。実春は監物の実力は認めていたが、策士の練った戦術だけでは、戦は勝てぬと(しわ)の年輪だけ正攻法のみの云わば美学的な戦いをする監物に多少の不満があったのだ。

 一同の目が児玉監物に注がれた。監物は暫し(うつむ)いていたが「恐らく、俊高は出てきますまい。・・・・戦前に、主だった家々を焼き払い、此度の籠城に並々ならぬ覚悟を決めて臨んでおりまする。三ヶ所の避難所にも、援護出来ぬ(むね)を伝えて有ると存ずる。・・・・」

 今まで黙って合議を聞いていた総大将の秋葉時盛がか細い声で問うた。「監物。何か次の手を考えておるのか?」まだ当主となって、3年ほどの25才の若き領主である。筆頭家老の大場実春がいなければ、この12代続いた大家も戦国の荒波の餌食(えじき)と成っていたであろう。

 監物は向直って時盛に答えた。「4度の戦で敵も疲労してござる。又、『城崩し』は可なり応えたと存ずる。あの様に決死隊を寄こす程でございまする故。・・・もう一周り大きな『城崩し』を3台造らせておりまする。更に元稲島方の家臣・吉田豊則(とよのり)に城へ入る抜け穴を探らせております。見つかればその近くより新たな抜け穴を掘り、城内に侵入いたしまする。」

 時盛が「おお、そうか!」と嬉しそうに反応した。「それに、準備が出来次第、追加の兵力を高野家から300人、それに笹川殿に100・秋葉様から100人の計500人を投入して頂き、総攻撃を掛け申す。」と監物が続けた。「それで、城は落ちるか?」と時盛が問うと、監物は意外な答えをした。「いえ、これだけではあの長者原山の小天狗は落とせませぬ!!・・・・」

 少し時をおいて「今一つ、何か決定的な策を立てねばなりますまい。・・・」「それは何か?!」と時盛が更に聞いたが「いえ、今は拙者にも判りませぬ。少し時を下さりませ。先程の策もまだ準備が要りまする故。」「うむ、そうか」と小さな子供が謎が解けぬ時に落胆する様な表情を見せた。

 実春が間を入れず「時が繋るのであれば、全体の士気にも関わる故、先程の笹川殿の策を進めても宜しいですな、殿。」と時盛に覗ったが「そちに任せる。」と横を向いた。実春は監物に同意を求めたが監物は又下を向いたままであった。

 それを見た笹川常行は「ならば、その役我等一党が動きましょうぞ。宜しいか?軍師殿。」「お任せ申す」と監物が静かに答えた。


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