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≪第廿二話≫ No.26 ≪第廿三話≫  No.27

≪第廿二話≫   No.26

五十畳はある板張りの大広間に高野和久が数人の家臣と共に座っていた。4年ぶりに会う和久は四十を少し越えていたが、顔が童顔と云う事もあって年よりも若く見えた。

「久しかったの、小太郎殿。いや今は元服されて俊高殿であったな。よ~来られた。ささ、もそっと近こう、近こう」感高いが明るい声で和久が招いた。父とも仲の良かったこの義理の叔父を俊高は好きであった。

「叔父上もご健勝の(よし)、嬉しゅう存じまする。この度、父・俊秋に代わり、稲島家を世襲(よつぎ)致しました。今後とも由なにご援助賜ります様、お願い致しまする.」俊高は丁寧に挨拶をした。

「丁重な挨拶、痛み入る。俊高殿もご立派に成られた。」和久も嬉しそうに答えた。

俊高の脇に控えていた重光が「昨年の白根・佐藤政綱(まさつな)との戦が有りまして、出費が(かさ)み本日のご進物が(とど)こおった(むね)、御詫び申上げまする。」と挨拶をして後ろに控えていた清水寅之助に指示をする。

寅之助は進物の添え状を傍にいた高野家の家臣に渡した。銀塊5(きん)(3Kg)、麻の反物(たんもの)10反、和紙5(たば)それに信州馬1頭が贈られた。

和久の手前に控えていた高野家筆頭家老・荒田惣(あらたそう)衛門(えもん)(たつ)()が進物を横目で見定めながら、渋い声で口を開いた。「昨年の白根方の戦振り、お見事でござった。我らも安堵(あんど)致した。」

俊高はその言葉に軽く会釈した。後見人の重光が代わりに挨拶をした。「荒田殿にもご健勝の由、今後とも当稲島家をお守り下さる様お願い(つかまつ)る。」「先代、俊秋殿が召されて一時はどうなるかと安堵致しておったが、どうして、どうして俊高殿は立派な御大将でござる。はっはっは!・・・両家には強い(えにし)がござる故、安堵くだせれよ。横山殿!」「有難いお言葉嬉しゅうござる。」重光も返した。

 「まぁ、挨拶はこの位にして、俊高殿、別室に待ち人がおるでな。ゆっくりお会いなされ。晩には宴も用意している。今宵は飲み明かそうぞ。」和久の明るい声に「御配慮、かたじけのう存ずる。」と俊高も笑顔で答えた。

 案内された部屋には、和久の正室であり、母,美知の方の妹でもある雅代の方とその脇に懐かしい妹・三和の姿があった。

≪第廿三話≫    No.27

 四年振りに会う妹は、7~8歳の幼子でなく少し大人びた12歳の少女であった。午後の少し傾いた日差しの中に目鼻が母似の面影を漂わせながら、叔母の雅代と並んで座っていた。

久々の叔母の前に元服した俊高は深々と頭を下げた。「俊高殿、よう参られた。立派になられたのう!!」雅代は亡くなった姉の面影を探るように俊高を見詰めた。「叔母上にはお変わりなく嬉しゅう存じます。昨年の父の死後、後を継ぎましたが遅ればせながら、此度、叔父上にご挨拶に参りました。」「待っていましたよ。私もこの三和も・・・」と雅代は三和の横顔を見ながら三和に挨拶を促した。妹の三和は四年振りに会う兄の顔を上目で少し見て顔を伏せた。年頃のせいか、それとも面立ちが変わった小太郎俊高を奇異に思ったのかそのまま下を向いたまま黙っていた。雅代が「三和、どうしたの?兄上にご挨拶をするんでしょ!?あんなに来られるのを待っていたではありませんか!」更に促したが、三和姫はただ下を向いていた。「叔母上、良いのです。久しぶりの対面に言葉が出ないのでしょう。妹の元気な姿を見れて安堵いたしました。」俊高は雅代に無理強いせぬ事を言葉にしたが、本当はすぐにでも強く抱きしめてやりたかった。

三和のぎこち無さも俊高の遠慮もやはり、妹が事実上の人質であり、稲島家の上に高野家が立っている背景を否めなかった。勿論、叔母の雅代は良く分ってはいた。俊高の両親が生きていればいざ知れず、増して父の高野芳久が存命であればまだ情の溝は浅かったろうに、家老の荒田惣(あらたそう)衛門(えもん)(たつ)()が実権を握っている今の高野家には微妙な風が常に流れていた。幼い三和姫もこちらに引取られ自ずとその空気を感じていたのであろう事は察しがついている。

「貴方の活躍をあの世のお二人も喜んでいる事でしょう。今後も何かあれば、私たち夫婦を頼りなさい。」と云う言葉も重かった。暫しの会見も和久の近従が俊高を呼びに来たので終わってしまった。「それでは叔母上、失礼仕(つかまつ)る」と挨拶をして部屋を出たが三和は最後まで寂しい程に(うつむ)いていた。


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