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≪第二十話≫ No.24 ≪第廿一話≫  No.25

≪第二十話≫   No.24

 父・俊秋の他界もあり、正月は喪に服して、5日目には、主だった者を城に集めた。越後の厳しい寒さを(しの)ぎ、小雪の中を家臣達が登城して来た。長者原城に入ると、嘘の様に暖かい。この城の造りから防寒仕様が到る所に(ほどこ)されていた。(かがり)()はもちろん、炭火の暖炉が各所にあり、その暖炉で沸かした雪水を太い竹の筒を(つな)げ、城内に()わせて今で云うスチーム暖房器の役目をさせていた。これも、祖父の俊兼の考案であった。

 評定の間に集って来たのは、叔父で後見人の横山重光(しげみつ)・家老の佐野久(きゅう)衛門(えもん)(とし)(たね)・侍大将の真島弥七(ましまやしち)郎・兵糧・武器管理の遠藤佳(よし)()、財務及び目付役の吉田三左衛門、側役(そばやく)の清水寅之助と弟の喜久次高喜、更に遠藤佳(よし)()の長男・(よし)(おみ)、吉田三左衛門の長男・嘉肋(かすけ)が参加した。この二人は其々の後継者であった。皆が集まったのを受けて、当主の俊高が座に着いた。


 其々の報告を一通り聞いて、俊高が口を開いた。「今年は、防備に力を注ぎたい。まず、田畑を更に開墾し、兵の数も増やしたい。更に各砦の強化をせねばならぬ。」

 「なかなか金のかかる事が多くて困りましたな。当家の財力では限りがござる。」何時になく厳しい口調で財務・勘定方の吉田三左衛門が口を出した。「兵はどの位増やしまするか。お屋形様?」と佐野俊種が確認する。「総勢400人は欲しい。」俊高が願った。「お屋形様、先の戦で47人を失いそれを補い、更に28人を追加せねば400人に成りませぬ。一戦(ひといくさ)にどれ程戦費が(かさ)むとおもわれまする。?」と三左衛門は職務に立つと厳しかった。

 「何か金を(うるお)せるものを考えねばなるまいな。」俊高が(つぶや)く。横山重光(しげみつ)が口を開いた。「俊高殿、防備に力を注ぎたければ、先ずは岩室の高野(たかの)和久(かずひさ)殿に世襲の挨拶をせねばなりますまい」「それは横山様の云われる通りでござる。母君の御実家であり、それに三和(みわ)(ひめ)もおられまする。長らく妹君ともお会いになっておられないはず。」佐野俊種が優しく告げた。俊種に云われて俊高は5才違いの妹・三和を思った。今、高野家に半ば人質同様に(かくま)われている。

  ≪第廿一話≫   No.25

母が亡くなり表向きは母の妹である高野和久の妻・雅代(まさよ)が引取って育てると云う名目ではあったが、実際は縁の薄くなった稲島家との盟約の補償に三和を連れて行った。

母の葬儀に会って以来4年が経つ。7~8才の妹の顔が脳裏に浮かんだ。「今後の事は、其々良く吟味(ぎんみ)し後日持ち寄るとせよ。」俊高は家老の佐野俊種に(うなが)した.「承知仕(つかまつ)りました。」俊種は一同を見渡しながら返答した。「叔父御殿と久衛門で岩室行きを計ってくれまいか。」俊高の言葉に横山・佐野両人は顔を見合わせ互いに(うなず)いた。「いつ頃が(よろ)しゅうございまするか?」久衛門が尋ねた。「春先、雪解けが良かろうよ。」俊高が云う。評定が終ると二人の老将は別室に籠った。

三月・弥生の二十日過ぎ、10人程の伴連(ともづ)れを従え、俊高は岩室の高野氏の屋形に(おもむ)いた。稲島から岩室は距離にして凡そ二里(8Km)ほどである。長者原山隣の多宝山麓に位置していたが本城は海抜234mの天神山にあった。築城の歴史は古く、この時代からも約400年前まで(さかのぼ)る典型的な山城である。城主の高野(たかの)和久(かずひさ)は麓の屋敷に常は居たので、城は所謂(いわゆる)要害(ようがい)<有事の際の城>であった。

支城の(まつ)(たけ)城(海抜174mの山城)の下を通って屋敷についた。稲島家より石高も兵力も一回りも勝る高野家である。屋敷の佇いも稲島家の屋敷と比較すれば、数段趣(おもむ)きがあった。また、屋敷自体が堀と土塀に囲まれ、小さい城塞でもあった。

従者の内、後見人の横山重光(しげみつ)と側近の清水寅之助を従え、端正な中庭を見つつ、高野(たかの)和久(かずひさ)の待つ奥の間に向った。

俊高は、和久には何度か対面していたが子供の頃の母・美知の方と一緒に訪ねた折りや、最近では母の葬儀の時であった。

和久は高野家の筆頭家老・荒田惣(あらたそう)衛門(えもん)(たつ)()の次男であったが、高野家の養子婿として母の妹の雅代叔母上と修言をあげたのだ。先代を亡くして以来、実質的に高野家はこの荒田辰実が実権を握っていた。


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