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≪第六八話≫   No.86 ≪第六九話≫  No.87

≪第六八話≫       No.86

佐野久衛門が機転を利かせて、「次は、お屋形様のお(しゅうと)であられる草日部英郷殿の代身としてこられた本田益(ます)(たけ)殿、お話下され。」と促したので本田益丈は、全員を見渡す様に話し出した。

「お初にお目に掛かる方もおられると存ずる。身共は、草日部家・筆頭家老・本田与一(よいち)益丈と申す者。どうぞ、お見知り置き下されます様に。・・・此度の評定に(あるじ)(ひで)(さと)の口上をご披露致しまする。」と云って(ふところ)から文を取りだし朗々と読んだ。

『此の度は稲島家とご縁があり、我が娘・情愛(あやめ)を嫁がせましたが本人の強い願いもあり、父親としては子の幸せを第一義に願っておりますれば、今後、稲島家との盟約をわが身に代えてもお守り申す次第。更に、五家の皆様方とも合一し難敵に臨む覚悟を持っておる事、代身を以ってお伝え致す。』

読み終えて、本田益丈は「我が草日部家も祖父以来8代目の当主を今迎えておりまするが、越後守護争いにおいて、新津・秋葉家に属して参りました。しかし、大国の横暴が是あり、無理難題を科せる事頻(しき)り、此の度の稲島様の見事なお働き、家臣一同も感服致しておりまする。小国と云えども一つになれば、敵なしと思っておりまする。盟約の契り変わる事なしと存ずる。」と力強く宣言した。

「誠に力強いお言葉でござった。されば、岩室高野家の荒田照(てる)()殿、お話下され。」久衛門の言葉に会衆者達が一斉に注目した。ここに集まっている者は皆、高野家の事情を知っている。

当主の和久はこの照美の腹違いの弟である。高野家も今の室町幕府が全国を統治して以来、この地に根付いた国人衆であるが、先代の和敏が急死した為、家老の荒田惣衛門がその和敏の娘である由紀(ゆき)の方との間に生ませた和久を高野家の養子とし当主の座に就かせた。

更に国内の反発を押さえる為に、和久に俊高の母である美知の妹・雅代と祝言を上げさせ、実質的に主家を乗っ取ったのである。その惣衛門の嫡子である照美が和久の代身として()って来たが誰もが荒田惣衛門の代身である事を知っていた。

俊高初め皆、初対面のこの人物が如何に話すか、神妙に見詰めていた。今までの流れの中で高野家だけが異口を唱えれば評定の目的が大きく傾く。荒田照美は自分の置かれている立場が良く見えていた。しかし・・・・彼の頭の中はこの場の雰囲気とは全く別な思いを抱いていたのである。

  ≪第六九話≫     No.87

半日前の昼過ぎ、稲島家より合同の戦評定を行う旨の使いが来て、父・惣衛門の命で照美が行く事になった。行く前に惣衛門は照美にはっきりと伝えていた。

「良いか、照美。此度の評定は五家の団結を促すものだ。判るな!恐らく、他家の者たちは盟約を誓うと云うだろう。しかしな、そんなものは何の頼りにもならんぞ。たかだか5,000石足らずの小国の小倅(こせがれ)が、三度の戦で奇跡的に勝利したとて、なんの体勢に影響があろうか!何か問題が起これば直ぐにでも崩れてしまうわ。・・・・それが証拠に此度の笹川家の騒動が何よりの証しじゃて。照美、判るな!?」

「はい、父上よく承知致しておりまする。笹川を失い彼奴(きゃつ)()の団結にも大きく(ひび)がはいったことでしょうな。」「そうじゃ、今のような寄せ集めで何が出来よう。下手をすれば、今度は三条の斎藤氏まで動き出すかも知れぬわ。

そうなれば、再びこの一帯は二分され、戦の開けぬ日がなくなるじゃろう。今は力を蓄える時じゃ。照美、故に心して臨め。話の中身は適当にあしらって置けば良い。精々、精一杯合力致すと申して置けば良いでな。」「はい、父上承知致しておりまする。では、行って参りまする。」・・・

照美は、頭の中で自分の番が来ればどの様に話をするか、ここは一つ大芝居じゃてと思案していた。眉が薄く、細目の人相なので深刻な顔付は禁物である。荒田照美は一呼吸置いて話し始めた。

「お初にお目に掛かりまする。荒田惣衛門の嫡男・照美と申しまする。高野家では総目付の役をおうせつかっておりまする・・・・皆様方のお話をお聞きしながら、正直申せば、白根・新津の大国の脅威に、真に我らが対抗出来うるのかと疑問でござった。

確かに五家合わせれば3万石を越え、総兵力が3,000に近く、新津の秋葉氏とほぼ肩を並べる所に来ているのも確か。されど、此の度の笹川家の内紛に動揺も致した。

しかし、今日参って観て、皆様方の誠に強いお心と決意をお聞きして、我が高野家も改めて合力致す所存。この旨、帰りましたら当主・和久は勿論の事、我が父にも皆様方の心根をお伝え致しまする。」と堂々と話し終えた。

暫し、評定の間に静けさが漂った。それは少し拍子抜けした雰囲気でもあった。その時、今回の評定に一番不安な思いを持っていた人物がポ~ンと膝を打って叫んだ。笹川常満であった。「いや~あ、照美殿,良くぞ申された。これで五家揃(そろ)()みでござるな。」と俊高の方を向いた。


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