(四)五 家 評 定 ≪第六六話≫ No.84 ≪第六七話≫ No.85
(四)五 家 評 定
≪第六六話≫ No.84
戌の刻(午後8時)に夕食を終えた一同が評定の間に再び集った。笹川常満、柿島信吉・信政親子、草日部家からは家老の本田益丈が、高野家からは、城主代理として荒田惣衛門の嫡男・照美、そして当家の重臣達が俊高を待っていた。
胸一杯の悲しみを抱きながら、上座の城主の座に着いた。若い俊高が皆の前で冷静さを装うのは容易くは無かったが、非情な戦国の世に吾が身の立場を良く良く心得ていた俊高であった。
集まった一同の怪訝そうな眼を見渡しながら、この5カ国の連盟をこれから更にこの身が要としてまとめて行かねばならない現実を、俊高ははっきりと自覚していた。
更に彼の素性として、城主である俊高自身が壇上に座るのは致し方ないが、主従関係でもない笹川常満や柿島信吉・信政親子が下座に座るのは少し心苦しかったがそれも越えて、俊高は口を開いた。
「各々方、大義にござる。重臣の突然の他界に皆様方の貴重な時を取らせてしもうた事、御詫び申し上げまする。」と頭を下げた。一同も少し恐縮して礼に答えた。「此の度、お集まり頂いたのは笹川常満殿が白根の策略により浄源寺にて幽閉されし事、その狙いが我らの団結を崩し、白根・佐藤氏が新津の秋葉氏と合一して、早ければ来春雪解けを待って、一挙に兵を挙げる計略と見受けられる由。
我らの盟約は、どの国にでも他国が攻め入った折、何時でも援軍を送ると云うものであった。云わば、運命共存の契り、此度は我らの存亡に繋がる情勢となり申した。
この難局をどう越えるのか、皆様方の忌憚のない御意見をお伺いしたい。佐野久衛門、後はお主が評定を進める役を行え。」と俊高は久衛門に命じた。「相判り申した。それでは評定を進め申す。」と円座の後方に座っていたが一度正面を向いて礼をした。
「まず、今こちらにて把握致しておりまする事をお話申し上げまする。白根・佐藤氏は2年前の我が稲島家との戦に敗れ、当主・佐藤政綱が怪我の為隠居致した後、上越後・直江津にいた元上杉家策士・児玉監物忠文なる人物を用い立て直しを図って参りました。
我が当主・俊高が高野家・笹川家・柿島家と盟約を結ぶと、すかさず新津・秋葉氏と同盟を結び、我らの連盟に備え申した。特に児玉監物と秋葉家筆頭家老・大場実春は月に一度は綿密な合議を行ってござる。
我ら五家の絆が強まるのを恐れた監物は、五家の切り崩しに策略を用いて参った。その事始めが、此度の笹川常満殿の引責と幽閉でござった。秋葉氏の背景を以って威圧し、巧みに先代・常行殿と弟の行貞殿を組み入れたのでござる。
我が当主・俊高はそれを知り、自らを以って常満殿を救出に向われた。常満殿は無事にお助け致したが、しかし、その内密な計り事を密通する者がおり、笹川家の待ち伏せに会い、お屋形様は九死に一生を得てござった。」聞いていた一同から、「ほう~」と云う溜息が洩れた。
≪第六七話≫ No.85
「無念な事に当家に密通者がおりましたので、断罪致した。・・・・」集まった者達に一瞬静寂が走った。「この後も、我々の分断を画策致してくる筈。こちらの団結が更に強まるのを恐れて早い内に策を用いて来る筈でござる。そして、先程、お屋形様がおうせになられた様に来春、雪解けを待って総勢で攻寄せて参りましょう。」
佐野久衛門の話が終ると先ず笹川常満が口を開いた。「わが家の恥を見せてしもうて、誠に面目がござらん。少し弁明致せば、我が父も先途の戦で怪我を負い、気弱になっていたかも知れぬ。また、我ら笹川家は常に三条・斎藤氏、白根・佐藤氏という大勢が背後にござって、その中で生き抜いて参った。此度の様な小国同士の連盟をまだ父達は信じられぬのであろうと存ずる。
しかし、わしは今朝の俊高殿の命懸けの救出を受けて、改めて我らの団結をお誓い申す。ここにいる木島勘平はわしの呼び掛けで和納城から兵を引き連れて参ってくれた者。この者達はこの戦に勝利しなければ帰郷できぬのでござる。勘平、皆様にご挨拶致せ。」「はっ、木島勘平時定でござる。」と大柄で厳つい体を深く折って挨拶をした。
柿島信吉が次に静かに話し出した。「身共は息子の信政に家督を譲ろうと決めてござる。我が柿島家もわしの代で領土を半分にしてしもうた。白根・佐藤の威圧は有ったにせよ、非力で有った事は否めない事でござる。
中之口川の戦で、旧領地も帰って来た次第,この機に息子・信政に全てを託す所存。信政、皆様方にご挨拶致せ。」「はい、父上。まだ未熟ながら当家の家督を継ぐ事に相なり申した。皆様、宜しゅうお願い申し上げまする。我が柿島も佐藤・秋葉の縁ははっきりと切り申した。此度の戦、我らにとっても生死の境となる事、明白であり、五家の盟約を死守する事を、更にお誓い致す。」
俊高は、ここまでは久衛門・常満・信政が上手く運んでくれたので、安堵したがこれからの2家の発言がどの様になるか二人の当主代理に注目していた。