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≪第五九話≫ No.77 ≪第六十話≫ No.78(三) 疑  惑 No.79

≪第五九話≫     No.77

 権坐が「米蔵の常満様を見て参りまする。」と云ってスーと闇に消えた後、暫らくして戻って来た。「常満様は良く眠っておられまする。」「警備の兵はどの位か?」と高喜が尋ねた。「はい、以前と変わらね様で、寺の門前に8人と蔵の前に4人でござる。」

「良し、手筈通り一の組はわしと来い。二の組は寅之助が率いて門前の敵を倒せ!権坐は手の者と周りを固めよ。良いな!」一同頷いて行動に入った。

 小雪は相変わらず降り続き、足元が滑りやすくなっていた。寺の裏木戸から侵入すると、一の組の6人と二の組の14人に分かれ其々が目的地に向った。境内は転々と篝火が焚かれ、それ成りに見通しが取れた。

 俊高達は二手に分かれ、米蔵の壁に沿って入口の方に向った。報告通り、4人の兵士が正面を固めていた。俊高達は背に負っていた近距離用の弓を手にして一斉に放った。4人のうち3人に当り、残りの1人も反対側から廻り込んで来た高喜に仕留められた。

 米蔵の錠前の鍵を倒した兵から奪い、外してしている時、表の方で騒ぎが始まった。寅之助達が攻撃を開始したのだろう。扉が開いて中から常満が出て来た。「常満殿、無事で何より!」「いや~!俊高殿が直々に来てくれたのか。(かたじけな)い!」二人は固く両手を握り合った。

 そこに寅之助が勢い良く飛び込んできた。「お屋形様!敵の待ち伏せでござる!寺の本堂に数十人隠れておりました。早くお逃げ下され!」と云うのと同時に後ろから「うわ~」と敵兵が押寄せて来た。

 「良し!引上げるぞ!」と云って俊高は、倒れていた笹川兵から刀を奪って常満に渡し、一同元来た裏木戸に向って走り出した。寺の白塀の上から俊高達を援護する権坐ら3人の忍びの者が煙玉や鉄菱(尖った鉄の鋲)を捲いて敵の行き先を妨害していた。

 何んとか木戸を潜ったがそこに新たな伏兵がこちらに向って来るのが見えた。「囲まれたか!?」と俊高が吐くと「兄じゃ!こっちじゃ!」と高喜が腕を掴んだ。見ると権坐の手の者が予め4頭の馬を連れて来ていたのだ。

 俊高始めそこには5人の者がいたので、寅之助が「後は、私にお任せ下され!お屋形様、速よう、馬に!」と(けしか)けたので俊高・常満・高喜の3人と案内役の忍びの者が先頭に一気に馬を走らせた。俊高は振向いて「寅,死ぬなよ!」と叫んで闇の中へ消えて行った。

   ≪第六十話≫     No.78

 幹道を避けて先導者の忍びが駒を走らせたが、権坐の手引きであろうと俊高は理解した。半時(1時間)ほど走って一休みした。追手はいない様だ。東の空が大分白み始めている。

「ここは何処だ。」と俊高が男に問うた。「はい、笹川領と高野領の境でござる。お(かしら)から弥彦に向い、山越えをして海沿いから稲島領に入る様云われておりまする。」「確かに安全な道筋だが・・・少し遠いな」と俊高が云うと「これからはわしが案内する。どうじゃ?」と常満が云った。「この地の隅々まで我が領土じゃてな!」と更に云ったので常満に従った。

ところが常満は大胆にも幹道に出てそのまま和納城に向って走った。途中で高喜が不安になり馬上から叫んだ。「常満殿、このままでは和納城に出てしまいまするぞ‼」「高喜殿、お任せあれ!」とそのまま突き進んだ。

「ここで暫し待たれい。」と和納城の正面にある林で3人を待たせると常満は単身、城門に向かっていた。そして閉ざされた城門に大声で呼ばわった。

「和納城の者達よ!わしは笹川常満じゃ!耳ある者は良~く聞け!此の度白根の策略に会い、叔父の行貞により浄源寺にて幽閉されていたが、稲島殿に救われた!わしはこの身を命懸けで救ってくれた稲島俊高殿に預けて参る。一端は城を追われたが必ずこの地に舞い戻って来よう!!・・・わしは今より稲島家に(おもむ)くが心ある者は我に従え!家族有る者は良し!一人身の者は門を開けわしと共に続け~‼」と

小雪も止み、白み出した朝の大地に静けさが流れた。何時の間にか俊高達も常満の横に駒を並べていた。すると固い城門が僅かに開いて一人の騎馬武者が出て来た。槍を片手にゆっくり進み出た姿に一同緊張が走ったが、常満は「おお~!」と云って近づいた.「(かん)(べい)!」「お屋形様!」と二人は馬上で手を取り合った。

そして、勘平と呼ばれた男が振り向いて「皆も来い!」と叫ぶと門の隙間から20人程の若武者達がゾロゾロと出て来て常満を囲んだのだ。常満は馬の上で身体を震わせて泣いていた。俊高が近づき「長居は危険だ。常満殿、ゆくぞ!」と叫ぶと「良し!皆の者遅れるな!」と駒に鞭を当てた。

一同はそのまま、西川沿いを走り、あの諏訪橋を渡って稲島領に到達する事が出来たのである。一行はそのまま亀城に向った。

  

(三) 疑  惑

≪第六一話≫    No.79

夜明けと同時に俊高一行が帰還して来たので城門に出ていた兵士達は一斉に歓喜の声を挙げて出迎えた。しかし、近づいた一行が見知らぬ顔ばかりであったので、亀城に入った時は稲島兵の喜びが半減していた。

門前で重臣達一同が俊高や常満を出迎えた。口々に「よう御無事で!」と安堵の言葉が飛び交ったが、馬を降りて俊高は連れて来た者達を紹介した。「常満殿に従って来られた一同だ。丁重にお迎えいたせ。其れにまだ寅之助達が帰って来れぬ。急いで国境に救援の兵を送ってくれ!」「承知!」と佐野久衛門が直ぐに何人かの城兵を西川沿いに派遣した。

俊高は高喜に命じて、常満と笹川の兵士達を当主館に連れて行き休ませる様にさせて、自らは横山・佐野・吉田の三役を奥の間に呼んだ。俊高の厳しい顔に三人共、事の成り行きが思わしく行かなかった事を察しが付いていた。

ドッカリと座った俊高の顔には明らかに疲れと怒りが入り混じった面相になっていたので、さすがの重鎮の三人も声を掛けれなかった。重い口を俊高が開いた。「我らの行動が敵に筒抜けで在ったわ!」と吐き捨てる様に云った。「どういう事でござるか?」久衛門が問うた。

「浄源寺に敵の待ち伏せがあった。寺の内外に伏兵が潜んでおった。権坐の気転が無ければ全滅しておった所よ。」「しかし、救出の事、我ら以外に知る者がないはず。」と横山重光が何時もの様に(あご)(ひげ)を撫でながら云うと、久衛門も「救出を決め、実行するまでの事、我ら以外誰も知らぬはずでござるが・・・三左殿、誰かに洩らしたか?」

「な、何を云われる!わしが誰かに話す訳がござろうて・・・」「ここの者では無かろうよ。しかし、間違いなく敵に密通している者がおるはずじゃ!兎に角今は寅之助達の帰りを待ちたい。」

「あの者達は、如何されたのでしょうか?」と久衛門が聞いた。「常満殿が引っ返す途中、和納城に立ち寄り、大胆にも城門前で呼ばわったのだ。経緯を話し、我に従う者よ、共に続けとな」

「ほう~そうであったか!それは豪胆な話よ」と感心して重光がほくそ笑んだ。

「お屋形様、後は私目が仕切って於きますれば少しお休みなされ。昨夜より、一睡もされておりませぬので・・・・」と久衛門が案じたので俊高も一端館に帰る事にした。


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