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≪第十八話≫ No.22 (五) 妹 ≪第十九話≫  No.23

≪第十八話≫  No.22

吉田三左衛門は流暢(りゅうちょう)な語り言葉で話し続けた。「遥か昔、この山に『日の出長者』と云う大層な金持ちが住んでおった。更に海に面した角田岬には『日の入長者』と云うこれも大層な金持ちが住んでおったな。山の(おさ)と海の長と云う訳じゃて。その上、二人とも、大層な(ふう)流人(りゅうびと)であったそうな。二人はほんに 仲が良く互いに歌舞(かぶ)音曲(おんぎょく)(うた)(たしな)み大いに優雅な生活をして暮らしておったと・・・

ある時、もっと大きな事をして楽しもうと相談して其々大きな鏡を造り、朝日がさすと日の出長者は、その光を鏡で照らし、日の入長者に送ったと云う。すると夕方、今度は日の入長者が夕日の光を返礼に日の出長者に送ってあげたと云う。

何とも壮大な話しかな。一説には角田岬の『日の入長者』は佐渡の大網元とか、はたまた海を越えたかの国の御大人(おだいじん)であるとか」

「そう~か、面白い話しだな。」弟の高喜が感心して声を出した。「実は、この話には後日談がござるのよ。・・・」一同が「ほう~」と三左衛門の顔を見た。三左衛門は皆の顔色を見詰(つめ)ながら苦笑いして話しを続けた。

「この二人の長者に息子と娘がおった。『日の出長者』には凛々しい息子が、『日の入長者』には大層美しい娘がいたそうな。」一同歩きながら、「ほうほう」と聞き入っている。「二人の長者は後に二人を(めと)らせてこの長者原山の(ふもと)に住まわせたのだと。・・・その後孫が我が(あるじ)稲島家となった。」三左衛門の山野に響いた声に一同、「おお~」と声を合わせた。

「その話しは初めて聞いたぞ。(さん)()殿」と清水寅之助も驚いて近寄った。「ここまでは、当家でも極少数しか教えられておらぬ。本日はお屋形様の立志(りっし)がござったので話してしもうた。」

俊高は静かに聞いていたが、昨夜から今朝にかけての不思議な経験に何か(かかわ)りが有る様な気がしていた。一同は下山し、夕刻から村の衆も集めて、昨日の戦勝祝いを長者原城の広間で夜半まで楽しんだ。


(五) 妹

  ≪第十九話≫     No.23

 俊高が当主となって、最初の正月を迎えた。4月の仁箇(にか)山合戦(がっせん)以来、何とか平穏に数か月が過ぎた。隣国と些細(ささい)な小競り合いは何度かあったが、あの初陣の鮮やかな勝利が功を奏して、有難い事に他の国人衆も慎重であった。

 特に白根の佐藤政綱(まさつな)は、200人近い犠牲を出した事もあろうが、政綱の老隗(ろうかい)で執念深い性格からみてこのまま済むはずがなかったが、その年は動かなかった。 

 俊高はあの長者ヶ原の不思議な体験を誰にも証してはいなかったが、更にその真髄(しんずい)を求め、毎日早朝、山頂に足を運び観音堂で、坐禅(ざぜん)を組んだ。護衛(ごえい)も兼ねて弟の高喜と清水寅之助を連れて行き共に瞑想(めいそう)していた。その後、若い三人は熱心に武芸に励んだ。

 この数か月の中で、常の時は稲島家の弱点でもある財政問題を補う為、幼い頃よりの竹馬(ちくば)の友であり、あの仁箇(にか)山で共に戦った村の若い衆を数十人集め、荒地の開墾を行った。父から引き継いだ4,283石の領地であったが十二ヶ村3,600人近い領民を十分に満たすには田畑が狭すぎた。幸いこの地は、元々が湿地帯であったので米を植える水田はすぐに増やせた。何とか年内の収穫に二百石ほど、補う事が出来たのだ。

 そうこうしている内に年が明けてしまった。今年は雪が少ない。冬、新潟=越後は雪の中に埋まっていると云うイメージがあるが実際には、海岸線の地域は日本海からの強風で、余り積りはしない。当時もそうだが今日は特に温暖化の影響で、真冬でも殆ど積らなくなった。12月から2月の間に20cm以上積るのは10日有るか、無いかである。湯沢、六日町のような世界でも有数な豪雪地帯は全て、山間部である。

 それでも、当時は冬となれば人の(こし)(あた)りまで積る事は度々あり、戦も短期の小規模にほぼ限られていた。しかし、その雪の少ない年は警戒しなければならない。俊高は戦に備えて、防備を思案した。


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