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≪第十六話≫No.20 ≪第十七話≫No.21

≪第十六話≫     No.20

 下山した小太郎は、何事も無かった様に登城の支度をして喜久次と寅之助を伴い城に向った。城内に入ると家臣達の対応が昨日とは雲泥の差であった。皆、小太郎に心から敬意を示して拝した。越後の人は(おの)が思いを(あらわ)すのに時間がかかる。雪国育ちは何処でも似た様であるが、越後人は心を開くのに三年は懸ると今でも云われている程だ。

 しかし、昨日の勝利はその越後人でも一変させた。小さな領土の国人衆である。1ヶ月前には当主が急死し、明日をも知れぬ国柄であったが、それがたった1日で新党首が初陣で目覚ましい手柄を立てた。・・・兵士達の間には、昨日の(いくさ)模様(もよう)(うわさ)となって小太郎の武勇伝が細かく浸透していたのだ。誰もが新しい当主への期待が膨らんでいた。

 小太郎は長者原城の奥間で、家老の佐野久衛門と財務管理の吉田三左衛門を呼び、稲島家の現況を把握した。小太郎が想像していた以上に稲島家は貧窮(ひんきゅう)している。

 領内、4,283石・領民3,578人・本城と支城・5つの砦を持ち、武士団として372人(昨日47名死亡)主な産物は食糧として、米・(あわ)蕎麦(そば)・里芋など、麻布・和紙の生産があったが僅かでしかない。海に面していたので海産物は其れなりに獲れたが大きな船着場がないこの地では、中身は知れていた。

 稲島家にとり、貧しいながらも数代200年近くこの地で生き長らえて来たのは、兎にも角にも長者原山のお蔭様であった。何か困れば山に行って、春は椎茸・竹の子・山菜、秋は栗・柿・山葡萄・山芋、又、当時は山の生き物も豊富で鹿・()(うさぎ)(いのしし)・山鳥などを猟にして生計していたのだ。

 久衛門や三左衛門の報告を聞きながら、年若い小太郎でも食い()ちをもっと広げねばならないと実感したのである

   ≪第十七話≫   No.21

 昼を過ぎて、小太郎は主だった家臣を集め、稲島家の守護神社である八幡神社にて、自らと弟・喜久次の元服式を()り行った。戦の後であり、財政の貧迫する折、(つつま)しいものであったが、これも父・母が用意してあった(かみしも)を着て厳かに執り行う事が出来た。

 小太郎は、元服して「俊高」と称し、喜久次には、自分の一字を与え、(あざな)を「(たか)(よし)」とした。

 元服式が終わると代々の当主が詣でる長者原山の観音堂に海見寺の住職・(かん)(えい)和尚(おしょう)と家臣達を引連れて向った。

 朝の衝撃的出来事と違い、山頂は穏やかな春の日差しが降り注いでいた。御堂の前で(かん)(えい)和尚(おしょう)が読経を行い、一同で敬拝した後、小太郎は集いし面々に発した。「我、今日より名を稲島小太郎俊高と名乗り、当国を治める。まだ非力であるが一同我を助け我が郷土を守り抜いて参ろう!!わしはこの地の英霊に、又先祖の御霊(ごたま)に、そして昇天された我が父・母に誓う。」大声ではなかったが、力強い小太郎俊高の宣言に一同頭を下げた。

「今日より、我が弟は、名を喜久次高喜(たかよし)と名乗り、我が側近とする。」喜久次高喜が前に出て挨拶をした。「お屋形様をお助けし、お家の為に死力を尽くす覚悟、宜しゅうお頼み申す。!」家老の佐野俊種も「我ら一同、お屋形様をお守りし、子々孫々の繁栄を・・・いざ築こうぞ!!」と右手を挙げた。一同、「いざ!築こうぞ!!」と合わせて天に拳を突き上げた。稲島家の伝来の儀式である。代々、少数勢力で乱世を生き抜いてきたこの部族の(ちぎ)りで有り団結であった。

 帰り際、三左衛門が俊高に近寄ってきた。「お屋形様、この長者原にある伝説を御存知か?」俊高が首を傾げると「日の出長者と、日の入り長者の話でござる。」「うむ、昔母から聞いた事があったな。・・・」「兄者、いや、お屋形様。わしは忘れてしもうた。教えてくれ。」「(さん)()、話してやってくれ」「はい、承知仕(つかまつ)りました。え~昔、昔、・・・」傍にいた者達が耳を傾けながら歩きつつ、近ずいてきた


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