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(六)義兄弟の絆 ≪第四一話≫ No.54  ≪第四二話≫ No.55


(六)義兄弟の絆

 ≪第四一話≫     No.54

 その年の田植えも終え、領民が一安心していた時期に、朱鷺の権坐が新しい情報を持って戻って来た。当主館に帰還し、既に床に入ろうとしていた頃、小さく鈴の音が(ゆか)下から聞こえた。以前、権坐から貰っていた同じ鈴の音である。

 俊高は(とこ)から離れ、同じように鈴を鳴らした。静かに障子が開いて黒い影が部屋の中に入って来た。「お屋形様、白根の動きをお伝え致しまする。」「うむ、話せ。」「次席家老として政務全般にも(たずさ)わる様になった児玉監物(けんもつ)は、当主・政時よりは、先代の政綱の指示を受けて、頻繁(ひんぱん)に新津に足を運んでおり申す。」「監物は誰に()うて居るのか?」「はっ、殆どが新津の筆頭家老の大場実(さね)(はる)でございまする。」       

「大場実春? か、二人はどんな男か?」「はい、児玉監物は、年は38歳。学に優れ、兵法も一通り学んだと聞いておりまする。

以前は春日山城にて守護・上杉家にも仕えておったとか。中々の切れ者でござる。・・・・

大場実春は50半ばの老塊(ろうかい)で一癖も二癖もある人物ですがお家を思う心根は強く、当主が若い為、この家老で秋葉家は保っておりまする。」

「ならば、この両家手を結ぶか?」「今の処はまだ、判りかねまする。秋葉氏も(ぬっ)(たり)(現在の新潟市中心部)の渡辺氏とここ数年ほど戦を続けておりますれば、今直ぐに盟約が成立するかは計りかねまする。」「そうか、もう暫らく、動きを探ってくれ。」「はっ、承知致しました。」「権坐、お主の働きで『毒消しの薬』が準備出来た。礼を云うぞ。今後も表向きは薬師(くすし)として、調合に手を貸してやってくれ。」「はっ、判り申した。」

 朱鷺の権坐は、その後、すっと又闇に消えて行った。俊高はほんとはもう一つ頼みたい事があったが、それは口にしなかった。・・・あの白狐の姫、情愛(あやめ)姫の様子を知りたかったのだが、さすがに我慢して、心に納めた。

 それから、暫らくして中之口の笹川家の常行が嫡男の常満に家督(かとく)を譲った(むね)の知らせが入って来たのだ。そして、その事が思わぬ方向に進展して行った。

  ≪第四二話≫  No.55

 既に、梅雨明けの雷鳴(らいめい)(とどろ)き、夏の暑さが本格的に始まっていた7月の20日過ぎに、駒城へ中之口の笹川家から使いの者が来て、当主・(つね)(みつ)の書状を持参して来た。

 それは、是非お会いしたいと云う文面であった。しかも常満だけでなく、味方(あじかた)柿島信(のぶ)(まさ)も同行したいとも(しる)してあった。内容が内容だけに俊高は当主の部屋に横山・佐野・吉田・遠藤の四重臣を呼んで合議した。

 横山重光が先ず持論を述べた。「先途(せんど)(いくさ)仕様(しよう)が余程感服したのだな。佐藤が大きく傾いたので、今度は我らに傾くのか」「横山殿、それ程、容易(たやす)い話しではござるまい。」と吉田三左衛門が少し(とが)って述べた。「後ろで白根が(あやつ)っているかも知れませぬぞ」と遠藤佳(よし)()も冷静に続いた。

 「久衛門はどう見る?」と俊高が聞くと「ここはお会いなされ、お屋形様。笹川氏も柿島氏も当主が代わる折、お屋形様と年齢もほぼ同じ方々でありまするから、この際、胸の存念をぶつけてご覧なされ。」俊高は(さすが、久衛門。わしの腹を読取っておるな!)と判断し、「よし、会ってみよう。手筈(てはず)は遠藤、お主が仲立ち致せ。」「はっ。承知仕(つかまつ)りました。」

 それから、何度か双方のやり取りがあって、結果、三者は稲島と柿島の国境(くにざかい)にある西福寺(さいふくじ)にて会う事となった。 

 時も丁度、昨年の佐藤・笹川・柿島三家の密会が行われた盆明けのほぼ同じ時期であった。10騎づつ護衛の武者を(たずさ)えて、寺の催事が終わった辰の刻(午前9時)に三人は集まった。

 中庭の見える本堂隣りの座敷に円座になって、向かいあった。此の度の企画者であり主催者の笹川常満が先ず挨拶をする。

「稲島俊高殿、柿島信政殿、わざわざの御運び御礼申し上げる。付いては、既に書状にても書き寄せましたが、我ら三家、禍根(かこん)を捨て、これよりは互いに力を合わせ、難敵に立ち向かって参りたく(そうろう)。この(むね)、御異存ござらぬな。」剛直で一本気な性格の常満らしい前口上の少ない単刀直入の言葉であった。

 柿島信政は、チラッと俊高を見たが「異存ござらん。」と即答した。一月(ひとつき)前から常満や信政から盟約の長い約状を貰っていたが、これを今日確かなものにする為の会合である。

 俊高は(あえ)て、即答せず、遠回しな答えでなく、実直に話した。「ご両者が盟約を願うのは、有難いが先途(せんど)の戦が終わってまだ1年にもならぬ折、真の狙いは何処(いずこ)かと、本日まで思案致した。」


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