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≪第三十話≫  その3.No.41 ≪第三十話≫  その4.No.42

≪第三十話≫  その3. No.41

意見は二手に分かれて紛糾(ふんきゅう)する。退却か決戦かである。慎重派は即,退却を主張し、武闘派は一年半前の手痛い敗亡の痛みを忘れておらず、このままでは、引き下がれぬと強硬(きょうこう)に訴えた。特に仁箇山で俊高の戦法に(はま)り、撃たれた侍大将の佐藤忠(ただ)(まさ)の嫡子・(ただ)(かつ)仇討(あだう)ちの執念に燃えていた。

 佐藤政綱は中間位置で心が定まらず、皆の激論を無言で聞いていた。しかし、決戦をしたいのが本音であったが、たとえ戦に勝ってもこのままではこちらも大きな犠牲を払うだろう。此度の戦を完勝しなければならない。稲島に致命的な傷を負わさなければならなかった。

 (本来は、血を流さずに稲島領を占領する。これが一番の目的であったはず。それにしてもあの稲島の小童(こわっぱ)なかなかやるものだ。・・・やるからには確実な戦法を取らねば、又恥の上塗りになる。)と激論を聞きながら思案に暮れていたが、じっと黙って聞いていた柿島の惣領(そうりょう)(長男)であり武者頭(むしゃがしら)(のぶ)(まさ)が凛とした通る声で合議を止めた。

「どうであろう!このまま退却致せば一戦も戦わずに逃げ帰ったと世の笑い物にもなる。こちらは少なくとも900を越す無傷の勢力じゃ。敵は恐らく夜陰(やいん)に乗じて夜襲を駆けて参ろう。されば総大将・・・」と云って政綱の方に向かい、目に力を入れて続けた。この23歳の青年武将は、父・信吉に似ず、剛胆で知恵もあり、器のある男であった。

「総大将、笹川軍が破れたとはいえ、まだ我らが有利、奇襲組は稲島・高野を合わせても500程と存ずる。仁箇山の農兵は物の数ではござらんので、竹野砦と駒城を合わせた敵兵は、精々100少し、昼間の内に押し切れば動けますまい。後は、向うが夜襲をかけて来るのであればこちらも備えをして返り討ちにすれば宜しゅうござる。」

 政綱は迷いのない信政の言葉を聞き、はっとして迷いが取れた。「信政、よう云うた。わしもそれを思案しておった。皆の者、此度の戦、わしも決着をつけんと出陣いたしたのだ。2度までも稲島の小倅に裏を掛かれたが、信政の云う通り、戦はこれからぞ!我らの意地を見せねばなるまい。彼奴(きゃつ)らの裏の裏を描いてやるぞ」と総大将の決意で評定は決した。

≪第三十話≫  その4. No.42

 信政の提案と政綱の決意で決戦が決まった。すぐ様、作戦が実行された。別動隊を指揮していた政時は300人で竹野砦を攻め立て、仁箇山の偽装兵には、三方から一気に攻め掛ける手筈(てはず)である。

秋の柔らかな陽射しが野山を照らし、修羅場(しゅらば)など何処にも無いかの様な小春(こはる)日和(びより)の日であった。正午前に白根・味方勢は其々の目標に向かって攻撃を開始した。

ところが、砦も仁箇山の農兵も跡形(あとかた)もなく消え失せ何の抵抗も無く占領出来たのだ。白根・味方軍の兵士たちは呆気(あっけ)に取られた。そして、仁箇山から眼下に200数十名の者たちが、一丸となって長者原城の正門に向かって駆けだしている(さま)が良く見えた。味方の信政はその姿を見て、何故か笑いが込み上げて来た。何と不思議なものを見ている気がしたのだ。

 秋の夜長という。(しゅう)(しゅう)の名月が登れば、白い(すすき)(さかな)に月見酒といきたい気分の夜であったかもしれない。しかし、陽が沈んだ頃より、うす雲が出始め、(いぬ)の刻(午後9時)には夜空の星々も完全に消えて云わば闇夜の世界となった。

 白根・味方軍は白根本隊600人が、長者原城の外堀を囲み、城下の家々を占領しては仮の立て(こも)り場所にしていた。残りの300人は仁箇山を占領して、稲島軍が残して行った山頂の陣営を利用し夜襲に備えていた。佐藤忠勝と柿島軍がここを任された。更に竹野砦には、残りの30人が配置されている。

 総大将の佐藤政綱・政時親子は、村の中央にある村長の母屋を占領して、ここを本陣としていた。夜の(とばり)が下りて不気味なほど暗く静かな長い夜であった。(我らの備えに気付き、今宵は攻めて来ぬかもしれぬな)と誰もが思い、又願った其の時、駒城から沢山の松明(たいまつ)が闇夜に輝き振れ始めた。

 やがて更に城の城壁や周囲は勿論の事、周りの山々から次第々々にその数が増えていく。その数はざっと観ても数百、いや千を越しているかも知れなかった。山の無数の火は、遠く三条や新津からも見えたと後に語り草となった程だ。闇夜の蛍の様に、又、鬼火の様にも見えたと噂が立った。


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