≪第四七話≫ No.49-Ⅱ
≪第四七話≫ No.49-Ⅱ
秋葉軍が引き始めると、稲島軍は二手に分れ、一軍は秋葉勢の追撃に当り、もう一軍は斎藤軍に矛先を向けて行った。戦場の中央で戦っていた柿島信政たちは、玄斉・燕の法師なども加わて、斎藤軍を木の葉を砕くように散らして行った。特に燕の法師から会得した棒術により、樫の木に刺の付いた鉄金を先に取り付けた棒で、敵の足・腹・首を打って、100人程の稲島部隊は、大暴れをした。
俊高たちが敵本陣に攻め込もうとした時、後方から5頭の騎馬と30人程の足軽部隊を連れて、
斎藤義興が雄叫びを上げて迫って来ていた。俊高の奇襲に気がついた義興は、周りの兵を集めて、
俊高目掛けて突進して来たのだ。
今一歩で届く距離に来た時、俊高を守っていた近従達が一斉に長槍を突き立てたので、一旦勢い
が止まったが、それでも囲みを解いて突き進んでいく。近従の一人が義興の馬の胸に槍を突き刺した。
刺された馬は、前足を跳ね上げ、苦しそうに暴れたので、義興は振り回され落馬した。それでも、
直ぐに立ち上がって3尺(約1m)の大太刀を振り回して、稲島兵を3人倒したが、後ろから槍の柄で足を払わられた。俊高であった。
刹那、倒れた義興に馬乗りになって、両膝で義興の腕を抑えて、脇差で義興の首筋に刺した。眼を大きく見開いて義興は絶命して果てた。
周りにいた稲島兵達から歓喜の声が上がったが、俊高は跳んできた高喜に命じて、義興の首を切らせ、大きく呼ばわった。「敵将・斎藤義興、討ち取ったり!!~」「おお~~~」と津波の様に喊声が広がって行った。
稲島本陣突入に手間取っていた鉄扇は、遠くの雄叫びを聞き、霞が晴れてきた戦場を見渡して、味方本陣が危ないと気付くと直ぐに兵を後退させ、駒を跳ばして味方の救援に向った。
鉄扇は馬上で俊高の戦略の全貌を知った。既に晴れ渡った湖面に数十の板舟がプカプカと漂っているのが見えたからだ。
昨夜のあの折、義興側近の侍が陣幕に入って来て、報告した事を思い出していた。「御大将、お命じになられた板舟を周囲で探させましたが、どこにもござりませぬ。恐らく、この戦の前に、農民たちはどこぞに隠した様にございまする。」と告げた事だ。
義興が「・・・そうか、それならば、止むを得まい。湖面を使わなくても、我らが兵力が有れば、充分ぞ。」と軽くあしらっていたが何の事はない、全ての板舟を集めていたのは、稲島方であったのだ。
俊高はこの鎧潟の平地の戦いに、白根城の戦から周到に準備していたはずである。あの初戦での騎馬隊の負け戦まで読んでいたとは思わぬが、我らはまごう事無く俊高の戦術の中に嵌められた。我が黒騎隊を本隊から離す事が俊高の最大の狙いであった。駒の尻を叩きながら、黒江鉄扇は本陣の無事を祈るしかなかった。
鎧潟をほぼ半周回って、漸く東側の水路に出た。しかし渡って来た板橋は、半分に折られ、反対側に畳まれていたので、渡る事が出来なかった。更に水路から炎が立ち上り、馬で飛び越える事も出来ない。その火は朱鷺の権坐達が仕掛けていた油樽から、水路に油を流し続けていたものに火を付けていたのだ。
俊高本隊は、いよいよ斎藤本陣に迫っていた。斎藤方もさすがに直ぐには崩れず、総大将の義兼を守って、お側衆が必死で戦っていた。戦の大勢はほぼ稲島軍に偏っていたが、鉄扇の別働隊が押し寄せれば逆転する可能性もあったので、双方必死に攻防した。
その時、大通川から、真島良高が率いる100人の後詰が上がって来た。俊高が最後のダメ押しに伏せていた和納城の兵士達であった。大通川を筏で進んで来ていたのだ。斎藤本陣には、400の兵がいたが、この背後からの奇襲で完全に陣を崩されて総員退却せざるを得なかった。斎藤義兼を囲んで100人程の斎藤勢は命辛がら迂回して、月潟から白根方面へ逃げて行った。
黒騎隊の鉄扇は、漸く敵の妨害を越えて、主戦場に到着したが、既に味方の本陣は敗れ、大勢が定まっていた。荒れはてた原野に、沢山の人馬が横たわっていたし、弓矢・折れた槍剣等があちこちの大地に突き刺さっていた。
鉄扇は稲島陣を睨むと、陣地に兵を集めて戦の後始末の準備をしていた。鉄扇は5騎の側近を連れて、稲島陣に駒を進めた。1町(100m)程の所で、馬を止め、大きく息を吸った。
「稲島殿に物申す。此度はこのまま引き上げ申すが、次は正面からお相手願おうぞ。・・・・次の戦、楽しみにしており申す‼」と叫ぶと駒を返して静々と退陣して行った。
俊高はこの声を将兵達と共に聞いた。もう少し、勝敗が遅ければ、あの鉄扇率いる黒騎馬隊に攻め込まれていたであろう。自らが策を成したが良くぞ上手く手筈が出来たものである。鉄扇の願った正面からの戦いは、まだ時でないと唾を飲んだ。
この戦で斎藤軍750・秋葉軍170、稲島軍130人の戦死者を出した。鎧潟の戦は俊高の大勝に終わったが、初戦の400を足せば、530人の犠牲を出した事になるので、決して快勝とは云えなかったが、しかし、西蒲原一帯の実情の覇者で有る斎藤家に、大きな打撃を与えた結果と成った。
諸事情の為、今回で一旦 配信を休みます。
ここまで、読んで下さった方々には心より感謝致しております。
続編は、来年4月に予定しております。
ここまでの感想や、率直なご意見が有りましたら、是非お送り下さい。
宜しくお願いします。 ありがとうございました。