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≪第三六話≫      No.38-Ⅱ

≪第三六話≫               No.38-Ⅱ

 「他に意見はござらぬか?」と諸将に石田芳時が問うたが、それ以上の声は出なかった。ジッと評定を聞いていた義政は、胡座(あぐら)の脚を組替えて胸を反らしながら渋い声で口にした。

「皆の意見は出た様であるが、最後に勝重の意を聞こう。忌憚(きたん)無く申せ。」

「・・・私目は、命に従うのみでござる。(いくさ)の計り事はお任せ申す。」と云って黒江鉄扇こと勝重は下を見た。

「勝重、お主も百戦錬磨(れんま)強者(つわもの)。幾多の戦を味って来たであろう。遠慮せずに申せ。策が無ければ、稲島俊高という武将をどう観る。」

(しか)らば、申し上げまする。拙者(せっしゃ)はこちら越後に参りまして、まだ2年足らずで有りますし、ここ数年の稲島殿の戦振りだけでは、中々計りかねると存じまする。

 身共は、甲斐の武田晴(はる)(のぶ)様に10年、相模(さがみ)北条氏(うじ)(やす)様に5年お仕え致しましたが、晴信様の如く智略(ちりゃく)の長けた方とも違い、また北条殿の様な執拗(しつよう)さのある御仁(ごじん)とも違う様でござる。(ただ)、稲島殿には不思議な運気がござる様で。・・・」

 「不思議な運気とな?そはなんじゃ⁈」と義政は少し勝重を(にら)み付ける様に問うた。

「はい、陰陽道(おんみょうどう)(えき)(きょう)にもござれば、天地人の気運を持つ者、天下を征する、と有りまするが稲島殿には、戦振りを聞く程に人智を超えた運気が有る様に感じまする。」

「何!! 彼奴(きゃつ)が天下を征すると申すのか⁈」

「いえ、左様な事では有りませぬが、数度の戦いに常ならぬものを感じたまでの事でござる。」

 「確かにここ数年の台頭は、目を見張るものがあるが、其れこそ其方(そのほう)が云う運が良かったまでの事。現実の戦は神憑(かみがか)りの運に任せてばかりでは、収まらぬぞ。黒江勝重。」

「はっ、心得てござる。騎馬戦に於いては何の迷いもありませぬ。来れば粉砕致す所存。」

「うん、よう云うた。此度の戦にて、手柄を立てれば支城を一つ任せようぞ。」 義政のその言葉に集っていた諸将から、どよめきが()れた。

義政が評定の采配を定めた。「皆の意見は出た様であるので、此度の稲島との戦、采配致す。慎重論も有るが、俊高が一番恐れるものは、やはり黒江勝重率いる黒騎隊(こっきたい)であろう。稲島俊高は吉田ヶ原にて、初めての敗戦を味わい7日も籠って居たと聞く。

 その後、弥彦(やひこ)神社にて祈願をして立ち直った様だが、陸奥(みちのく)より200頭の軍馬を買い、この半年騎馬軍団を強化したのも、その証しであろう。

 故に此度の白根攻めは、義興の云う様に、時を稼いでいると観るが正しかろう。それだけ、我が軍団を怖れている事よ。

わしは、兵を興し稲島を攻めるとした。しかし、この挙兵(きょへい)は総進軍にあらず。中之口川を渡り、笹川常満の居城・中之口城を落とす所存。もし、俊高が全軍で攻め寄せれば吉田方面からの黒江勝重率いる別働隊が、背後よりこれを(たた)くべし。

 恐らく俊高は、前回の如く落成した長者原城に主力をもって籠城致すであろう。我らはじっくりと稲島の居城を一つ一つ落して行けば良い。次は柿島、次に岩室とな。」

「大殿、出兵はいつ頃と致しまする。」と義兼が尋ねた。

「刈り入れが済んだ10月始めが良かろう。我が軍は其方と義興が、2700にて、出兵せよ。

秋葉殿には1000にて、出兵を願おうか。」義政の言葉に、大場實春は内心、先度の戦で主力の半分を失い、精々6〜700が限度かといえる内情があったが、心を押さえて承知した。

 「大場殿、御安心 なされ。此度の戦は物見同然の出兵よ。血気盛んな稲島俊高と云えど、自ら墓中に飛び込みはしまいよ。彼奴の想いに冷水を掛けてやるのが、この戦の目的よ。されど、油断は禁物ぞ。」

「はっ、承知致した。」と勝手 長年の宿敵である斎藤義政に、實春は頭を下げざるを得ない身内の弱さに(ほぞ)を噛みながら拝礼した。

「大殿、黒江の別働隊にはどの位兵をつけまするか。」と義政の采配が、己のが意に叶った事を受けて、義興は笑みを(たずさ)えて問うた。

(かみ)ノ山城に200の部隊を残して来たよってな。本隊より、200補充して、700有れば、勝重には充分であろう。」

「大殿、今一つ聞くが、もし、稲島が主力をもって野戦に飛び込んで参ったら、撃滅しても宜しかろな!」「その折は、必ず黒江軍団を先方として用いよ。良いな!!義興。」「おお、心得てござる。」

「勝重、別働隊は本隊より、少し距離を置くが、決して離れるな。俊高は、奇襲の名人じゃてな。」「はっ、承知仕(つかまつ)りました。」



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