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Ambassador rain  作者: 輝ぽてと
第1章 選ばれし者
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第5話


 うっすらと目を開けると、辺り一面真っ暗だった。そしてもごもごと口に何かが当たっている。


「いっ ー 」


 状況を把握しようと起き上がろうとするも背中の傷が痛み下手に動けない。

 僕はどうやらうつ伏せで寝ているようだ。そのせいで枕が口に当たっていたらしい。窓のカーテンの隙間を見る限りどうやらもう夜のようだ。いや、もしかしたら暗いというだけで朝なのかもしれない。

 僕は取り敢えず時間を把握するために腕を伸ばし、いつの間にか取り外されていた通信機を探した。肩に力を入れるとその影響でか背中に激痛が走るが、歯を食いしばり耐える。

 ベッドのすぐ近くの棚の上でそれらしき感触を指先で捉えたが、掴むか掴まないかのうちに『ガタンッ』という何かが倒れるようなそんな音を聞いて動きが止まった。

 ドアの向こうに誰かいる。

 僕は直感的にそう思い、痛みに出そうになる声を押し殺して手すりに捕まり立ち上がった。


「本当にこの部屋であってんだよな?下手をすればナイトの奴等に気付かれるぞ」

「大丈夫っす!俺、10回は見直しましたから!」


 敵だ。そう思った瞬間足が震えた。

 今の僕には戦うことは到底無理だろう。手すりに捕まっていてもずっと立っていられるか心配なくらいだ。そんな状態で戦うのは正直キツい。

 『ガラガラ』という音と共に病室に漏れる淡い光。

 僕は棚の上にあった剣を震える手で構えた。


「お、なんだ。起きてたのかよ」

「でもそのようじゃ、俺達の勝ちっすね!」


 全身が震える。震えた振動で傷が痛みだした。


「っ ー 」


 あまりの痛さにその場に座り込んでしまった。足が震えて立てない。


「誰か…助けて…誰か…」


 涙ぐみながら助けを求めた。しかしここには誰もいない。それに、こんな声では誰も気付かない。

 このまま…死んじゃうんだ。

 目をぎゅっと閉じる。恐ろしさに剣を握る力が強まる。

 しかし、そんな時だった。


「焼き払え!」


 先程の敵ではない声が聞こえ、目をつぶっていても分かるほどの光に僕は驚いて目を開けた。

 いくつかの大きな透明の盾のような物が敵を囲み、対角線に雷が走った。何度も敵に突き刺さり、煙が上がる。

 耳を(つんざ)くような悲鳴と共に敵は消えた。


「さっすがー!やっぱり凄いわね」

「魔法ってやっぱ凄いな」

「僕も少し練習してみよっかなぁ」


 敵が消えた場所に4つの影が映っていた。それはどれもいつも見ている姿だった。


「皆!」


 そこには、ここにはいないはずのカリス、リスク、ラル、ミカリがいた。

 瞳に溜まっていた涙が、一気に流れ出す。


「あ…ありが…とう…」


 そう言うと、ポンッと頭に手が置かれた。何でも包み込めるような、おっきな手だ。


「何言ってんだ。当たり前だろ!仲間なんだから」


 カリスがニコリと微笑んだ。つられて僕も頬が緩む。

 なんか、お母さんのようだ。カリスは男の人だけど、なんていうか…存在がお母さんのようだった。優しいし、心配してくれるし、時には叩いて怒ってくれる。僕自身、お母さんの姿と重ね合わせた事もあった。


「大丈夫か?痛い?立てる?」


 リスクも近寄ってきて手を差し出してくれる。

 僕は手を掴むと引っ張り上げられた。しかし足がついていかず、中々立ち上がれない。


「しょうがない。ちょっと良いか?痛かったら言って」


 カリスはそう言うと、軽々と僕をおぶってベッドに座らせてくれた。


「ありがとう、カリス」


 カリスが照れ臭そうに笑う。

 僕は今度はミカリとラルを見た。


「2人共…助かったんだね。良かった…」

「あなたも無事で良かったわ」

「そうですよ」


 2人共僕に微笑みかける。

 本当に、2人が無事で良かった。

 さっきもミカリの魔法に助けてもらって、僕は何もしていないというのに助けてもらってばかりだ。


「そういえば、お前のその傷だけどな」


 そんな中リスクが険しい顔でベッドの隣の椅子に座った。

 僕は急にそんな事を言われ、緊張で汗が流れた。


「かなり深いし、魔法では回復は不可能だそうだ。どうやら斬られる前、毒針を刺されていたらしく、その毒が原因だそうだ」


 僕は固唾を飲んだ。

 いつも切り傷やちょっとした刺し傷は回復魔法で治療をしている。そのため、長くても2日3日で治ってしまう。勿論風邪や病気は魔法では治らないから自力…又は病院で治療を受けるが。

 僕は今までに自力で怪我を治したことはあまりない。特に、転んだり紙などで切ってしまったときなど小さな怪我は自力で治していたが、こんなに大きな怪我をした時は回復魔法をかけてもらっていた。

 そんな僕が、ちゃんと治せるだろうか。

 そんな事を思っていると、今度はカリスが真剣な顔になって話だした。


「あと、校長先生の事だが…。どうやら、7年前にあった大きな戦いの時に先生方全員に黒魔法がかけられていたらしいんだ。」


 カリスが言うに、校長先生はそれを全て打ち消していたが、校長先生自身にかけられた黒魔法を消すのに必要な魔力は既になかったらしい。それ以降も魔力が回復することはなく、限界だったようだ。

 言い終わったカリスは、しかし先程とは違い暗い顔で僕を見つめた。


「…どうしたの?」


 僕がそう聞くとカリスは1度唇を噛み締め、口を開いた。


「お前についてだが…」


 僕について?それはさっきリスクが言っていたことではないのか?それとは別に何かあるのだろうか。


「お前は、選ばれたんだ」


 急にそんな意味不明な事を言われ、僕は困惑した。

 意味がわからない。いきなり「選ばれた」と言われても、何に選ばれたのだろうか。どう理解して良いのだろうか。

 するとカリスが何かを決心したかのように真っ直ぐ僕を見てきた。


「お前の魂を天と地に収める…つまり死ぬ事で、この世界を救うことができる…。その人物として、お前が選ばれたんだ」


 カリスは一体何を言っているのだろうか。何でそんな凄い人に僕が選ばれるというのだろうか。大体僕はまだ子供だ。


「そんなの…あり得ないよ」


 僕がそう言うと、ラルとミカリも悲しそうな顔をした。


「それが、その可能性がかなり高いのよ。敵があなたを狙った理由といい、あなたのその生命力といい…」

「そんなに斬られて毒も入れられて3日で目覚められるというのは…普通ではあり得ません」


 3日も経っていたという事に驚いたが、僕がそんな…こんな僕がどうして。


「それに、スリクが斬られる前に敵が言っていた言葉…。それでほぼ確定したんだ」


 僕は肩を落とした。僕がどうこう思っても仕方が無いことなんだ。

すると隣からクスクスと笑い声が聞こえた。


「バーカ。それがどうしたんだよ。何で皆して暗い顔してるんだ?魂を収めるって言ったって、その前に僕達で壊滅させれば良いだけだろ?それを何うじうじしてんだ」


 リスクがそう言って笑って親指を立てた。


「確かに…そうだな!」


 カリスも笑い、それに続けて皆笑った。

 確かにその通りだ。今すぐ皆と別れる必要なんてないんだ。

 僕は安心して溜め息をついた。


「あ!そういえば!えーっと…どこだっけ…」


 手に持っていた袋の中をガサゴソといきなり引っ掻き回しだすカリス。そして何かを引っ張りだした。


「じゃーん!うさちゃんだよー!可愛いだろ!スリクのために作ったんだ!これをスリクが離さず持っていると、スリクに何かあった時に、オレに分かるように魔法をかけてあるんだ。感情が伝わってくるらしい。だから、お前に何かあったらすぐに駆けつけられるから!」


 僕はカリスからうさぎのぬいぐるみを受け取った。足に座らせると大体鳩尾くらいの大きさで、とてもふわふわしている。

 なんといっても、凄く可愛い。


「どうだ?気に入ったか?スリク、確かこういう可愛いの好きだろ?」

「うん!ありがとう!すっごく気に入った!」


 僕はそう言って笑った。

 カリスも笑い返してくれた。




 まだ夜中だったこともあり僕が寝ている間、皆が交代で起きて僕の事を守ってくれていた。

 凄く安心して、ぐっすりと眠ることが出来た。



読んで下さりありがとうございました!

感想や御指摘ありましたら是非よろしくお願いします!


やっと段々と落ち着いてくる…かな?といった感じです。

また所々に戦いが入ってくることになりますが、とりあえず最初の戦いは突破!という感じですかね。

とは言っても1幕ずつ完結…というものではないので、まだまだ続いていきます!


次回更新は12/21(土)にできたらいいな…と思っていますが、その日は少し用事があるので、12/22(日)になってしまうかもしれません。

よろしくお願いします!

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