第4話
薄暗い廊下。壁の上方に蝋燭があるだけで足元はぼんやりとしている。僕達の足音と時々聞こえる風の音しかそこには存在しなかった。
ここに来たことはないが、静かすぎるように感じる。第一、門番が1人もいないというのも奇妙だったし、僕達が助けに来るという事を予測出来ないとは思えない。
何か向こう側にも企みがあるのかもしれない。場合によってはまずラルとミカリを捕らえ、2人を助けに来た僕等を…というのも考えられる。
僕は知らないうちに立ち止まっていた。
「どうした?まだ痛むか?」
前を歩いていたカリスが振り返った。リスクには後ろから背中を支えられる。
「いや…なんか…あれ…?」
足がガタガタと震えている。
「おっおい、スリク!?」
僕は膝に手を当て震えを抑えようとした。しかし中々収まらない。
怖い…?確かにいつもとは違うもっと強い敵がいるかもしれないとか、本部に来るのは初めてだからとかそういった不安はある。でもそんなのは、入る前に覚悟を決めたはずだ。じゃあ何で…。
僕は自分の頬に手を当てた。そうか、自分が傷付く傷付かないは関係ないんだ。僕が足を引っ張って2人に怪我をさせてしまったりラルやミカリの身に何か起こってしまうのが怖いんだ。
『フワ ー 』
そう思っていた時だった。体が暖かくなる。
僕はカリスに抱きしめられていた。
「大丈夫だ。何も怖がることはないよ」
「そうだぜ。今までだって、大丈夫だっただろ?」
後ろを向くと、リスクがいつもの笑顔で笑っていた。
僕は深く息を吸い込むと大きく頷いた。気が付けば足の震えも治まっている。
「良いねぇ。そんな奴等を崩壊させて悲しみのどん底に落とすのが大好きだぜぇ」
ふと、前から下卑た笑い声とともに5人の『悪心を持つ者』が現れた。
「おいおい、随分と趣味が悪いんだな」
リスクが剣の柄に手をかけながら意地悪そうな笑みを浮かべる。
「いやぁ、特にその1番ちびっこい少年。そいつを殺せばナイト学園どころかほとんどの人達が痛手を負うだろうなぁ」
それを聞いたカリスとリスクはザッと僕の前後に立ち、2本の短剣を抜いた。
僕も長剣を右手に構える。
「そう簡単に思い通りに行くと思ったら大間違いだ」
カリスの言葉が合図であったかのように敵が動き出した。
2人の敵の剣をカリスが受け止める。こぼれてきた3人のうち1人を僕が、2人をリスクが受け止めた。
薄暗い部屋に火花が散り、お互いの顔が良く見える。敵は不敵な笑みを浮かべていた。
「勿論いつもはやられているからねぇ。簡単に出来るとは全く思ってないよ」
一体何を考えているんだ。このくらいの強さの『悪心を持つ者』なら何回も戦ったことがある。正直、僕が今負傷中とはいえ、この3人なら5人の敵を相手にするのはそこまで大変ではない。
しかしこの敵の表情はなんだ。いや、この敵だけではない。チラリとたまに見える他の敵の表情には余裕が伺えた。
更に何を考えているのかあまり攻めてこない。僕が速くも強くもない剣を受け止めると、すぐに飛び退き間合いを開けるというのを繰り返した。
「だから、こうして準備に準備を重ねたんじゃないか」
その敵の言葉に背筋が凍った。
一瞬後ろを向いてみるが、リスクが敵の相手をしてくれているので後ろから襲われるという事はなさそうだが…なんだこの違和感は。
この僕の嫌な予感が何だったのか分かるまで、そう時間はかからなかった。
『カチッ』
どこかで、スイッチを押したような、そんな音が聞こえた。
「!?」
ドクンッ ー と、胸が大きく揺れた。そしてそれも一瞬のこと、不規則に…しかし段々と駆け足に心臓が動く。
僕は胸の痛みと苦しさに左手で胸元を抑えた。
そんな少しの隙を狙っていたと言わんばかりに、敵が一斉に動き出した。
一瞬にして間合いを詰められ、かなり重みのある一撃をよろめきながら剣で受け止めると、敵は間髪入れずにもう1度攻撃をしかけてきた。重い金属音と共に衝撃がピリピリと手に伝わる。
「うっ ー 」
またもドクンッと、今度は体ごと持って行かれるかのように胸が揺れた。鼓動も速く、もはや息をするのも難しい。体中から汗が吹き出し、僕は立っていられなくなった。
しかしなんとかギリギリ壁に手をついてそれを持ちこたえる。そうでもしなければ座り込んだ僕などいともたやすく串刺しにされてしまうだろう。
だが、それがただの悪足掻きであったとすぐ知らされることとなった。
「!?」
剣が地に落ち悲鳴を上げる。僕は頭から前に倒れこんだ。
「スリク!」
「くそっ、テメェよくも ー 」
痛みと比例して不思議なくらいに落ち着いている。それはこのとてもゆっくりに見える動きのせいだろうか。
リスクと戦っていたはずの敵2人のうち1人が僕の隣に立っている。その敵は達成感に満ち溢れた笑みを浮かべたままリスクに体を切り刻まれた。
リスクは隙など気にせずもう1人の敵に突っ込み、傷をつけられながらも止めを刺した。
「スリク!大丈夫か!?」
カリスが残りの3人の敵をまとめて相手をしてくれている間、リスクがこちらに駆け寄ってきた。そして通信機の緊急ボタンを3回押す。
フッとゆっくりだった時が通常運転を始める。
「うっ ー 」
体の感覚が戻り始め、背中でズキズキと暴れ始める痛み。
「あぁぁぁ ー 」
痛みに体を縮こまらせようとするも、自分の動きによる振動で更に痛みが増す。
「痛いと思うが、少し頑張ってくれ!」
リスクがそう言って僕をうつ伏せにさせた。なおも剣で刺されているかのような痛みが襲う。
横から息を呑む音が聞こえた。
「大丈夫!?」
そしてやっと到着したのだろう、先生方がこちらに駆け寄ってくるのが分かった。
魔法使いのインミ先生がすぐにリスクと交代する。カリスも敵を倒し終えたのか、近くに来ていた。
「カリス、リスク。あなた達は他の先生方と先にあの2人を探して下さい。私はスリクを王立病院へ連れて行きます」
掠れる意識の中、カリスとリスクが驚いているのが分かった。
「嫌です!オレも一緒に行きます!」
「ダメです。カリスは先に進みなさい」
「でも」
「スリクもあなたも抜けてしまえば、こちらが不利になることはあなたなら分かるでしょう?」
インミ先生にそう言われ、黙り込むカリス。
僕はゆっくり深く息を吸い込み、カリスに笑って見せた。
「大丈夫…だよ。心配しないで…。ラルと…ミカリを…助けて…」
カリスは少し納得のいかないといったような顔をしていたが、深く頷いてリスクや他の先生と共に走って行った。
僕は安心して、意識を手放した。
読んで下さりありがとうございました!
予告の日より遅くなってしまいすいませんでした。
こんなに初めの方で負傷させるとは…
あの頃の私は何を考えていたのでしょうか。
ゆるゆると進んでいくと思います!
次回更新は12/18(水)に更新する予定ですが、12/19(木)になってしまうかもしれません。
よろしくお願いします!