第2話
今朝会議の時間になっても来ない校長先生を見に行ったアシス先生が、部屋で倒れているところを見つけたのだそうだ。
死因はおそらく敵にかけられた黒魔法だろうということだ。しかし何故今になってなのだろうか。
「いつかけられたのかは知らないけれど、校長先生の魔力なら逆魔法で打ち消すことが出来たはずだわ。それなのに何故…」
ラルが怪訝な顔をしながら腕を組んだ。
急な事で先生達は出払っており、僕達はナイト学園の警備を任された。年長コンビのカリスとリスクが裏門側、僕とラルとミカリが正門側を警備している。
「ラルはその逆魔法出来るの?」
僕がそう聞くとラルは大きく溜め息をついた。
「出来るわけないじゃない。あれは回復魔法の中でも上位魔法。私が出来るのはせいぜい中位といったところかしら」
かなり呆れた様子でそう言われるが、そもそも僕は魔法は一切やったことがない。だから知るわけがない。
けれど、そんなに凄い魔法が効かないなんて考えられないという事くらいは分かる。そして校長先生にその魔法が出来るくらいの魔力があったのなら、何故亡くなってしまったのかと疑問にも思う。
「じゃあ、魔力が段々弱くなっていくことってあるの?」
もしそうなのであればそのせいで魔法を使えなかったという事も考えられる。
この質問にはミカリが答えた。
「そうですね…あまり考えられません。魔力は積み上げられた分だけ維持されますから…。ただ、使う魔法が強ければ強いほど精神力や体力が必要になってきますので、もし考えられるとしたらそちらかもしれません…」
なるほど。まぁ確かに魔法が万能だったら僕等はかなり不利になるからね。
僕は腕を組んで考え込んだ。
その時だった。
「今日はイカツイ兄ちゃんじゃなくてガキかよ。張り合いねぇなぁ」
ハッと顔を上げて前を見ると、見慣れた黒いコートが目に入った。
しかしそれも一瞬のこと、視点が回ったかと思えば僕は体のあちこちを激しく打ち付けて寝転んでいた。
「スリク!」
ラルとミカリの目が大きく開かれているのが分かる。
体の中でも頬がかなり痛い事から、どうやら僕は『悪心を持つ者』に殴り飛ばされたようだ。
「お、こっち2人は女か!」
「今日来て正解だったな!」
声の違いで奴1人で来たわけではないと分かる。目を凝らすと見える範囲で4人は確認できた。
しかし流石にこのメンバーとこの人数で4人はまずい。ラルとミカリがどこかに隠れている…又は敵との距離が十分にあれば問題ないが、僕のせいで敵との距離がかなり近い。
「くっ…」
僕は体の痛みを歯を食いしばって耐え、剣を地面に突き刺して立ち上がった。
剣を構える。剣先がいつもよりやや下に位置しているが、修正するため腕を上げようとするも動かない。
仕方が無い。多少切れ味が悪くなってしまうが、今はそんな事を気にしている余裕はない。
「はぁっ!」
僕は1歩1歩の足で確実に地面を捉え、助走をつけて勢い良く横一線に剣を振るった。
とにかく奴等からラルとミカリを遠ざけなければ。
しかしぶれた軌道が敵の剣に捕まらないわけもなく、間合いに火花を散らせた。甲高い音が周りの木や建物に跳ね返りこだまする。
僕1人じゃ無理だ…。でも、諦めるわけにはいかない。
僕は左手にしているこの学園の通信機の赤いボタンを3回押した。
このボタンは緊急用だ。3回押さなければいけないのは、何らかの原因により誤って押されてしまっても大丈夫なようにだ。
『スリク!大丈夫か!?』
通信機からカリスの心配そうな声が聞こえる。僕は返事をしようとしたが、それどころではなかった。
「舐めた真似しやがって」
敵の剣に反応出来ず、体ごと地を転がり避ける。
『持ちこたえろ、今行くk ー 』
カリスの声が途中で途切れる。いや、途切れさせられた…の方が正しいか。
通信機が頑丈で複雑な構造で作られていて良かった。
左手の通信機はボロボロで、そこには敵の剣が突き刺さっていた。剣が何かに引っかかっているのか僕の手までは届いていなかった。
チラリとラル達の方を見るが、どうやらそちらにも敵がいるようで中々魔法を使うに使えない様子だ。
『持ちこたえろ』そう言われたんだ。カリス達が来るまでなんとかするしかない。
僕はもう1度敵に剣を向け走り出した、その時だった。空気を切り裂くような高く鋭い声が聞こえたのは。
反射的に声のした方を見る。するとそこには3人の敵に捕まるラルとミカリの姿があった。
「ラル!ミカリ!」
僕は慌てて走り出す。
「スリク!後ろ!」
ラルの声を認識したのと同時に後頭部に衝撃が走るのを感じた。地面が近づいてくる。
霞む視界の中に真っ黒な物体と2人の姿が目に入った。
「お前もついてきてもらおう」
冷たい物が僕の手に触れる。そのまま腕を引っ張り上げられた。
そう、腕だけだった。
「何だ!?こいつ!」
僕にも分からない。僕の体は地面とまるでS極とN極の関係であるかのようにくっついていた。
「スリクさんに手はださせません!」
ミカリの指先が光っているのが分かる。
どうやらミカリの魔法で地面に貼り付けられているようだ。いや、実際には攻撃魔法であり敵を磔にするための魔法なのだ。
「小癪な!」
「ミカリ!」
ミカリへと剣が向けられる。しかし魔法により体を動かす事が出来ないため助けに行くことも出来ない。
「スリク、ラル、ミカリ!どこだ!?」
遠くからカリスとリスクの声が聞こえてくる。
「チッ…一旦引き上げるぞ」
敵は剣を収めると魔法を唱え始めた。
敵の元にはラルとミカリ。
犠牲になる気だ。
「ミカリ!魔法を解いて!」
叫ぶも、届いているのかいないのかミカリは真っ直ぐ前を向くだけだった。
段々と敵と2人の姿が消えていく。
「ラル!ミカリ!」
「皆、大丈夫か!?」
カリスとリスクの姿が見えてくる。それに比例するかのように敵の姿が消え去った。
「クソッ!遅かったか!」
リスクが門の格子を蹴りあげる。それを嘲笑うかのようにざわめく木々。
僕は安心して、段々と暗い世界に飲み込まれて行くのを感じた。
その時に2人の声が何か聞こえたが、あっという間に何も聞こえなくなった。
読んで下さりありがとうございます!
感想や御指摘ありましたら是非お願いします!
第2話からこんな感じで良いのだろうか…心配だ。
我ながら小学生時代の脳内が恐ろしい限りです。
次回更新は12/13(金)になると思います!
よろしくお願いします!