44 夜間会議 - 裏
修正箇所があります。
服装について:理性の現在来ている服は青シャツです。服という表現は曖昧過ぎたので変えました。その他の変更について、詳しくは今日付けの改稿話を参照して下さい。修正は今後も行います。
またブランクの影響で、今回は出来が良くありません。始めに伝えておきます。
「ようやく来たようね。念の為に鴉の護衛を付けたけど、大丈夫だった?」
扉を開けて部屋に入ったとき、目の前の椅子に座りながらこちらを見ていた御嵩の第一声がそれだった。左肘をテーブルに突いて左手の上に顎を乗せているという馴れ馴れしい格好をしている。そして肩には鴉が一羽乗っていた。
「余りに多すぎて不気味よ。他の宿泊客が見たら卒倒するわ」
理性は深く溜め息をつきながら部屋のドアを静かに閉めた。そして改めて部屋を一瞥すると彼女のいる椅子以外の場所、すなわちベッドの上などは全て彼女の鴉が独占していることを知る。その異様な光景はまるで鴉の行水のようだ。
「念には念をっていうことわざ……知ってる?」
御嵩は杖で床を軽く打ち付けながら尋ねてくる。理性はその振る舞いに、何故か馬鹿にされてるような気がしてイラッとした。そんなことくらい私は知ってる。
「ええ……そうね。いつ襲ってくるのかも分からないし」
でもその対策は正論だ。これはゲームなんていう生優しいものではない。純粋な殺し合いである。だから常に警戒をするのは必然。たとえ、それが異端視されていたとしても。
「取り敢えず掛けなさい。それから話し合いましょう」
御嵩は向かい側の椅子を指差して、座るよう促してきた。テーブルの上には当然の如く、明かりである火の灯った燭台が置いてある。他には何かを記した羊皮紙が一枚と茶色い木製のコップ二つ、透明な液体が入った瓶が彼女の傍に置いてあった。恐らく瓶の中身は水だろう。
理性は彼女向かい側に座ると、早速だがこちらの質問に付き合って貰うことにする。また、念の為に刻印から有雪から奪った漆黒のナイフを出し、手の内に忍ばせておいた。助けてくれたことは嬉しいが、よく考えてみれば彼女自身“完全な”味方だという保証がない。現段階では自分が味方だと思っているだけ。
「先ずは私を疑うのね……」
御嵩はこちらの意図を察して警戒するように言う。しかし、だからといって身構えることはしない。部屋に入る前から当然、共鳴音が響いていた。だが自分がここでナイフを出したせいでその音は更に大きくなる。彼女の杖と自分のナイフ。比べると彼女の方が僅かに強かった。
「確認だけど一応質問するわ。貴方は味方なのか?それを教えて」
加えて、自分の知る限りでは死神同士は会った瞬間に戦いになると思っていた。だが今の状況にその例は当てはまらない。だから本当に敵意がないのか確かめる必要があった。
「味方よ。それだけは確か。敵ならこんな回りくどいことする?」
理性の質問に御嵩はすぐさま即答する。その答えに苛立ちも怒りも籠っていない。むしろ解っていたかのような冷静な振る舞いだ。それを聞いて少しは安心するが、問題はその先にある。
「第一の質問をするわ」
「どうぞ」
そして理性は質問をぶつける。御嵩はこちらから仕掛ける質問の数々を、毅然とした態度を保ちながら待ち構えていた。恐らくは色々と知っているのだろう。自分の知らないことを。ならば0から100まで根掘り葉掘り尋ねるしかない。情報屋の資料だけでは足りないのだ。
「貴方は何者?」
「貴方と同じ死神よ。そして貴方と同じ異世界転移者。通り名は偽者と同じ“群殺”。見ての通り、この杖で鴉を召還し、群を以て相手を倒すのが私の道具の持つ特異能力」
彼女の肩に乗せている鴉が、その言葉を推すように小さく鳴く。群を以て相手を殺す。だから群殺……。でも……。
「通り名って何なの?私の遭遇した死神は皆名乗っていたけど」
古河原 御嵩が群殺ならば、最初にラウネンの村を襲撃した有雪 仁志は消える死神ということから“消殺”だろう。だが何故名乗る必要があるのか。非常に気になった。
「通り名は私でも分からないわ。勝手に派生した名乗りたがりのルールみたいなものよ。私はあいつらに付けられたから使っているだけに過ぎないし……」
「あいつら?」
名指ししているのは当然、偽者のことだろう。だが彼女の複数系での言い方に理性は耳を疑った。つまり……偽者は一人ではないというの?
「そう……偽者は私だけじゃないわ。この世界にいる死神全員に偽者がいるのよ」
「なっ……!!」
御嵩はこちらの思っていたことを見透かしたのか、さりげなく衝撃の事実を口にする。理性はその事実に驚きそうになるが、あることを思い出す。先程、彼女はこちらの存在を疑っていたではないか。偽者か本物かを。
「じゃあ……つまり……」
「貴方にだって偽者はいるわ。この世界の何処かにね」
自分の偽者。襲撃した“彼女”のように自分の名前を語り、自分と同じ容姿を持って他人を容赦なく殺戮する……。考えるだけでゾッとした。でも、この今でもそれが行われているかもしれないのだ。
「それより……貴方の通り名を聞いてなかったわね。それとお互いの……刻印も」
今度は向こうからの質問だった。だが理性は通り名など持っていない。御嵩のように敵から丁寧に教えて貰った覚えも……。死神と対峙したのは眼前の彼女を覗き、二回だけ。片方は怒りに任せて質問する前に倒してしまった。片方は……省略。
「通り名を持っていないのね。つまり……自分の持つ武器の特異能力すら……知らないと?」
こちらの沈黙を否定の意味として理解した御嵩は、深くため息をついて落胆したように言った。その感情とリンクしているのか、肩の鴉も普通ではない何ともテンションがダウンしたような鳴き声を出す。理性はこの反応に劣等感を感じた。
「良くそれで生き残って来れたわね。自分の道具の錬度も上げずに……。ある意味称賛するわよ」
彼女はその答えに呆れたような顔をすると、茶色いローブの袖を軽くまくる。そしてこちらに左の手の甲を見せてきた。ランプの灯が暗くて良く分からないが、そこにはくっきりと自分と同じく刻印が刻まれているのが分かる。
597
Dying
Completed
Break 24
Dying。つまりは瀕死。加えて、その横にはおびただしい数の道具のマークが存在した。恐らくは何度か戦った経験があるのだろう。どんな経緯か非常に気になるが、ここは自分の刻印を見せるのが先だった。
理性は青い七分袖のシャツの袖を捲ると、自分の右手首にある刻印を彼女に見せた。倒した数を比べると圧倒的に少ないのでどんな顔をされるか……。
「成る程ね……。だから助けたとき、あんな状態だったの……」
先程までやや強気に応対していた彼女の声が、少しだけ和らぐ。それは紛れもなくこちらのことを哀れんでいるのに他ならない。理性としてはそれが情けない事実として、胸に突き刺さる。
「私一人じゃ……向こうには勝てない」
「当然ね。経験が殆どないもの。さしずめ一度か二度勝ったから油断してたのね」
自分の無力さを話す中で、御嵩の容赦ない言葉が更に追撃してくる。彼女の言う通り。一度勝っているから大丈夫だと自分を過剰評価していた。でも結果はこの有り様。経験が足りなければ力も足りない。このままだと……。
「ラウネン達を……守れない……」
向こうはラウネンを殺すつもりでいる。だけど今のまま戦えば間違いなく自分は勝てない。結局は何も……守れない。
「そう言えば……貴方どうしてこの世界の人間と関わりを持っているのよ?犠牲を増やすつもり?」
「それは……」
理性はすぐに答えを出せなかった。何故なら自分の思い浮かぶ考えに矛盾があったからだ。
異世界で慣れない中、彼らが助けてくれたから。居場所を失ったラウネンの為に……自分が……。でも自分と一緒に居れば彼らは……。
「私は今すぐにでも彼らと別れた方がいいと思うわ。これから先、彼らの存在は貴方にとって重荷にしか……」
「違う!!」
理性は思わず立ち上がり、声を荒げて抗議する。彼女はその反応に驚愕し、肩の鴉も背後のベッドに飛んで避難するが気にしない。まさか彼女の偽者と同じことを口にするとは思ってもなかった。だから思わず、味方だと分かっていても怒りが滲み出そうになる。
ラウネン達は絶対に重荷じゃない。貴方には絶対に分かる筈がない。ラウネンは私にとって……。いや、私にとってラウネンは……!!
自分が抱えている最も脆い部分。それを突かれた理性は目の前の味方に向かって怒りのあまり咆哮し、手に忍ばせたナイフを突き付けようとした。
だが……。
「ごめんなさい。ちょっと言葉が悪かったわね。貴方の事情をとやかく言う権利は私にはないのに……」
軽率な発言でこちらの逆鱗に触れたことに、御嵩はすぐさま謝罪してそれ以上の言葉を避けた。理性はそれを聴いてハッとして我に返り、握っていたナイフを戻した。
「いいえ。私こそごめんなさい。感情を押さえられなくて……」
彼女の言い分は確かに正論を言っている。下手に犠牲を出したくなければ関わりを絶った方がいい。でもそれは普通の人間の場合。ラウネンは違う。彼は私のせいで父親と村を失った。だから……私は彼を守らないといけない。ソルークとの約束を果たさないといけない……。
「それで……今この街にいる死神はどうするの?」
理性は取り敢えず、ここは話を変えて目の前のことに集中することにした。どんな事を考えていたとしても、あの死神がいる限り先には安心して進めないのだから。
「無論倒すわ。その為にこの街に来たのよ」
何を当たり前のことを?と逆に聞き返しそうな顔で御嵩は即答する。確かにそうだと思う。彼女からしてみれば、自分にあらぬ疑いを掛けられては堪らないし、犠牲を増やしたくもない。
「さ、長ったらしい前置きになったけど……本題にいくわよ」
彼女はやれやれとかなり深く溜め息をついてから、鴉を象った杖を再び床に打ち付ける。鴉はその際に揺れる肩の上でバサバサと翼を広げ、上下させた。まるでこの話題を待ちわびていたかのように。
理性もまた、実際それは同じだったが。
「偽古河原 御嵩をどうやって倒すのか……?」
「そう。この件に対しては貴方も協力して欲しいの……」
夜は長い。そしてまだ会議は序盤に過ぎなかった。
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