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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
第4章 死神の共鳴
52/54

42 味方……?

街からまだ出られない……。by 荒杉 理性

なに、その内出るさ。by 多代崎 翔

街に着いてから一日も経っていないという……。by エントラル(Dragon Word Tripper~初まりの朝~より)

「今後の作戦を見直す必要があるわね……」


ぼんやりとした意識と真っ暗の視界の中でそんな声が響く。それはどこかで聞いたことのある女の声。一体何を呟いているのだろうか?いや、それ以前に私はどうしてこんなところにいるの?


「うぐ……」


理性は重々しい瞼を開けた。視界は当然のことながらぼやけている。それに身体が鉛のように重かった。手足に力を加えても思うように動かない。加えて自分は何かふわふわなものの上に身体を横たえている。


しばらくして視界がはっきりとしてくる。どうやらかなりの時間意識がなかったようだ。そして唯一動ける首をあちこちに伸ばして状況を確かめる。


真上に見えたのは先ず木の板が貼られた茶色い天井。周りは室内なのか、外が夜なのか見当がつかないけれどもとにかくここは暗い。その暗い部屋の中を照らしているのは、やや離れたところにあるテーブル上のランプだった。


そしてそのテーブルの傍には少女が椅子に座っていた。左肘だけをついてその手を頬に当て、視線を机の上に向けている。


「あ、目が覚めたみたいね」


自分が彼女に視線を向けていた為、少女がこちらの様子を見ようとしたときに目が合った。向こうは独り言を中断してゆっくりと近付いてくる。ランプが少女の後ろにあるので逆光だが容姿は最低限確認出来た。


先ず背丈は自分と変わらない。髪は黒?長髪ストレートで腰まで伸びている。元結(もとゆい)で纏められた髪をそのまま解けば恐らく自分のようになるだろう。瞳の色は暗くて分からない。そして手には長く黒い杖。先端には翼を広げた鴉の飾りがついている。何処かで……見たことが……。


キィィィィィン。


「ッ!!」


不意に耳に響く共鳴音。それを聞いた瞬間理性はこうなるまでの経緯全てを思い出した。怒涛の如く記憶の中に映像になって押し寄せてくる。自分は情報屋へ行った帰りに、鴉の大群を従えた古河原 御嵩と名乗る“群殺”の死神に襲われたこと、彼女がラウネンを殺すと宣言したこと、また彼女との戦いに破れ、致命傷を負って意識を失ったことを思い出す。そして今、自分に近付いて来ている少女がその本人であることも。


「くっ……う゛っ!!」


咄嗟にその場から飛び出そうと手足に力を込める。だが何も武器を手にしていない為に基礎能力を強化出来ないこと、負った傷が酷かったことが災いして全身に激痛が走る。その結果ベッドでひっくり返り、うつ伏せで両肘を布団の上に乗せて立ち上がろうとする姿勢のまま、呻くしか出来なかった。特に痛む右肩と腹を手で押さえ、必死に耐えようとする。早くここから逃げ出さないと。それにラウネンを……!!


「今は動いちゃ駄目。傷口が開くわ」


向こうは理性の挙動に驚き急いで駆け寄ってきた。そしてそう優しく言い肩に手を乗せる。しかし、直後にその手は理性によって冷たく払われた。


「触らないで!!私を殺そうとした癖に……助けるなんて何の嫌味なの?ラウネンを……」


理性は敵意を剥き出しにして相手を睨み付け、内に秘めた暴言を吐いた。こいつは自分を殺すだけに飽き足らず、ラウネンまでも手に掛けようとしている。そんな人間の言葉なんて信用出来ない。早く彼を守らないと命が危ない!!


「落ち着きなさい」


「落ち着いて居られる訳がないでしょ!!お前が……えっ……!?」


こちらが激昂しても冷静な態度で対応してくるのが余計に腹が立ち、痛みに苦しんででも相手の胸ぐらに掴み掛かろうとした。だが、その手は唐突に止まる。


彼女の基本的な外見は確かに自分を襲撃した古河原 御嵩そのもので間違いない。でも良く見ると違う。髪の色は黒ではなく灰色、服装も黒いローブではなく茶色いものだ。瞳の色も吸血鬼のような赤ではなく、スタンダードな茶色である。


つまり、今目の前に立つ相手は自分の知る古河原 御嵩ではなかった。


「ようやく理解出来た?」


古河原 御嵩の顔立ちをした少女がこちらを見下ろし、顔を傾けて小さく笑う。その顔は襲撃してきた方では先ず考えられない位の優しい笑みだった。


「貴方……誰?」


理性は容姿が似ていることに混乱しつつも質問する。あのとき出会った彼女とは違うこの人は、一体……?


「私の名前“も”古河原(こがわら) 御嵩(みたけ)よ。そしてオリジナルでもあるわ」


彼女は自分の肩から手を離すと両手を後ろに回して手を組みながら、少し屈み自己紹介をする。しかし名前が自分が知る名前そのものである為に、混乱に更に拍車が掛かった。


「オリジナル……?」


「要は私が本物の古河原 御嵩ってこと。貴方を襲ったのは偽者よ。それで……貴方はオリジナルなの?それとも……」


本物と偽者。そんな存在がいたというのだろうか?彼女の謎の説明に理性は状況を呑み込むことが出来ない。少なくとも今の振舞いから敵ではないのは分かる。だがその上で……自分が疑われている。本物か偽者かを。


「私は本物よ!!私がオリジナルの荒杉 理性。文句は言わせないわ」


そこは全力で主張した。自分は元いた世界から飛ばされたのを覚えている。産まれてから今までの記憶だって……。それを否定なんてさせない。自己の存在を肯定する大事なものだから。


喰って掛かる理性の反論にも御嵩は動じることもなく、あたかも物を鑑定しているような目でしばらくじろじろと観察する。何故だかこの振舞いは向こうと似ているからイライラしてしまう。


「へぇ……。ま、それぐらい感情的なら本物のようね」


「ちょっと!!アンタだけ理解してないで私にも説明して。これはどういうことなのよ?」


理性は御嵩にぶっきらぼうに尋ねる。死神同士は戦うしかないと聞かされたが違った。今目の前にいる彼女が、自分を襲った古河原 御嵩だと思ったがこれも違う。認識していたことと現実が異なり過ぎていた。


「話せば長くなる。それよりも一度、貴方は“部屋”に戻るべきよ。同行者がいるようだし、心配しているでしょう。話はその後でも遅くないわ」


同行者という言葉に理性は胸が痛くなる。また無理して立ち上がろうとする気持ちが湧き起こるが、何とか冷静を保たせた。そして彼女に尋ねる。


「皆……無事なの?」


「無事だわ。それにここは貴方の泊まっている宿、蒼鷺(あおさぎ)の渡る泉の客室の一つよ。そして部屋は偶然にも貴方の真上。安否を確かめるなんて、造作もないことよ」


彼女の言葉を聞いた瞬間、理性の張り詰めていた緊張と焦りが一気に解けた。皆が生きている。それだけでも安心するには十分なものだ。


「良かった……」


ベッドから身体を起こし、布団の上に座り込みながら両手を重ね胸に当てる。冷たくなっていた心が一気に暖かく穏やかなものに変わった。荒い息が収まり、鳥肌が立つ間際の感覚が身体全体に行き渡る。


「向こうの古河原は貴方が襲われたときに撃退したけど、また来るのは必然ね。一応私の鴉達が警戒に当たっているけど、今はこれといった動きもないわ」


鴉達。つまりは彼女も向こうの敵のように鴉を自由自在に使役出来るということを意味する。敵に回れば私のように簡単にやられるけど、味方ならばこれ程心強いものはない。


「えっと……ありがとう。助けてくれて」


今更ながら理性は彼女にお礼を言い、頭を下げる。向こうが年上だろうが年下だろうが、ピンチに陥っていた自分を助けてくれたことに変わりはない。その上に今だって守ってくれているのだ。感謝の言葉だけでは足りない。


「お礼をするなら、このいざこざが片付いてからにしましょう。危険は去ってないんだから」


御嵩はそう言うと手に持った杖を黒い霧に変え、自分の刻印に戻す。黒い霧は何処へ消えるのかと目を追うと、向かった先は額。灰色の前髪が霧に触れて激しく靡いた。


「貴方は……」


「質問は今夜たっぷりと付き合ってあげるわ。今は同行者を安心させて来なさい。流石に鴉でも“彼”を引き止めるのは難しいから」


自分が質問を振る前に彼女は右の掌を前に出して制し、即答する。これ以上は言わせないらしい。と言ってもそれは自分の為に……だけど。


「解ったわ。また後にする。でも私は……」


立てないと言いかけt……。


「立てるわよ、もう。傷の治りが早い秘薬を使ったから」


「えっ……?」


即答されたときは冗談だと思った。だが現に全身に力を入れるが、さっきまでの激痛が嘘のように消えている。驚く間もなく御嵩に思い切り腕を引っ張られ、ベッドから落ちて無理矢理に立たされると、あっさりと自分は立つことに成功してしまった。これには思考がしばらくフリーズしてしまう。


「これっt……」


「問題はない筈よ。早く行きなさい」


そして彼女はさっさと急がせるように部屋のドアを開け、外に出るように促してくる。無駄を省きたいのか気が短いのか知らないが、自分がそのハイペースについて行けない。だが早くラウネン達の無事を確かめられるので、それでむしろ良かったと思う。


理性は完治していない足を庇いながら、ゆっくりとした足取りで部屋の外まで歩く。因みに襲撃の際に服は少し破れている為、彼女から予備の黒いマントを借りることになった。そうでなくては見た目が不味いので……。


「ありがとう、古河原さん」


一度振り返り、部屋の入り口にいる彼女に向かって軽く会釈する。真面目なだけ理性は感謝の気持ちを伝えることを怠らない。


「御嵩で良いわよ、“理性”。じゃあまた“深夜”、この部屋に来て下さい」


御嵩はそう言い残すと、部屋のドアを静かに閉める。いきなりの呼び捨て呼ばわりされたが、恐らく失言だろう。そう思うことにしましょう。深夜なら自分としても助かる。“夜”はラウネンとスクレーンを交えての今後の予定を話し合わないといけないから。


そして理性は安否をこの目で確かめる為、すぐさま宿の階段を駆け上がった。出会った始めての“裏”の味方に安心を抱きながら……。

意見、感想があれば投稿お願いします。


更新ペースが最悪の極みですが、気長にお待ち下さい。現在はこの小説が更新最優先になっています。

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