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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
異世界転移前
5/54

5 運命は正確に告げる

異世界転移前最終話です。

書いていたところ、自分の考えている筋書き通りに進んでいないことに気付く。(汗)

時刻8:11。荒杉はセブンスマートに着いた。夜の住宅街を一人で歩くのはやや危険が伴うが、たった200メートルごとき平気だった。一応足は速いと自負できる。何かあればコンビニか家に退避すれば大丈夫だ。


ピロリロリーン~♪コンビニ特有のメロディがこだまして流れ、足を踏み込む。晩御飯時なので結構客は多かった。弁当、おにぎりが次々と売れて商品棚から消えていく中で彼女は奥のパンコーナーの棚に向かう。若干量なくなっているものの、本命のパンは無事残っていた。


「よっしゃ!!今日はあった。いざ、覚悟!!」


荒杉は早速本命を他の輩に目前で取られる前に確保した。ときどきなくなるときがあるのだ。しかも存在を確認して他の物に目が眩んでいる隙に。その時ほど悔しかったものはない。


今日はこのバター〇〇ッチのみなので、他のスイーツには興味なくスルー。朝御飯の予定なんて既に決まっている。だから誘惑に取り憑かれる前にさっさと撤収。


荒杉はレジに商品を通してお金を払い、即行で外へ出る。ここ最近は漫画や雑誌に興味がめっきりなくなっていた。この疎さはギャップを生み出す原因のひとつだが、他の所でフォローすればいい、っと考えていた。無理に読んでもそれを楽しく話せなければ意味がない。それならそのネタを初めから知らなかった方がマシである。


コンビニから出る。現在8:18。


荒杉は目的の物をレジ袋に入れてハミングしながら帰路についた。すっかり上機嫌な気分だった。後で味わうだろうパンの甘さを想像しながら。しかし、国道1号線の信号には捕まった。


タッチの差だったので、ややムカッっときたがどうせ一分二分違ったって何の影響もない。自分の短気な心を収めながらその場で立ち止まって次の青の信号を待った。本線の信号が青に変わり、長蛇の列を成していた車や重量級トラックが一斉に動き出した。


みんな……大丈夫かな?荒杉は他の仲間のことを案じた。自分はいつか交通事故に遭うと書かれているが、内容が具体的である。自分以外はぼかされて、彼らはきっと何が起こるか分からない恐怖に怯えているに違いない。いずれにしろ、全員に不幸にされる状況は共通だ。


翔……。理性は彼の下の名前を呟いた。刻まれた刻印にあった。Myselfの単語。どうしても気になる。武器は不思議な力を宿している。武器自体自分の身体に溶け込めるのなら予言が出来る力だってあると疑ってしまう。交通事故が起こるのは多分本当だと思った。なら、翔は自分から何をしてしまうの?


刻印が嘘か本当かの証拠は自分の交通事故が関わる。もし遭ったら……。


荒杉は何気なく自分の刻印に目を落とした。そして背筋が凍りついた。刻印の表示が変わっていたから。


008

Traffic accident

Remaining hh:mm:32


直後、刻印の刻まれた腕がかつてない程に痛み出した。まるで腕が切断されたようなそんな痛み。


「うっ……くっ……」


その場に膝をつき、痛む方の腕を片方の腕できつく押さえ込む。何が……どうなって……。激痛に思考を奪われてちゃんと物事を考えることができない。できることはこのまま押さえ続けて少しでも緩和するためにそのまま動かないこと。


理性……今すぐそこから離れろ!!


不意に多代崎の声が強く頭の中で響いた。こんな声を聞いた記憶はない。だとすれば……これは……。


理性ははっとして顔を上げた。それは幻聴ではなかった。視線の先には多代崎が夜の道をこちらに息を切らして走ってくる。その距離およそ100メートル。その目は痛いほど必死だった。


自分を心配している。でも、これは……。荒杉は疑問が浮かぶ。どうして彼はこうなることを予期していたのか。


ギギギギィィ……。


その疑問に答えたのは多代崎とは反対側から聞こえたとてつもなく重々しいエンジン音と金属音だった。明らかに道路のガードレールに干渉している耳をつんざく金属音。険しい目でその方向を振り向くと、一台の大型トラックが自分に向かってきた。ガードレールをねじ曲げて破壊しながら。運転がふらついている。しかし運転手は起きていた。飲酒運転。その距離約50メートル。


その光景に荒杉は驚愕して思わず固まってしまう。そして多代崎が何故自分を探していた理由を悟った。


刻印。交通事故。謎の三行目の識別コード。多代崎はその意味が分かったんだ。もう荒杉も言われなくても理解出来る。あれは自分の交通事故遭遇時刻だと。


でも……。


荒杉は痛みに呻きながら震える四肢に力を込めて迫る運命に逆らおうとした。こんな……正確に運命を告げられてたまるか……。私にはまだ……やることが沢山ある。叶えるまで生きる!!まだ多代崎と離ればなれになりたくない。


しかし現実は残酷に理性の願いを粉々に打ち砕く。理性が動きの鈍い身体を引き摺り、多代崎の方へ振り返ろうとした時、荒杉の背後に白い光が落ちた。


ドーン!!というぶつかる音、自分にくる全身に激しい痛み、身体がバキバキに折れる音、宙を舞う視界……。何もかもが一瞬のはずなのにこの時だけスローモーションで見えた。吹き飛ばされる感覚だと分かる。


ドシャア!!最後に全身を叩きつけられ、荒杉の意識は消えた。一気に全てが闇で覆われてなにも見えなくなった。最後に見たのは多代崎の蒼白となった顔だった。


008

Traffic accident

Completed


現時刻 8月 1日 午後 8時 23分 14秒。刻まれた刻印通りに運命は寸分の狂いもなく荒杉 理性へ静かに告げた。



注)ここで話を切るつもりでしたが、このまま続行します。



「うっ……」


荒杉は目を覚ました。辺りを確認しようとしたが、視界が白い光に包まれて眩しいせいで周りがよく見えない。少なくとも自分が倒れていることだけは分かる。


ここは……どこなんだろう?手で下を触れてみる。冷たく滑らかで平らな感触。これは床だと知る。手を床について身体に力を入れて起き上がってみる。床だとすればこれは何の?

立ち上がると身体がふらついた。懸命に両足でバランスをとって支える。ここで自分が裸足であることに気づく。床の冷たさが直に足に伝わってきた。


頭が真っ白だ。それどころかボーっとする。思考が停止している。どうして自分はこんな場所にいるのだろう?何も覚えていない。


そのうち視界が慣れてきてぼやけた景色が鮮明に瞳孔の中に映った。


白い部屋。360゜全部。部屋の壁は汚れひとつ見当たらず、逆に不気味に見える。唯一部屋の中央に茶色の引き戸だけが場違いに屹立して目立っていた。


理性は他に出口らしいものを探した。しかし茶色の引き戸以外真っ白そのものだった。部屋にぶつかるべき壁が遠いのか手が届かない。どうやらここだけのようだ。


引き戸の前に立ち、取っ手を両手で握り、少し開けてみる。すると向こう側から涼しい風が吹いてきて彼女の青い髪が棚引いた。


ここが出口だ。理性は確信し、思い切り横に払って開け放つとその先に勢いよく飛び込んだ。何があるかも知らず。


出口だと思ったがそこはまたしても白いほのかな明かりが灯るどこかの薄暗い病室だった。病室だと断定出来たのは部屋が狭かったこと、ベッドが部屋の半分を占めて置かれていたこと、そしてベッドに誰かがその身を横たえ、傍に一人の少年が椅子に座り、寄り添っていることから。窓のカーテンは締め切られていて、その向こうは真っ暗なので今は夜だと見て取れる。


誰だろう……?荒杉は少年の隣に立って横から顔を覗き、動きが止まった。


座っていたのは多代崎だった。それだけではない。彼は顔を赤くして泣いていた。瞼には泣き続けた涙痕がくっきりと残って。まだ涙が頬を伝って流れる。こんな彼を見るのは初めてだった。


翔……どうして泣いているの?理性は悲痛に泣く彼に話かけずらかったのでそのままにした。そしてここが病室だということを思い出して自分の鈍感さを責める。つまり、誰かが死んでしまったのだろう。彼の家族、親戚?ベッドに横たわっている人は顔を白い布でかけられて誰なのか確認できない。そこで、理性は手を伸ばして白い布を外そうとした。何か嫌な予感がよぎる。


寸前まで彼女が伸ばしたところで多代崎は苦しそうに口を開いた。


「ごめんよ……理性。全部俺のせいだ。もっと早く伝えていたら……。お前を死なせずに済んだのに…」


「えっ……」


荒杉は耳を疑って思わず声が出てしまった。今、何て……。理解できない。しかも今の自分の声が聞こえていないように言葉が続く。


「いや、それ以前にあの時坂追を説得してあのまま放っておけば……。武器の呪いにかかることもなかったのに……」


坂追、説得、武器。あっ……!!


理性に失っていた記憶が戻ってきた。空から落ちた四つの武器、不思議な力、刻印、そして……交通事故。轢かれる直前に見た多代崎の必死の表情……そして蒼白となって私の前で立ち尽くした姿。


彼女は力なくうなだれた。そうだ……。私、死んだんだ……。交通事故で……。刻印の定めた通りに。抗うことも叶わずに。


虚ろな目で腕の刻印に目を向けた。やはり三行目は予想したままが残っていた。


008

Traffic accident

Completed


完了。機械的なメッセージが自分の人生の終りを明確に表していた。


理性はあまりのショックに多代崎の隣に崩れ落ちた。そして、多代崎以上に泣いた。目の前にあるのは自分の亡骸。もうそこへは戻れない。私は幽霊になってしまった。だから隣にいる多代崎に私の姿は目に映らない。この悲痛に泣き叫ぶ声も聞こえない。すぐ傍にいても存在すら……。


嫌よ……。


理性は喚く。まだ死にたくない。友達がようやくできて必死にギャップを埋めようと頑張ってここまできたのに……。あんまりよ……。私、みんなと一緒に居たかったのに……こんなの酷過ぎるわ!!それに家族とも離ればなれのまま……。


理性は暫くの間泣き続けた。涙が枯れてしまうまで。みんなと離れてしまうくらいならここで思いの丈を吐き尽くした方がいい。泣いたからといっても生き返ることはできないのだから。


そのうち、自分の身体が透明になっていることを知った。時間がごくわずかに迫っている証拠だ。最後に何か出来ることを理性はとっさに考え、思いついた。言葉にするのは辛かった。


翔……。理性は名前を呼び、目を閉じて震える手で多代崎の開いた掌に自分の手を伸ばした。どうせ私は透明な存在。触れようとすれば彼の身体をすり抜けるだろう。それでもいい。彼は私を救おうとあの時手を伸ばしていた。だからちゃんと届いたよ、と。せめて消える前に伝えておきたかった…。


そうして理性は納得し、その希薄な存在はこの世界から永久に消滅した。


そう言えば仲間の刻印はどうなっているの?消える直前にはっとなって気付いたが、考える前に意識が再び暗闇に沈んだ。


今回はここで終了です。これより下は注意を参照して読んで下さい。


Another Route

注)本編ではありません。創作する際に誤って出来た副産物です。


前文)…と。せめて消える前に伝えておきたかった…。


しかし、あり得ないことが起こった。理性の手と多代崎の手がすり抜けずに重なって触れたのだ。


彼の掌の感触がする。ん……感触!?理性は驚いて目を大きく見開いた。ちゃんと触れあっている。嘘じゃない……。手を動かしてみる。感触がある。透過していない。


多代崎の方もいきなり誰かに手を触れられてびっくりし、隣に死んだ筈の理性がいることに目を丸くしている。


「多代崎…?」


「理性…?」


お互いに確かめるように尋ねる。これはどういうことだろうか?

あらすじに書いた内容の話を消化していよいよ異世界編へ突入します。異世界転移話と言いながら前置きの話に時間を費やしたことは作者も予想外でした。


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