4 宣告
今回は話があまり動きません。
あれはなんだったのだろう…?
理性は帰り道もさっきの出来事について理解に苦しんだ。突然武器が消えた現象、大鎌の重さの消失、そして…。
第三の体験を思い出そうとすると背筋に悪寒が走った。死を連想させるあの冷たい感覚。まるで死体に触れたような、何かが自分を暗い闇の中へ引きずり込もうとするような。
あれから、私達は武器を個人で保管して封印することに決めた。初めから存在していた武器への憧れとは程遠く、武器のイレギュラーな性質を目の当たりにした後は単純に他者に被害が及ばないようにするためという目的に変わった。
さっき書いた状況とは矛盾しているが確かに私達は武器を持っている。正確には体内に。刻印として。
武器が消えた際、私達はある痛みが個々それぞれの箇所で発症した。ヒリヒリする痛み。分かり易く例えるなら焼き印を押された感じ。武器が消えた現象でイレギュラーな状況に対する驚きが麻痺したせいで、その後は比較的冷静に調べることができた。
私が痛んだ箇所は右腕の下側。その部分を擦るとチクリとする。見てみればそこにはさっきまで手に持っていた大鎌の刻印が黒々と皮膚に刻まれていた。擦ってみたが消えない。それだけに留まらず、その隣にもう三つ小さな文字で書かれたものがあった。
008
Traffic accident
(12digit omitted)8y-m8-d1-a2-20-23-14
何かの振り分け番号、交通事故。謎の数字。12桁省略!?どういう意味かわからない。ただ交通事故の単語は理性を不安に陥れた。
交通事故……?。自分は交通事故に遭うの?なら、いつ?どこで?謎の数字の意味にそれがある。しかし少なくともこれは…。
他の三人も例外なく刻まれていた。
坂追は背中に見つかった。公衆の面前でシャツを脱ぐ行為に抵抗は感じたが、検証の為にここは我慢する。彼が見せると薙刀と共に荒杉と同じ情報があった。
003
Warp in a space
(12digit omitted)8y-m8-d2-m1-hh-mm-ss
空間の歪み。なら坂追は空間の歪みに遭うということになる。本人曰く絶対ないな、と笑い飛ばした。そしてこの刺青は格好良いか?と緊張感もなく尋ねてくる。それに対して三人は口を揃えて彼に言った。
「貴方にはどう見てもミスマッチです」っと。
その後に地面に崩れ落ちた音がしたのは気のせいかな?をのれ~と地の底からの呻き声と一緒に。
基本的に12桁省略からm8までは共通なのは分かった。なら他の英単語の意味は?
次に白庄。彼女は肩だった。流石にはだけて男二人に見せるのは許し難いので理性一人がその識別コードを確認した。男には公衆から守って貰う壁として利用しながら。
006
Suddenly
(12digit omitted)8y-m8-d2-m1-h5-56-47
突然。一体何が突然彼女の身に起こるのだろうか?二行目は……原因の識別?実態はまだ掴めない。白庄は詳細不明で逆に震え上がった。今日、ちゃんと眠れるかな……、っと心細い声。いつもは常に冷静の彼女が挙動不審に陥りそうに見えた。
また彼女から一言。I want good sleep tonight!
うん。盛大にスルーしよう。
最後に多代崎。彼は手のひらだった。見易い、それと私と少し場所が近いと理性は思った。しかし、内容をみたとき驚愕した。
001
Myself
(12digit omitted)8y-m8-d2-m1-h2-m2-s1
自分から。それを読んで理性ははっとして多代崎の顔を見てしまった。彼は自分から何をするのだろうか?暗いことばかり考えていたせいでとっさに思い浮かんだのは自殺だった。他の二人もそう予想してしまって一時的に彼の身を案じたが、本人はそんなことする訳ないだろう、とその見解を否定した。そもそも、お前逹がいるのに自殺して苦しめない。それより助ける、と言った。
今は8月2日の午後6時。仲間逹は個々それぞれに別れ、自分は下宿先のアパートに帰った。帰宅後暫くしてベッドに寝転がっていると、刻まれた内容に対して警戒するようにと伝言板に多代崎からメールがきた。しかも理性に対しては特別心配された。交通事故という具体的な内容だったからだ。だから外に出る時は車に気を付けて、と念を押された。
理性は自分に対して理解を示してくれる多代崎の優しさが嬉しかった。今では何があっても味方で居てくれるはず……と安心しきっていた。
しかし一方で、ギャップを作り上げたのは紛れもなく自分であることは責任を感じた。多代崎はずっとギャップを許容し続けてきた。それは自分の個性を無理矢理彼に押し付けて理解を強引に求めていることになるのではないか…と。そして自分は多代崎の個性をまるで聞こうともしていない。
理性は携帯を閉じた。確かに友達の少なさに飢え、相手に友情を求め過ぎている。そして相手のことに見向きもしていない。今は高校生。一番自立しなければいけない時期。高校生の友達が全てではない。あと一年経てばそれぞれが違う道を歩んでいき、この友達関係最低限ラインのグループは解散するだろう。このままギャップを持ち続ければいざ大学に入った時に再び一人になってしまう。そこに同じようなグループが存在する保証はない。
自立しなければ……。でもそれを拒否する自分がいた。ずっと一緒で……楽しく過ごしたい。現実には無理と分かっていながら。多代崎は自立を求めるはずだから。
理性はいつの間にかまた暗い話を勝手に展開していることに気づいてため息をついた。いけない。まただ……。暗い話だけでは相手だって良い気持ちにするどころか不満にさせるだけなのに。これだからストレスが溜まる一方だ。もう少し前向きに前向きに。
「さて、と」
理性は両手をパチンッっと目の前で叩いて気持ちを入れ換える。
「こんなモチベーションだから関係が上手くいかない。…まずは、頭の回転を早くするために…」
ちょっと景気付けにセブンスマートのバター〇〇ッチでも買おっかな。勿論、晩御飯のあとでゆっくりと。……そうだ、晩御飯!!
理性は思い出して台所に直行。夏休みで浮かれ、久し振りに友達と再会したものだからうっかり気持ちが緩んでしまっていた。早速、料理に取りかかる。作るは日本の基本食卓、御飯と味噌汁。
約1時間後、それらはリビングの白いテーブルの上に並んだ。箸を添えて、飲み物は氷をコップ限界まで積み上げた麦茶。夏に飲むとこれ程マッチするものはない。まぁ人それぞれ好みが分かれるところだけど。でも、これだけじゃ寂しいからと理性は豚の生姜焼きとキャベツの山、渋いが壺漬けを追加した。
こうして今日の晩御飯は完成した。同然それらは一人で食すのだが。
「いただきます」
理性は手を合わせた。そして料理に箸を伸ばす。実は食べている間、理性は自分で作った料理を自分で分析していた。味付け具合から、栄養バランスまで。あくまで自身の基準なのでどこかに欠陥あるはずだが。
20分後、料理は全て理性の腹の中に収まった。それからは5分程時間を空けて食器洗い、夕方回収した洗濯物を畳む。20分経過。
「よしっ」
家事の前半戦は終了。ここからはテストの復習…。次の課題テストで復讐してやる……。坂追……あんただけは完膚なきまでに叩きのめす!!……っと言っておきながら、明日からひたすらにfreeな夏休みを過ごして忘れるのがオチだが。とにかく問題をちゃんと解いて理解しなければ気が済まないのが理性の性分だった。分からないことが嫌い。とにかく理解を求める。
でも、その前に……甘いものを。集中力が長引く食べ物を。……という訳でコンビニエンスストアへ。財布、携帯を入れた小さな皮鞄を肩に掛けて玄関のドアノブに手をかけて開けようとする。
外に出る時は車に気を付けて…。
多代崎の忠告が脳裏に浮かんだ。そうだ、刻印……。再びあの記憶が蘇る。交通事故。……気を付けないと。いつ遭うかあのコードからじゃ分からないけど今日である可能性も否定できない。
うん、大丈夫。過剰な程警戒すれば……。よっぽどのことがない限り遭わないはず。分かってさえすれば平気。怖がってたら何処へもいけない。
理性はただの迷信だ、運命がそんな正確に私を交通事故に遭わせるはずがない、と自分に言い聞かせた。
理性は簡素な青い服を着こんで玄関から外に出た。余談だが、彼らが住んでいるこの地域は雰囲気こそ都会風であるが駅周辺から少しでも離れると住宅街ばかりと自然たっぷりの地方都市なのだ。故に適度な涼しさを感じた。それはそれで心地よいが同時に涼しいことは蚊がそこら中に……。
「あ~もう。寄って来ないで欲しい。しかもこんなストレスの溜まった今日に限って」
寄ってくる蚊を手で追い払いながらアパートの階段を降りていく。夜は人通りがめっきり少ないから自分の足音がはっきり聞こえる。都会の人は田舎に移り住むと静か過ぎる環境に眠れなくなるらしい、と聴力が鋭い多代崎は言うが実際どうなのだろうか?ちなみに私は下宿はしているが、出身が甚だしく山に囲まれた村のお陰で気にせず。
それより、コンビニコンビニ♪スキップしながら夜の道路を歩いていく。目的地まで約200メートル。その間、大規模な信号の存在する交差点、見通しの悪い十字の小規模、歩道のない狭い道路など交通事故が起こってもおかしくない条件が揃っていた。やっぱり迷信でも可能性を潰しておこう。
外出した時刻、8月1日PM8:02。彼女に刻まれた刻印の表記は第二段階へ以降していることに本人は気づかない。
008
Traffic accident
Remaining hh:21:s2
残りはごくわずかだった。時間は非情なもので一秒ずつ残りを減らしてゆく。
同時刻、理性から3000メートルの場所にある多代崎の自宅にて。
「二行目までは分かった。この三行目の識別コードは何を意味してるんだ?」
多代崎自分の部屋の椅子に腰掛けて勉強机のに置いた手のひらを睨みつける。彼はグループ全員に貼られたコードがどうしても気がかりで家に帰ってからずっと解析を続けていた。ちなみに彼の家は四人家族の一戸建てである。今いる部屋は二階。下では両親と姉が夜のテレビ番組を視聴中といったところか。
彼は両親と姉には当然何も話していない。下手に家族を巻き込むのは避けたい。それに家族関係が上手くいっているのとは程遠い。
「一行目、これは人の識別番号。二行目はやっぱり共通事項が起きること前提で、その原因。三行目……。12桁省略……。あまりに桁が多すぎる。これは…暦か?」
多代崎は自分の刻印に目を向けて肘を机についてその手を頬に添えて考える。12桁以上の暦なんて聞いたことがない。取り敢えずこれは時間を表記しているのだと睨む。
次の項。今日は8月1日。……何か怪しいな。m8とd2。これが月日?どうやら0にあたる部分は英単語で埋めるのか。
yは年のyear、mは月のmonth、dは日のday。じゃあ、その下はまさか…。多代崎の血の気が引いていく。これが正しければ…。次々と謎が解き明かされていく。
第二のmはmorning、hはhour、第三のmはminute、そしてsはsecond!!
001
Myself
(12digit omitted)8y-m8-d2-m1-h2-m2-s1
変換すると。
個人識別コード No.1
原因 自分から
暦 (12桁省略)80年 8月 2日 午前2時2分1秒
彼の思考が停止する。つまりあと一日以内に何かが起こる。
突然荒杉、坂追、白庄の刻印を覗いた記憶がフラッシュバックしてきた。
白庄
006
Suddenly
(12digit omitted)8y-m8-d2-m1-h5-56-47
坂追
003
Warp in a space
(12digit omitted)8y-m8-d2-m1-hh-mm-ss
荒杉
008
Traffic accident
(12digit omitted)8y-m8-d1-a2-h8-23-14
誰が最も早く訪れるか、もう明らかだった。荒杉 理性の交通事故。それがもうすぐ起こるのか?
「おい、どうなって……」
不意に刻印が疼いた。多代崎が呻いたのは刻印に第四行目以降が浮かび上がったからだ。
Information 001
Traffic accident
Remaining hh:21:s2
異世界転移まであと少し。タグには異世界のことを書いてありましたが転移前に書きたいエピソードが膨らんだので話の展開が遅くなっています。