26 遺されたもの
一話でまとめるのに失敗しました……。二話になります。
作者の望む通りには進まないって……私達、一体何に振り回されているのかしら?by 荒杉 理性
Case by case だろ。by ラウネン=ジルアロン
あっ……英語被り。by 白庄 天海
ソルケット村が夜に包まれた。
村人は農作業から家に戻り、それぞれ家庭で夕飯をとりその他やることを済ませる。そして深夜になる前には布団に入り、窓からは灯りは殆ど消えてしまう。朝が早いという理由から……。
村全体が暗闇に包まれて家が暗い陰に変わり、音が自然のもので統一された。更には霧があるせいで余計に静寂が強調された。
その時間帯にとある家のドアがゆっくりと開かれた。そして中から出てきたのは若い青髪長髪の少女だった。少女はもちろん荒杉理性である。
理性は辺りの様子を伺い、誰も人気がなくなったのを確認すると外へ足を踏み出し後方のドアを音を出さずに閉めた。何故そんな慎重に泥棒の如く行動しているのか、それはこの行動は理性単独でありスクレーンやラウネンには秘密でやっていることだからだった。
(本当に……誰もいないわね)
理性はそれを確認すると家の敷地内で建物から死角に入る無人の隣家の陰で手の袖をまくり、肘の刻印に左手を添えた。もう何回もやったから手順はこなせる。
(出てきて)
理性がそう念じると黒い光が刻印から出てきて軽く握った右手の中に武器が出現する。この黒い光が夜の中で光るとまた不気味に見えた。
今回刻印の武器から出して手の中に納めたのは漆黒のナイフだった。漆黒のナイフは朧な視界の中で黒く月明かりを反射していた。
有雪は……自分のことを“消える”を司る死神と名乗り、実際に姿を消す能力を使うことが出来た。でもそれは彼自身が死神道具を手にしたときに発動するだけであって道具がなければ彼はただの人間。死神道具に頼っていたから出来たはず。でなければ最初の襲撃後にナイフを奪ったとき、その能力を使わなかった理由が合わない。
つまり……彼の使った能力は全部ここから引き出して使役していたと言える。この推測が正しければ……。
(自身の姿を消しなさい)
理性はそう念じた。自分の使う大鎌と同じ容量で強く。イメージすればすぐにその通りになると確信していた。だが結果は違った。
「あれ……?」
姿が消えたという感じがない。まぁ自分には分からないか、と隣家の窓を鏡代わりに自分の姿を見た。するとちゃんと自分の呆気にとられる姿が映っていて、持っていた自信がすぐに崩れ去った。
どういうこと……?理性には理解出来ない。願えばすぐに能力が発動するんじゃないの?ナイフを試しに振ってみるが変化もない。
ならば……と理性はもう一つの死神道具である漆黒の拳銃を取り出して同じようにやってみた。でも結果は同じで変わったのは自分に対する重さ補正くらいだった。
「ハァ……」
理性は上手くいかずにため息が出た。駄目ね、この道具。言うことを全く聞いてくれない。自分の物になったとしても思い通りにはならないって訳か……。
二つの武器を刻印に再び封印し、代わりに自分が愛用している大鎌を取り出した。慣れた感覚で刃を振りかざし、空を切って一振りすると定位置である肩にかけた。
仕方ないわね。あわよくばあいつが使ってた透明化能力(理性の推測)でみんなから姿を隠して首尾よく村から出られるのに……。そうして道具に不満をぶつけた。
理性は大鎌をしっかりと握るとその力を借りて全力で走り始めた。力補正で大人の男性よりも足は速い。
何故彼女が密かにしかも真夜中に単独でソルケット村の外に出ようとしているのか。それはラウネンが壊滅したオルフ村に置いてきてしまったという物を取りに戻るという目的だった。
オルフ村は壊滅し、今はかの人食い狼が遺体に群がっているときだろう。家はもう焼け落ちて殆ど残っていない。だが、燃えない物なら残っているはず。今ならまだ役に立つ道具が手に入るかもしれない。狼がいなくなれば今度やってくるのは盗賊の類いだ。その前に回収すれば……。
それに……。理性はもう一つ目的があった。目的とは亡くなった父親の遺品を持ち帰ることだった。何も父親が生きた証のないまま行くのは可哀想だと思った。
遺体はもう腐敗してしまっているだろう。いやもし、遺体がまだ残っているならば火葬して遺骨として弔いたい。自分一人でも。
数分経って理性は入り組んだされた村の道を抜けて外に出ていた。今、彼女はもう誰も使わないであろうオルフ村に続く森を貫く山道の上に立っている。彼の故郷までは一つ山を越える必要がある。なのでここからは壊滅した村の様子は分からない。
ところで何故村に運ばれ、この道について知らない彼女が村の外に出られたのか。それは……。
(理性、待ってたよ)
そう心の中でそんな声が響くと、彼女の近くの大木の陰から白い鱗の幼竜が顔を出し、自分に近づいてきた。そして彼女と向かい合った。
(ラウェンド……。また会ったわね)
理性は大鎌を刻印にしまうと彼に近付いた。
ラウェンド。今まで理性を密かに助け、傷ついたときには村まで運んでくれた命の恩竜である。前回まではラウェンド自ら進んで自分を助け、更にはラウネンも救ってくれた。村の外までの誘導を手助けしてくれたのは彼だった。心同士の会話は離れていても通じる。ラウェンドはここから理性と会話していた。
(傷は……大丈夫?)
白竜は心配そうに首をもたげ、理性の身体にまだ怪我がないか見下ろしてきた。心を読む能力のある彼には自分が無事であることにその内気付くだろう。
(大丈夫よ。もう歩けるまでには回復したから)
(それで……本当に行くの?)
ラウェンドは確かめるように尋ねてくる。その緋色の瞳の色は真剣そのものだった。今回の行動には彼は反対していた。
(行くわ。だって……)
心の言葉を止めて、口元が小さく歪んだ。そうして理性は躊躇いなくラウェンドの長い首筋に右手を添えた。
(誰だって形見は持っておいた方がいいじゃない……)
白竜は彼女がラウネンのことを大事に思っていることを能力で感じ取るとやや表情に暗い陰りが見えた。
(そう……だよね。やっぱり……思い出とか、思い出せるから……)
うなだれて寂しそうに彼は言った。まるで自分のことも構って欲しいとでも本当は言いたいように。
(落ち込まないで。貴方のことだって大事に思ってるから)
(誤魔化さなくていい……。僕には分かるから。……嫌でもね)
ラウェンドは頭をゆっくりと振ってそれ以上の慰めを拒否した。
その言葉が理性の胸にぐさりと突き刺さった。辛いのはラウネンだけではない。たぶん、この子だって……。
(そう言えば貴方……どうしてあの時、有雪の居場所が分かったの?)
心を読み取る能力からふと、そんな疑問が湧いて出た。自分では全く見えないものをどうして彼は見えるのだろう?
(分からない……)
(えっ……どうして?)
意外な答えに理性は困惑した。彼にはその自覚がないのか?
(でも……そこにいたのは分かったんだよ。だから……)
上手く説明出来ずにラウェンドは口をつぐんだ。まだ幼いのか能力をあまり理解していないらしかった。でも知性は高い。何だかよく竜という生き物の本質が分かりづらいと思った。
(助けてくれてありがとう。貴方には沢山の借りがあるわね。でもまた……私がまた貴方に頼んでる)
(いいんだよ。これまでは……僕が進んでやったことだから……)
そう言うとラウェンドは首を曲げて鋭角な頭で自分の背中を指した。
(ほら……。背中に乗って……。時間がないから、早く)
(そうね。行きましょう)
理性は彼の言う通りに後脚を土台に背中に乗り、首の付け根のまだ角が丸い背中の棘の間に座った。これまで理性は倒れて運ばれただけなので、こんなちゃんと竜に騎乗するのは初めてだった。
(ちゃんと……座った?)
(ええ、大丈夫よ。オルフ村までお願い)
(じゃあ……しっかり掴まってて)
その答えをラウェンドは聴くと静かに四本脚で壊滅したオルフ村に向けて走り出した。乗り心地は馬より悪かったが、風のように速かった。
残り時間は体内時計換算で約5時間。もちろん徹夜覚悟で理性とラウェンドは挑んだ。
約1時間後。理性とラウェンドはオルフ村の領地に足を踏み入れていた。当然人気はない。まず、村に入ってすぐのラウネン達の畑に置いてきたソルークのバッグを彼の背中から降り、回収した。中身はまだ荒らされておらず、水などの食料も虫に食われてはいなかった。
(まずは一つ回収出来たわ。あとは……)
ここはまだ中枢ではない。問題はここからだった。自分は今から悲惨な状態の中を通るだろう。狼に食われたグロテスクな遺体を当たり前のように目撃する。恐らくその光景は地獄だと予想出来る。
しかも……。
(理性……大丈夫?)
ラウェンドは彼女の異変に気付いて声を掛けるが、彼もまた声が震えていた。
(大丈夫よ。でも……)
(怖いよね……)
(うん……)
真夜中にそんな遺体の残る場所に戻れば幽霊を目撃する可能性が高い。ちなみにオカルトに理性は弱かった。またラウェンドもまだ幼いせいで近寄ることを怖がった。そして両者とも本心は怯えている。
(でも……そんなこと言ってたら先には進めないわ。勇気を出して行きましょう)
バクバク鼓動が早まる心臓に手を充てて自分を落ち着かせながらラウェンドの背中に回収したバッグを乗せ、自分も後に続く。
(分かった……。僕も……怖いけど、頑張ってみるよ)
(それに……私だって一応は死人よ。同じ存在に怯えるなんて情けないわ)
(……)
ラウェンドはそれ以上は何も言わずにゆっくりと足を進めた。理性は亡くなった人間にはごめんなさいと謝りながら荒らされた集落への道の先を見つめた。
「うっ……!!」
ソルークの家への道中、やはり遺体は見かけた。ラウネンの言葉通り、人食い狼の仕業なのか食われていて原形を留めていないもの、バラバラなもの、目にする度に吐き気を覚えてしまう。また、襲撃時に見た遺体が悲惨な状態にされているのを知ると折り合いを一度つけたとしてもやはり涙が溢れてしまった。
ラウェンドも遺体を踏まないように気を付けて跨いで先へと進む。彼にも悲しみの感情で密かに哀悼の意を捧げているのが理性には分かった。
襲撃の際の家の火事は既に収まり、残されたのは焼け落ちた建物の残骸と瓦礫の山だったのが見えた。日数が経っているのにまだ燃えた残骸から焦げ臭い匂いが漂って理性とラウェンドの鼻を刺激する。
しばらく死の道が続いた後、ようやく彼らはソルークの家に久しぶりに帰還した。家は焼け落ちているが、それ以外は襲撃時のままだった。
門を通り、中に入ると家屋の傍には一人の人間が倒れていた。それはラウネンを守るために命を犠牲にしたソルークの遺体だと理性はすぐに分かる。
(ここで私は降りるわ。後からついてきて)
(分かった)
理性はラウェンドの背中から降りた。そこから徒歩でソルークの元へ歩み寄る。ラウェンドは彼女の後を神経質に周りをキョロキョロしながら後に続いた。
「……」
理性は目を細め、遺体を見下ろした。襲撃時から惨状は変わっておらず狼にも荒らされていない五体満足の状態だった。
自分が死んだら……ラウネンを頼む。
彼はそう言い残した。そして本当に彼は死んでしまい、自分がラウネンと一緒にいる。結局はそんな望まなかった結果となってしまった……。
「大丈夫です。私がちゃんと……彼を守りますから……」
理性は遺体に手を合わせた。自分が責任を持ってラウネンの面倒をみると、心の中で誓った。自分にはそれしか出来ない。罪滅ぼしには決してならないけど。
(ラウェンド、探すわ。手伝って)
(うん……)
そうして理性はソルークから背を向けて壊された家屋の中から使えるものがないのか、ラウェンドと一緒に探そうとした。
その時だった。背後から突然声が聞こえたのは……。
「理性……何故戻ってきた……?」
声は死んだはずのソルークの声だった。理性とラウェンドが振り返り、両者とも目の前のものに驚愕した。
立っていたのはソルーク=ジルアロン。服装は死んだ時のまま、外傷はない。だが、身体は透明に透けている。全体が青白く光っていて、彼は自分を見つめていた。遺体はその下にまだ存在している。
幽霊……としか思えなかった。そして両者の最も恐れていたものが……出てきた。
現在、作者は大急ぎで次話を執筆中です。一話でまとめられるのは不可能と思い知り……。汚名返上中です。追加した意図としては壊滅した村をそう簡単に捨てることは出来ないと踏んだからです。戦線離脱したソルークを放置出来ないので。
あーあ。これで何度目かな?by 坂追 竜治




