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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
異世界転移前
3/54

3 イレギュラー

キーアイテム登場です。

理性は常識外れが嫌いだ。例えば鉄道の車内で携帯電話を使わない、コンビニに売られた本を立ち読みしないなど、とりあえず周りからすれば真面目過ぎる少女だった。ご遠慮ください=するなといった解釈をする具合で同学年の生徒からはその真面目さが仇となって上手く友達関係がいかず、結局ギャップ満載のこのグループに拾われた、という経緯だ。常識外れが嫌いな理性だが、それにも関わらず空想系の小説を溺愛していた。表向きは真面目でも心の中ではこんなことが起こって欲しいとか、あり得ないものに心惹かれた。自分でもこの矛盾に疑問を抱いていたが、それは心の底で狭すぎた価値観を克服したいが故だと思った。


自分の主張を表に出す程周りとの隔たりを感じた。このまま隔たりがあり続けたら自分は取り残される。そう危惧した。授業中でも問題を寸分の狂いもなく解き続けていると、周りから称賛よりも冷たい視線が浴びせられる。それをずっと耐えていた。グループにすら話さず。


テストは終わった。大会シーズンが近いこともあって普通の学生は部活動、または下校する。ちなみに私達のグループは部活動に所属していない。坂追や多代崎は運動能力と特殊能力が相まって充分通用するはずだが、その他のギャップの関係で上手くやっていくことができない。白庄や私も似たようなものだ。私は真面目、白庄は言葉遣いの不自然さが影響した。


という訳でいつも帰り道は四人のギャップ集団で帰るのだ。帰路でやることは人それぞれ、しかし固まって。鷹の目の坂追は遠くを見据え新しい発見を伝える。例えば800メートル離れたビルの屋上で男女が告白して振られている、とか。白庄は言葉遣いを自然なものにしようと古語辞典に目を通す。多代崎は二人の話に乗って耳を傾けそれなりの反応と解答を返す。今の坂追の解答は持ち前の聴力から、浮気が原因だから、と。私はそれらの会話で突っ込める所に介入して正論を言う、またはぎこちなくふざける。そうやって約3キロの帰り道の時間を過ごす。今日もいろいろあったな、と呟きながら。


毎日のように全員の別れる道の手前の公園に差し掛かった時だった。突如、多代崎の足が止まる。


「どうしたの?」


荒杉は多代崎の横に並んで様子を伺った。多代崎は目を閉じて何かに集中していた。荒杉はその様子から遠くの音を聞き分けようとするものだと分かった。


「何かが落ちてくる……」


多代崎はばっと頭上の夕焼け空を見据えた。しかし視力が平均な彼には見えない。しかし坂追なら…。

坂追は頭上を見据えた。今日の太陽光は眩しいが幸いここが日陰だったので影響は少ない。鷹の目を持つ彼には見える。人間離れの聴力と視力ならすぐに危険を察知できる。


「あれは……!!」


「何?」


理性は尋ねる。


「すぐにここから離れて!!」


坂追が珍しく緊迫した声で叫び、自分は数歩先の公園内へ走る。彼のこの様子は普通ではないので三人は本能的な恐怖感を覚えて坂追の後を追う。


三人がその場を離れた瞬間、元いた場所からガシャーンと金属同士がぶつかり合い、アスファルトの上に落ちる大規模な音が背後から聞こえた。その衝撃音に全員は耳を塞ぐ。キーンと甲高い金属音がしばらく続いた。


「なっ……何なの?」


理性はうろたえながら仲間に目をやる。坂追の鷹の目と多代崎の脅威的聴覚でみんなは落下点から4メートル離れて回避できて無事だった。


「分からない……」


直接目視した坂追さえ、何なのか確認できていないようだ。坂追は見上げてすぐに危機を察知して避難したのだからまともに見るほど時間がなかったはずだ。鷹の目の目視距離からすぐに落ちてきたということは相手は相当の速度で落ちてきた推測が立つ。それは一体……。


「みんな大丈夫か?」


多代崎は心配するように声をかける。念のため薬を取り出してみんなに目を配る。

幸いちょっとした傷もない。三人は揃って大丈夫だと返事を返した。


「おい、あれはなんだ……?」


坂追は訝しく落下地点を振り返った。その言葉に釣られて全員が落ちてきた物へ振り返った。そして驚きのあまり、言葉を失った。


四人を襲った物体の正体は4つの武器だった。剣、クロスボウ、薙刀、そして大鎌。どれも不気味な漆黒に染まっていた。しかも四本全てが地面に刃を向けて突き刺さっていた。ちなみにボウガンは刺さっている訳ではない、正確にはセットに付いた矢筒から出た一本である。剣に至っては鞘に納められたまま。残りの薙刀と大鎌は刃を出していた。


「何?……コレ……」


荒杉は目を細めて警戒しながら、これらの武器に近づく。とても気になったからだ。他の三人も近づいて落下物の周りを囲んだ。そして個々それぞれの推理を始める。


「落ちて来る速さが尋常じゃなかったぞ。飛行機から落ちたのか?」


距離感と鷹の目から坂追は予想した。だが、こんなものを飛行機に乗せるなんて……。


「なのに何故、これらが壊れないんだ?」


理系なりの見解を出すのは多代崎。


「unbelievable!!」


未だに今の出来事を受け入れられない白庄。


確かに仲間の反応はもっともである。坂追の見解について、私では目視することが出来なかった。白庄は当然。言葉にするまでもない。


多代崎の見解には自分も眉をひそめた。坂追すらとっさに回避にしてしまう程のスピードで落下したのにも関わらず、どれも壊れず傷ひとつついてない。自分の見解を追加すれば、飛行機から落ちたのなら一緒に荷物箱の欠片くらいついてくるはずだ。なのにその欠片すら見当たらない。しかもこんなに固まって落下してくるものか。


武器自体も気になった。どう考えても時代が違うような…。飛行機で運ぶにして、こんな輸送物。映画の撮影にでも使うつもりなのか。理性は首を傾げた。


「映画の撮影に使うにしては不気味過ぎるな。悪役に持たせるなら、文句なしだけど」


坂追は両手を首に当てて鼻で笑った。試しにと言わんばかりに4つの武器のうち、薙刀の柄に手を掛ける。


「おい!!」


多代崎は坂追を呼び止めた。しかし言われた当の本人は意に介さない。


「勝手に触ったら駄目だろ。少なくとも持ち主がいるはずだ。多分、何かで大事にくるまれていたものだから下手に傷つけたら賠償モノになる」


「大丈夫だって。それにこのまま道路の真ん中に放置しておく方が不味いと思うけど」


坂追は分かれ道の全てに目を凝らした。まだ、車の影すら現れない。安全を確認してから彼はヨイショッっと気合いの声と共に漆黒の薙刀を地面から引き抜く。


ザクッ。という地面を抉る音を立てて坂追の両手の中に収まった。


多代崎はその無責任な行動に呆れたが、ため息をつくと突き刺さったままの黒剣の柄を握った。


「ちょっと、多代崎」


ショックから立ち直った白庄は止めようとする。納得することに懸念していた。


「警察呼んで回収してもらう方がいいよ。私達で解決できる問題じゃないわ」


あくまでも保守的な意見を述べる。


多代崎はそれに対して首を横に振った。


「別に解決しようと考えてない。最低限この道路を通る車の邪魔にならないようにここから動かしておくだけだ」


黒剣を持ち上げて鞘を持った。その光景は何となく理性にとってはかっこよく見えた。


「何か地味にboth共そのweaponにmuchしてる。futureだったらモテたかもね」


白庄は時代のミスマッチさにハマったらしく、彼らの光景に笑いをこらえている。


古語混じりでなく英語混じりの言葉遣いが出現して理性の頭の上に?マークが幾つも浮かんだ。


「あんた、古語混じりの方が好きじゃなかったの?何か英語が得意に見えるけど気のせい?」


「?何の話?」


白庄はとぼける。


「それよりも、二人共残った大鎌かクロスボウどっちか運んで欲しい。この剣だけでも物凄い重い。悪くけど手伝ってくれ」


剣を持った多代崎が割り込んだ。どうやら分担して運ぶらしい。ただ、そんな重いものをこちらに運ばせるその発言は問題じゃないの?突っ込みたい。


だが、そんな元気もないので理性は疲れた口調で白庄にすぐさま提案する。このまま放置していたらどんな惨事が起こってしまうか想像がつかない。


「まぁ…いいわ。それじゃ私はクロスボウ運ぶから白庄は大鎌持って」


「はぁ!?」


とっさに白庄は反駁した。どうやらこちらの意図に気付かれたようだ。


「何気なく私に重い方の荷物頼んで。雰囲気に流そうなんて、そうはいくものですから」


10秒後……勝負は決した。じゃんけんで。


「ということで荒杉、あんたが大鎌ね」


勝ち誇った顔をわざとらしく見せて軽いクロスボウを手に取った。見た目通り、白庄が片手で持てるくらいに軽かった。ついでに矢筒を肩に掛けた。


「はぁ~。いかにも重いって感じじゃない」


理性はガックリと肩を落として黒鉄の鈍い輝きを放つ大鎌の柄をまず、右手一本で握って持ち上げた。思ったよりも格段に重い。柄ですらこの滑らかかつ冷たい感触からして金属製に違いない。


よりによってこんな舞台道具を…。空から落とした飛行機を恨まずにはいられない。それにしてもやっぱり右手だけじゃ流石に駄目か。そう思って荒杉は左手を添えて力を入れようとした時、不思議なことが起きた。


「あれ……?」


重さがなくなってる?右手だけで持った大鎌の地面についていた刃が浮いた。数秒前は重かったものがいつの間にか軽くなって片手で持つことが出来るようになった。


重さがなくなっていく感覚。言葉では表せないものが直に感じる。そして同時にこの大鎌はただの舞台道具ではないと直感した。恐らく、他の3つも。


「荒杉、どうかした?何か驚いた顔して」


多代崎が彼女の異変を察知して声を掛けてきた。彼の左手には漆黒の剣が握られている。もしかして……。


「多代崎、その剣軽かった?」


荒杉はおかしな反応が返ってくることを覚悟で尋ねた。どうしても気がかりだった。これが本当なら、空想小説からの知識から本物の魔法がかかったものかもしれない。


「軽い?そうだな……。言われてみれば…。さっきより重さが消えてるような。どうしてそんなことを?」


多代崎は鞘に納められたままの黒剣を軽く素振りした。ヒュンと風を切る音が聞こえる。鈍い音の欠片すら残っていない。


「確かに…。何だ、この感覚……?」


坂追は不思議そうに手の中にある薙刀に目を落とした。恐らく理性と同じことを感じ取ったに違いない。


「私のクロスボウは一向にそんな気配しないけどどうしてかな?」


白庄はクロスボウを上げ下げして確かめているがどうやら無反応らしく自分だけ……と不満そうに顔をしかめる。


「そりゃ、クロスボウ自体元々軽いからじゃないか?それ以上軽くしてどうする。風吹いたら飛んで行くぞ」


多代崎はふっと笑う。一方の剣は軽くなったおかげで今では普通に肩に担いでいて本当に軽そうに見えた。しかしそれからはまた態度を改めて真面目に三人に話した。


「取り敢えず、こんな道路の真ん中に固まっていたら不味いから公園の中に持って行くか。それからこれらの処遇を考えよう」


「いや、武器持ってる時点でもう危ない集団に思われるから」


荒杉が大鎌を多代崎の真似をして肩に掛けて鋭い指摘を入れる。ただ、刃で首をうっかり切らないようには気を付けているが。



「荒杉のその格好、踏み込んで言えば死神に見えるよ」


白庄は突然不快なことをストレートに吹き掛けた。そんなにおかしいのか含み笑いを始めるので、流石にお人よしな理性でもカチンときて口がいつの間にか動いてしまう。


「死神……?ほう……白庄。それは聞き捨てならぬお言葉。成敗するわ!!」


荒杉は馬鹿にされて堪忍袋の緒が切れそうになる。無意識に古語混じりになっていたことに気付かなかった。


「待て。争うのは後回しにしてくれ」


そこに多代崎が入る。二人は争う気満々だったが、リーダーの言うことは殆ど重要なことなのでここは抑えて彼に耳を傾けた。


「おかしいと思わないか?」


多代崎が真剣な表情でみんなに呼び掛けた。剣を隅々まで観察して推理しようとする。


「何が?」


白庄は首を傾け、理性とお互いに顔を見合せる。理性も同感だった。


「こんなに大きな騒音を住宅地のど真ん中でかましたくせに周りの家が無反応なことか?」


坂追は鷹の目で周囲を見渡して反応のあるものを調べた。反応の気配すら見当たらないようですぐに視線をこちらに戻した。


「確かに、言われてみれば……」


荒杉はすぐ側の一戸建ての家に目をやった。家には人がいるはずなのに窓から覗こうともしないなんて…。


その時だった。

全員が持っている武器が突然光り出した。しかし光りは明るい色彩とは間反対のどす黒い、闇を連想させる漆黒の光だった。一緒に冷たい風も吹いてくる。


黒い光に包まれた柄の冷たい感触が変わっていた。死の感覚。言葉で表せない、異質なもの。本能的な恐怖感が身体中を駆け巡る。三人も同じものを体験しているのか硬直してしまっている。


荒杉は悲鳴をあげそうになった。何か黒い物が自分を飲み込もうとしている。持っていたくない。自分が…壊される!!持っている大鎌を手放そうと右手を開いた。だが、手放す直前、黒い光は視界に溶け込むようにして消滅した。


「え……」荒杉は目の前で起こった現象に目を疑った。


大鎌が手の中から跡形もなく消えていた。

ここからは大分更新まで期間が空きます。今書けているのが、この第三話までなので。異世界転移するのは少し後です。というよりこのあたりが転移前に外せない重要なシーンという理由から。

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