22 粘られた反撃
作者としても旅を始めたい……のですが、この場面は外せないので一話分程伸びてしまいました。すいません。
「……今の音は!?」
理性が何か嫌な予感を感じてすぐさま音が聞こえた方向に視線を移した。向けた方角からは夕焼けに混ざって黒い煙が狼煙のように立ち上っていた。しかし土地勘が分からない彼女にはそれがどこを示しているのか理解できない。
「村からだ!!」
ラウネンが指差し、驚愕の表情で叫んだ。彼も嫌な予感を感じているらしい。爆薬の欠片もない村からの爆発。それはあることを示している。
「ラウネン、理性!!お前達はここで待っていなさい」
ソルークは二人にそう呼び掛けると自分はバッグを置いて中から何かを取り出した。バッグの中からソルークが出したのはラウネンが持っていた組み立て式の剣であるロマシンクスだった。その部品である長い金属棒五本を中心にバラバラに分解され、穴を開けられた刃を一本の棒にはめていく。
「父さん……まさか……」
ラウネンはこれが何を意味するかを理解したのか震える声で言葉を口にした。理性もその行動に驚愕する。
「嫌だ!!僕も戦う!!」
ラウネンはソルークと同じようにロマシンクスを組み立てようとした。が、しかしソルークに強引に腕を掴まれその動きを阻まれた。
「ラウネン!!お前はまだ戦うには早過ぎる。こんなことで失いたくない」
ソルークは息子のためを思って説得を試みた。しかしそんな言葉ではラウネンは引かなかった。
「こんなこと!?何がこんなことだ!!戦うならもう十分非常事態なんだ!!」
ラウネンは感情的に叫ぶ。理性からもその思いは痛い程に分かった。故郷を愛する気持ち。自分はこんな状況に立たされたらどう行動するのだろうか?
「お前はここにいろ!!」
ソルークは拒否するラウネンの胸ぐらを掴み拳でで強烈なパンチを放った。理性はその攻撃に思わず両手で口を押さえた。
バシッ!!
ソルークの一撃でラウネンにかなり効いたのかよろめいてその場に崩れそうになる。理性はそんな彼を支えた。よく見るとラウネンの意識は沈黙してしまっている。
「理性、悪いが息子を頼む。これは彼の為なんだ」
ソルークの目は苦悩していた。それは本当はこんなことをしたくないということを暗示している。
ソルークはロマシンクスを片手に二人に背中を向けて走り出そうとする。
「待ってください」
理性は父親を呼び止めた。父親の動きが止まるがこちらを振り向くことはしなかった。
「何だ?」
「もし、あなたが……」
理性は嫌だが最悪の事態を想定し、彼に尋ねた。しかし彼女が最後まで言わないうちに即答した。
「その時は理性、後をよろしくな」
そう言い残すとソルークは走り出し、夕焼けの森の中にその姿を消した。
理性は自分も行くと本当は言いたかった。しかし気絶したラウネンをここに残して行くのは危険だと思い、断念した。彼を見下ろすと完全に沈黙。当分はここから離れることは不可能になった。
「ラウネン……」
自分は不味いことをしてしまった。あれは恐らくあの男の反撃だ。ナイフを取り返そうとして炙り出しにかかっているんだ……。まさに最悪の展開だった。
自分が行けば村のみんなを助けられるかもしれない。でもそれは彼を一人にすることを意味する。一人になった彼は必ず村に向かうだろう。
なら、自分はどうすれば……。
無常にも時間は過ぎていく。
「うっ……」
しばらくしてラウネンは理性の膝の上で目を覚ました。頬には殴られた痣がくっきりと蒼く残っている。そうして理性を見上げ、震える声で尋ねた。
「理性……?どうして……」
「貴方を介抱してたの」
理性はこの状態でも恥ずかしがることなく真剣な目で彼の質問に答える。自分のせいで今も村では大変なことが起こっているのだからそんなことはどうでもよかった。
「僕なんて置いて助けに行けば良かったのにどうして……?」
ラウネンは身体を起こして彼女と向き合うと詰め寄ってきた。理解出来ない、と口に出さなくても顔には書かれていた。
「貴方を一人には出来なかったの。ごめんなさい……」
理性は自分の行動力のなさと父親の言い付けを守り過ぎる真面目な性格を憎み、彼に謝罪した。許されないと分かっていながら。
理性の言葉に対して彼は現実と自分の心情をそのままに突きつけた。
「なんで……。村と僕を天秤に掛けて僕を選ぶなんて」
ラウネンが理性に言った言葉は冷たかった。その冷たい刃は自分の胸にぐさりと突き刺さった。覚悟はしていたが実際言われると辛かった。
「ごめんなさい……」
理性は耐えられずまた謝罪を繰り返す。しかしすぐに彼に遮られた。
「もうそれ以上言わなくていいよ。謝ったって何も変わらない」
ラウネンは更に厳しく言い放つと地面に落ちたロマシンクスを拾い上げて残りを組み立て、腰に刃が剥き出しのまま差して立ち上がった。そしてポケットに狩猟用のナイフを入れる。
「行こう、理性。みんなを助けるんだ。それで返せばいい。後悔するだけじゃ何も始まらない」
今度は自分に奮起を促していた。先人の意見に従うだけではなく、自らその結論を導き出すことを。つまりは今ある硬い殻を破れということだった。
「ええ……。行きましょう」
罪悪感を完全に払拭は出来ない。でもそのまま立ち尽くすのは嫌だった。今からでも……間に合わせる……。
胸の内がとても苦しく痛む中、それと戦いながら理性は必死で激しく過去を責める自分を制した。
ラウネンは彼女の意志が固まったことを悟るとソルークが余分に持ってきていた大きな鞄の中からボウガンを取り出して自分に差し出した。
「ほら持って。理性にも武器は必要だよ」
しかし、理性は差し出したボウガンを見て動きが止まる。そして少し間を空け受けとることを拒否し、首を横に振った。
「どうして……?」
ラウネンはその意図が分からず丸腰でいることに困惑した。
「これがあるから……」
理性はそう言って黒い刻印を指先で指し示し、刻印に念じて大鎌を外に出した。もう秘密を隠している場合じゃない。人の命が掛かっているのだから。
黒い光と共に大鎌が形になって出てくる光景にラウネンは言葉を失い、驚きのあまり目を大きく見開いた。
「理性、これは……」
固まるラウネンの右手を理性は間髪入れずに強引に引っ張ってあの不思議な力を今発揮させて走り出そうとした。
「いいから、行きましょう。話はあとで聞かせるから」
今度は理性が強い口調で彼に呼び掛けた。時間が惜しい。本当は説明したいがそれはいつでも出来る。自分勝手だけど。
対してラウネンは何か恐れるような目を少しだけ見せたが、すぐに立ち直った。
「……分かった。よし、行こう!!」
理性とラウネンは一緒に襲撃された村へ急いで向かった。荷物はそのままここに置いていくことにし、必要な武器だけ持って。
「みんな!!大丈夫!?」
二人は山道を走り、オルフ村に急いで戻ってきた。距離が離れていて爆音と煙が立ち上るのは尋常な事態ではない。やはり何かに襲撃されたのは明らかだ。
ラウネンはロマシンクスを、理性は漆黒の大鎌を片手に戦闘態勢を維持しながら村の中に突入した。
「「……!!」」
二人は目の前の光景に言葉を失った。
そこは地獄だった。家同士の距離は離れているが、全てに火の手が上がり、中には焼け落ちているものもあった。門は壊され、何かに荒らされた痕跡が見受けられる。
そして何より現場には人間の死骸が転がっていた。何人も。近づいて死体をひっくり返すと焼け死ぬどころか皆刺し殺されていた。家から無理矢理引っ張り出されたのだろうか。そして誰もが息をしていない。
「誰か……返事をして!!」
「おい!!誰か生存者はいないのか!!」
ラウネンと理性は他の家を当たりながら大声で村人達に呼び掛けた。しかし何の返事もなかった。代わりに見つかるのは死体ばかり。中には老人から子供まで混ざっていた。そしてそれに鴉が群がっている。
「酷い……こんな……」
映画で見たような殺戮であり、その本物の惨状を見て理性は立ち竦んだ。そして犯人の容赦ない攻撃の有り様に怒りと悲しみを覚えた。
全部……自分のせいで……こんなことになってしまったのだろうか?だとすれば自分は……。責任の重さに押し潰されそうになる。
ラウネンも同様のことを考えているらしく、彼の場合は感情を押し込めているが、ロマシンクスを握る手には力が籠っていて長剣の刃が小刻みに震えた。
「こんな状況だと分かって戻った馬鹿親父はは一体どこにいるんだよ!!」
ラウネンは怒りのあまり咆哮すると破壊された村の中を走り、自分の家に向かっていく。もはや彼の感情が暴走していた。
「ラウネン!!」
理性も大鎌を片手に警戒しながら後を追っていく。その道中にも自警団の兵士の死体が幾つも転がり、鴉があちこちで空を飛び交い不気味な雰囲気を出していた。
辿り着くとやはり家にも火の手が上がっていた。倉庫も例外なく荒らされて外には木箱とその中身が散乱してやられている。
そんな中、ラウネンは家の玄関前にいたある死体の傍にうずくまり、俯いていた。ロマシンクスを投げ出してそれを激しく揺さぶって何度も呼び掛ける。
理性はその死体が誰なのか遠くからでも見えたが、事実を呑み込めずに頭が否定しようとした。そして理解に苦しんだ。
ラウネンがうずくまっている死体はついさっきまで自分と会話を交わしていたソルーク本人だった。瞳は固く閉じられ、心臓を貫かれた刺し傷から流れる赤い血だまりが周囲に広がっている。
「そんな……」
理性はその場に膝をついた。助けに向かうのが遅すぎた。自分も彼と一緒に戻っていればこんなことにはならなかったかもしれないのに……。
「父さん……父さん!!目を開けてよ!!こんなことでやられないって言ってたくせに!!」
ラウネンの悲しみの声が誰も返事を返さない村に響き渡った。この状況の中で耳に入るのはパチパチと燃える音、彼の悲鳴くらいのはず……だった。
「おっ……あったあったあった。ようやくこの努力が報われたってもんよ」
唐突に背後から明るい感じの低い声が聞こえた。二人はハッとして後ろの家の門を振り返った。理性は誰だか予想がついたので煮えたぎる怒りを持って目を向けた。
各家全てが荒らされていることから犯人は何かを探しているのは目に見えていた。そしてその通りだった。
彼らの前に現れたのは全身黒いマントを羽織った少しロングヘアーで金髪の男。最近理性を襲撃し、村を恐怖に陥れた犯人でもあった。そのときは分からなかったが目の色はオレンジ色だった。
「やっぱりあんただったのね。こんな酷いことしたのは」
大鎌を右手に構えて理性は犯人を睨みつける。今までで一番強い殺意が心の中で目覚めていた。
男は彼女の態勢に怯むことなく、逆に余裕の表情を見せて冷静に話し掛けてきた。
「酷いことだって?馬鹿言うな。こっちの所有物盗んだのはあんたじゃないか」
男は手ぶらの両手を広げて周りの惨状を指し示した。
「当然の報いだよ。まぁ、このナイフなしで村を壊滅出来るかの実験したいっていう暇潰しな理由も混ざっているんだけど」
そうして彼はマントの中にあるポケットからあるものを取り出した。
それは漆黒のナイフ。
「……!!」
理性はとっさに自分の腰ポケットに手を入れたが、そこには何も入っていなかった。
「いつの間に……!!」
自分は何が起こったのか分からず、男を見据えた。
「俺の能力を侮るな。俺は“消える”を司る死神だぜ」
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