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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
第2章 物語はゆっくりと動き出す
22/54

19 犯人は誰なのか……?

秋は近し。されど紅葉を見るにはまだ早し by 白庄 天海

理性は飛んで行ったマントの人間を睨み付けた。フードは殴られたときに取れて見えなかったその顔が見え、正体が露になる。


フードの中から現れたのは自分より年下らしい男性だった。髪は金髪でやや長い。何故か顔が汚れている。


理性は彼の反撃に警戒しながら近くに落ちたナイフを拾う。刃は漆黒。持ち上げるとやや重たく感じる。しかし少し経つと重さが嘘のように消失して軽くなる。始めて大鎌を手にしたときと同じ現象。


間違いない。この武器といい、刻印の存在で動揺する振る舞いといい……。彼もまた私と同じ……。


その時、視界の片隅で男の姿が動いた。理性はとっさに大鎌を持ち、新たな攻撃に備えて構える。


しかし男は反撃などしなかった。理性と一瞬向かい合い、黒い瞳で睨み付けチッと舌打ちすると踵を返して走り去ろうとする。


「待ちなさい!!」


理性は貴重な情報を逃すまいとあとを追い掛けようとする。武器を取り上げるだけでは意味がない。話を意地でも聞き出してこの状況を知りたい。


直後、理性と男の間の地面が爆発した。恐らく向こうの補助としての武器だろう。理性は近くの木の陰に隠れてやり過ごす。


しかし衝撃波が収まると今度はビキッという不気味な音が響いた。ハッとして爆発音のした地点を見ると、上がった白い煙の中から黒い陰がこちらに倒れてきた。爆発で傍の大木の幹を破壊したのだ。


ギギィ――。


理性はとっさにその場から離れて別の大木に避難する。


バキバキバキ!!


倒れた大木は他の木を巻き添えにしながら地面に倒れた。そして木片が周囲に撒き散らされる。


「くっ……」


片手で顔を覆い、土埃が舞う中理性は目を細めて男がいた場所を改めて確認する。


しかし男はもうそこにはいなかった。


「逃がしたわね……」


分からない……。理性には疑問符が幾つも浮かんだ。何故自分を襲うのか。どうして刻印があるのか、そして……。


左手に握られた黒いナイフに目を落とす。男の唯一手に入れることができた所有物。これは恐らく大事なものだ。なのに取り返しに来ないのはどうして……?


ナイフの表面を指で怪我しない程度になぞっていくと柄の辺りの刃表面に溝があった。そこに注目するとそこには刻印が刻まれていた。


089

Wish

Completed


識別番号と何かの単語。これがさっき襲ってきた男の情報だろう。ここに来た原因はWish。願いという意味。白庄の刻印くらいに謎だった。こんな世界に突然送られることを望むなんて頭がどうかしてる。この推測、杞憂だといいけど……。


じゃあ自分は?と理性は大鎌の刃表面の刻印を探すと持ち手の上部分に自分の識別が刻まれていた。つまりは自分が持ち主だという証を表すらしい。


「まてよ……」


もし、このナイフが自分の大鎌と同じ部類ならあれが起こせるのだろうか?


(刻印に戻りなさい)


理性は軽くナイフに向かって念じた。しかしナイフは消えなかった。代わりに自分の大鎌が黒い煙と化して右肘の刻印に封印されてしまった。


何回か試してみたが結果は変わらずに理性の手の内に収まったままだった。


「理性!!今度は何があったの?」


この状況でラウネンはさっきの音を聞きつけて再び戦闘準備万端の状態で大木の隙間から姿を現した。彼は理性の無事な姿に安堵するが、倒された大木が近くにあることを目にして現場にいた彼女に詰め寄る。


「これはどういうこと?」


惨状があまりに酷いので顔面蒼白になって尋ねてきた。


「何でもないわ……。ただ大木がいきなり倒れてきただけ」


自分と共通点がある相手に襲われた、とか取り敢えず襲撃されたことを隠そうとした。彼には何の関係のない。だから……。


「何でもない訳がないだろ!!この様子からみて!!」


ラウネンは怒鳴り、その惨状を指差して理性を睨み付けた。理由を隠されることに対して納得していないようだった。


「大木がそう簡単に倒れるはずがない。それにあの穴は何?」


爆発のために地面がえぐり取られた痕を指差した。その痕は明らかに自然とは思えないものだった。


「それは……」


「本当のことを言って」


ラウネンには完全に心配されている。今誤魔化したとして今後のことを考えるとあの男の反撃が来ることを今伝えるべきだと理性は結論に辿り着いた。でもそれでいいのか……躊躇ってしまうが。


「襲撃されたの……突然」


理性は嘘をつくことが出来ず、渋々正直に真実を口にした。どちらかと言えば後先を見据えての決断だった。


「……誰に?怪我はなかった?」


理性が襲撃されたことにラウネンは怒りのあまり肩を震わせている。自分が傍に居なかったせいで危険に晒された責任も感じているようだった。


「分からないわ。取り敢えず怪我はないけど向こうは逃げた」


「特徴は?村の人間だったら僕が知ってるから、教えて」


理性は目を閉じて襲撃された記憶を呼び起こして相手の特徴を思い出して簡潔にまとめてラウネンに説明した。襲撃のショックでその映像が鮮明に覚えている。顔から発せられた殺気から感じた身体が冷たくなる感覚。それが中核を成していた。


「特徴は髪がロングの金髪。目は黒で全身黒のマントを羽織っている。歳は僕に近い、か……」


彼はう~んと顔をしかめて思い当たる節を探すが、すぐには出てこない。記憶の深い所まで踏み込んでいるらしい。


時間を大分費やし、理性は結論を待ち続けてようやく少年は顔を上げた。


「僕にはそんな人を見た覚えはないよ。少なくともオルフ村の住人じゃない」


「私も自分の世界の人からあたってみたけど面識はないわ」


「面識はないにしても、どうして君を狙ったんだ?」


「……」


理性は押し黙る。さっき自分が悩んでいたことだ。でも自分が原因なのは間違いない。ラウネンの周りが該当しないなら私しか。


「何よりも理性が無事なら僕はいい」


「えっ……」


理性は彼のその言葉にドキッとした。現代ならばカップルくらいの関係の人間が口にするような言葉だからだ。


「……?どうした理性?」


「なっ……何でもないわ」


取り乱していて言葉に詰まった。そこまで自分を心配しているなんて……。


「顔が赤いぞ」


「だから……何でもないから!!」


頭をブンブン振って疚しい思考を振り払った。向こうはそんなつもりで口にしたんじゃないのに自分が動揺してどうするの!!


「それより私が仕留めた獲物はどうしたの?」


話題を逸らそうと自分が手駒を握っている話にシフトさせた。自分は……多代崎の方が……。


「ああ、それね……」


ラウネンは背中に背負ったバッグからかくばった大きな木箱を取り出した。蓋の隙間には血痕がベッタリとついてる。


「この中に入れてあるよ。他にも袋詰めにしたりいろいろと」


「重そうだけど大丈夫?手伝おうか?」


理性はラウネンが背負うバッグが膨らんでいることに自分が何もしない訳にもいかず、進言した。


「助かるよ。じゃあ内臓辺りの肉を運んで欲しい」


そう言って生暖かい皮袋を差し出してきた。口は紐で縛ってあるが感触と……匂いが……強烈過ぎる。


「うっ……!!」


皮袋を右手に持つと空いた左手で鼻を押さえた。野獣臭い。動物ってこんなに匂うのね……知らなかったわ。うぇ~。


「そんなに匂いキツい?」


「ううっ……(キツいです)」


「帰るよ。このまま居たらまたその男に襲われるかもしれない。それに……」


ラウネンはそこで一呼吸置いた。


「この肉って狼を呼び寄せるからね」


「!!」


狼。またあの人食い!?それって不味いんじゃないの?理性はどんな目に遭うか予想できるので余計に焦った。


「だからさっさと撤収撤収」


ラウネンは剣を抜いて周囲を警戒しながら元来た道を戻る。理性はボウガンと使ったを回収しながらその後に続いた。漆黒のナイフをポケットに忍ばせて。





「襲った理由が分からないなら完全にこの事件は八方塞がりだね」


森を抜けて家に通じる道を並んで歩いているときにラウネンは話題を引き戻した。


「それより父親にはどう説明するの?」


「それも問題だな」


ラウネンはばつが悪そうに答える。この事を伝えれば父親がどんな反応をするのか火を見るよりも明らかだった。


「たがらと言って隠しておくのも危ないわ。ちゃんと話しておくべき」


理性はあくまで真面目を突き通すことを強調した。隠しておいて後で父親が襲撃されてしまったら後悔するに決まっている。


「確かにね。それにオルフ村全体で警戒しておかないと不味い」


「爆弾を持っているなら尚更のことだわ」


「バクダン?何ソレ?」


ラウネンが未知の単語に引っ掛かって理性に食いついた。


「説明すると長いから省略するけど、要はあの現場で起きた現象よ。貴方は魔法の仕業とか微塵も疑わなかったの?」


ラウネンは首を傾げた。彼は魔法について片言でも知っているはず。要はあれを再現可能か否かの答えが欲しかった。


「魔法の仕業だと思ったけど……。理性は違うの?」


その問いには首を横に振って答えた。やっぱり杞憂だったみたいね。


「魔法で出来るならいいわ。ちょっと気になっただけ」


理性はこれ以上話を脱線させないように彼の追求をかわした。魔法だったらラウネンみたいなこの世界の人には見分けがつく。だがもしこっちの知る未来兵器なら……。


不安が理性の思考の中ををよぎった。


まとめるとあの男の武器はナイフだけじゃない。多様な武器を組み合わせて攻撃する人間。ただ、相手の不思議な力の根源は黒ナイフだと思う。取り返しに来るのは必至だ。


時間は過ぎて太陽が傾いた頃になった。結局二人で暗い話題を交わしたまま家の門の前に立っていた


「何か折角狩猟が出来たのに喜べないね」


「そうね……」


ラウネンは重くため息をついて警戒の為に抜いていた剣を鞘に納めた。そして理性からボウガンをもらうと家の玄関のドアに手を掛けた。家の中は真っ暗で父親は仕事から帰ってきていないようだった。


「「ただいま」」


二人してそう言って家の中に入るが、中には誰もいない。出ていった時のままの状態で迎えてくれた。


理性はそのまま椅子に座り込んだが、ラウネンは携帯していた武器を外すと剣は壁に掛けて、それ以外は武器用の木箱の中にしまった。仕留めた獲物の肉は特定容器に移して保存した。


「これで夜は肉が食べられるな」


ラウネンは気分を切り換えて理性に話かけるが本人の表情は暗い。


「理性……」


理性は自責の念でいっぱいだった。襲撃に遭ってラウネンに心配されて……。村全体が危機に晒されて……。規模が段々と大きくなってる。


そして何よりも私がみんなを巻き込んでる。知らず知らずのうちに。自分の世界では多代崎に迷惑を掛けた。でも今度は……。


「理性……?」


理性はハッとして我に返った。目の前にはラウネンがいた。


「何?」


「大丈夫だから……」


ラウネンは理性が自分(理性)を責めていることに気づいて声を掛けてくれた。


「……分かったわ。私、深く考え過ぎたみたいね。ごめんなさい」


自分は迷惑を掛けてばかりだ……。ラウネンの優しさに安心つつ、理性は悔しかった。

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