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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
第2章 物語はゆっくりと動き出す
18/54

15 話はよくズレる

空間という単語は曖昧な定義で成り立っています。

作者は気分屋だという言い伝えらしい by 白庄 天海

(理性……)


自分を呼ぶ声がする。でもこれは幻聴かもしれない。暗闇からの高い声。幼い子供の。


気のせいだろう。また眠りの中に入ろうとする。記憶にこんなのあったっけ?


(理性!!)


「うっ……く」


さらに大きな声に理性ははっとして目を覚まし、ベッドから起き上がった。今の声はもしかすると……。


(ラウェンド、近くにいるの?)


まさかと思い、心の声を出してカーテンで隠れた外に呼び掛けた。


(そうだよ。理性……大丈夫?)


極度に心配する口調。さっきから夢の中まで響いてきた声はやはり彼の仕業だった。普通の物理的な声とは違い、テレパシーに近い声なので心に直接伝わる。だから意識が夢の中でも届くのだ。


(あなた、どこにいるの?)


(すぐそこに。家の前)


それを証明するように壁越しに草を踏みつける重々しい音が聴こえてきた。


(どうしてここに……?あなたが人里に近付いたらいけないのは分かってるでしょ)


理性は昨日のラウネンの怒りの籠った宣言を思い起こし、警告を発した。念の為に隣にいる本人の様子を調べるが今のところはまだ眠りに落ちていて、寝息をたてるくらいなので状況は大丈夫だと判断する。


(でも今は貴方以外は寝てるから……。それにあれからどうなったのか心配で……)


(なら私のこの思考から判断すればすぐに理解できるはず。なのに……直接会いに来なくても)


話から推測して彼は意識の有無も読み取れるらしい。ならば自分が想起した記憶も相手には見えた。そこまでしてもまだ……。


(自分の目で確かめないと納得出来なかったから……)


本音は個人的な理由だとあっさり吐いた。偽の言い訳だと説得できないと思ったのか。


理性はため息をついて隣人を起こさないように(危険度Sランク)ベッドから起き上がり靴を履き、足音を殺して部屋から出る。木の床がギィーっと小さく悲鳴を上げるが放置。次に玄関のドアを開けて外に飛び出す。


外は太陽が昇って間もないので薄暗い。追加して何故か霧に覆われている。そして家の敷地から離れた場所に白竜はいた。


(だからと言ってそれだけでリスクを犯すなんて……。付け加えると私は2日前にあなたに助けられただけで……)


ブツブツ文句を思いながらラウェンドの前まで歩み寄った。なぜ自分なのか。そこまで親しい仲でもない。まして種族も違うのに。人里に降りる危険を承知で。


(過保護過ぎ?僕って)


白竜の緋色の目がまばたきする。


(ええ。むしろ保護されるのは貴方の方だと思うわ。まだ幼竜でしょ?親の元にいないとそれこそ私が心配する)


(でも良かった……。無事で)


ラウェンドはホッと胸を撫で下ろす。肺活量が桁違いなので息を吐き出すと理性の身体がその風でぐらついた。


(で……来た理由はそれだけ?)


手を腰に当てて尋ねる。力は向こうが上でも態度はこちら側が有利だった。


白竜は理性を見上げる感じで頷いた。何となく彼女が不機嫌な原因は何なのか理解したようだ。


(来てくれたのは嬉しい。けど私の眠りを妨げないで欲しかったわ。ただでさえ疲労困憊なんだから)


(ごめんなさい。心配だったのもそうだけどちゃんと別れを言いたいと思って……)


ラウェンドは寂しそうに話す。確かに人里で暮らせばそうなる。でもそれが正しいこと。むやみに関わればお互いに立場が危うくなってしまう。だからこそ……。


(貴方はもう私の所に来ないつもりなの?)


呑み込むのに時間はそうかからなかった。冷静にそこは納得する。


(うん。竜はこの世界だと忌むべき存在だからね。貴方に迷惑がかかっちゃう)


自分を卑下するような、嘲るような口調で辛そうに話した。本当は違うのだろう。竜の中でも彼のように……。


(また会える?)


白竜の柔らかい鼻先に手を置いて理性は名残惜しそうに聞いた。


(たぶん……)


その返事と共にラウェンドは頬を押し付けてきた。一緒にいた時間は少ないのに彼はどうしてこんなに心を痛めるのか。ふと疑問が浮かんだ。


そう考える間にラウェンドの頬が離れた。目には苦し気な感情が見える。


(さよなら……理性)


彼の言葉に躊躇いはなかった。


(さよなら、ラウェンド……。助けてくれてありがとう)


別れの挨拶を交わすと白竜は背中を向けて鈍足ながらも走り去っていき、森と霧の中に消えていった。


あまりにあっけない別れ。しかしまた会える予感がする。そう遠くない未来で……。


ラウェンド……。あの白竜は不思議なイメージとして記憶に残りそうだ。竜はこんなにすぐに警戒を解いたりしないと思う。だが彼はその例外な性格。それは心で解ったからあんなに親しく接してきたの?本人は去ったので真相は謎のまま。


でもまた会ったときに聞けばいいか。今はこの立場から行動を……。


「理性、朝からそんな所で何やってるの?」


背後から声。思わずひぃ!!っと叫びそうになったが、そんな悲鳴を上げれば聴覚敏感な白竜が戻って来そうなので抑える。


振り返るとラウネンがショボショボした目をごしごし擦りながら立っていた。髪の毛はボサボサで呑気に欠伸をしている。


「おっ……おはよう。急に話かけないでよ。寿命が縮むわ」


気配を感じなかったのは自分が鈍感だから?と自身のビビりな性格と聴覚に疑念を持つ。ヘッドフォンは付けない主義なんだけど。


「おはよう、理性。そっちこそ急にいなくなるからネガティブなことを考えて責任感のあまり卒倒しかけたよ」


「それは……貴方の考え方に問題があったと思うのですが?」


取り敢えず、とラウネンは言い、理性がさっきまで見つめていた視線の先を左手を額に当てて眺め、自分と対比する。


「何やってたの?何やら道の先を凝視してたみたいだけど」


少年は質問した。鋭い。流石山育ち。視力は2.0以上あるのでは?


「えっと……朝の日の出を見て気持ちをリセット……じゃなくて新たにしようと……」


理性は即席の理由を作り疑いの目で睨むラウネンの言及を回避しようとした。


「へぇ~。……でもまぁいっか」


「えっ、どうして?」


意外な反応に困惑する。


「嘘つくのが苦手ならそのうちボロを出すと思うから」


「うぅぅぅ……」


確かに自分はボロを出してしまうがこの件は残念ながら細心の注意事項。そう簡単には言えない。別の目で見れば彼は反竜派。しかも過激派と映る。


「さて、今のうちに今後の予定を立てよう。親父が出掛けて行ったことだから」


「ええ……ってはぁ!?」


理性はブルーの瞳を全開にして驚く。もう外へ行ってしまったのか。時計の類いは持っていない(服以外の持ち物は死んだときに消失していた)が感覚的には今午前6時くらい。それより早いとなるとどれくらい早起きなのか……?


「もういないの?」


確かめたくてOnce more please.


「君の世界とは違って時間に厳格じゃないからね。ちなみに今日は農作業+狩猟だって」


「狩猟ね……しゅっ、狩猟!?」


二刀流。そんな多才なことをしてるの?、とこの世界の農民のパワフルぶりに脱帽した。自分の世界の人ならまずやらない。


「父さん、一応狩猟は趣味でやってるから。一度森の中に踏み込んだらなかなか出てこないよ」


「それ、忍者みたいね」


理性は率直な感想を述べ、ラウェンドがソルークと鉢合わせになってるいないか心の底で心配した。


「さて、朝御飯にしよっか」


「解ったわ」


二人は家に戻った。





ソルークが事前に用意してくれた朝食を摂るとラウネンは理性を今のテーブルに残したまま、大事なものを探すからと説明して、父親の部屋の中に入った。直後に色々と物を動かす音が聞こえてきた。私も手伝うと提案したが、本人に断られた。男のプライドが許さないとか何とかという変な解答により。


「理性、あったよ!!」


喜びの声と共に閉ざされた扉がひらいたのは十数分後。その間は居間に置かれた家財道具をさらに詳しく調べて暇を潰したが、楽しみどころか地味でため息の連続だった。


ラウネンの手には巨大な巻物があった。使い古されてそうに紙が黄ばんでしまっている。触って見ればざらざらした感触。


「ちょっと待ってね」


ラウネンは巻いていた留め金を外すとその巻物をテーブル一杯に広げ、端にあらかじめ用意した重しの石を置いて固定した。


広げられた巻物には様々な形と文字(読めない)が黒いインクで詳細に記してある。世界地図的な……。


「これって……?」


「この世界、通称空間スタールテランの地図だよ」


「空間?」


世界の名前に呼称?そんな話は初耳だった。なら私の世界は地球……なのかな?


「あれ、知らない?てっきり知っていると思って敢えてそう呼んだけど」


「貴方がこの世界について話すのはいつでもできるって言ったから私は何も知らないわ」


「……そうだった」


しまったとばかりに軽く拳を握って自分の頭をコツンと叩いた。


「えっと……空間の説明をすると本題から逸れるけどいい?」


「なら、簡潔に教えて」


「えっと……」


話をまとめようと腕組みし首をかしげてラウネンは考え始める。しばらく間を置いて上手くまとまると口を開いた。


「空間っていうのは異世界の共通名称のことで一つ一つ区別できるように後に名前が付けられているんだ。でも、普段はこんなスタールテランなんて名前は使わない。あくまで使えるのは相手が異世界の住人のときだけ」


「貴方は異世界の存在を知ってるの?」


「まさか……。君が現れて異世界から来たとか言わなければ伝説だって思ってたよ」


両掌を上げてお手上げ状態のサイン。


「じゃあ、異世界の名前ってどうやって決めたの?」


「さぁね。僕らただの人には解らないよ。初めから空間スタールテランってついていたのが今の通説かな。そして世間一般だと呼ばないのがルールになってる」


「どうやったら異世界へ跳べるの?」


質問の嵐は止まない。もしかしたら生きている仲間だけでも元の世界に帰せるかもと一瞬ひらめいた。


「伝説の話だよ。そう簡単には出来ないよ。君の世界の価値観に例えて見ればタイムマシンを造るようなものだ」


「魔法なら?」


「魔法も機械と似て色々と法則が決まってるから無理。普段起こらない現象なら異世界に跳ぶとき法則を外れないといけないってことだろ?」


自分の世界での人々の夢を引き合いに出されて理性は納得させられる。加えて魔法にも現実があると聞かされると夢が萎んだ。


「じゃあ、その伝説は誰から知ったの?」


「空間生物」


その言葉に理性はどんよりする。宇宙人みたいなイメージが浮かび上がるのは私の気のせいか。そして話が段々おかしな方向へズレてきたような……。


「何……ソレ?」


「伝説上の生き物」


また伝説か……。と思うが更なる疑問が彼女の口を動かす。


「なら……私はどんな生き物?」


「あっ……」


しまったと言いたいのか口を押さえる。


「つまりは私は伝説の……人間?」


「そういうこと」


即答する。


「私を見てどう思う?」


「」


自分は質問ラウネンは解答するこのやりとりは何だろうと思う。本題は?話の筋は?


「まさかその伝説今作った?」


「それはない」


理性はため息をついた。そして後悔する。私の本性明かして良かったのだろうか、と。


「もう本題に戻りましょう」


彼女は宣言した。ややこしい立場ね、私のいるポジション。

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