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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
第一章 異世界に順応すること
13/54

12 その後……

家の中と外の温度差激し過ぎてついていけねぇ~。

by 坂追 竜治

結局、理性はラウネンに連れられてもと来た道を遡り家に戻された。せっかくここまで来たのに、と抗議したいところだが今は助けられている身。ここは彼らの厚意を無碍にしたくないので大人しく引き下がった。


彼は家に戻ると最初に食べ物がかなり減っていることに気付き、そして台所に積まれた皿の山に驚愕しこれ、理性が……?と尋ね、頷くと僕の楽しみが………と何か大事な物を失ったように悲鳴をあげてガックリとその場に膝をついた。そういえば骨付きの牛肉(焼いてあった)の味が妙に美味しかったような……。取り敢えず彼に謝罪した。


一応食べ物の消失から立ち直ったラウネンは自分がバーサーク食いした食器を汲んできた井戸水で洗い(勿論、私は手伝った)、食器棚にしまうと、農具を母屋の隣に建つ木造の奥に細長い茶色い(全部木製?)倉庫に置いてようやく彼同伴の元、近辺(彼の基準なのでかなり広く)を案内された。大半は川に辿り着くあのゆったりとした探検の途中で見かけたものばかりだったが、彼によって詳しく補足が加えられたのでちょっとした発見があった。中でも例を挙げると、何気なくスルーした道端には隠れた近辺に住む村人用の近道が存在し、いざという時の場合に備えて蜘蛛の巣状に広範囲に渡って張り巡らされているらしい。いわば現代に直せば避難ルート?といったところか。他にもあるが挙げればきりがないのでここでは省いておく。


そんなところで彼による案内をメインとした村内巡回は数時間費やし、再び家に戻ったときには太陽が西に傾いた夕方になっていた。流石に異世界といえども太陽の動きは同じらしい。むしろ太陽以外って?と思いついたときに同時に思った。


家に帰宅したが、まだ彼の父親は帰っていなかったのでラウネンは父親の為に夕食を作ると言い出した。しかし、いつも毎日の農作業で一緒に行動していたせいで如何にも見よう見まねで料理しようとしていたので、ずっと受け身でいた理性は我慢できずに協力して調理することにした。メニューは貧しい農家よろしく質素な雑炊(もどき?)だったが、贅沢言っていられない。理性は、一人暮らしで培った知識を最大限に利用して(無論この世界の食材など知らないので、食材知識はラウネンから借りた)、残った肉(理性の食べ残しである。しかし手を付けなかった生き残り)とフェク(しそに近い色と形の雑草)と一部の香辛料を材料に調理した。技術レベルが離れているせいでかまどの扱い方に苦慮したが、それ以外は恐るるに足らなかった。


「ねえ、理性」


黒い陶器の鍋と火加減に目を配る理性に椅子に腰掛けてちらちらと申し訳なさそうにラウネンは話を切り出す。


「何?」


本人は鍋から目を離さずに返答する。もはや調理の主導権は彼女が握っていた。


「料理得意だったんだね……」


「一応ね。まあ、この世界に来る前は一人暮らしだったから、家事の一つはできないといけないから」


その返答にラウネンは何か思いつめたように押し黙り少しの間考え込む仕草を見せた。何かいけないことを言ってしまったのか、と理性は不安に駆られるが違った。でも、やはり彼が最も気にするのは世界の違いを指す単語だとは口に出さずとも分かる。


「何か異世界から来たっていきなり言われて最初は信じ難いと思ったけど、君の話を聞くと本当みたいだね」


そうだよね、と理性は心の内で呟く。


「理解されなくて当然だと私は自覚しているわ」


彼はまた黙り込む。どうやら言葉をどう選べばいいのか迷っているようだ。


「唐突だけど……君のいた世界について教えてくれる?」


その突然のお願いに思わず彼の方を振り返った。そして話すべきか躊躇った。何故ならば何度も言うがギャップがあり過ぎるという根本的な意味で。


「いいけど……。あなたは理解してくれる?どんな事実でも」


「構わないよ」


即答された。そこまで言うのなら本気だと直感で感じた。この少年は自分のことを知りたがっている、と。


「ならいいわ。じゃあ最初に……」


その時だった。背後からシューと嫌な音が聞こえた。目を離した間にまさかと思って振り返ると雑炊の入った鍋から白い泡が吹き出していた。紛れもなく吹きこぼれだった。


「嘘でしょ!!」


理性は火を止めようとする。しかし現代の楽過ぎる技術とその癖が災いして本能的にコンロのつまみを探そうとしてしまった。あるはずもないのに。


「ど……どうやって火を消し止めるの??」


軽く思考が停止した。そうしている間も鍋の中身が悲鳴をあげている。折角の料理が台無しになってしまう!!


「えっと……こうやって消すんだよ」


ここでラウネンが前に出た。両手には小さな木のバケツ。中にはたっぷりと水が入っている。その光景に理性は嫌な予感がした。確か、かまどに水をかけてはいけないはず。もしそうすると……。ま、まさか……。


「ちょっ……それはダメー……!!」


理性が止めようとしたが時既に遅く、次の瞬間、ジュワーという音と一緒にモクモクと水蒸気と灰が盛大に吹き上がった。





「あなたって料理するのが初めてそうとはすぐに分かったけど、ここまで知らないことにこっちが驚いたわ」


お互いに水蒸気と灰のダブルパンチを食らいゴホゴホと咳をしていた。しかも窓の換気だけでは済まされずに未だ白い灰が部屋の中を舞っている。こんな目に遭ったのは小学生の野外活動以来だ。


「でも、料理は無事で良かった……」


「これで本当に無事だといいんだけどね」


理性はため息まじりに呟いた。床に視線を落とせば白い灰がそこら中に落ちている。それを目撃して農作業から帰ってきた彼の父親がどうリアクションするのか火を見るよりも明らかだった。それに、ラウネンに目を向ければ髪の毛に灰がかかっている。となれば自分とて例外ではない。


「取り敢えず掃除するか」


「当たり前でしょ」


呑気な発言にすこしイラッときたが押さえておいた。


「じっ……じゃあ倉庫から箒持ってくるから待って……」


彼女の怒りの籠った声にビクッとしたラウネンは慌てて外にある隣の倉庫に直行しようと玄関のドアを一気に開け放った。そして次の瞬間には両方の表情が凍り付いた。


ドアをあけた先には40~50代くらいの男性。髪は黒で、それ程の長さではない。身長は180センチ前後。目の色は茶色。服装はラウネンの農作業服と同じ。顔は心の広そうな雰囲気を漂わせている。


恐らくこの人がラウネンの父親なのだろう、と理性は確信した。


「おお、今帰ったぞラウネン」


何も知らない父親はいつも通りであろう言葉をかける。しかしそれはラウネンにとってプレッシャー以外の何ものでもなかった。


「お……お帰り、父さん」


後ろから見ているが、ラウネンの首筋には汗が滴っていた。しかしだからと言って自分は無関係とも言い難い。同じく冷や汗が流れた。


「どうした?そんな怯えた顔をして……ってええええええええ!!」


流石にモクモクと中から出てくる煙に気付かない訳がなかった。そしてがしっと息子の両肩を強く掴んだ。


「ラウネン……これはどういうことだ?」


昔ながらの熱血親父みたいな脅し方だった。今の親はここまで熱く言葉をだせるのか、と自分の世界と少しだけ比べてみた。


「そ……それはその……」


「はっきり言え!!」


口ごもるラウネンに更なる怒鳴り声が部屋に轟く。こんな怒り方は理性にとって初めて見るものであった。その理由はそんな失敗をするのが稀でいつも優しく注意されて終わっているからなのだが。


「今日の夕御飯を作ろうとして……」


「窯に水をかけて火を消してこうなったと……」


父親は彼の言おうとする言葉を繋いだ。全てお見通しだ、と断言するような鋭い剣幕でラウネンを睨み付ける。確かに窯の使い方の初歩的なミスだ。ここまで強く怒られても文句はいえまい。


このままだとラウネン一人が責められてしまうので理性は勇気を振り絞って怒り心頭の父親に声を掛けた。


「私がやりました……」


緊張して声が小さくなったが、向こうには聞こえたらしく顔がこちらを向いた。最初こそ攻撃的な視線を浴びて怖くなったがすぐに何かに気付くと雰囲気が一変して元の優しい父親の顔に戻った。


「君は……。そうか、気がついたのか……」


父親は安心したように安堵の息をついた。が、話題が切り替わり気持ちがほぐれかけたラウネンに横目で鋭い眼光を向けて牽制した。あくまで逃がさないつもりらしい。この無言の圧力にラウネンは凍り付くしかなかった。


「体は大丈夫なのか?」


「はい。何とか」


すると、父親はかしこまってコホンと軽く咳込むと自己紹介をしてくれた。さっきの態度とは正反対の大人の対応だった。それ故に温度差が激しいという印象がもたれる。つまりは怒らせるとこうなる見本がラウネンの立場をもって知ることができた。


「私の名はソルーク=ジルアロンだ」


「リセイ=アラスギと言います。」


ここは異世界のルールとしてラウネンの名乗り方を模倣した。苗字と名前が逆。まるで英語圏の決まりを日本語で演じているようだった。


「この馬鹿息子の失敗のせいで迷惑をかけてすまない」


「いえ、こちらこそ行き倒れの私を助けてくださってありがとうございます」


理性はソルークに向かって深く頭を下げた。その際に髪の毛にかかった白い灰がパラパラと落ちた。恐らく、彼らに見つからなければ倒れ死にしていただろう。本当はあの白竜のラウェンドのおかげでもあるのだが。


「取り敢えず、君がラウネンを擁護する理由を教えてくれ」


「わかりました」


こうしてこの夕食作りを提案したのはラウネンで、それを実行したのは自分だという旨を伝え、動機は助けてもらった恩返しをしたい一心で、というあり得そうな言い訳を並べて父親に話した。(本当の動機はラウネンが不味いことをしでかしそうだったから代行して調理したのだが)

「そうか、君は私達の為に……」


少し事実とは違っているが、大方の事情は同じなので真面目な性格である理性でもこれは許せる、と自分に言い聞かせた。もしこれが仮に日常的なシチュエーションかつ不真面目な所業であるならば、容赦なく本当のことを暴露していただろう。


「だが、最後にその夕食と窯に向かって水を躊躇いもなくかけたのはラウネンだったということか」


「はい……。あ……!!」


不意に口を滑らせた。背後にいたラウネンは口を開け、驚きと絶望を足して二で割ったような表情を浮かべ固まってしまった。


「そうかそうか。君の努力には感謝するよ。だが……」


再び怒る熱血親父の口調が戻ってきた。ギラリと視線がターゲットに向けられる。もはやロックオンされているといってもいい。


「窯に堂々と水をかけるなどという初歩的な間違いを犯したお前を見逃すことはできない!!わかっているなぁ、ラウネン」


「ひぃぃぃぃぃ!!」


まんまと罠にかけられたような気分だった。いや、実際にかけられたのが正しい。どうやらこの父親は初めからこちらの供述を疑っていたらしく、その証明のために巧みな話術でボロを出させたようだった。これには理性も完敗した。


「悪いけど、一度外に出て欲しい。ちょっと息子と大事な話があるのでね」


声こそ優しい響きだが目は出ていけ、と怖い目つきでこちらに警告を発している。これ以上関わると飛び火しそうなのですぐに外へ退避する。


「幸運を」


ラウネンとすれ違いざま理性は彼に謝罪をこめて言葉を贈った。



「盛大に玉砕してくるよ」


ラウネンの言葉はまさに死亡フラグだった。そして扉を理性が閉めた途端、凄まじい怒号と制裁の平手打ちなど父親のバーサークする音が彼の悲鳴と共に響いた。窓からカーテン越しに部屋の中からシルエットとして見えたが中は地獄であり、宣言通り彼は玉砕した。


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