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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
第一章 異世界に順応すること
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9 歪んだ夢と初対面

なかなか物語が進まない……。

理性は気がつくと、いつも通っていた高校の校門前に立っていた。自分の格好を見ると、学校の制服を着ていることに焦りを感じる。辺りはもう昼過ぎで門は固く閉ざされていて中には入れない。校門の向こうからは賑やかな友達同士の会話が聞こえてくる。


あれ……?私、どうしてここにいるの?早く学校に入らなきゃ……先生に怒られる。


そう思い、校則違反だと知っていながら校門を乗り越えて中に入る。校舎に入り、下駄箱で靴を脱いで上靴に履き替えようと自分の場所を見ると自分の上靴がなくなっていた。


初めは理解できず固まっていて、何かの悪質なイタズラではないかと疑った。しかしなぜか自分に思い当たる節があるような……気がする。この確信はなんだろう?


理性は仕方なく靴を下駄箱に置き、裸足で学校の中に足を踏み入れた。これだけ賑やかならすぐに誰かと出会うだろう。案の定、1階の廊下を歩いてすぐに二人組の男子生徒と出くわした。


理性は自分が裸足であることに警戒してそそくさと悟られないように早足で擦れ違った。結果、何事もなくやり過ごすことができたが思考の中でかすかな違和感を感じた。それはあまりに彼らの反応が鈍いこと。実際気づかれずに済んだが、全くといっていい程こちらに無関心だ。普通なら早足とか何かイレギュラーな行動ならこちらに少しは横目でも向ける筈なのに。今のは例えるなら存在自体否定されたような。


おかしい……。立ち止まって視線を落とし考える。その際地面を見た時、違和感は目に見えて現れ理性に事実を突き付けた。


自分の影が映らない。今、太陽光は背後から降り注いで、目の前に影が黒く映る筈なのにまるで身体を透過したようにまっさらな床が光るのみで、存在を示すものが失せていた。


まさか……。理性は近くのトイレに裸足であるなのを承知で駆け込み、鏡を覗き込んだ。感じた嫌な予感は的中する。そこに自分は居なかった。


どうして……?身体の中で何かにヒビが入ったような音がした。普通の鏡なら、光の反射で対称の位置の物が目の前に映る。絶対に学校の鏡に、いや鏡自体にこんなふざけた欠陥品は置いている訳がない。


理性はとっさに自分の手を確認する。自分の目にはちゃんと肌色の掌がある。でも、鏡には背後の白いタイル張りの壁しか映らない。次に両手で身体のあちこちに触れて存在を確かめた。自分では感触はあると断言できる。だが自分の存在を疑った。


蛇口のつまみに触れてみた。金属のひんやりとした冷たさ。まだ足りない……。その次にひねってみる。当たり前だが回すとジャーという音を出して水が洗面器に流れた。手を差し出せば濡れる。この一連の動作すらここにいる根拠を探して確かめた。


教室……多代崎達の所に行って彼らに相談しよう。仲間なら……私の話を聞いてくれる。見えなくても何かで知らせれば……。


理性は階段を駆け上がり、行く人を避けて自分のいる教室に飛び込んだ。いつもは真面目な理性でもこの状況ではまともな振る舞いなど二の次だった。


教室はいつも通りの風景。しかし生徒の喧騒に紛れ、確実にいつもとは違うものが私の机の上に置かれていた。


自分の机の上に置かれていたのは花瓶に入れられた白い花束だった。そして、毎日教室にいると疑わない多代崎達が席に居なかった。


何が……どうなって……。理性は訳を聞こうと近くの男子生徒に話し掛けた。しかし耳に入っていないかのように隣の友達との話を続けた。


理性は自分が嫌がらせを受けているとそう解釈し、怒りを覚えた。今までこんなふざけたいじめを受けたのは初めてだった。


「話聴いてるの?答えなさいよ!!この……」


今度は胸ぐらを掴んで引っ張ろうと手を伸ばした。常識なら男子生徒の制服を掴めるはずだが……結果は違った。理性の手は会話を絶やさない男子生徒の身体を通り抜けた。


ひっ……。あり得ない現象に思わず後ろに下がった。でも真後ろにも生徒がいて、相手の腕が透明な自分の身体を貫いた。自分がそんな消えた存在になっていることを知り、化け物のように思えた。本当に私が分からないんだ……。ショックを受けた。


そして、身体で広がり続けたヒビが限界を超え、パーンとガラスが割れるような音と共に砕け散った。途端、視界が暗闇に堕ちる。寸前、偶然に見た黒板の日付と時計に目がいった。


8月3日。13:06。


そうだ。私はもう……生きていなかった。私だけ時間があの時から止まってしまったままだ……。理性は思い出した。


なら、多代崎は?白庄は?坂追は?私は交通事故。彼らは一体どうなったの?刻印の情報だけじゃあ足りない。生きたままだと知っていても。


理性は盗み聞きしようとした。が、答えは無視した生徒の口から動き始める寸前にもたらされた。


「今日は本当に不吉な日だよな……。クラスメートの一人は交通事故で死亡、三人が突然行方不明……なんて」


怯えた声で友達に話す。確かに四人が一気に消えてしまったのは誰だって不吉に思うのが当たり前だが、自分が知りたい問題はもっと別の所にある。


行方……不明?理性ははっきりしないその事情に顔をしかめた。刻印といい、この現実といい、どうして彼らは不鮮明なの?


「このクラス……呪われてるのか?」


もう一人の友達は言う。重々しい雰囲気を漂わせて。ちなみに理性は同じクラスにいたから彼らを知っている。普通なら明るい話題で周囲を盛り上げるポジティブ思考の生徒であると。彼らでもこの事件の陰鬱さを払拭は出来なかったようだ。


「坂追と白庄は家に夜までいたという痕跡がちゃんと残っていて、しかも鍵を掛けたままだったのに……朝になったらいなくなってたらしい。しかも近くにあった防犯カメラすら移動した姿が映ってない」


「まさに神隠しだな。背筋が寒くなる」


都市伝説になってもおかしくない内容に理性は幽霊でありながら耳を傾ける。


「最後の一人が奇妙なんだ」


多代崎のことだよね……。一言一句聞き漏らさないようにさらに神経質になって聞こうと幽霊であることを生かして相手の口の傍まで耳を近づけた。


「多代崎は……」





(理性……)


どこからともなく自分を呼ぶ声がする。途端に周囲が漆黒の暗闇に包まれた。教室も生徒も消え、最も知りたい情報を目前にして永遠に失われた。


そして背後から何か背筋の凍るものが、木材とヤスリを擦すり合わせたような音と共に迫ってくる。正体は見なくても解る。あの世からの使者ってことくらい。


足場が突然ぬかるみに変わる。自分がその穴に呑み込まれていく。しかし理性は次々起こる恐怖に対して冷静な精神を維持していた。理由は簡単……。

自分は既に死んでいるから全てを諦めているのだ。絶望的な状況になる以前にもう絶望を味わっている……。これ以上失うものはない。


(諦めるの?死んでいるからって……。まだ存在が生きているのに?)


反対の意見を述べるもう一人の自分。それに冷たく答える。“この存在は偽りだから夢を叶える資格はない”と。


(ならあなたのその未練は何?)


それは……。言い返す言葉がない。さっきは諦めたと自白した。でもこの想いが本当だと認めれば嘘になる。


(未練があるならこのイレギュラーなチャンスを生かしなさい。それに……ほら、彼が呼んでいるから答えるべきだよ)


(理性……!!)


心の中に幼い少年の甲高い声で理性はガバッと上半身を勢いよく起こした。現実的な夢に息が苦しく、心臓の鼓動が速くなる。自分の胸に手を当てて落ち着こうと深呼吸する。


夢……だったんだ。だとしても夢の中で随分と板挟みに苦しんだものだわ。


そう端的に自分の中で感想を述べて、理性は周囲を見回す。白竜の背中の上だとてっきり思っていたが……違う。


今いるのは10×8mの広い木の部屋の中だった。天井が3mくらいと高く、床はフローリングで、西洋の古風な民家のような感じがする。窓にはカーテンで閉められて外の様子は分からないが、外が薄明かりであるから朝だと予測した。


身体の下からはふわふわした馴染み深い感触。自分はベッドの上に寝ていて、上からは茶色い無地の布団が掛けられていた。恐らく誰かが自分を寝かせてくれたのだろう。


その他部屋には、赤煉瓦の暖炉、釜戸、食器棚、無数の大小異なる木箱群、木製の椅子やテーブル、洗面台(蛇口がないが、石材の流し台だからもどき?)などとといった家財道具から壁に掛けられた刃渡り1mオーバーの片手剣、ギラギラ鈍く刃が光る斧、槍と明らかに危なっかしい代物が存在する異質な違和感から自分が異世界にいることを思い出す。


ここは人間の家。ということは自分は集落にいるの……?森の中で逃げ回った記憶を思い返すと安全地帯だという安心感が身体中を駆け巡ってほっと胸を撫で下ろした。これ以上あんな森の中にいたら精神的にもたない。しかし、すぐに自分の身が保障されると同時にひとつだけ心配事が生まれた。


ラウェンドは……?


理性は気になった。眠りに落ちる前に背中に乗せてもらった白竜。それは鮮明に記憶している。なのに今いるのはどこかも分からない民家のベッドの中。私が眠っている間に何があったのだろうか?夢の中で自分を呼んだのは彼で間違いない。ならその本人は一体どこに?


理性が思考を働かせているところでガチャッという扉のドアノブが動き、開け放たれる音が聴こえた。気付けば、寝ているベッドと対称にある玄関らしき扉がゆっくりと開いていく。開けるのが慎重なのは自分がまだ寝ているから起こさないための配慮だと知る。


誰なんだろう……?と、理性が扉の向こうをじっと見据えると一人の少年がひょっこりと顔を出した。


「農作業の前に様子を見てこい、って。すぐにあの子が目を覚ます訳がないのに……父さん過保護過ぎだよ……」


ブツブツ愚直をこぼしながらため息をついて本人が起きていることを知らずに家の中に足を踏み込んでくる。その服装はおよそ今から少なくとも200年以上昔の茶色と白がやや混ざった農作業服。部屋自体薄暗いので少年の容姿は分からない。でも、少年の方から近づいてくるのですぐに見えた。


少年は何故かベッドから1m離れたところで足を止める。


「ほらね。行き倒れの少女がそんな早く意識を取り戻す筈が……ええっ!!!」


少年は幽霊でも見たかのように驚いて後ろに二歩下がる。明らかに驚愕の表情。理性は彼が固まってくれたお陰で特徴をまじまじと見ることが出来た。


少年の髪は黒。西洋人と似た緑色の瞳、白い肌だった。見たところ14歳位と見積もる。


「あの……起きてた?」


少年は冷や汗をかきながら、自分に質問をしてきた。気にしているのは当然今、口を滑らせた愚直について。


理性は少年の顔を伺い、静かに頷いた。流石に一字一句ちゃんと聞いた、とか余分な言葉を入れたら彼を追い込むかもしれないと予想して口を開くことを避けた。


「そっ……そっか。目が覚めたんだね……。良かった……」


黒髪少年の頬から冷や汗がダラダラ流れる。よっぽど愚直を聴かれたことを恥じているのか、自分が報復してくるのを勝手に恐れているのか……。どっちとも受け取れる口調。

付け加えれば息を呑む音もする。何に対してかは言うまでもない。


「じっ……じゃあ父さんにこのこと伝えてくるからそのまま待ってて。どこか行っちゃ駄目だよ」


しまいに少年は慌てふためきそう言い残してダッシュで外に走ってでていった。


「………」


理性は結局一言も言葉を発すことなくあの少年の一方通行で初対面は終了した。


どれもが初めての異世界。懸念事項はやはりギャップだと認識する。

感想、意見をお待ちしています。

次の更新はいつになるか分かりません。

Because……テストが近いからです。

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