埋まらぬ差
ずっとずっと好きな人がいる。
恥ずかしながら、何年か前に彼女に一目惚れをして、以来ずっと彼女だけを想ってきた。
彼女はとびっきり綺麗な人だ。
フランス人を祖母に持つという彼女は、とくにその血が濃く出ていてハーフといわれてもおかしくないほど色素が薄い。
肌は黄色人種のそれよりも白く、髪色はアッシュブロンド。瞳は灰青色と灰色のオッドアイだ。
けれどその非常に整っている顔つきは日本人特有のもので、どこか幼さが残っている。
性格はとても大人しい。
あんまりしゃべったりせず、聞き手にまわっているほうが多いタイプ。
けれどその容姿よりも綺麗なのは、たまにしか見れない笑顔だ。
はにかんだような笑顔はとても美しく、それでいて儚げで、惚れない男なんてそうそういないんじゃなかろうか。
惚れてる欲目もあるけれど、それでも彼女が一般的以上に飛び抜けて美人であることは間違いない。
……たぶん、とある一人の人を除いては。
その人は6歳年上の実兄の友人。
すごく面倒見がよく気さくで、同じ人間として、男としてもすごく憧れている。
大学生時代に留学していたこともあってフランス語と英語が堪能、なおかつそれを仕事にしているすごい人だ。
高校生時代のときには空手の全国大会で優勝した、なんて経歴もあったりする。
ちなみ名前は、杜沢 護さん。
その名前は完全な当て字で、『きまり』ではなく『まもる』と読まれることが常らしい。
実際『きまり』と読めというほうが無理がある。
その人だけが、彼女を美人だとはいわない。
「すっごく大人しくて美人じゃないですか!」と前に言ったら、やっぱり護さんは首を傾げるのだ。
首を傾げつつ、「大人しいのは大人しいが……、美人とかそんなんじゃなくて、子犬みたいじゃねえ?」と返してくる。
素直にそう思って口から出たであろう、護さんのその返事。
この差こそ、自分と彼の間にある絶対に埋まらない差なのだ。
彼女を綺麗だという一般的な意見の自分と、そうではないという彼との。
ずっと彼女を見てきたからよくわかる。
彼女が少しだけ頬を染めて笑いかけるのは、彼だけだ。
彼女は心底彼に惚れこんでいて、他の男には一切目を向けない。
態度こそ穏やかではにかむような笑顔も見せてはくれるが、護さんに向ける笑顔は絶対にしない。
この差は一生埋まらないだろう。
一生美人な彼女を知ることしか、自分は叶わない。
今日も彼女から向けられた笑顔は、とても美しく儚げだった。
実は上の『蕩けているのは…』夫婦の嫁を想う男の話、だったりします