第九話
どうも、パオパオです。
前回が短めだったので、今回はほんの少し長めです。
それと、ここにきて初めての「」の会話文です。
ここまできたら、「」を使わずにいてもよかったかなと思います。
――勇者とは、実地で学ぶ者である――
ボクの手には、未だ炎に包まれている一振りの剣が残っていた。近くにあるはずの炎からは、不思議と熱さをが感じられなかった。これが加護の効果なのだろうか。なんとなく不気味に思ったボクは、剣を地面に刺して手放した。炎は地面に触れてすぐに鎮まった。
ボクは鹿だった物に目を向けた。剣が発した炎によって焼かれたため、焦げたような臭いが鼻についた。その臭いを嗅いで、ボクはあることを閃いた。剣の炎で調理ができるんじゃないだろうか、と。ボクを早速試すことにした。
地面に刺さったままの剣を引き抜き、側に転がっていた鹿の脚を拾い上げた。片手で剣を振り抜くと、少し弱めの炎が発生した。もう片方の手で鹿の脚を炎に近付け、炙った。じわじわと鹿の脚の色が変わっていき、適当なところで火から遠ざけた。剣はもう一度地面に突き刺した。
ボクは程良い焼き色をした鹿の脚に齧り付いた。不味くはないが、思っていたほど美味しくもなかった。肉の味に血や土が混じっていたことから、食材の下準備を忘れていたことを思い出した。久し振りのパン以外の食事で見境がなくなっていた自分に呆れながら、まだ温かい肉を近くの森へと放り投げた。木々の隙間からは近くに居た小動物が肉に群がっていくのが見えた。
脚と頭が欠けた鹿から急いで血抜きをし、皮を剥いだ後で部位ごとに骨ごと肉を切り分けた。勿論あの剣は使っていない。家から持参したナイフで手早く一連の作業を行った。切り分けた肉は比較的清潔な袋に詰め、荷物袋の中に入れた。夕食が楽しみになった。
ボクは剣を背負い直して、再び道に沿って歩き始めた。
その日の夕食の焼き肉は、とてもおいしかった。
翌朝、ボクはとても気分良く目覚めた。土や砂で汚れた布を最低限綺麗にした後、荷物袋の中に仕舞った。昨日の余り物の肉をパンに挟んで食べた。ここ最近のパンだけの食事が、どれだけ味気ないものだったかを再認識した。
今日も今日とて道を進んだ。偶に周囲を見回して、食べられそうな動物が居ないか確認することも忘れなかった。
歩くこと四時間。ボクは遂に、街の壁らしき建造物を視界の中に捉えた。逸る気持ちを抑えながら、ボクは早足で道を進んでいった。
道の先にあったのは巨大な門だった。天辺は見上げるほどに高く、どことない重厚感を感じさせた。
呆けた顔で門を見ていたボクに、一人の男が話しかけてきた。
「おい坊主、こんなとこで何してんだ?街の外は危ないから、早く中に戻れよ」
ボクは声の主へ視線を向けた。男はくすんだ銀色の全身鎧を身につけ、面倒臭そうな表情を浮かべていた。男はボクの身なりを確認すると、嫌そうに顔をしかめた。
「チッ、貧民街のガキかよ。こんなところに来て俺の仕事増やしてんじゃねーぞ、ったく」
ブツブツと聞き取れない独り言を喋る男に、意を決してボクは話しかけた。
「…ぁの、すみません」
しばらく声を出していなかったせいか、ボクの口からは思ったように声が出せなかった。ボクが出せたのは、内にこもるような小声だった。
「あぁん?何だ、ガキ」
男は不機嫌そうな声でボクの声に反応した。一応、聞こえてはいたようだった。
「えぇと、その、ボクはこの町に入りたいんですが、大丈夫でしょうか」
「あぁ?別に構わねぇだろ。今開けてやるからさっさと入れ」
不機嫌そうな調子を崩すことなく、男はボクのために門を開けてくれた。重々しい音を立てながら、門はゆっくりと開いていった。
「どうもありがとうございました!」
無理矢理出した大声で感謝の言葉を伝えながら、ボクは門を潜っていった。
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