表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽善の体現者  作者: パオパオ
第二章
8/72

第八話





 ――勇者とは、戦いを経て生きていく者である――











 剣を装備するようになってから三日経った。その間、ボクが加護とやらを実感できていたかと問われれば、答えは否だった。命を守っているらしい加護は、あまりにもわかりづらかった。


 この三日間、ボクは確かに危険に遭遇することはなかった。だがそれは当然じゃないだろうか。命の危機なんてものは、早々陥るものではないはずだった。

 先日の狼もどきは例外中の例外だろう。ただの村人と変わらなかったボクが、あんな危険な生物と出会ったこと自体が奇跡に近い。というか、あの狼もどきはどうして何もなさそうなこの辺りをうろついていたのだろうか。


 家から持ち出した食料(パン)は既に半分を切っていた。もう二、三日で村か街に辿り着けなければ、ボクの手持ちの食糧は尽きてしまうだろう。であればやはり、どうにか野生動物を捕らえて食べるべきだろう。

 けれど問題が一つ残っていた。ボクは火が起こせないため、肉を生で食べるしかないということだった。調理に関する問題は、生活面において非常に切実だった。


 問題が解決できないまま、ボクは一匹の雄鹿を見つけた。鹿はこちらには気付いていないらしく、気ままに草を食んでいた。折角の機会に恵まれたため、ボクはあの鹿を狩ることに決めた。

 背負っていた剣から布を取り外し、両手で握って上段に構えた。三年に渡る研鑽のおかげか、一応剣をまともに振ることくらいはボクにも出来た。けれど今しているのは、以前にネミコと一緒になって作った構えとも呼べない構えだった。この構えから繰り出すことが出来るのは、正道の剣術の技ではなかった。

 ボクは上段に構えた剣を、勢いをつけて投擲した。縦回転を続けながら鹿へと向かった剣は、逃げようとした鹿の左後ろ脚を斬り飛ばして地面に突き刺さった。

 鹿は傷口から大量に血を流しながらも、残った三本の足で逃げようと地を這っていた。死の危機に瀕しながらも生を渇望するその姿を見て、ボクはすぐに楽にしてやるために鹿に近寄っていった。地面に刺さったままの剣を引き抜き、鹿の首元目がけて勢い良く振り下ろした。唐突に炎をまとった剣が、抵抗なく骨ごと肉を断ち切った。

 焼けた断面から漂ってくる、蒸発した血の臭いが周囲を塗り潰した。



読んでくれてありがとうございました。

意見、感想、評価などをもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ