第七十二話
どうも、パオパオです。
書いてる自分でもよくわかりませんが、これで完結です。
結局、この小説で自分が何をしたかったのかまるで分りません。
一度始めたのだから完結はさせないといけないと思い、ここまで書いてきましたが……需要があったのでしょうか?
個人的には、主人公が牢にぶち込まれるくだりあたりで満足しきってしまっていましたが。
まあ、とりあえず、最後の話、読んでください。
――勇者とは、志半ばで倒れる者である――
ネミコは日に日に衰弱していくラマを見て、徐々に不安が募っていった。もしかしたら、このままラマは死んでしまうのではないかと。その懸念は正しかった。
最低限の治療も受けられないまま、体の至る所に重傷を負ったラマは、完全な体力不足に陥っていた。栄養の摂取も肉や木の実単体だけだったので、状態は一向によくならなかった。
ラマが倒れてから十数日。傷跡から膿が湧き出し、ぱんぱんに膨れ上がったその姿は、あまり直視したいと思えるものではなくなっていた。意識も途切れがちで、起きているのか眠っているのか傍目にはわからなかった。
けれど、ネミコはラマの看病をやめなかった。理由はいくつもあった。ネミコの初恋の相手はラマだったし、あんな不遜な態度をとってラマを怪我させたのはネミコだった。
自分が怪我をさせたから負い目を感じているのではなかった。ネミコも魔王に任命されてから今日までに、魔物たちを剣の力で統制していくつかの村や町を廃墟へ変えてきた。その中には、ネミコの生まれ故郷も含まれていた。
自分の手で人の命を奪ったことだって勿論あった。ネミコの実の両親をその手に掛けた後、任命とともにやってきたベスティアに逃がさないよう命じた村人たちを、一人残らず殲滅していた。特別、何の感慨も浮かばなかった。
敢えて言うなら、魔術を使えたせいで鬱陶しい視線を送ってきていた老若男女へ溜まった鬱憤を晴らせた分、心地よかった位だった。魔物という生物を従えることができるようになったことで、全能感を抱いていたのだろう。
「……ネミ……コ」
掠れた声で自分の名前を呼ばれ、ネミコはラマの方へ視線を向けた。
「ラマ、何か用?してほしいこと、ある?」
「ううん……聞いて、欲しいことが……あるんだ」
か細い息を吐きながら、懸命にラマは喋っていた。どんなに自分を誤魔化してみても、ラマの命がもう残り僅かだということは覆せそうもなかった。
「……言ってみて。ちゃんと、聞くから」
「ネミコは……さっ!」
ポツリ、とそう一言だけ口にすると、ラマは突然咽始めた。慌てることなくネミコは用意していた水を口の中に含み、ラマの唇へと近付けた。ラマの唾液が顔に付くことも厭わず、唇同士を重ね合わせ、含んでいた水を少しずつラマへと流しこんだ。
今のラマは物を噛むこともできなかった。ネミコが液状にしなければ、ラマは食事をとることもできなかった。水を飲んで小康状態になり、ラマはネミコに礼を述べた。
「ありがと、ね……。ねえ、ネミコ……ボクは、ここで死んじゃうんだ……」
ネミコは何も言わず、ただ頷いた。ラマはそれを見て、少しだけ微笑んだように見えた。
「ボクもさ……何でか、勇者……なんてものになって……何人もの人を殺したよ……?」
「生きるためなら、珍しいことじゃない」
「そう、なんだろうね……ボクは……旅を始める、まで……知らなかった……だからさ、ネミコ……」
「何?」
「……罪深いボクの分まで、代わりに生きてくれないかな」
体調の悪さを振り切って、一息でそう言ったラマを見て、ネミコは頷きを返した。ラマの目が細められ、唇が小さくありがとうと動くと、再び寝息を立て始めた。
その数日後、ラマが息を引き取った。ネミコはラマから告げられたように、生きていこうと決めた。その矢先のこと。
「……ごめんね、ラマ。無理みたい」
ネミコがラマの死体を埋葬している最中に、ベスティアがネミコの前に現れた。満身創痍、といった体ではあったが、その身から感じ取れる威圧感は以前までの比ではなかった。きっと、あの街の中で唯一生き残った個体だったのだろう。
ベスティアの機嫌は最悪だった。それも当然かもしれなかった。ネミコはベスティアを剣の力で無理矢理従わせていたのだ。剣がという障害がなくなった今、ベスティアが今までの借りを返そうとするのもおかしいことではなかった。
「……せめて、一撃をっ!?」
そう思ったネミコの耳に、至近距離からの轟音が放たれた。それはベスティアにとってただの遠吠えに過ぎなかったが、人間という矮小な身にとっては脳を揺さぶる程度の威力はあった。立っていられなくなったネミコが最後に見たのは、魔術によってゆっくりに見えるはずの視界の中で、視認できるぎりぎりの速さで迫ってくるベスティアの並んだ牙だった。
これで、偽善の体現者は終了です。タイトル詐欺ですね。偽善なんてさせた覚えがありません。
ともかく、ここまで読んでくれて、本当にありがとうございました。
もし評価、感想などをもらえると、これからの励みになります。