第七話
――勇者とは、敗北を糧にして成長する者である――
狼もどきが去ってから三十分程経っただろうか。ボクの体が動くようになったのは、そのくらいの頃だった。遠目からでも感じられた圧倒的な重圧。あの狼もどきがボクを殺しに、いやボクと戯れにでも来ていたら、ボクの旅は間違いなく終わっていただろう。そう考えると、今ボクが生きていられることが不思議でしょうがなかった。
ボクは恐怖に囚われている心と体を無理気味に動かし、野営の準備を始めた。体を動かせるとは言っても、流石に今の精神状態で何かをする気にはなれなかった。
ボクは動かすのも怠い体をどうにか動かして、今すぐにでも眠ってしまいたくなる欲求に抗いながら、布団代わりの布を一組敷き終えた。まだ太陽が沈み始めたばかりだったが、ボクは夕食を食べるのも億劫になり、二枚の布に包まってそのまま眠りに就いた。
旅立ってから三日目の朝、日の出とともに僕は目を覚ました。起きぬけで回らない頭のまま布を袋に仕舞い、代わりにパンを取り出して食べた。空腹だったせいか、それとも別の理由があったのかはわからないが、ボクにはそのパンがかつてない程美味しく感じられた。
貪るようにパンを食べた後、ボクは不意に自分の掌を見詰めた。昨日のことを思い出そうとするだけで、ボクの体は震えが止まらなくなった。頭を振って思考を切り替え、とりあえず出発しようと荷物に手をかけた。その時、袋の口から一通の封筒が零れ落ちた。拾い上げたその中に手紙の存在を感じ取ったので、取り出して読むことにした。
"お前は何故剣を装備しないんだ?
あれを装備してさえいれば、私の加護によってお前の命が守られるというのに。
今回は運が良かっただけで、次も助かる保証はない。
折角くれてやった剣なんだから、装備するのを忘れるな。
追伸:炎の属性が込められているから、森で使う時は気をつけろ"
読み終えた手紙を細切れにし、封筒を袋の中へ仕舞い込んだ。初めて知る情報ばかりで軽く涙が出そうになるが、そんなことより得られた情報の内容に感謝の意を覚えずにはいられなかった。
袋の中から布に包まれた剣を取り出し、布を剥ぎ取って手に持った。村でも思ったが、凄くボクに合った重さと握りやすさだった。軽く何度か素振りをしていると、勢い良く振り下ろした剣が炎をまとった。驚いて剣を取り落とすと、剣にまとわりついていた炎が霧散した。これが炎の属性かと一人で納得していたが、ここ一帯は草地ばかりだったことを思い出した。一歩間違えれば火の海になっていただろうと考えると、ボクは冷や汗がしばらく止まらなかった。
慎重に元の布で刀身を包み、更にその上から紐で縛って斜めに背負った。あの炎はおそらくかなりの速さで振るわなければ出ないだろうから、背負っていても問題はないと判断した。
背負うことも装備することだと言うのなら、これでボクは神様(自称?)の加護を得ているのだろう。ボクは背負う前と何も変わらぬ体の状態に、神様の加護とは何なのか不安に感じざるを得なかった。
命が守られるというのは、どういう意味なのだろうか?
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